吉村 直人
当社では,ソフトウェアの開発生産性,品質向上施策として,曖昧表現,誤表記を機械的に検出する,ドキュメント検証ツールを開発,2013年から社内展開を推進,一定の普及を得ている.これに加え2020年から新たに,ドキュメント検証をプロジェクト成果物に一斉適用する,ドキュメント検証サービスの社内提供を開始,社内推進活動を行っている.しかしながら,ドキュメント検証サービスの普及は進んでいない.ドキュメント検証の更なる社内推進のため,現状分析に基づく,ドキュメント検証サービスの活用事例収集,情報発信活動,導入支援活動,適用領域拡大などを実施すると共に,プロジェクト現場の要望に応える機能強化を進めることにより,ドキュメント検証サービスの普及を進めている.
杉野 晴江
近年,新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の拡大により,プロジェクトマネージャー(以下「PM」)も在宅勤務が増え,リアルでの出社は減少した.このようにPMの働く環境が変化しても,プロジェクトの品質と生産性を向上させPMのエンゲージメントレベルを向上させる必要性には変わりはない.したがって,私達にとってこのPMのエンゲージメントの基礎となるPMの能力向上は,引き続き喫緊の課題であり,このPMの働く環境の変化に迅速に適合したPM教育の実施が重要だと考えた.本稿では,PMが主体的に考え対話しながら理解を深めて学び行動変容につなげる為に2つの形式で行ったワークショップ(オンライン型,対面型)を紹介する.これらの具体的な事例をもって,教育適用時の経験と,教訓と今後の展望について報告する.
伊藤 博隆
DX(Digital Transformation)案件など,新しい価値創造を目標としたプロジェクトにおいて,顧客が自身の要求事項を定義出来ず,システム導入が目的と合致しない状況で,システム導入の構想策定,要件定義を実施するプロジェクトが増えている.そして,プロジェクトマネージャーに求められる上流工程のマネジメントが,以前より高い難易度となっている.また,働き方改革という背景により,プロジェクトマネージャーのプロジェクトコントロールは,重要度を増している.これからのプロジェクトマネージャーに求められることを,ステークホルダーマネジメントの観点で考察する.
久保 恭彦
プロジェクトにおけるプロジェクトマネジャー(PM)を2名体制で構築する『ダブルPM』は,後進PMの育成および組織のPM不足に対して有用な手段となり得る.大規模プロジェクトにおいて,上位ランクのPM(上位PM)が組織上のPM任命を受け,プロジェクト実行上の実質的なプロジェクトマネジメントを後進PMが担う.これにより,上位PMにとっては後進PMをサポートする程度の負荷で済むようになり,後進PMにとっては本来扱うことができない規模のプロジェクトを管理する経験と実績を得られる.さらに,上位PMにとっては当該プロジェクトにおける負荷が最小化されるため,他のプロジェクトとPMを重任することも可能となり,組織の慢性的なPM不足に対しても有用な手段となり得る.
曽我 純映
ソフトウェア開発プロジェクトに係る係争は後を絶たない.システム開発が,建築物とは異なる無形のものを作り上げる性質のため,完成形の認識が受発注者によって食い違うことが多い事に起因する.過去の多くの裁判事例でも,争点は,作ろうとしたものの第三者評価と,責任範囲に言及されるものが多い.ソフトウェア開発のプロジェクトが複雑になるにつれ,受発注者各々の役割は責任の所在と共に曖昧になりがちとなる.これまでの正しいとされてきたプロジェクトマネジメントのプロセスの精緻な遂行のみでは,トラブルを予防することはできず,発注者及び受注者の義務を正しく捉えプロセスを改善することが肝要である.
高田 健一
プロジェクトが失敗する原因は様々である.原因の一つとして,要件定義をはじめとする上流工程を的確に実施できていないことからプロジェクト終盤の工程において,不具合が多発し,納期・コスト・品質の各面において計画どおり遂行できないことがある.上流工程を的確に実施するためには,的確なスキルを持った要員をアサインする必要があるが,人材不足等の都合により効果的な人的資源マネージメントを行えない状況がある.複数プロジェクトで人的リソースを共有し,効率的に資源マネージメントを実施する施策を報告する.
藤井 緑
システム開発におけるシステムテストは,ユーザー受入テスト前にシステム開発者が行う最終テストである.故に計画通りのスケジュール及び品質でテストを完了する必要があり,テスト関係者をプロジェクトルームに集めて迅速な情報共有を行い,実施することが効率的である.しかしながら,COVID-19の影響により,昨今のシステム開発はリモートワーク環境での実施へと変化したため,テスト関係者が集まらなくても,システムテストを円滑に進めるためにプロジェクト管理手法の工夫が必要となっている.本稿では、リモートワーク環境下でシステムテストを行う際のコミュニケーション計画やリスクマネジメントについて,筆者が携わったプロジェクト事例を通して有効であった手法やツール,課題について考察する.
大坪 弦也,向井 広幸,鵜林 尚靖
ソフトウェア開発の現場での品質管理の主役は,プロジェクトマネージャであるケースが多い.本論文では,プロジェクトメンバーが開発を遂行時に発生させた問題(レビューでの指摘やテストで発見したバグ)に対して,プロジェクトメンバーが行うべき横展開対策を,データ駆動型の「品質予測モデル」により自動的にアドバイスするツールを提案する.本ツールは,品質管理の主役を,プロジェクトマネージャからプロジェクトメンバー全員へとシフトし,セルフマネージメントを促進する.提案する「品質予測モデル」は,「機能・メンバー特性」と,実プロジェクトのデータから独自に分析し定義した「7つのインシデント」との相関関係による“重み付け”という軽量な手法により実現する.軽量な手法により,異なるドメインのプロジェクトに対しても,低コストでの導入を可能とした.他プロジェクトでの検証の結果,プロジェクト管理工数を28.2%削減できることを定量的に証明した.
斉藤 功治
お客さまの要件ベースのシステム提供から,お客さまの目的を達成するためのサービス提供へと変化する中で,ITシステム構築のプロジェクトの進め方は,従来のウォータフォールモデルでの進め方から,PoCの実施やアジャイル開発の導入など変化してきている.一方でプロジェクトチームの構築については,依然として従来の組織ベースでのチーム形成が基本となっており,求められるスピードや変動する要件に合った迅速かつ柔軟なチーム形成が困難であり,知識・スキルの不足によりプロジェクトの遅延や損益悪化に繋がることも少なくない.こうした問題を解決する,あるいは軽減するには,組織を跨った専門部署との連係や,新技術などに対応して自部署の得意とする分野を広げる日々の人財育成を進めることが重要である.
増田 浩之,上條 英樹,奥村 真也
DXへの要望の高まりやコロナによる働き方の変化,人口減少等の背景から今後,増々IT人材が不足すると予測されている.実際,ITスキル人材の不足によりプロジェクトの立上が難航するケースが増えている.IT人材の調達には社内IT人材やITベンダーからの調達が一般的であるが,要員不足を補うために社内IT部門以外の要員を育成してIT人材として再配置するケースやITベンダーもIT未経験者をキャリア採用しIT人材の早期育成を行うケースが今後,増えると予測される.IT以外のキャリアを持つ人へのIT教育のハードルの一つにプログラミングに対する心理的な壁があるが,対応策として大学教育で採用中のリメディアル教育の考え方が有効であると考えた.そこで,近畿大学と共同研究しているリメディアル教育手法を用いた大学生向けのプロフラミングカリキュラムを基に,要員調達の一つの課題解決策として,ロボット教材とビジュアルプログラミング言語を用いたプログラミング未経験の社内人材やキャリア採用者向けの教育カリキュラムを設計し,コースウェアを作成した.本稿では,プログラミング未経験の社内人材を対象にコースウェア受講による効果を検証し,有効性について論ずる.
広川 敬祐,大場 みち子
システム導入において、要件定義は重要な作業とされ、ERP導入においても同じである。ただし、ひと言で要件定義といっても、業務要件、システム要件、機能要件、非機能要件と分類できるものであるが、その分類と内容をシステム導入の関係者が同じ認識で理解していると言えない状況がある。 ERP導入においては、ビジネス要求を定義し、それに基づいてシステム化要件を定義していくことが必要である。ここでのビジネス要求やシステム化要件を混同したり、ビジネス要求を定義しないでシステム化要件を定義すると、後工程になって手戻りが発生したり、ユーザー要求を満たせないシステムになってしまいがちである。 本研究は、ERP導入における要件定義の進め方として、ビジネス要求とシステム化要件の違いを明らかにし、ERP導入を失敗しないための要件定義の進め方の提案を行うものである。
福島 奈津子,柴田 開仁,鈴木 加代子,西野 晶子,杉山 志保,中島 雄作
2020年4月,新型コロナウイルス感染拡大防止のため,筆者らの所属会社における3か月間の新入社員研修は,集合形式で当初計画されていたものを,全てオンライン形式もしくは自主学習に急遽切り替えた.その経験をもとに,筆者らは,プロジェクトマネジメント学会2020年度秋季研究発表大会にて,「ニューノーマル時代における新入社員研修の在り方の一考察」を発表した.2021年及び2022年においては,筆者らは,コロナ禍の状況を見つつ,集合研修とオンライン研修を織り交ぜて新入社員研修を実施し,雑談の促進,心理的安全性への配慮等,様々なノウハウを獲得した.本稿では,ニューノーマル時代における新入社員研修の一事例について述べる.
鈴木 加代子,柴田 開仁,福島 奈津子,猪又 大助,西野 晶子,杉山 志保,中島 雄作
2020年初め頃,新型コロナウイルス感染拡大防止のため,筆者らの所属会社における新卒採用面接は,対面形式で当初計画されていたものを,全てオンライン形式に切り替えた.インターンシップもオンライン形式となり,広報活動,会社説明会などもネット主体に変わった.筆者ら人事担当も原則リモートワークとなった.一方,会社としてWell-being経営の推進に取り組むことになった.筆者らの所属会社では,社員のライフサイクルを「獲得」「定着」「活躍」の3つのフェーズに分けてWell-beingの推進施策を実行しているが,新卒採用においては「獲得」フェーズにあたる.筆者らは,「採用候補の学生の為になることは何か」に重きを置いて活動することとし,様々な学生にとってのWell-being推進施策を実行した.本稿では,新卒採用におけるWell-being志向マネジメントの一提案について述べる.
山本 昭典
プロジェクト状況を常時監視していれば,ある特定の仕掛プロジェクトに対しては,将来不調になるかどうかを判断できるが,大量の仕掛プロジェクトに対して判断する場合は,相当な時間を要するはずである.この不調プロジェクトになるかどうかを判断する手法について,人間の知見を活用し,かつ作業効率を向上させるため,AI(Artificial Intelligence:人工知能)を導入することにした.本稿では,AIを活用した不調プロジェクトの予兆検知について,プロジェクトマネジメントにAIを取り込んだ経緯,AI学習データの整備,シミュレーション,およびAI予測を行うにあたって直面した課題や展望を述べる.
中島 雄作,小豆澤 亨,神崎 洋,木村 和宏,大槻 義則,中村 仁之輔
2020年以来,新型コロナウイルス感染の波はしばらく継続する気配があり,かつDXの変革も今よりもっと推進しなければならない.プロジェクトマネジメントの標準化,生産性向上,品質管理等の業務を遂行してきたPMOも,DXの波に乗り遅れてはならない.現場プロジェクトより先んじて指導的立場になる使命がある.そこで,本稿では,カッツモデルに沿って,アフターコロナ及びDX時代に向けてPMOが為すべきことについて論述する.
石原 寛紀
近年,DX(Digital Transformation)という言葉が広く浸透している.企業は,ビジネス環境の激しい変化に対応し,データとデジ タル技術を活用して,顧客や社会のニーズを基に,製品やサービス,ビジネスモデルを変革していくことを求められている.こうした中,システム開発の現場においては,開発者とユーザー企業(ビジネス側)とが一緒になってプロダクトの品質を高めていく共創型のSIが広まってきている.一方で,これらを推進する「人材の不足」は深刻な状況にある.経済産業省のDXレポート(2018)では,「人材の不足」を,ITシステム「2025年の崖」として報告されており,人材の確保,育成が急務な状況になっている.本稿では,「人材の育成」に注目し,ユーザー企業に向けた実践的な教育プログラムを開発,適用させ一定の成果をあげた.その取り組みを紹介するとともに,効果および今後の展望,課題について検証する.
西尾 和剛
プロジェクトにおけるリスクマネジメントの重要性は,広く認知されており,プロジェクト開始時には,リスク特定,リスク分析,リスク対応計画を行うことが常識となっている.しかし,ソフトウェア開発プロジェクトにおけるトラブルの事例は,依然として発生しており,その多くの原因は類似していることから,リスクマネジメントの実践における不十分さが,その根本にあると考察している.本稿では,こうした問題を解決するために,ソフトウェア開発プロジェクトにおいて,リスクマネジメントが疎かになる要因と有効性を向上するための施策について考察し,実際のプロジェクトの事例を用いて対策と効果を紹介する.
