吉田 憲正
福島廃炉プロジェクトは,プロジェクト期間30年以上と世代を超え,想定費用約8兆円の超大規模の長期・国家プロジェクトである.しかし,我々に身近な企業プロジェクトと同様の問題を抱えている.プロジェクトマネジメント(PM)においてはそのマネジメントを大きく規定するのはスコープであるが,福島廃炉プロジェクトのスコープには疑問が多く,またPM体制にも問題がある.更に我々自身も関係しているステークホルダー問題も存在する.本論文では,福島第一原発の現状を概覧し,その廃炉プロジェクトのPMの問題点を考察する.
長谷川 慶武
近年、ソフトウェア/システム開発の現場では様々なPJ管理用のダッシュボードやタスク管理ツールが提供され利用されている。また、昨今の新型コロナウイルスのまん延も影響し、開発の管理に関する情報だけでなく、PJを遂行する上で必要なコミュニケーションもオンライン上で行われるようになってきている。PJ管理用のダッシュボード、タスク管理ツールコミュニケーションツールの連携が疎結合であることで、オフラインにおける従来のプロジェクト運営と比較すると情報の伝達の円滑さや正確さが劣ってしまうのが課題である。そこで、ツール間連携設定と推奨利用方法を合わせて導入することで、上記課題を解消する手法を紹介する。本事例では、アジャイル開発におけるデファクトなプロジェクト管理ツールと、弊社標準のコミュニケーションツールの連携方法の確立とその運用に対する自動化の設定を行った。これによってメンバーの応答性の向上と、オンライン上での議論の経緯と結論に対するキャッチアップ時間/誤認識の減少などの効果が得られた。また、得られた結果から、開発・管理デジタル化とチームとしてのウェルビーイング・品質保証の両立を実現するデジタルワークプレイスを構築していくにあたっての展望を述べる。
秋本 孝行
部門内のリスクマネジメントの取組として遂行中のPJに対するガバメントを強化することが中心になるが、平行して人材育成を行っていかなければいけない。当部門も過去に赤字PJが多く発生し組織的マネジメントの強化し赤字PJの抑制を行っていたが、原因の多くはリスクの見落としや初動の遅れといったリスクマネジメントスキル不足にあり、PM/PL人材のスキルアップを行わなければ、繰り返し発生してしまうことになる。リスクマネジメントは、PJが置かれている状況や環境により方法が変わるため、単に知識としての教育を実施しても、知識通りの行動をとり、正しい対応ができなくなる可能性もある。リスク観点についても経験で蓄積できる要素が強く、経験の浅いメンバについては自分事にならず、理解度も浅くなってしまう。経験を補うためには色々なPJ体験を行っていく必要があるが、育成のために色々な経験を行うのは期間的にも難しい。この経験を補うために、研修として疑似体験を行うこがよいが、社内に疑似体験を行うような研修がなかったために部門で研修と企画し実施することになった。疑似体験を行う研修の手法としてケースメソッドに着目しPJ事例でリスク/問題に対する対策を検討する構成とし、PM力アップできるようにした。当部門としてPM力アップの施策としてケースメソッドに着目し教育を提供することとし2018年度4Qより開始した。教育提供を行うにあたって注意したことや、昨今の新型コロナ感染拡大に伴い影響した実施形態の工夫について紹介させて頂き、今後PM力アップの取組を検討される方々の参考になれば幸いです。
貝増 匡俊