古田 莉央
近年,日立ではM&Aを含めグローバル事業が拡大し,海外法人との連携が増えている.そのような中,日立と海外法人との間で品質に対する考え方の違い(ギャップ)に起因して品質トラブルとなる事例が発生した.その事例からの反省により,お互いのギャップを整理し,品質リスクの低減を図る取り組みを行った.具体的には,日立と日立グループ海外法人(海外法人A)との間でWorkstream(ワークストリーム)(注1)を立ち上げ,開発プロセスや関連部門の役割の違いを整理した.両社の連携案件が立ち上がった際,洗い出されたギャップに対し案件ごとに事前に対策を講じることで,未然に品質トラブルを防ぐ仕組みを作り上げることができた.今後,同様に海外法人のM&Aが発生した場合は今回のワークストリームの活動実績をもとに同様の取り組みを実施することで,他海外法人との品質トラブルも未然に防ぐことができると考えている.本論文ではワークストリームの立ち上げからギャップの整理,ワークストリームの評価までを対象とし,実施したこと,苦労した点/工夫した点,成果について報告する.注1) 本論文では「日立と日立の海外法人が連携する案件に対し,品質トラブルを未然防止するための開発プロセスを確立する活動」をワークストリームと定義する.
新谷 幸弘
近年,アジャイル型プロジェクトマネジメントメソッドがソフトウェア開発を中心に浸透してきている.これらは多くの場合,ウォーターフォール型プロジェクトマネジメントメソッドとの対比で論じられている.一方,研究開発マネジメントに対するアジャイルの適合性に関する研究事例は多くはない.本研究では,研究開発において従来型R&Dマネジメントとアジャイル型プロジェクトマネジメントの融合性に関して考察した.その結果,研究開発の段階によって特性が異なるとの知見を得た.
谷川 麻理,所 儀一,馬 ちゅう,三好 きよみ
昨今、変化の激しいビジネス環境に対応するために、ソフトウェア開発の現場でもアジャイル開発手法を導入する組織が増加している。従来のウォーターフォールモデルからアジャイルへ移行するにあたって、アジャイル未経験者を抱える組織では、アジャイルの理解・導入の仕組みづくりの支援を必要としていると考えられる。そこで、アジャイル未経験者を対象として、スクラム型開発のフレームワークおよびアジャイルのマインドセットを学習することのできる手法といわれるLEGO4SCRUMを基にしたワークショップを実施した。本稿では、ワークショップの実践結果について報告する。
三好 きよみ
本論文は,転職経験と仕事の取り組み方との関連について,テレワーク勤務のプロジェクト型業務従事者を対象としたアンケート調査結果を統計的に分析した.社会や経済活動などの様々な変化の中で,一人ひとりの意思や能力に応じた働き方を実現するために,転職を視野に入れることを促進するための知見を得ることが目的である.テレワーク環境下の生産性,仕事環境,チーム内コミュニケーション,個人のチームワーク能力,自己調整方略,ワーク・モチベーション,及びワーク・エンゲージメントについて,転職経験の有無によって比較した.その結果,個人のチームワーク能力のうち,バックアップ能力,モニタリング能力について,転職経験ありの方が転職経験なしの者よりも低い値であった.ワーク・モチベーションのうち,協力志向モチベーションについて,転職経験ありの方が転職経験なしの者よりも低い値であった.
青野 朝日,村井 穏永,八木 彩乃,清水 理恵子
システム開発にかかる開発費用の見積りには,規模見積りと工数見積りが必要である.規模見積りには,機能要件と規模の関係が捉えやすいファンクション・ポイント(FP),工数見積りには過去の実績データが豊富な Source Lines of Code(SLOC)を使用することが多い.開発費用の算出には,規模見積りの結果を工数見積りへ反映させる必要があるため, FP を利用して SLOC を機械的に算出できることが望ましい.原田ら(2006)の「要素見積法」では IFPUG 法のトランザクションファンクションを再分類し,複雑度を割り当てたものを FP として SLOC を算出している.また,八木ら(2021)では画面項目数を FP として SLOC を算出し,見積り精度が高いことを確認している.これらは,画面から判断できる要素が規模に影響していることを示している.本論文では,これらの要素以外で規模に影響すると考えられるシステム特性に着目し,考察した結果を報告する.
三上 晃司
世界は豊かになり,貧困状態に陥っている国は大きく減少,マズローの欲求5段階説で定義されるヒトの「欲求の発達レベル」は益々あがっていき,人々の働き方,管理のしかたもまた,成長させなければならない段階が訪れたと考えている.企業・団体・行政の組織体制のみならず,プロジェクト体制についても然りである.現在,最も成長・成熟した状態と言われる組織形態であるティール組織の発想を,実際のプロジェクトにも適用可能であるのか検討・検証した結果を論じる.
端山 毅
国際規格は,特定の分野の専門家が,その知識と経験を結集し,議論を通じて実務を抽象化し,合意した一般的な理論を記述したものである.重要な概念を定義し,その関係を整理して示すためには,定義された概念をあたかも実在するかのように記述せざるを得ない.規格を実在論的に解釈すると,そこに記述された概念に対する忠実さを求めているように見えてしまう.しかし,抽象化された概念は,もともと社会で広く多様な形で実践されていたことを整理し,簡潔な名称を付与したものである.このような実態に着目することで,実務上で取り組むべき課題を認識し,その課題解決のために国際規格を有効に活用することができる.本稿では,プロジェクトマネジメントの国際規格であるISO21500:2012を抜本的に改訂したISO21502:2020に着目する.これを唯名論的に解釈することで,プロジェクトマネジメントにおいて世界の人々が意識している問題を読み解き,実務上の活用の幅が広がることを主張する.
金山 淳一
情報システム開発プロジェクトにおけるITインフラの構築プロジェクトについては,昨今のクラウド基盤の浸透やビジネススピードの加速とともに短納期かつ高品質への要求が高まっている.このような情勢の中,様々な環境構築を自動化するためのデプロイメントツールは各ベンダから提供され,自動化される部分についての作業効率化や品質の確保はできる状況にはなりつつある.しかし,事例の少ないソフトウェアや自動構築可能なソフトウェアでも汎用的に使用されない項目については自動化されていない実状もあり,最終的にITインフラ構築を完遂するためには,自動化されない手動構築部分の作業効率化や高品質化が必要不可欠となる.こうした中で,自動構築と手動構築を併用したITインフラ構築における効率的かつ高品質な作業についての取り組みについてその有用性の評価を行う.
吉田 政史
大規模開発のように開発規模が大きく開発期間が長くなると,開発に支障を来す事例が発生する可能性も高くなる.大規模開発を進めるうえで重要と考えるのは,要件定義などの上流工程をスキルある有識者が可能な限り不確定要素が無いように取り纏め,品質が保証できる開発計画を立てることと,開発期間中に発生する課題対応時に判断することができる判断要素を明確にすること,そして多くのステークホルダーとプロジェクト成功に向けて意識統一をはかり対処することである.大規模開発の途中にさまざまな課題が発生した時に,COCOMO開発曲線の考え方に開発要員スキルを加味した開発ベースラインの判断基準を作成し,多くのステークホルダーと意識統一をはかり,課題解決期間の短縮を行った.その課題解決の際に使用した開発ベースラインの検討経緯と課題に対処した内容を紹介する.
市岡 亜由美,掛川 悠,高橋 秀行,林 智定
我々の社会生活が高度化/複雑化するに伴って、これを支える情報システム(所謂、ミッションクリティカルシステム)の果たす役割は極めて重要なものになって来ており、多様なサービスを、高い品質を維持しながら、途切れる事なく提供し続ける事が求められている。その為には、アプリケーションやインフラと言ったプロダクト自体の品質のみならず、システム(環境)維持に向けた種々の作業に対しても高い品質を実現する必要があり、システム提供者は、作業品質の向上に向けた様々な取り組みを続けている。この様な状況を踏まえ、本稿では、長年、大規模ミッションクリティカルシステムの維持に携わって来た著者らの、商用維持管理作業品質向上に向けた取り組み内容とその効果について報告するとともに、今後に向けた新たな取り組み方針について紹介するものである。
内川 奈津希,橋本 里実
筆者が従事している金融機関システムの保守・拡張プロジェクトにおけるプロジェクト・マネジメントのプロセスやアウトプット(様式)は,ウォーターフォールの開発標準としては概ね完成されたものとなっている.一方で,プロセス(ガイド,手続)に従えばプロジェクト管理はできるが,真の目的を十分理解しないまま計画書や管理資料を作成し,プロジェクト管理を行なっているケースが増えている.また,プロジェクト・マネジメントも日々進化している.そこで,最新のプロセス,アウトプットに準拠させることによる品質の向上とプロジェクト・マネジメントスキルの底上げを目的に行ったプロジェクト・マネジメントプロセスの見直しおよびプロジェクト・マネジメント勉強会の活動を紹介する.
菊池 広明
近年,プロジェクトマネージャの人材が不足しており育成が急務な状況である.プロジェクトを成功に導き,顧客満足度を得られるプロジェクトマネージャを育成するためには,業務知識やIT知識を身に付けた上で,プロジェクトマネージャとしての経験を積ませながら育成していくことが必要不可欠である.さらに,本人のモチベーション向上,PM資格取得,研修によるマネージメント知識の習得も必要である.本論文では,プロジェクトマネージャ育成時,課題管理の重要性を理解することが顧客満足度を得られる結果に繋がることに着目した点について述べる.
豊田 玲子,山中 淳史
ソフトウエア開発プロジェクトにおける短納期化への要求は,ビジネススピードの加速とともにますます高まってきており,複数案件を並行開発する必要性も生じている.本稿で取り上げるプロジェクトは,プロジェクトをユーザーとメーカー双方で協力して成功させたいというプロジェクトではあったが,開発規模の大きな複数案件を決められたサービスリリース日に向けて並行開発する必要があり開発期間が不足するという状況に置かれていた.そこで,必要な開発期間を確保するためにCOCOMOモデルによる開発期間限界の曲線を活用してプロジェクトとしての実力値を定量的に明示して顧客説明を実施した.結果として顧客にご納得頂ける実現可能なシステム開発スケジュールを策定することができた.本テーマでは,開発期間不足という課題を解決したプロジェクト計画を策定し,複数案件を計画通りに開発完了することで顧客満足度の高いシステム開発ができた成功事例として報告する.
田中 康博
大規模システムのプロジェクトが混乱する要因としては,ステークホルダーのスコープに対する認識の相違に起因するものが多い.大規模システムにおいては規模の大きさから,多数のステークホルダーによるプロジェクト推進が必要となるが,コミュニケーション不足によるスコープに対する認識の相違は,プロジェクト混乱につながる.こうした問題を解決する,あるいは軽減するためには,コミュニケーションルール(事前に試作などのモノを見てお互いに評価すること)を事前に定め,成果物スコープやプロジェクトのスコープのベースラインを明確に設定しておくことが効果的である.海外向けシステム開発で適用し成果をあげているので今後の展開も含めて報告する.
石井 悠,岡村 勝仁,中田 勝士
システム老朽化を背景に,既存システムをクラウドへ移設する案件は増加傾向にある.特に,基幹システムのクラウド移設においては,大規模なデータ移行・切替えが必要となる.顧客の業務影響を最小限に抑え込みつつ,大規模なデータ移行を伴う基幹システムの本番切替えリスクは極めて高い.本番切替えを問題なく完遂するためには,データ移行,外部システム切替え,日次処理性能におけるリスクに対して,いかに早期段階で課題として顕在化できるかにかかっている.また,切替え失敗時を想定して,コンティンジェンシープラン計画・立案し,万が一に備えることも必要不可欠である.本稿では,基幹システムのクラウド移設のプロジェクトマネジメントにおける,本番切替え完遂に向けたリスクマネジメント計画とその実践,取組み結果について考察する.
尾崎 正行
本稿では,在宅勤務環境下でのニアショア開発プロジェクトチームの立ち上げについて考察を行う.COVID-19の流行を契機として,オフィスに集まって働くという働き方に対する見直しが余儀なくされ,システム開発の現場においても在宅勤務環境にて開発を実施する形態のプロジェクトが増加している.初期はすでに進行中のプロジェクトをどのように在宅勤務環境下にシフトしていくかが課題のポイントであったが,このような状況が継続する中では,ゼロから新たなプロジェクトチームを立ち上げる機会が増えてきており,在宅勤務環境下でのチーム構築に対する課題が発生してきている.筆者は,COVID-19禍以降に,複数のニアショア開発プロジェクトチームの立ち上げに携わってきた.それらの経験より,チーム立ち上げに際して,どのような課題や注意点が存在し,それらをどのように乗り越えることでチームリードを行ってきたかをまとめる.
原田 雄一,安井 一清,飯塚 裕一,田村 真里子,貞本 修一
多様化し,急速に変化する顧客ニーズを的確に具現化するアプリケーションエンジニアは,システム開発において中核的な存在であり,プロジェクトの重要な成功要因となっている.本稿では,アプリケーションエンジニアに求められる能力をプロジェクト経験豊富なメンターから中堅社員に継承していくための取組として,株式会社NTTデータ公共社会・基盤分野PMO担当が企画・運営しているメンタリング施策を紹介する.
土屋 美帆
本論文では,ローコードツールを利用したアジャイル開発における品質管理について述べる.アジャイル開発において,開発プロセスの中で品質を確保する方法については、多くの報告がある.しかし,システム全体を通した品質確保の方法論や,検出バグに対する解析方法は未だ確立されていないのが現状である.さらに,ローコード開発を利用したアジャイル開発の品質確保に関しては、殆ど事例が無い。そこで、実例として、ローコードツールを利用したアジャイル開発において、システム全体を通した品質を確保するための実施した施策と、その結果及び考察を述べる。
畑 伸二郎
筆者は、プロジェクトマネージャーとして、各メンバーの育成を支援し、組織力を強化していく役割を担っている。しかしながら、筆者が受け持つ事となったプロジェクトは、継続的に開発作業を繰り返しており変化が少なく、ビジネス面、品質面においても安定したプロジェクトであった為、メンバーは成長意欲を持って目標を設定し、自己研鑽を積んでいく活動ができていなかった。そこで筆者は、メンバー自身が迷いなく意思を持って明示的な目標を設定し、目標を具現化しながら成長を実感できる取り組みを試行した。実際に多くのメンバーが成長を実感し有効的であった取り組みであった為、本稿にて紹介する。
皆川 広之,米重 年晴,田中 実,本木 克典,中泉 雅行,白川 貴敬
日本電気通信システム株式会社 共通技術推進本部は,継続的な事業成長を支える強い組織作りをミッションとしており,新しい技術とデジタルトランスフォーメーション(DX)で,ビジネス環境の激しい変化に対応するべく,業務そのものや,組織,プロセス,企業文化や風土の変革に向けて活動している.強い組織作りが目指す「あるべき姿」をオペレーショナルエクセレンスの実現とし,今取り組むべき対策として,全社レベルでのDX推進活動のスキーム構築と,強い組織へのマインド醸成を掲げた.2019年度より,デジタルプラットフォームの構築に取り組み,全社横断の推進体制を整備し,DX推進のKPIと施策活用を連動させながらリテラシー向上と変革に向けたマインドの定着化を実現した.これにより,デジタル企業へと大きく前進するとともに,社員のモチベーションに一定の改善効果が見られたため,3年間の活動について報告する.
角 正樹, 梶浦 正規
近年,システム開発に対する要求は複雑化しているにもかかわらず,短納期,低コストの要求はさらに高まる傾向にある.システム開発プロジェクトを率いるプロジェクトマネージャ(以下、PM)には高度な資質や経験が求められるが,その養成は容易ではない.PMの養成には実務経験から学ぶOJTが欠かせないが,プロジェクト完遂とOJTの両立が難しくなっている.そこで,OJTとの併用,あるいは減少したOJT機会の補完,代用としてメンタリングによる指導が増えている.しかし,メンタリングの実施方法は様々であり,期待した効果が得られていないケースも見受けられる.メンタリングが奏功しない要因は,メンタ,メンティ,メンタリング運営事務局,それぞれにあるが,メンタリングの成否はメンタの資質,指導力に依存するところが大きい.本稿では、筆者がメンタとして指導する場合の指導上の工夫と事例を紹介する.教材制作や指導方法にはPDPC法を応用した.これにより,“武勇伝を語り聞かせるだけのPMメンタリング”からの脱却を図る.
鈴木 宏明,小川 純平,松田 佳之
プロジェクトを成功に導くためには, 過去の失敗から教訓を得て, プロジェクト推進に生かすことが必要である.しかし, 実際には過去に繰り返された失敗と同様の過程を経てプロジェクトを失敗させてしまうことが散見される.そこで, プロジェクトが失敗に至る経過を過去の事例からモデル化した.モデルを活用することで, プロジェクトが失敗に至る進行をしていないか, 簡易な手法で判断することを実現する.本稿ではこのモデルを紹介し, 進行中のプロジェクトとモデルとの類似性を継続的に評価することで早期にプロジェクト失敗の予兆を捉える取り組みについて報告する.
深澤 和哉
コロナ禍でリモートワークが推奨された結果,企業の採用活動においても面接から内定まで,全てオンラインでのみ実施することが定着してきた.このような状況下で,IT企業においては中途採用者を一度も対面で話す機会もなく,即プロジェクトへ配属することは珍しくない状況となっている.リモートワーク前提で採用された中途採用者のプロジェクトへの受け入れには,技術教育や人間関係構築の面において,対面作業が可能だったこれまでとは異なったコミュニケーションマネジメントが求められている.本稿では,筆者のコロナ禍で転職し,プロジェクト業務に携わってきた経験をもとに,ニューノーマルな環境での中途採用者のプロジェクト受け入れ時の課題とその課題についての施策について考察する.
高橋 達也
昨今のITプロジェクトでは,小規模かつ短期間のプロジェクトが多数存在する.プロジェクト管理の高度化が進む中で,プロジェクトマネージャーの需要は継続して高いと言えるが,その一方でIT人材の不足は引き続き,大きな課題である.このような状況下において,複数の小規模プロジェクトを同時に任せられるプロジェクトマネージャーの育成が早期に必要であると感じている.本稿では,複数の小規模プロジェクトを担うプロジェクトマネージャーの育成に関して,育成の必要性,育成に向けたアプローチ,およびアサイン時の考慮点について,長年筆者が担当してきたシステム保守のプロジェクト経験を踏まえて考察する.
中山 翔太,溝渕 隆,三宅 敏之,仁尾 圭祐
近年,様々な企業がDX推進に取り組んでいるものの,成功している企業が多いとはいえない状況である.多くの企業がDX人材特有の育成の難しさやDX案件を完遂することができる有識者の確保といった課題に直面している.DX人材特有の育成の難しさの理由として,「DX人材の定義が明確にされていない」「必要となるスキルセットが多岐にわたりアジリティが求められるDX案件では人材育成の期間を十分に計画できない」といったことが挙げられる.PMBOKでは人的資源計画を立案し,人材育成をマネジメントするための知識エリアとして資源マネジメントが定義されている.実際のDX案件に適用としようとした場合,DX人材特有の難しさといった課題に直面するプロジェクトマネージャーは多い.本稿では,それらの課題に対する解決策としてプロセスマイニング技術の活用を提案するものである.プロセスマイニングでは,実際に稼働しているシステム内のイベントログデータという客観的データを入力することでビジネスプロセスの抽出・プロセスモデルの作成・プロセスを通るイベント数の定量化が可能である.この特徴を利用することで,UX/UIを改善する実際のDX案件において必要となるスキルを定量化し,超短期間でDX人材を育成した事例を報告する.
松宮 美穂,島田 和彰,蓬澤 守一,山中 一史,伊部 佑希,中島 雄作
筆者らは,IT保守運用部門のメンバを数名から数十名抱える立場の現場リーダ(ITサービスマネージャ)である.継続的サービス改善こそがITサービスマネージャの活力の源泉と考える.しかしながら,継続的サービス改善のテーマ選定は案外難しい.そこで,まずはあらゆるステークホルダの目線で継続的サービス改善に関する課題を挙げた.すると,ITサービスマネージャが真に着目すべき継続的サービス改善に関する課題が,①エンドユーザ,②顧客担当者,③配下のメンバの3つのステークホルダの課題に絞り込めることがわかった.これら3つの課題は,キーワードからの強制連想法と,ITサービスマネージャが気づきにくいことに特化した抽出手法とを用いて考えればよいことがわかった.本稿では,保守運用リーダーが着目すべき継続的サービス改善のテーマの抽出方法に関する一提案について述べる.
豊島 直樹
当社における基幹系システムを司るハードウェアやソフトウェアが共に老朽化を迎えており,シェアの高いパブリッククラウド環境への移行と刷新を行うプロジェクトを現在も進行中である.規模の大きさゆえに,現場組織も多数存在するが,各現場組織の組成とは別に,機能別に効率的な検討と意思決定をするための横串組織を組成する形を取っている.PMOとは違い,機能別の名前の検討体を表すタスクフォースと名付けているが,横串組織の実際の現場リーダーを務めた経験から,マトリクス型組織の運営の難しさとメリット,デメリットについて本稿で考察する.
浦川 伸一
我が国においても,情報システム開発に人工知能を採用したプロジェクトが急増している。多くの事例から考察できるのは,ソフトウエア工学をベースとした開発アプローチの限界である。近年機械学習工学(MLSE)という新たな学術領域が議論され始めているが,ソフトウエア工学との差異など,まだまだ未成熟な領域も多い。そこで,モダンプロジェクトマネジメントをどのように応用し適用していけばいいのか,AI社会原則、AI倫理などの関連テーマにも触れながら,今後の指針について整理を試みる。
藤崎 聡
多くの企業が競争力の維持・強化のためにITの強化に関心を持っている一方で,既存の業務システムの運営コストが足かせとなり、IT強化に十分に取り組めない課題がある.業務システムは,長期利用の中で機能追加・変更により処理が複雑になり,その内容が十分ドキュメントに反映されずにブラックボックス化しているケースが少なくない.少しの変化が思いも寄らない場所に影響を与え,その結果システム障害が多発することとなる.根本的な解決策はシステムのモダナイゼーションだが,予算や要員などの制約により既存システムを使い続けている企業が多い.そこで,業務システムが長期利用されることを前提とした上で障害撲滅を実現するための手法を考案した.システム障害が発生する要因を「システムの変更」「データの変化」「業務の変化」の3つと定義し,それらを日別に抽出して対策を立案することで障害を撲滅した.今回考案した手法と,実践結果を元に有効性について考察する.
荒木 寿珠,関 哲朗
情報システム開発プロジェクトのチームの編成には,機能型やプロジェクト型,マトリクス型などのプロジェクトの組織形態やDiSC理論やHerrmannモデルなどの個人の行動特性に基礎を置く議論がなされてきた.一方で,プロジェクト・チームの生産性は,メンバ個人のモチベーションなどに依存することはよく知られたことであり,プロジェクト・チームの組成に当たってはチーム・メンバの依存関係や補完関係を意識することが望まれる.例えば,FFS理論では補完型チームと同様に同質型チームの有効性についても言及されているが,前提が必ずしも知識集約型の仕事ではない部分もあり,何れが有効であるかは一概には判断できない.本研究では,長期化,複雑化する情報システム開発プロジェクトの生産性の確保のために,メンバのモチベーションの維持,向上の必要性に注目した.そこで,チーム編成のための従来のアプローチに加え,個人の持つレジリエンスを考慮することの可能性を考察する.ここで,レジリエンスは,ネガティブ・インパクトに対する抵抗力,回復力であり,別の言葉で言い換えるならば,ストレスに対するロバストネスに相当する概念である.本研究では,補完型チームの有効性に言及し,従来型のチーム編成方法にレジリエンスの尺度を加えたチーム編成方法に関する研究の端緒を与える.
福田 淳一
伝統的な統計解析を始めとして機械学習やAIの浸透によってさまざまな統計数理モデルがビジネスに浸透してきている。ただ、統計数理モデルは数式で表現され、その解釈はエンドユーザには難しいものとなることがある。工業製品の品品質管理等に使われるモデルは説明変数も目的変数も物理的な世界のものであり、利用者にとっても日頃から馴染んでいる世界のものであるので解釈はしやすい。しかし、筆者が関わっている与信モデルでは目的変数は人の「信用力」となる。これは性質や概念の世界のものであり物理的に計測できるものではない。一方、説明変数は「年収」や「担保の価値」であり物理的に計測可能なものである。物理的な世界と物理的に測れないものを結びつけているものが与信モデルである。このようなモデルでは説明変数と目的変数の関係を説明することが困難になることがある。筆者は物理的な統計数理モデルを抽象化するメタモデルを考えることによってこの乖離を埋められるのではないかと考えた。筆者は関係する与信の世界でメタモデル化を試行し、このメタモデルを信用マンダラと名付けた。実際の与信を模倣したデモデータによるものではあるが、信用マンダラによるモデルは従来のモデルより説明しやすく精度も高いものになることがわかった。
青柳 福美,関 哲朗
プロジェクトの進捗に従った環境の変化などから,プロジェクトのマネジメントに当たるメンバや一般のメンバから離任者が発生することは経験上よく知られたことである.その原因は,人間関係のストレス,プロジェクトの現場の混乱やこれらに起因するモチベーションの低下にあるとされている.このような現象は国内外を問わず多発していて,決して無視できないプロジェクトの失敗要因であるにも係わらず,この種の議論,特に国内における議論は決して多くはない.一方で,メンバが離任することへの対策は,バックアップ要員の用意や外部からの増員,現有メンバによる埋め合わせなどであったりするのが一般であり,海外の研究ではメンタ制度の導入が提案されていたりするが,これらは必ずしも有効な方策とは言えない.国内では外部からの要員の追加が一般に行われるが,Brooksの法則が示すようなコミュニケーション・チャネルの増加は無視できず,その適用には慎重になるべきである.また,プロジェクトの内容を熟知した現有メンバによる対応も負荷の状況によってはモチベーションを大きく低下させる要因となる可能性は否めず,一人の離任が他メンバの離任に繋がる2次リスクに発展する可能性も否めない.本研究では,いくつかのプロジェクト・チームの下層に所属するメンバの離任事例を考察することを通して,離任構造の検討を行った.結果として,離任に至るストレスの主たる要因がエスカレーションを含むコミュニケーションにあることを指摘した.