開発途上国では、インフラ整備を進めるために円借款に代表される2国間援助の政府貸付やアジア開発銀行に代表される国際開発金融機関による貸付による国際開発プロジェクトが実施されてきた。国際開発プロジェクトは通常と異なり、当初の予定から大幅に遅延するにも関わらず、コストは当初の予算内に収まるケースが多い。遅延する要因は途上国政府内で承認手続きの遅れなどで多く、遅延リスクは常に高い。そこで、アジア開発銀行では、マルチトランシェファイナンシングファシリティを導入し、プロジェクトが遅延せず、プロジェクトが適切に実行されているようにしている。マルチトランシェファイナンシングファシリティでは貸付実行するディスバースは従来のものより小さいことがある。一方で、従来のプロジェクトは、プロジェクトリスクが高い方にも関わらず、コストも高いプロジェクトが形成されている。本稿では、国際開発プロジェクトにおけるプロジェクトリスクとの関係性について検証していく。
一柳 英史
プロジェクトマネジメントにおけるリスク管理は,多くのPMに重要視されながらも実行ベースでは形骸化し計画通りに取り組めていないのが実態である.しかし昨今は,クラウドへの移行やアジャイルの活用による技術革新や事業変革スピードの向上もあり,「大規模プロジェクト」や「他社リプレース」「短納期スケジュール」など難易度の高いプロジェクトも通常となりつつあるが,仮にリスクへの対応が万全ではない場合にはリスクの影響を回避できず,事業や業績への影響はもとより,ステークホルダーより寄せられているプロジェクトの成功への期待を裏切る事態となってしまう.本稿では,前述の問題を解消もしくは緩和するために,プロジェクトにおけるリスク管理の阻害要因とその対策のための施策について考察し,具体的なプロジェクトを用いてその効果を述べる.
射場 千尋
昨今,技術動向や市場の変化が激しく,開発においても変化への素早い対応が求められており,それらのニーズに応える手法としてアジャイル開発への注目が高まっている.その一方で,開発実績が多くこれまでの知見やノウハウが豊富なウォーターフォール開発の品質管理手法をそのまま流用することは困難であると考えられる.当社内ではアジャイル開発においてWGを立ち上げ,品質確保するために実施すべきプロセスやツールなどについてこれまでガイドとして整理してきているものの,過去実績が十分になく明確な品質指標がない新規案件などに対してはどのように品質確認していくかについて課題があった.そのため,本案件ではsprintごとの不具合状況推移に着目することで,明確な品質指標がない中でも品質判断することができないか試行検討することとした.また,今回は研究開発案件でプロトタイプを対象として試行適用していることから,管理負荷を抑える試みとしてタスク管理を品質管理としても流用する工夫を行っている.本論文ではこれらの新しい手法を適用した成果と改善点について言及する.
寺西 秀和
コロナ禍により変化した病院情報システム構築プロジェクトのプロジェクトマネージメント在り方について、発生期および過渡期における施策を振り返り、Withコロナを考慮した今後の対応について考察した。
三好 きよみ,近藤 秀和
本稿は,仕事や職業生活に関してストレスを感じたときの感情として,不満に焦点を当て,技術者の特徴を明らかにすることが目的である.日本における職場の不満に関するデータを対象として,テキストマイニングによる分析を行い,会社員の職種によって比較した。その結果,技術者の特徴として,仕事や職場において不満を感じる対象は,特定の場所や機関,収入や利害といった,職場の環境や利害関係であることが示された.
今村 勝久
プロジェクトが失敗(利益が出ない赤字になる)するひとつの要因としては,顧客との交渉が失敗したことに起因するものがある.その交渉には事前準備が必要不可欠であり,相手の状況,自分の状況を把握すること,また交渉に臨むにあたり自分たちの強みをたくさん用意すること,また合意できなかった場合の代替案(BATNA)を用意しておくことも必要である.これらの準備を経て,顧客と交渉し逆提案をすることで受注することが出来た事例を紹介する.