加藤 真実,関 哲朗
従来のプロジェクト・ステークホルダ・マネジメントの議論は,プロジェクトの成否に直接関係する個人や組織に限定されていた.企業のステークホルダは株主に限定されてきた.これが2008年のリーマンショック以降は金融機関等にも拡大され,そして,SDGsの認識はステークホルダ資本主義に新たな解釈を与えることでステークホルダの範囲を拡大している.加えて,働き方改革の推進による個人の持つワーク・ライフ・バランスの感覚,すなわち,個人の行動に対する優先順位付けの多様化や,コロナ禍下でのテレワークの急速な推進がもたらした労働環境の変化や個人の感性の変化は,仕事優先,仕事をするための場における労働といった従来の「当たり前」に大きな変化を及ぼしている.本研究では,プロジェクトを取り巻く環境の変化を整理し,そこに発生するステークホルダの存在を確認することで,拡大するステークホルダに対するマネジメントに係わる研究の端緒を与える.
湊 陽介,寺田 由樹
本稿では筆者の製造業でのITプロジェクト経験を踏まえ,若手PMの育成について述べる.製造業においても,デジタルトランスフォーメーションの推進の加速に際して,早期の要件実現を目指し,短期間での開発を繰り返すようなアジャイル開発も増えている.IT人財の不足が続く中で,長期間の大型システム開発プロジェクトを通し,時間をかけて要員を育成するような機会も減っており,特に若手PMの育成は重要で,且つ難しい状況にある.若手PMとして育成を受ける立場,およびシニアPMとして,若手を育成する立場の双方の観点からPM育成についての課題とその対応策について考察する.
山倉 勉
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が全世界に流行してから2年以上が経過し,緊急事態宣言下での行動制限やワクチン接種といった様々な対策が講じられてきているが,変異型ウィルスの影響もあり今現在もなお感染者数そのものは高い傾向が続いている状況にある.日常生活に変化をもたらしているのはもちろんであるが,職場への影響も大きく,勤務形態として在宅勤務を代表としたいわゆるテレワークに軸足を移している企業が増えてきている.組織を管理・運営するマネージャーにとってもコロナ流行前とは状況が変わりテレワーク特有の問題や課題への対応が必要となってきている.本論文ではコロナ禍における部門運営に関する問題や課題をあげ,実際に筆者が自部門において行った対応内容について事例を交えて紹介する.
土屋 泰
プロジェクトを進めていく上で,オフショア開発,ニアショア開発といった手法を用いて開発コストを抑え,品質を確保しながら利益を最大化させることが重要である.しかし,世界的なCOVID-19感染拡大の影響を受けて,既存のニアショア開発拠点だけでは要員確保が困難になり,短期間で新規ニアショア拠点を立ち上げることになった.委託先や開発拠点の選定については前提条件を明確にした上で比較検討し,決定した.また,立ち上げに際しては,現地に社員を常駐させ,要員の指導育成や問い合わせ対応を行うことで,早期のチームビルディングを実現することができた.委託先が自立的に開発するための条件をあらかじめ明確にし,常駐社員および委託先の意識統一を図り,一体となって取り組むことにより,最終的に常駐社員の支援なしで引き継ぎを完了させることができた.これにより短期間で新規ニアショア拠点を立ち上げ,そのノウハウを吸収することができた.本稿は,委託先の選定,開発拠点の決定から,要員の技術指導と引き継ぎを行うまでに注意すべきポイントを事例としてまとめたものである.
迫 佳志
従来のシステム開発プロジェクトにおいては,オフショア拠点を構えて,一部開発作業をオフショアに依頼するケースが多くみられた.しかし,昨今では,オフショアのコストメリット低下や経済安全保障の強化の観点等からオフショア拠点の代わりに,国内にニアショア拠点を構えるケースも増えてきた.リモートワークの導入が急速に進んでいる昨今において,ニアショアの活用はこれまで以上に重要になってくると考える.また,新たにニアショアを導入する場合,これまでになかったマネジメント負荷の増加等新たな課題が出てくることも考えられる.本稿では,筆者が首都圏で推進するプロジェクトにニアショアの導入を行った実体験を交えながら,ニアショアを使うことによるメリットや課題について考察を行う.
河村 智行,野口 晴康,鷲谷 佳宣,当麻 哲哉
我が国の多くの企業が,デジタルトランスフォーメーション(DX)による成果を十分に得られていないと言われており,DXを効果的に推進できる能力の獲得が急務である.本研究は,DXの推進に影響を与える組織文化の要因を明らかにすることで,企業のDXの推進に寄与することを目的とする.E.Scheinの組織文化のモデルを参照してアンケートを作成し,インターネット調査により日本企業から297件の有効データを収集した.そして,これらのデータに対し因子分析と重回帰分析を適用した結果,「DX推進組織のリーダ・メンバのITなどのスキル」および「DX推進組織のメンバのリスクテイクなどの特性」の2つの組織文化の要因がDXの推進に直接強い影響を与えていることを明らかにした.これらの要因の影響を考慮して改善を進めることで,企業は効率的にDXを推進できると期待する.
原口 直規
2017年に報告したヒューマンモデルと呼ぶコミュニケーションモデルを拡張した.工学的に考えると力学モデルとなり、弟子を入れた立体モデルとなる.また,それを構成する各タイプが協調作業を繰り返すことで協調作業そのものを最も得意とする人格が生まれ,正六面体となるモデルが仮説としてできた.自分のプロジェクト経験とは合致するので,過去の類似例を求めた所,非常に多くの例があることがわかった.政治家や統治者の観点,宗教家の観点,精神科医の観点などから纏められた過去の整理結果は非常に実用的な考え方を含んでいる.これらに科学の発展による工学的視点,ヒューマンモデルのような可視化技法を追加することで“心の科学”として統合的により深く解釈できる可能性がある.その研究の端緒に立ったと思われるので今回はそのオーバビューを提示したい.
山吉 俊郎
複数の国のメンバーが参加するグローバルプロジェクトでは,プロジェクト内の共通言語を英語に統一することが望ましい.しかし,日本企業の海外プロジェクトのように,日本が主導するプロジェクトでは,英語をビジネスレベルで使えるメンバーだけで体制を組めることはほとんどない.現実的には,日本語で意思決定が行われ,英語に翻訳されて,海外メンバーに伝達される.単一言語で進められるプロジェクトと比較して,コミュニケーションにノイズが混入する可能性が高い.ノイズを減らすためには,翻訳しやすい日本語でドキュメントを記述するように,プロジェクトでルール化することが効果的である.
水島 圭
昨今のパブリッククラウドを中心とした技術革新や顧客の内製化が拡大する中で,顧客が当社に期待することや依頼内容に変化が出始めていた.大規模案件対応だけではなく,内製化対応中の顧客からの個別対応依頼が増えていた.個別対応依頼は,大規模案件と比べると規模も小さく,スケジュールも短い小/中規模案件となる.そのため,当社の顧客依頼に応えるためには,小/中規模案件を柔軟に対応できるチームへの組織変更が必要である.本稿では,小/中規模案件に特化したチームへの再編(チームリビルディング)における実績と評価およびチームリーダの育成に関する考察を述べる.
辻川 直輝,大鶴 英佑
プロジェクトマネージャ(PM)には,変化の著しい市場への適応,リスクへの柔軟な対応、新規プロジェクトでも大きな失敗をしないことが求められる.失敗プロジェクトの反省をみると,課題・問題は意識していたが影響を見誤った,兆候はあったがリスクを認識することが出来ず原価が悪化した等が挙げられている.早く気づくことが出来れば適切な対応も期待できるため,気づくことに優れたPMを育成することが必要である.そこで,幹部・同世代との交流を図り,第一人称で考え,気づく機会を創出し,知識や対応の引き出しを増やすことを目指してPM交流会を推進している.FY2016以来,PM交流会は、幹部講話,親睦会,ディスカッションの3つを軸として集合形式で行ってきた.ディスカッションを高揚させる導入,手書き・付箋紙の活用,PMへの期待の見える化が大切である.評価は,アンケートによる5段階評価,自由な意見から抽出した関連ワードの出現傾向から行っている.一方,テレワークの推進、COVID-19など昨今の状況を考慮すると,オンラインミーティングの採用は必須でありFY2021からディスカッションを中心にPM交流会を実施している.本稿は,オンラインミーティングへの移行,実施結果,課題を取りまとめて評価し今後の対応について考察している.
岡 恭佑
筆者が所属しているプロジェクトグループでは,従来大手通信会社の情報システム部門とシステム開発を行っていたが,「更なる利益の獲得」「ビジネス領域の拡大」を目指して営業部門と直接契約型のプロジェクトを立ち上げた.営業部門はビジネス機会の損失を重視していたことから,品質以上にスピード・コストの削減を望んでいた.スピード・コストの削減を実現する方法は多種あるが,その中でも比較的効果が高く,取り組みやすい「品質コストの削減」により顧客の要望を実現することとした.しかし,品質コストを無暗に削減することは既存システムの品質悪化を助長する原因になるため,いかに既存システムの品質に影響を与えず,品質コストを削減するかが問題である.本プロジェクトでは①案件特性を考慮した品質水準レベルの決定,②既存システムに影響を与えない品質コストの削減の2 点を問題解決のアプローチとして取り組みを行った.結果として「コスト削減」「開発スピードの向上」を実現し,顧客満足度を向上することができた.本論文では高い品質が求められるシステムにて品質を確保しつつ品質コストを削減する手法とその評価について述べる.
今村 公嗣,中島 雄作
規模が急拡大した組織では,それまでの組織統制のやり方ではひずみが生じ,通用しなくなることがしばしばある.当担当でもプロジェクトが急拡大したことによりそれまで整備してきたルールが形骸化し,そのルール重要性が無視されることが常態化してしまい,重大作業ミスに繋がった.本稿では,「急拡大によりどのように組織統制がほころび,重大本番作業ミスに繋がっていったのか.それをどのような工夫で立て直したのか.」を述べる.
花嶋 滋雨
激しく変化するビジネス環境において情報システムの果たす役割は今までになく大きなものとなっている.情報システムの開発プロジェクトにおいて,当初想定していなかった要件や急激に変化するビジネス環境へ対応するため,プロジェクト途中で成果物の仕様変更をすべき状況が発生する.プロジェクトが目指す成果物の納期や割当てられている予算等への影響を最小限にしつつ,仕様変更の目的を達成するための手法である統合変更管理の重要性と,その知識を実際のプロジェクトにて適用した事例とその際に発生した課題及びその対応案を紹介する.
外舘 修一
顧客価値を向上させるためには,あるべき姿を見出して顧客と共有し,そこに向けて具体的なプランを立てていくバックキャスティング思考が効果的である.しかし,官公庁や自治体など公共系の入札案件では,既存システムリプレースのみを目的とした入札案件が多いのも事実である.このような入札案件は,顧客の成長を妨げる結果となる.本稿では, 受注後のベンダーの立場として要件定義フェーズにて顧客価値を向上していく手法を検討する.
菊地 修一郎
著者は10年以上にわたり,主に首都圏向けにソフトウェアアプリケーションのリモート開発サービスを提供するセンターにて,新規に参画する社員の採用や教育を担当してきた.当センターでプロジェクトに新規に参画する社員のほとんどは,キャリア採用で入社する社員や,同じ企業グループに所属する海外の企業から出向してくる社員であった.それらの社員は着任後に企業や出身国の違いによる文化的な差異や本人と周りの期待のギャップに遭遇した.これらのギャップはプロジェクトでの生産性に影響を与える.筆者はこの状況を調査・分析し,新規参画する社員がプロジェクト参画早期から効率的に作業を行うことができる方法を模索した.当論文ではこの活動を通じて,新規参画する社員のプロジェクト参画時のパフォーマンスを改善した事例について紹介する.
鍋谷 祥子,中村 知久
PMOなど第三者としてプロジェクトに助言を行う立場においては、ともすれば、プロジェクトの現場から「評論家」との批判を受けることがある。特に、SQAなど第三者によるソフトウェア品質の評価では、設計書ページ数、レビュー工数、テスト項目数、バグ数などの品質データの集計と分析に基づいた客観的な助言を行う。しかし、データに基づく客観的な助言がプロジェクトの行動変容につながらない場合、プロダクト品質の向上に対しての影響力は皆無となってしまう。このような第三者による品質評価の在り方という課題に対して、ソフトウェアの開発規模が2MLを超える大規模SIプロジェクトでの事例を紹介する。プロジェクトマネージャをはじめとした現場担当者から「プロジェクトに寄り添っている」との評価を得た事例から、プロジェクトの行動変容を喚起した「現場に刺さる」第三者品質保証の取り組みとソフトウェア品質の「見える化」のポイントについて述べる。
高峰 慎平,海老原 聰,島村 久仁彦,古久保 貴則,吉村 友希
時代の変化に伴い,事前にニーズの変化を予測できない中,状況の変化で実装する機能の優先順位が変わるため,それに対応することが難しい.このような状況に対応できるよう,アジャイル開発にて短納期でシステムを構築したいという要望が多い.しかし,実際アジャイル開発にてスクラムチーム体制を構築する際,アジャイル知識を持ち、全工程のスキルを持ったメンバーのみで構築できることは,ほとんどない.アジャイル開発自体が初めてで,プロダクトオーナー,スクラムマスター,開発チーム各ロールの役割を理解していないメンバー多い.設計,開発,試験等スキルが偏り,不足している開発者がいる.顧客と開発会社メンバー混合のチーム体制となる.このようなスクラムチーム体制となって開発を行う際の対策と効果について考察する.
新谷 のどか
システム開発プロジェクトを成功裏に収めるために,品質管理は不可欠である.筆者は現在リモート開発センターの品質管理チームに在籍し,プロジェクト品質管理業務を担当している.当該センターが参画するプロジェクトのサービス品質を確保し,センターとしての価値を高めるために,独自の品質保証プログラムを制定し,ある一定の適用基準を設け,適用基準に該当するプロジェクトを対象に品質保証活動を行っている.これは,プロジェクトメンバー外である品質管理チームによるプロジェクト計画や成果物の点検を実施し,リスクや課題などの品質に影響を与える要因を明らかにするとともに,改善案を関係者に報告し,品質を保証する活動である.効果を見つつ,適用プロジェクトの範囲を拡大していく予定である.この品質保証活動内容を紹介するとともに,活動実績からみえる効果と課題について考察する.
上原 孝男,伊藤 理恵,荒木 泰至,安河内 武,島村 智
システム開発プロジェクトの推進において,上流工程において品質を作り込むことがとても重要である.本課題解決のために,品質計画・品質分析・品質対策・見解・事例活用といった一連の品質マネジメントプロセスの組織実践の取り組みを既に開始している.これらの取り組みにあたり,昨年度は過去のプロジェクトの事例を踏まえた品質計画書雛形等の整備展開と,プロジェクトへの実践・活用について報告した.今回は,昨年対応中であった「品質分析・品質対策の実践」について,NECの品質会計の分析技法を踏まえて,プロジェクト管理ツールの活用による分析データの収集と,プロジェクト遂行時点で必要な品質分析観点を品質分析支援ツールへ整備し,プロジェクトで活用する取り組みについて実践しており,これらの取り組みを紹介する.
弘中 諒,井筒 理人,池田 英生
当社機械事業部門では,高砂製作所において,様々な産業機械を一品生産している.製作所内の加工工場にて加工する加工品,外部の購入品と合わせて組立工場で最終製品を組み立てている.納期遵守のためには,組立工程の開始予定日に必要な部品が揃っていることが重要である.製品に必要な組立部品は多種類で多数あり,製造LTが異なる点,複数の受注オーダ向けの部品を同時期に製造しなければならない点から,結果的に納期の優先度付けが困難となっている.私たちはプロジェクト管理手法の1つであるフィーバーチャートによる進捗可視化方法と納期の優先度付け方法を開発した.本システムは3つの特徴がある.まず生産管理システム,小日程計画システム,調達EDIのデータと,人手で取得・生成したデータをもとにして,部品の進捗を可視化できる.次に部品・工程毎に持つ情報をもとにユーザーが必要な部品をフィルタリングして,フィーバーチャートに進捗を描画できる.最後に各部品複数の納期を設定することができ,優先度が高い納期をもとに進捗を可視化できる.2020年本システムの試行を開始して,新業務プロセスの有効性を確認した.
石井 太一,高橋 遼平
大規模なITインフラ基盤を持つ企業では,日々大量の設定追加/変更作業が発生している.それらインフラ設定作業は,システム開発におけるボトルネックになりがちであるため,企業はIaC(Infrastracture as Code)や自動化等によって設定変更作業の高速化を図る傾向がある.しかしながら,IaCや自動化は対象システム,運用者のスキルセットとの相性へ非常に依存しており,導入したからといって必ずしもスループットが向上するとは限らない.また,そのために導入した仕組みを維持し続けることにも相応のコストが継続的に発生し,更なる改善を行う際に足かせになることもあり得る.本稿では,大幅な業務変更や自動化によることなく,業務上のボトルネックのメカニズムを明確にしながらプロセス改善をしたことによって,品質・コストを維持したまま従来の1/5のリードタイムで大量の設定追加/変更作業を実現できた事例を報告する.報告の中では,制約理論(TOC:Theory of Constraints:)における「集中の5ステップ」を参考とした改善活動の進め方について具体的に考察をする.
吉田 昇平
IT運用のひとつであるサービスデスク(SD)業務の価値として,利用者からの依頼を高いスループットで捌いていくことは、重要な価値の1つである.SDには,より高いスループットの実現に向けた改善活動を行っていくことが常に求められているが,日々の業務と並行してスループットの改善活動を行うことによって改善活動自体がスループットの低下を引き起こすリスクをはらんでいる.本論文では,当社のSD業務を対象に,日々の業務のスループット低下を起こさずに改善することに成功したプロジェクトを事例として,オペレーションの変更がスループットにどのような影響を及ぼすのか、スループットのモニタリング結果をどのように活用したのかを報告する.報告の中では、スループットの評価指標の策定、オペレーション変更のスループットへの影響、スループットのモニタリングに基づいた改善サイクルについて述べる.また,今回は制約理論(TOC:Theory of Constraints)の考え方も取り入れている.今回の事例を参考にSD業務をはじめとする,様々なIT運用業務の改善につながることを期待する.
李 静嫻
今後、日本のIT業界では国境を越え、開発の一体化が主流のトレンドになる可能性が高いと考えている。経済統合、経済一体化というトレンドの下に、ITの一体化も急速に進んでいる。特に、近年はデジタル技術を利用して、より効率的な業務を実現するDXなどの概念は注目されている。ただし、日本IT業界の人材不足は今後より一層深刻化する可能性が高いと指摘されている。そこで、他の業界と異なるIT業界の特徴の一つとして、時間と場所に縛られずに働くことができる点から、現状、日本のIT業界に不足している人材は、グローバルに活躍できるマネジメント人材ではないか、と思案していた。本稿では,グローバル体制で開発を進める中での心得を紹介し、従来の日本国内開発との異なる点から、プロジェクト推進やチームマネジメントを行う上での工夫したポイントについて記述する。
北畑 紀和
PBL(Project Based Learning)は探求学習として近年高等学校で盛んに実施されている.筆者は,ある高等学校の1年生全員にプロジェクトマネジメント入門講座の講義を実施したことが縁で2021年度の1年間のPBL成果発表会をオンライン会議システムにて参加した.事前に3~5分程度にまとめられた動画とポスター1枚にまとめられた資料を参照したうえで,1,2年生全員,141名58チームの発表をオンラインで視聴した.発表と資料からPBLとプロジェクトマネジメントの関連性を分析し,今後のPBL学習の参考となることは何かを考察した.
熊川 一平,龍 真子
ソフトウェア開発の手法やツールの進化は目覚ましく,続々と新たな手法の研究やツールの開発が進んでいる.競争力のある企業はこうした新しい手法やツールの適用を進め,プロジェクトを成功に導いている.一方,多くのプロジェクトは日々の業務に忙殺され,新たな技術の導入によるプロセス改善に挑むことができていない.そこで我々は,プロジェクトが主体的かつ持続的にプロセス改善が進められるようにするための,伴走型研修を開発し,組織内の多くのプロジェクトに導入した.ここでは,導入した研修の概要とその効果,並びに取り組みを進めることで得られた知見を報告する.
山下 浩徳
近年では働き方改革やDX推進に取り組む企業が増加し、業務の外注化機運も高まりBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)市場規模が拡大している。BPO市場へ参加するには情報システム開発だけでなく業務プロセスを含めたサービス開発が必要である。サービス開発では、開発ベンダーが要件を決定し、情報システム稼働後の業務利用も開発ベンダーが受け持つ、という点が受託開発とは異なる。またサービス事業では、業務利用における効率化が事業収支に直接影響するという特徴がある。本稿では、筆者が担当したBPOサービス更改プロジェクトを通じて、BPOサービス開発プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメントの留意点を説明する。
森本 千佳子,南 圭介
プロジェクトマネジメントにおいてコミュニケーションが重要であることは自明である。自明ではあるが、古今東西、トラブルプロジェクトの原因の多くはコミュニケーションミスに起因しているし、コミュニケーションに悩んでいる人は依然として多い。プロジェクトマネージャとメンバー、プロジェクトステークホルダーなど様々な人間関係が存在するプロジェクトにおいて、「コミュニケーション」は一言で片づけられない要素を含んでいる。本稿では、改めて、コミュニケーション構造を確認し、プロジェクトマネージャがどのように振る舞い、どのようにコミュニケーションするべきかについて論じる。また、コミュニケーションの要素の一つである「伝える」について、演劇的手法を紹介し、ワークショップでの実践例とその成果を紹介する。
清水 美鈴
コスト削減やリソース確保を目的として,多くの大型のアプリケーション開発プロジェクトでは,オフショア開発が採用されてきた.デジタルを活用することで地域の活性化を支援するため,オフショアからニアショアへ体制をシフトする取り組みが行われている.本論文は,筆者の参画する開発プロジェクトでの経験を元に,オフショアからニアショアへの体制シフト時の検討事項,アクション事例,課題や問題点について考察する.
清水 裕斗,前田 紗矢香
個々のプロジェクトマネジメントを強化し、成功に導くことは重要だが企業として会社或いは事業部単位でプロジェクト集合体の売上や利益などの予測をし、早期に対応することも企業にとっては重要である。本研究では、「組織ごとに年度で売上パターンが存在すること」を仮説とし、過去3年分(約27万件)のデータを用いて検証した。その結果、組織の下位組織ごとに売上のパターンがあり、年度を跨いでもそのパターンは変わらないことが検証できた。そこで仮説に基づき、パターンごとにプロジェクトの集合体としての売上予測モデルを構築し、さらに四分位数を用いることで予測値を範囲で示せるようにした。モデルの予測値と実績値を比較して精度を検証した結果、モデルの有効性を確認できた。
後藤 大介
大規模プロジェクトに関する政府調達は,要件定義と設計・開発の工程が別の事業者による対応となる.ITベンダーが担当することが多い設計・開発工程では,不十分な要件定義がインプットとなることも多い.筆者が担当した行政間のデータ連携システムを開発するプロジェクトも該当するものだった.本プロジェクトは,「要件の起点がお客さまとは別の組織である」,「ステークホルダーが非常に多い」という2つの特性がある.これらの特性から要件定義が不十分なまま対応を進めるには,基本設計工程以降において大きなリスクがあった.そのため,基本設計工程前に要件定義を補完するプロセスを設け,リスクの解消に向けた3つの施策を実施した.結果,QCD目標の達成に加えて,行政全体の要件を満たしたシステムを構築したことで,お客さまからも高い評価をいただいた.本項が,同様の特性を持つプロジェクト,要件定義が不十分であるプロジェクトの一助となれば幸いである.
若松 禎之
リモートワークの特性を踏まえたITプロジェクトマネージメントを適切に遂行するには,多様な事例の共有と実際のプロジェクトでの試行錯誤が必要不可欠であるが,従来型の開発拠点に要員を集約するプロジェクトと比較すると未だ導入事例は少ない.今回紹介する事例は,開発プロセス,システム構成等に特性を持つプロジェクトである.その特性を踏まえ従来のPJ事例のノウハウを適用しようと試みたが,リモートワーク特有の条件のため適用が困難であったり,適用できたとしても期待する効果が得られない局面が多かった.本稿では事例のPJで得られたリモートワーク適用時のITプロジェクトマネジメントにおける知見について共有を行うとともに,今後のプロジェクトへの適用の可能性について考察を行う.
小星 春緋,小笠原 秀人
PMBOKを用いたソフトウェア開発PBL(Project Based Learning)の特徴は,プロジェクトをマネジメントするための一般的な知識を用いてプロジェクト進めることである.しかし経験が浅い初学者がPBLを実施する際には,チームビルディングに不慣れ,実施すべき項目の理解不足,成果物の欠陥による品質低下など,さまざまな問題がある.今回、2022年4月~7月の13週間に渡りPBLを実践した.このPBLでは,4名のメンバでチームを構成し,「千葉工業大学施設混雑状況マップ」というシステムを開発した.本稿では,その実践内容を具体的に紹介し,初学者が陥りやすい問題点を挙げ,その解決方法を提案する.
高橋 新一
システム開発への投資がある程度完了し,十分成熟した顧客システムにおいては,プログラムマネジメントにおける長期開発・保守契約において,様々な課題が発生する.システムのライフサイクルを導入期・成長期・成熟期・衰退期としてとらえた場合,成熟期において課題の整理を行い,衰退期に移行しないよう,ライフサイクル特有の成熟期での課題を整理し,新たなライフサイクルに以降するための改革が必要と考える.そこで本論文では,プログラムマネジメントにおけるライフサイクル課題に着目し,新しいライフサイクルに移行するための考慮事項とその解決策をライフサイクル改革として考察を行う.