辻川 直輝,大鶴 英佑
プロジェクトマネージャ(PM)には,変化の著しい市場への適応,リスクへの柔軟な対応,新規プロジェクトでも大きな失敗をしないことが求められる.失敗プロジェクトの反省をみると,課題・問題は意識していたが影響を見誤った,兆候はあったがリスクを認識することが出来ず原価が悪化した等が挙げられている.早く気づくことが出来れば適切な対応も期待できるため,気づくことに優れたPMを育成することが必要である.そこで,幹部・同世代との交流を図り,第一人称で考え,気づく機会を創出し,知識や対応の引き出しを増やすことを目指してPM交流会を推進している.FY2016からPM交流会は,幹部講話,意見交換会,ディスカッションの3つを軸として集合形式で行ってきた.COVID-19など昨今の状況を考慮してFY2021からはディスカッションを中心にオンラインミーティングも採用している.評価はアンケートによる5段階評価,並びに自由な意見から抽出した関連ワードの出現傾向から行っており,ディスカッションを高揚させる導入,手書き・付箋紙の活用,PMへの期待の見える化が大切である.本稿は,どのような取り組みが意図した研修を実施するために効果があるか評価・考察した報告である.
大久保 修
大規模なITプロジェクトにおいて,「2025年の崖」に指摘されるようにエンジニア不足が深刻化している中,顧客側のプロジェクト体制においてもリソース不足によるプロジェクト遅延,本番稼働延期となるケースが多発している.その背景として,長年利用されていた現行システムがブラックボックス化し,現行仕様を理解している人材が不足している企業が合併を繰り返したことで業務プロセスを整理することができない,過去に大規模なITプロジェクトの経験やノウハウが無いなどが挙げられる.今後ますますリソース不足が加速する中,ベンダーとしてどのような手を打つことが有効なのか考察する.
田村 慶信,山田 茂
オープンソースソフトウェアは,様々な分野において利活用されている.特に,オープンソースソフトウェアは,バグトラッキングシステムのような障害管理のためのデータベース上で,フォールトの管理が行われている.こうしたバグトラッキングシステムにはソフトウェアフォールトに関する非常に多くのデータが蓄積されている.こうしたデータを信頼性評価のために活用できれば,なんらかの新しい知見を得ることが可能である.深層学習に基づくアプローチは,フォールトビッグデータ活用のために最適である.本研究では,深層学習における再学習のためのアプローチである,転移学習,ファインチューニング,および蒸留の3種類に着目し,実際のOSSのバグトラッキングシステム上のデータを利用した適合性評価について議論する.
晦日 慶太,佐藤 裕介
一般にパッケージソフトを導入するにあたり、パラメータ変更 やアドオンの 開発といった導入企業ごとにカスタマイズが発生する。特に改修しながら長期間運用するとカスタマイズの範囲が広がり、 リグレッションテスト工数が増加する 。また、パッケージソフト固有のカスタマイズに熟知した熟練者のメンバと初心者のメンバを比較した場合、テスト品質と工数に大きな差がでる傾向がある。熟練度によらず容易にテストを実行できることができればテスト工数低減と品質向上が可能になると考えテスト工程の自動化に着手した。 本報告ではパッケージソフトウェアの導入におけるテスト工程の自動化の教訓について述べる。
高島 安志
昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)の流れを背景にAI,IoT,BI等のデジタル技術を用いた既存業務の効率化,あるいは新規住民サービス創出に伴うシステム化案件が自治体で増加している.しかしながら自身の経験上,DX案件においてはシステム要件の背景にある顧客側の業務目標が明確に定まっていない,もしくは顧客組織内で十分共有されていない場合がある.そうした中で開発を進めた場合,開発フェーズで本来の目標とは関連しない変更要望が発生し,最終的に完成したシステムが十分に業務目標に寄与しないことがある.プロジェクトマネジメントをどのように行えば,より価値のあるシステムを提供することができるか,本稿では実際のプロジェクトの事例をもとに効果的な手法を考察する.