赤澤 鼓
筆者は,初任配属から4年間,経営データ活用基盤の保守業務を遂行している.現在は,領域リーダとして,課題管理・要員管理・小中規模案件の見積もり~リリースまでの一連のプロジェクトマネジメントを行っている.自身の経験を振り返ると,2年次より保守チームの課題管理や顧客向け進捗報告を行っていたことが,プロジェクトマネジメント力向上につながったと考える.本論では,課題管理や顧客向け進捗報告で意識したこと,またそれによって獲得できたスキルについて述べる.
山本 翔太,清水 颯太,瀬戸口 大空,小笠原 秀人
筆者らは,大学の講義にて,プロジェクトマネジメントに関する知識を活用し実践する,プロジェクトマネジメント演習(以下,PM演習)と呼ばれるPBL(Project Based Learning)に取り組み,ソフトウェア開発プロジェクトの計画を行った.その際,Planed Value(以下,PV)の設定に時間を要し,またPVの精度もあまり高くなかったために,Earned Value(以下,EV)との差異が大きくなり,プロジェクトに遅延を発生させてしまう状況が多発した.本論文では,PVの見積もり精度の向上に関する,筆者らが提案した見積もり方法の提案を行う.
廣川 陽祐
パッケージ導入時にお客様が事前にパッケージの仕様や制約の全てを理解した上で要件定義時に実現方式まで合意することは難しい.本論文ではマルチリリース型Waterfall開発手法でのパッケージ導入において,スケジュールベースラインとコストベースラインが優先される前提のプロジェクトで要件定義からパッケージの実画面を使用してお客様要望を反映する際のスコープベースラインコントロールの手法を提案する.この手法では2種類の変更管理プロセスを用いて,変更要望概要により当初予定の変更反映作業工数内で実施可否判断を行うことで,適用する変更管理プロセスを決めスコープベースラインコントロールを行うものである.この手法によりシングルリリース型Waterfall開発手法を比較して,パッケージ適用プロジェクトはお客様自身が業務をパッケージに合わせていくという特徴があることからお客様自身がパッケージの仕様や制約を踏まえた変更要望を効率的に反映できる.
阿部 秀城
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い「WFH(Work From Home)」を採用する企業が増え,現在では「ニューノーマル」を見据えた働き方の選択肢の1つとして考えられるようになってきた.これまで1つの場所にメンバーが集まって仕事をしていた時代からバーチャルな環境で仕事をする機会が多くなり,これまでとは違ったマネージメント上の課題が見え始めている.ダイバーシティの考え方の1つに職場にいる5つの世代のそれぞれの特性を捉えてマネージメントするという考え方がある(「5 Generations in the workplace」).これは職場が同じであることを前提とした考え方であるため,バーチャルな職場環境においてどのように各世代をマネージメントするべきかを考察する.
佐藤 雅子,福原 優志
Covid-19の流行と共にリモートワークの推進が様々な企業で行われ一般化してきており,今後も働き方の選択肢としてリモートワークが定着していくことが考えられる.リモートワークは通勤時間の短縮などメリットもあるが,一方でプロジェクトチーム育成の観点からすると,チームメンバーのモチベーションの維持,スキルの育成、コンピテンシーの改善,チームの結束力の強化などをどのように行うのかということが新たな課題になっているプロジェクトも多いと捉えている.本稿では2021年と2022年のプロジェクト活動の状況を比較すると共に筆者が実際のプロジェクトでチームビルディングのために行ったスクラムでしばしば用いられるゲームの紹介やその効果についての考察を行う.
宮崎 琢磨
本稿では,筆者が担当したテレワークを利用したプロジェクトにおけるコミュニケーション課題の改善事例について述べる.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が2022年に入ってもまだまだ減少傾向という状況になく,我々の日常生活にも大きな影響を与えている.我々が日々実施しているビジネスの形態においても,流行前の形態とは大きく異なった状況となっており,新たな形態としてテレワークを利用したプロジェクト運営が定着してきた.しかしこのテレワークの利用による弊害として,コミュニケーションをとること自体の難しさ,コミュニケーションが正しくとれているかの不安などのコミュニケーションの課題が発生してきた.本稿では,今後も継続していくことが予想されるテレワーク利用の中で,筆者が担当したプロジェクトにおいて,コミュニケーションへの課題に対し,ツールや環境だけではなく,「人」として,コミュニケーションへの意識改革をどのようにして実施したのか,その意識改革からどういう結果が生まれたのかについて考察する.
渡邉 勝也,山家 俊輝
2020年に当社お客様にてストレージ装置(OEM製品)の設定不具合により,冗長機能が正常に動作せず,セカンダリ機に切り替わらないトラブルが発生.当日の業務開始に間に合わず大きな問題となった.原因は,OEMベンダが2019年に実施した冗長機能設定の仕様変更に起因と判明.他のお客様でも同様の発生リスクがあったため,EC(Engineering Change)により早急に設定値を確認し適切な値へ変更する必要があった.当EC対象がこれまでにない膨大な数であったため,自部門だけでなく,他部門からも対応人員を招集し短期間に育成並びにスキルの平準化を行う必要があった.さらに,EC開始以降,タイムリーな情報共有の仕組みも構築し,営業/SE/サポート部門とEC適用状況の一元管理を行った.本論文は,問題発生後にお客様業務の早期復旧と,他のお客様へのリスク拡大をいかに最小限に抑えるかについてまとめたものである.
西脇 英幾
デジタルトランスフォーメーション(DX)の促進が求められる中,新たなビジネス価値を創出するための攻めの分野と,基幹業務を確実に遂行する守りの分野を区別し,それぞれを強化することが経営に直結する課題となっている.A社において,ミドルウェアやブラウザのサポート期間の観点から期限内にシステム移行させなければならないシステムが複数存在しており,それらを計画的に対応していくことが求められている.本稿では,守りの領域のレガシーマイグレーションを高品質,短納期で効率的に実施するために行った施策,および実際に起こった問題とその対策について記述する.
橋口 宏樹
コロナ禍により世界が一変し,これまで当たり前に行っていた行動・交流(旅行や外食・懇親会等)が一気に制限された.ビジネス環境も大きく変化し,テレワークが急速に拡がり定着している.そしてメンバーが拠点分散したリモート環境下でのプロジェクト運営では,これまでには無い新しい課題が噴出している.この時代の変わり目においてプロジェクトで成果を出すには,コミュニケーション手段を変えるだけでなく,マネジメントのやり方も変える必要があると考えた.本稿では,テレワーク時代の心理的な変化を把握した上で,不確実性の高い環境下でパフォーマンスを最大限発揮するための効果的なリモート・マネジメントの在り方について考察する.
櫻澤 智志
プロジェクトマネジメントは,プロジェクト活動のみならず日常生活やグループ活動にも適応可能なスキルであることは言うまでもない.その一方,「プロジェクトマネジメント」を学問,知識として認知せず,無意識のうちにプロジェクトマネジメントを活用し,行動しているケースが多く見受けられる.意識的にプロジェクトマネジメントを認知し,知識と経験の両輪でマネジメント能力を向上していくためには,この「意識的に認知する」ための「きっかけ」をどう掴むか,ひいてはどう与えるか,がポイントになる.筆者が長年続けている大学でのプロジェクトマネジメント教育の事例や,筆者自身が自社で行っているOJTや社員面談から見えてきた傾向や課題を分析し,効果的な「動機付け」について考察する.
平方 泰光,二科 英弘,上原 光徳,佐野 祥一朗
NTTデータでは,これまでに不採算プロジェクトの発生により,お客様へご迷惑をおかけするとともに経営に大きな影響を及ぼすことがあった.当社が抱えていた問題点の分析から,不採算プロジェクト抑止の仕組み整備や強化対策を進めてきており,近年はプロジェクト成功確率の向上につながってきている.ここでは,一連の仕組み整備や取り組みとともに,それらの立ち上げから遂行,見直し等を通じて得たポイントや所感を紹介したい.なお,プロジェクトの成功に関してはQCD確保が代表的だが,品質やスケジュールの観点もコストに影響することから,ここではコスト観点を中心に見据えている.
佐藤 陽介
近年、あらゆるビジネスシーンにおいてIT技術の活用は不可欠であり、各企業におけるビジネス戦略には必ずIT戦略が伴う。筆者の関わる中間流通・小売業においても例外ではなく、元々抱えている消費者ニーズの多様化、物流費高騰、労働力不足等の社会課題に加え、COVID-19によるEC需要の高まりなど急激な市場環境の変化に追随すべく、ビジネスモデルの見直しとIT投資の動きが活発化している。この動向に伴い、ITプロジェクト自体もビジネスの根幹に関わる案件については、新技術・サービス活用、既存システムとの連携と影響考慮、マルチベンダ化、プロジェクト期間中の市場環境変化リスク等、大規模化・複雑化・高難度化の傾向にある。このような特性のプロジェクトについては、特に上流工程におけるマネジメントが成否を大きく左右する。本稿では筆者が担当したプロジェクトをモデルケースとしてプロジェクトマネージャが実践すべきポイントを考察する。
五領 舞衣
日本では障害者人口が年々増加傾向にある.特に昨今では,2006年には7000人だった発達障害の児童数が2019年には7万人を超え,日本人の10人に1人には発達障害の傾向があるという指摘をする専門家もおり,近い将来,発達障害のある人と働くことが当たり前になると予想される.しかし,発達障害のある人はコミュニケーションが苦手であることが多く,PMはコミュニケーション方法を相手の特性に合わせていく必要がある.そのような脳や神経,それに由来する個人レベルでの様々な特性の違いを多様性と捉えて尊重する,「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」という概念がある.ニューロダイバースな人材は企業に多種多様な恩恵を生み,特にデジタル分野と相性が良いと言われている.本稿では,筆者が経験した障害者のインターン受け入れ,およびメンタリングを通じ,どのようにニューロダイバースな人々とコミュニケーションをしていくべきかを考察する.
海堀 修
不採算プロジェクトの発生を抑止するためには,プロジェクトリスクを早期に検知し,適切なリスク対策の実行やリスク回避を行うことがが重要である.本稿では,複数のプロジェクトリスク検知手段を組み合わせてリスク懸念のあるプロジェクトを抽出し,効率的にプロジェクトリスクの点検を行う取り組みについて紹介する.
梅本 里史 ,天野 歩未,三橋 彰浩,樽井 孝紀,中島 雄作
IT保守運用部門は,様々な制約からリモートワークが進んでいないケースが見られ,Withコロナにおける多くの課題を抱えている.最近,WithコロナやDXという題目の講演,文献は多数あるが,経営者向け,ビジネス企画,営業向け,自動化のものが目立つ.IT-SM部門のチームリーダ向けのものはあまり見かけない.そこで筆者らは,「コロナ禍及びDX時代における保守運用チームのコミュニケーションに関する一考察」について考えた.
鈴木 啓介
近年,ITシステムは社会インフラとなり日常生活に不可欠となっている.それに伴い,お客様からのアプリケーション開発プロジェクトへの品質要求が増大している.一方、金融系基幹システムの保守開発をウォーターフォール型で実施しているプロジェクトにおいて,システムトラブルへの再発防止策の積み重ねによる品質向上施策の増加がコスト増の一因となっている.お客様は品質を維持しながらコスト削減要望が強い.この相反する要望を実現する為に重要な事はお客様と合意の上で,品質を保ちつつ,これまで積み上げた品質向上施策の品質効果を評価し,最適化する事でコストを削減する.本稿では,実際のプロジェクトの実例をもとに考察を行う.
關口 拓未,谷本 茂明
2018年に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」を策定したことに伴い,企業はデジタル技術を活用し,ビジネスの利便性向上やイノベーション創出に関する取り組みを加速させている.その反面,個人情報漏洩等のセキュリティインシデントも数多く発生しており大きな問題となっている.本論文では,個人情報漏洩,特にメール誤送信を対象に,ユーザーエクスペリエンス(UX)に基づく誤操作対策を新たに提案する.最初に,質問紙調査によるメール誤送信に対する実態調査を行い,次に,この結果を基にヒューマンエラーの分析モデルであるm-SHELモデルを用いてリスク要因を特定した.さらに,リスク要因に対するセキュリティ対策を提案し,定性的な評価により有効性を明らかにした.以上より,メール誤送信など個人情報漏洩低減の一助とした.
泉 友弘,三角 英治,辛島 陽子,佐藤 慎一
NTTデータでは,プロジェクトの品質保証を行うために,ソフトウェアプロセス技術や最新の開発技法を活用して,品質保証ストーリー策定,プロセス定義・改善,品質分析・評価,プロジェクトの状況把握などを行い,プロジェクトの円滑な遂行を支援する技術者として“プロジェクト内SEPG(Software Engineering Process Group)”を定義し,展開を進めてきた.また,プロジェクト内SEPGを効果的にプロジェクトに配置するために,現場の意識醸成を図るとともに,組織としてのルール等の整備,SEPG配置状況の把握や支援,育成などを行ってきた.それらについて現時点での総括を行い,今後の課題を考察する.
吉田 知加
近年のソフトウェア開発では,そこに含まれる不確定要素や戦略的製品・サービス開発のために,これまで小規模開発に適用してきたアジャイルを大規模開発にも適用する動きが増えている.そこでは,Scaled Agile Framework (SAFe), Disciplined Agile (DA) などのスケーリングアジャイルを拡張するためのフレームワークが適用される事例が多くみられている.しかし,日本ではこれらのフレームワークがどのように採用されているかの事例文献は少ない.この論文では,日本企業で採用されている主な大規模アジャイルフレームワークの特徴を文献から確認し,日本企業でエンタープライズアジャイルを推進する日本企業のリーダー層8名に対しインタビュー調査を実施した.その結果を,大規模アジャイルフレームワークを採用した事例と,非採用事例に区分し,計量テキスト分析することで,それぞれのアジャイル開発における特徴を明確にする.
宮田 政樹,三品 喜典
当社は,プロジェクト開始前に,顧客関連リスク,体制リスク,技術的なリスク,費用見積リスク等の事前に準備された複数の観点に従ってリスクを洗い出している.この時,各リスクに対し予防策を立てると共に,顕在化した際の対応策(費用を含む.)を明確にする.しかしながら,組織において,リスクに係るデータの蓄積及び傾向分析が行えていないことから,その妥当性判断はプロジェクト・マネージャやプロジェクト審査者の経験や知見に依存する.本稿では,過去3年の官公庁向けプロジェクトについて,「リスク観点別の計画値と実績値(顕在化)の傾向」と「プロジェクト・リスクに対する予防策とリスク顕在化の関係性」を紹介すると共に,現時点で効果が高いリスク・マネジメントを提案した.
高橋 結芽
システム障害が社会生活や企業活動に与える影響は大きい.システム開発プロジェクトにおいて,本番稼働前に欠陥を取り除くためには,品質管理が重要であることは既知の事実である.一方で,システムに求められる要求レベルは高度化しており,システム開発プロジェクトにおける品質管理は一層難しくなってきている.この状況に対応していくためには,品質管理の手法を一層確立させていく必要があると考える.特に,品質分析の元情報となる「品質データの精度」の向上と,品質活動の経緯を把握するための「品質分析プロセスの記録」の2点は即時効果があると考える.品質データそのものに問題がある場合,正しく状況を把握することができない.また,品質分析プロセスに不備があった場合は,後戻り作業をまねく場合がある.本稿では,「品質データの精度」と「品質分析プロセスの記録」の二つに関する品質管理の手法を紹介する.
黒田 一光
我々が手掛けている地方自治体向け住民情報システムは,法改正対応等で同時期に複数ユーザーで同じ作業が発生する.また,いわゆるマイナンバーを含む特定個人情報を扱うことから外部からのリモート接続が許可されておらず,客先現地での対応が必須である.このような状況の中,同じ作業を個々の担当者が実施しているが,情報共有が効率的に行えず一定の品質を担保できないという課題を抱えていた.特に,特定のユーザーで発生した問題,障害に対する他ユーザーの状況整理や,情報共有方法について改善が求められていた.本論文では,これらの課題に対して,プロジェクト管理ソフトウェア「Redmine」,コラボレーションプラットフォーム「Microsoft Teams」を活用したプロジェクト管理手法の改善策とその効果に関する考察を行った.
河西 裕次郎,武田 善行
ビッグデータを用いたデータマイニングでは, 顧客の詳細なニーズを推定するために, 顧客関係管理と呼ばれるCRMが盛んに行われている.CRMにおいては, 主にRFM分析を用い, 顧客分類毎に適した施策を講じることで, 顧客満足度向上による収益増加を目的としている.加えて, アソシエーション分析を用いることで, 有用なルールを抽出し施策に適応がなされている.本研究では, 製品毎にアソシエーション分析を行うことで, 顧客の購買傾向について明らかにする.販売履歴データを対象に製品別に分析を行い, 製品別アソシエーションルールの抽出を行った.結果として, 抽出された製品別アソシエーションルールから詳細なニーズの推定が可能となった.
中山 翼
コンビニ経営において、近年のコストの高騰や人件費の増加が利益の減少につながり、経営の圧迫のみならずお客様の満足度低下が懸念される。そこで、本来業者に依頼するような作業を夜勤の従業員が行うことで、コスト削減に取り組むと同時により良い環境をお客様に提供することが可能ではないかと考える。筆者は、夜間アルバイトにてコンビニの駐車場の白線を引く作業を計画から実行までをリスク、コストなどの面を考慮した上で実行した。本稿では、この経験とその成果を分析するとともに、その結果を基にコンビニ経営のコスト削減においての夜勤労働者の有効活用法について考察していく。
高田 僚太
プロジェクトの成功にはプロジェクトマネジメントが重要である。プロジェクトマネジメントを活用すればプロジェクトを円滑に進め、成功する確率やプロジェクトの期待度が高まるからだ。しかし、プロジェクトマネジメントを学ぶにも独学では難しく、教わるための環境も多くはない。プロジェクトマネジメントを学ぶ環境として、私はゲームに着目した。本稿では、任天堂が発売したゲームソフト「ピクミン」を攻略する際にプロジェクトマネジメントを活用し、スケジュールやリスクの管理などのスキルがどれくらい重要なのか、ゲームでもプロジェクトマネジメントのスキル向上に役に立つことを考察する。
内野 善啓
プロジェクトにおいて,ステークホルダーの増加や,技術の高度化,多様化により,計画フェーズよりリスクを想定した成功に向けたフィジビリティの確保が不可欠である.しかし,どれだけリスクへの備えをとっていても,プロジェクト遂行中には新たな課題の発生やコスト損失の発生など,想定外のリスクが必ず起きる.これらのリスク想定をできるだけ計画段階から盛り込み,回避策を準備しておくことで,損失コストを抑制し、プロジェクトを円滑遂行することに取り組んでいる.本論文では,リスク想定における注意点やクリティカルパスのあぶりだしに注力するといったリスクヘッジ活動について説明する.
大野 彩
SaaSを活用するシステム開発プロジェクトで特に複数の海外ベンダーSaaSを活用する場合,それぞれのベンダーによってプロジェクト標準や進め方が異なり, SaaS仕様書やテスト環境の利用方法など, 取得したい情報のレベルやタイミングが揃わないリスクが高くなる.本論文では多国籍マルチベンダーのSaaSを活用するシステム開発プロジェクトにおける, 適切なプロジェクト計画・管理方法を定義しリスク発生を低減する手法を提案する.この手法では, 各ベンダーへの情報提供依頼の結果としてプロジェクトに必要な情報のばらつきが発生することを考慮し, リスク費用を積むと同時に必要な情報とタイミングをリスト化し情報収集計画を立てる.プロジェクト開始後にはベンダーのSaaS仕様や環境の早期把握を最優先しWorkshopを開催して理解を促進する.またプロジェクトを通してお客様間やプロジェクトの現場などで多層的なコミュニケーションを継続的に実施し, 都度発生する課題やリスクに対してタイムリーに手を打っていくことにより, リスクを極力低減しプロジェクトを成功に導く.
中村 英恵,小林 浩,長田 武徳
CMMI®のプラクティスとSAFe®のナレッジには親和性がありお互いに補うことを確認した(中村,小林,長田2022).CMMIのモデルの一つであるCMMI-SVC(サービスのためのCMMI)にはサービス提供に関するプラクティスが存在するが,これはSAFeの構成の一つであるPortfolio SAFeの遂行能力を向上する可能性がある.本稿では,SAFeを実装しているプロジェクトに対するヒアリングを通じて,CMMIがサービスに関するプロセス改善にどのように寄与するかを示し,その有効性を考察する.
村松 康汰,武田 善行
ニューノーマル時代のマーケティングではデジタルトランスフォーメーションによるデータテクノロジを活用し, 購買行動の変化に迅速に対応する必要がある.特に顧客関係管理では生活様式の変化に柔軟に対応し, 顧客の詳細なニーズを正確に把握する事が必要とされている.顧客関係管理では一般的にRFM分析等の分析手法を用いる事で顧客分類に適したアプローチを行っている.本研究では顧客細分化を行う事でRFM分析の精度向上を図る為, 顧客クラスタ毎の購買傾向についてベイジアンネットワークを用い分析を行う.販売履歴データを対象にRFM分析の購買頻度と購買金額が上位の顧客にクラスタ分析を用い分類を行う.多くの顧客が分類されたクラスタを一般的な用途の顧客とし, 分析を行った.購買頻度と購買金額の高低で購買傾向に違いがある事を明らかにした.
吉田 祥子,伊東 美咲
ソフトウェア開発作業の一般化に伴い市場の競争が激化する中,「精度の高い見積」及び「低コスト・高品質な開発が行えるプロジェクトマネジメント」が重要となっている.しかし筆者が所属する組織では,「過去プロジェクトの実績が収集できておらず見積根拠に乏しい」「プロジェクト管理プロセス及び粒度が統一されていない」といった課題が発生していた.そこで,筆者のプロジェクトにおいて「見積,プロジェクト計画・立上げ,プロジェクト遂行,振返り」のプロジェクトライフサイクルが循環する管理プロセスを策定し,かつプロセスを組織内で標準化することで属人化の排除に取り組んだ.本稿では,策定したプロジェクト管理プロセスの紹介と留意すべき点について共有する.
山廣 佑樹
近年,稼働している情報システムの老朽化等により新システムへと移行する案件において,短納期・低コスト・高品質を求める傾向が加速している.情報システムが大量のデータを保有している場合,新システムへのデータ移行期間が長期化し,人的コストが増加するケースが多くある.このような背景に対して著者がPM として担当した新システムへの移行案件において「データ移行期間の短縮」・「人的コストの削減」・「品質の向上」を狙いとして「Jenkins」を活用したツールでの自動移行環境を構築した.本稿では,狙いに対しての振り返りを整理し,期待通りの効果が出た部分と,プロジェクト計画時に考慮すべき注意点を論ずる.
板倉 宇寿,下田 篤
ソフトウェア開発PBLにおけるデザインレビューは,学習者にとって多くの気づきが得られる重要な活動である.しかし,軽微な指摘に多くの時間を費やしてしまい本質的な議論に時間が割けない問題が生じやすく,有効な観点を提示することが求められる.ただし,PBLにおける観点は,実務者の場合と異なり,品質を高めるための本質的な観点だけでなく,学習者に配慮するなどした異なる視点も加味することが求めらる.そこで,本研究は,PBLにおけるチェックリストとしての要件に遡り,望ましい要件からチェック項目を導き出す方法を提案した.外部設計書を対象とした検討を行い,1)ソフトウェア開発の要件,2)文書作成の要件,3)学習の要件を導き出し,20項目からなるチェックリストを試作した.実際のPBLに適用して有効性を評価した結果,デザインレビューの学習効率を高める効果が見込めることがわかった.
木浪 正治
プロジェクトマネジメントに関し、海外ベンダは、慣習や思想など多くの点で日本とは異なっていることがある。考え方の異なるベンダと作業を進めていくと、品質担保の考え方について意見の対立が生じることがある。海外ベンダと協業する場合には、双方の「当たり前品質」を相互理解し、役割と責任範囲を明確にすることが重要である。本稿では、日豪のベンダが合同でひとつのシステムを構築する際に、留意すべき品質マネジメントの観点とその効果について考察する。
中田 隆幸
プロジェクトには様々なリスクが存在し,それらのリスクを顕在化させないことは,プロジェクト成功の要因の一つである.プロジェクトの特徴の一つである独自性から,リスクはプロジェクト毎に多種多様であるが,同じ技術の使用,同じ業務内容,同じ顧客などの共通性がある場合,類似するリスクが存在する可能性がある.したがって,過去のプロジェクトのリスクから得られる知見は,新たに開始するプロジェクトにとって有用な情報になる.本稿では,プロジェクトに存在するリスクに着目し,過去のプロジェクトに存在した実際のリスクをデータ化して分析を実施した活動を紹介する.
大田 駿介
以前から指紋や指静脈といった生体認証は犯罪捜査や高セキュリティエリアの入場管理などのシーンで使用されていた.近年の顔認証アルゴリズムの認証精度や処理性能の大幅な向上により,顔認証を利用したシステムが広く使われるようになってきている.本稿では,顔認証を利用したシステム構築の経験を元に,顔認証システム構築のプロジェクトマネジメント観点でのポイントを説明する.
宮田 剛,荒木 辰也,石塚 仁子,今井 達朗
近年の開発プロジェクトは、技術やシステムの高度化により、その難易度が高まってきている。また、複数プロジェクトを担当しているプロマネも多い。このようにプロマネの負荷が高くなっている状況下においても、プロジェクトを成功させている一定数のプロマネが存在する。数多くのプロジェクトのPMOを経験してきた私たちは、こういった状況下では、プロジェクト単体に留まらない横断的な振り返りの実施が、複数プロジェクト間での設計思想や技術、成功事例及び失敗事例からのノウハウを継承し、プロジェクトの成功をより確実にすると考えている。これを実現する施策として、私たちが行ってきた第三者視点を加えたプロジェクト振り返りを考察する。
鳥山 美佐,川崎 誓子,岡 文男,中島 雄作
当社は設立から約20年を経過したが,基盤プラットフォームの開発・保守を手掛ける事業を核として急成長してきた.売上,利益に重きを置いてきたが,従業員数が1,000名に近づき,超えようとしている規模まで成長し,CSR (Corporate Social Responsibility)活動や,ESG経営により一層力を注いでいく経営方針となった.さらに,働きやすさとやりがいから始めるウェルビーイング経営を推進し,日本で一番,従業員とその家族が心身ともに健康かつ社会的にも満たされた幸福な状態となることを目指している.しかし,それらのベースとなる内部統制の仕組みが確立しておらず,社内コンプライアンスに対する浸透度が低い状態であった.そこで,筆者らは内部統制組織の立ち上げ,コンセプト作りをし,様々な法令順守の啓蒙活動を展開していった.本稿では,社内コンプライアンスに対する取り組みの一事例について述べる.
七田 和典
近年,ビジネスに IT が不可欠なものとなり,企業は多種多様なシステムをビジネスに活用しており,DX化の動きも加速している.新規性・難易度の高い要件の実現や新技術・新製品への対応が求められるシステム開発プロジェクトが多く発生しているが,特に大手金融機関では大規模なシステム開発案件においてはウォーターフォール開発を採用されるケースが多く,プロジェクトの下流工程で新規性に起因する問題が顕在化し,プロジェクトの進捗に影響を与えるリスクが高い状況となっている.本稿では大手金融機関のプロジェクトの事例を交え,不確実性が高く複雑化したウォーターフォール開発へアジャイルメソドロジーを導入し,プロジェクトを成功に導いたハイブリッド型プロジェクトマネジメント手法を提案する.
内山 雄人,武田 善行
近年, ICTの発達により観測される購買履歴データは増大しており, こうしたデータを用いた科学的, 工学的な研究が広く行われている.その手法として, 購買履歴データを用いたマイクロマーケティングの一種である, CRMに関する研究が盛んに行われている.CRMにおいて最も重要視される施策は優良顧客の識別と維持であり, 顧客を知り, 理解することが非常に重要視されると指摘されている.本研究ではCRMに着目し, CRMでよく行われているデータマイニングを行い, 優良顧客を対象とした印刷素材における購買傾向に違いについて分析を行った.印刷機器販売代理店の購買履歴データを用いて製品種別にRFM分析を行い, 優良顧客の特定を行った.得られた結果を基に, 優良顧客の購買製品に対してABC分析を行い, 主要製品である印刷素材の購買傾向についてベイジアンネットワークを用いて分析を行った.結果として, 優良顧客における印刷素材の購買傾向の違いについて明らかとなった.
西山 美恵子,宇山 篤志,杉山 恭太,山内 貴弘
スクラム型のアジャイル開発において,プロダクトオーナーの役割はスクラムチームから生み出されるプロダクトを最大化することである.そのためにはプロダクトオーナー自身がビジネスサイドとシステムサイドの両方に精通している必要がある.一方で大規模な組織では職掌範囲が明確に分かれ,ビジネスサイドとシステムサイドが分離しているケースがほんどである.こうした背景からプロダクトオーナーは少なからず, 現状の組織にはないスキルを獲得する必要に直面する.今回取り上げる事例は,プロダクトオーナーがどのようにスキルを獲得するかを確認するとともに,周囲のメンバーはプロダクトオーナーに対してどのようにアプローチをしたのかを分析することで,プロダクトオーナーのスキル獲得の過程を事例から考察するものである.分析フレームワークには,プロダクトオーナーのスキル獲得を分析するものとして正統的周辺参加論を用いた.
ダン フー タック
COVID-19と共に生きることを決意し、お祭りやイベントなどは再び開催されることが許可された。筆者は大学や地域でたくさんの活動計画に参加している。計画を実施する過程で、うまくいったこともあれば、うまくいかなかったこともあり、今後の計画で改善するべきところがある。そのため、反省会が必要である。しかし、反省会でメンバーがお互いに批判をし、関係不和になるケースが散見される。反省会を効率的かつ効果的に進めるために、筆者はK P T(Keep-Problem-Try)という方法と誰でも入力できる Google Docsを組み合わせて実行した。本稿では、チームリーダーとしての筆者の経験とその成果を分析していく。また、その結果を基にチーム活動をより良くするためのリーダーのあり方について考察をしていく。
村上 ひとみ
お客様より今後開発規模拡大が見込まれるが,これまで以上に品質が良くなるようアイディアを出して対応してほしいと依頼された.そこでリスクを回避するために,品質に問題ない体制を構築することが必須となり,専任チームを立ち上げて品質向上活動を実施することとなった.主にはプロジェクトで作成する納品成果物に対して品質向上活動を実施した.活動の結果,過去の制度改正対応時と比べてお客様レビューの指摘数が減少し,サービスイン後の本番障害の数も減少傾向となった.このことでお客様の信頼を獲得し,お客様の課題解消にも貢献できた.その後専任チームは解散したが,仕組みづくりは定着させたため,現在も品質向上活動は継続実施できている.本稿では筆者が実際に実施した品質の作りこみ方,品質向上の工夫についての経験事例を説明する.
松原 花,武山 詩園
大学の講義でプロジェクトマネジメントについて学び、WBSやリスクマネジメントなどの知見や気づきが得られた。これらのスキルを身近な事例で活用したいと思い、筋トレにプロジェクトマネジメントを適用してみた。「夏までに足を出せるようにする」をゴールに、計画を立て実行。プロジェクトの結果や自分自身の傾向、効果的な工夫・改善点について掘り下げ、まとめた。また、日常生活でのプロジェクトマネジメントの活用方法について考察した。
蘇 振博,下田 篤
プロジェクトを成功させるためには,様々な人間関係の対立(コンフリクト)において,適切な配慮の下でコミュニケーションすることが求められる.本稿では,こうした対立と配慮の関係を,対人配慮のモデルとして知られるポライトネス理論で説明できることを提案した.職業経験のある461人から回収したアンケート結果から,目的変数である意見のし難さの度合いを5つの変数(行為,力関係,社会的距離,性別,年齢)で説明する回帰木分析を行った.その結果,コンフリクトの状況においても目上には意見し難い傾向があること,同僚や目下であっても感情についての意見は控える傾向があることなど,納得できる結果が得られ,提案の妥当性が確認できた.
宇田川 耕一
7月27日のNHKニュースで、「文化芸術分野の労働環境を改善するため、文化庁の有識者会議は口頭で契約するなどの慣習を見直し、条件が明記された書面を作成することなどを盛り込んだガイドラインをまとめ、27日に公表」したことが報道された。文化庁によれば、「俳優や音楽家、舞台スタッフなど文化芸術の分野では慣習として口頭での契約が多い」という。では、アートプロジェクトの現場では、本当に「口頭での契約が多い」のか。さらには「(アーティスト側が)不利益を被ったり、トラブルに発展したりする」可能性はあり得るのか。ガイドラインでは、「契約内容を明確にした書面の作成を推進する」としたうえで、具体的な契約書のひな型やその解説も示されている。筆者が過去に実際に手掛けたアートプロジェクトの実例をもとに、その実体との乖離の有無、ひな型の有用性について検証する。
日下部 茂
制約理論を応用したクリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント (CCPM) の適用にあたってはプロジェクトの特性や問題点を分析する必要がある.本稿ではそのような分析に機能共鳴分析法FRAMを用いたモデリングを用いることについて検討する.FRAMでは機能やアクティビティに着目したモデリングを行うが,その際,先行する機能やアクティビティの出力を,後続する他者の入力,事前条件,時間,資源,制御といった側面と関連付ける.このような関連付けにより,プロジェクト進行における過度な相互作用やエスカレーションといった共鳴を分析できると考え,FRAMのモデリングによるCCPM適用時の分析について論じる.
渡邉 優作,寺本 遼平,篠崎 悦郎,島村 純平,白井 憲一
変化の激しいVUCAな時代にあって、金融業界でも顧客ニーズの変化に合わせたサービスの創出が求められている.しかし、従来型のプロジェクトマネジメントや組織では変化に合わせてアジリティ高くサービス創出することが難しい.金融業界に求められる高い品質を確保しつつ、ニーズに合わせて迅速かつ柔軟にサービスを多数創出するための組織運営、また、製販一体の多様性のある組織化を、著者らは大規模アジャイルフレームワークを元に実現してきた.本稿では、その活動内容と結果について述べる.
後藤 直也,高橋 悠香,高橋 貞明,武澤 慎文,古瀬 健治,中村 仁
東日本大震災から11年が経過したが,震災発生当時の教訓や知見を,今後の様々な災害に向けて,どのような形で活用できるかが,大きな社会課題となっている.そこで筆者らは,東日本大震災発生時のさまざまなデータを分析・整理し,災害の教訓としてオープンデータ化を目指す取り組みに参画した.分析対象となる震災データには,避難者推移や支援物資の配備状況といった情報の他にも関係各所のヒアリングデータなど,取り扱い難度の高い非構造化データも多く含まれていた.本論文では,それらの非構造化データに対し,AI等のDX技術活用よる可視化を通じ,震災ナレッジ共有を進めた取り組みについて報告する.
中原 あい,関 哲朗
中原らによる先行研究では,プロジェクト・メンバのモチベーションの維持/向上対策を提案する中で,Kotlerらの顧客志向の議論や新たに相互ロイヤルティの概念を導入している.従来のステークホルダの議論において,ステークホルダ・マップの中心にはプロジェクマネジメント・チーム,または,プロジェクト・チームが置かれてきた.メンバの視点からは,マップの内側に位置するほどステークホルダとして利己的な存在であり,外側に位置するほど利他的な存在であることが示されていることになる.このような整理によれば,提案のモデルが強い利他的行動にもとづくものであることが理解できる.本研究では,顧客志向や先行研究の背景には利他的行動の原理が働いていることを理論的に議論することで,メンバのモチベーションの維持/向上には利他的活動が有効であることを確認し,先行研究の理論的側面を補強する.
遠藤 洋之
筆者は,日系国際ITサービス企業の異価値体系圏間オフショア委託,及び現地顧客向けサービス提供の為の,プロジェクト管理(PM)知識の国際移転事例研究を行っている.当研究の調査対象は,日系国際ITサービス企業J社のAPAC地域現地拠点宛PM知識移転活動である.先行研究における企業コミュニティ内知識移転プロセスは, 知識の送り手である本社から受け手である海外拠点へのプロジェクト的移転を前提としており, 知識移転段階(Stage)モデルによってそのプロセスを表現している.本稿では,在APAC地域の個別拠点を知識の受け手とする有期の知識移転活動を1プロジェクトと見做し, 複数APAC拠点宛の長期に渡るPM知識移転活動をプログラム(プロジェクトの上位概念)と定義する.そしてプログラム・プロジェクト・マネジメント(P2M)の観点から, 知識移転プログラム活動を分析し, 知識移転プロセスの相(Phase)モデル表現を提案する.
木野 泰伸
プロジェクトマネジメントに関する知識については,既に,多くのガイドや書籍が発売されており,広く流通している.しかし,それらのガイドや書籍を読み,知識を身に着けたのみで,優秀な熟練したプロジェクトマネジャーになれるわけではない.熟練したプロジェクトマネジャーは,既に文章や図として形式化された知識だけでなく,自身の経験を通じて獲得した暗黙知を多く持っている.幸い,プロジェクトマネジメント学会には,個人として多くの熟練したプロジェクトマネジャーが参画している.本研究では,そのような熟練したプロジェクトマネジャーにインタビューを実施し,文章化を行い,質的研究法やテキストマイニングの手法を用いて,本人も意識していなかったような暗黙知の抽出を試みる.本発表では,その研究計画について述べる.
中本 傑,宮島 雄一,岡村 龍也,鈴森 康弘
一般的にエンタープライズ向けのシステム開発においては,予め固定されたローンチタイミングが必達の条件であり, サービスインに向けてスコープをコントロールしながらプロジェクトをドライブすることが非常に重要である.さらに,DX(Digital Transformation)時代のビジネス状況は,デジタル技術の進歩を背景としたVUCA(Volatility:変動性,Uncertainty:不可実性,Complexity:複雑性,Ambiguity:曖昧性)ともいわれる予測が困難な状態となっている.企業は,VUCA時代に対してスピード感を持って柔軟に対応することが求められており,そのための開発手法として「アジャイル開発」が広く採用されてきている.本稿では,エンタープライズ向けアジャイル開発において,実際の案件で試したスコープマネジメント手法に関する知見と,そこから見えてきた改善点及び対応策に関して言及する.
川瀬 美都,生駒 有香莉,玉手 杏,堀越 風未
札幌学院大学では、学生が学生のために活動している、コラボレーションセンターという団体がある。COVID-19による自粛が明け、その活動内容にプロジェクトを企画する機会が増加した。一方、プロジェクトマネジメント講義で学習した筆者は、コラボレーションセンターで企画するプロジェクトに、学んだ知識を活用できると考えた。そこで、2022年に企画した「七夕企画」において、 プロジェクトマネジメントの知識を活かして企画から計画・実行を行った。本稿では、「七夕企画」における プロジェクトマネジメント実例の紹介とその効果を紹介するとともに、今後のプロジェクトへの改善点を考察する。