山田 康貴
多様な技術を適用した大規模なシステムの開発プロジェクトの実施に際しては,領域単位や要件単位で複数の開発チームを組み,同時に開発を実施することが多い.また,開発手法も従来のウォーターフォール型手法に加えて、ウォーターフォールとアジャイルを組み合わせたハイブリッド型手法を用いることもある.このように,複数の開発チームが,多様な開発手法を用いて,同時並行で開発を実施する場合,チーム間での成果物や資源等の管理が煩雑になりやすく,プロジェクトトラブルを誘発するリスクが高くなる.本論文では,大規模システム開発における品質マネジメントの事例を提示し,プロジェクトマネジメントにおいて,品質を確保するための重要な要素について考察を行う
広川 敬祐,大場 みち子
近年、ERP(基幹業務システム)の導入は、「Fit to Standard(標準に業務を合わせる)」で行うべき、との考えが主流になっていますが、そうなっていないプロジェクト事例が散見され、相変わらず、追加開発(アドオン)を行おうとしている企業が散見される。 ERP導入において追加開発が起こる原因は、実現したい要件に対してERPが提供する機能が不足していることによって起こるとされているが、筆頭筆者は追加開発の原因はそれだけでないと考え、ERP導入でも開発してしまう兆候15か条を開発して提唱し、 ERPを開発しないで導入するセミナーを開催した。 本研究では、ERPを開発しないで導入するセミナー参加者からのアンケート回答を考察し、ERPを開発しないで導入するための方法を提案するものである。
根岸 永
プロジェクトの成功/失敗を左右する課題として「ステークホルダー間のコミュニケーションと合意形成」は重要であり,PMBOK5(注1)では「ステークホルダーマネジメント」が新領域として追加された.当該課題への施策として今回,自身がPMを務めるプロジェクトにおいて,部下を同プロジェクトの顧客側(システム部門)へ出向者として差出を行った.これにより,関連各所のコミュニケーションを円滑化し,エンゲージメントの向上および,監視の継続を行うことができた.本論文では,出向者の活用によるプロジェクトへの影響について,自身の過去の実績・経験を交えながら考察を行う.
角 正樹
NTTデータユニバーシティでは新入社員から中堅,中上級PM各層を対象とした品質管理研修各種を提供しているが,それらの多くは品質管理の「作法」を指導する内容となっている.新入社員や若年層を対象とした研修については,レビュー密度,エラー摘出密度,試験密度,バグ検出密度,バグ収束度等々の定量指標を用いた品質管理資料作成方法や品質評価方法等,作法中心の傾向が特に強い.作法中心の研修は,研修受講者が試験要員として実務に従事するための近道ではあるが,システム開発の対象や開発手法が多様化した昨今においては,研修で紹介している定量指標が馴染まないケースも少なくない.筆者は1996年から現在に至るまで,自らが手がけたプロジェクトの実例を題材とした研修を企画・制作し,講師を務めてきた.研修開始当初は作法中心の内容であり,定量指標を用いた実例を紹介していた.しかし,種々の開発形態,開発手法を用いる受講者が増えるにつれて,小職が手がけた実例が馴染まなくなってきた.そこで,実例の作法を説くのではなく,それらの作法を採用するに至った背景や思考の指導に比重を移し,現在に至っている.本稿では,若年層から中上級PM各層を対象とした「思考系品質保証研修」の教材制作の工夫について紹介する.
山田 千晶,木野 泰伸
グローバルプロジェクトチーム(GPT)では、チームメンバー間で共通の目標を中心に対話することにより、メンバー間で暗黙的または明示的な知識の共有が発生する。GPTのメンバーは基本的にリモートでやりとりするものの、チームワークにより認知の共有が進み、チーム内の認知が収束する(cognitive convergence)こともある。これはチームのパフォーマンスの向上と効果的なコミュニケーションに不可欠だが、GPTでそれが常に達成できるとは限らない。 GPT環境におけるチームワーク全般、また対面環境におけるチーム認知やメンタルモデルの先行事例も存在する。しかし、両者を組み合わせた事例はほとんど存在しない。本発表では、チームメンバー間の認知メカニズムの違いがGPTのパフォーマンスにどのように影響するかに関連する6つの概念に触れ、上記の研究を行うための文献をレビューし、パフォーマンスを向上させるための方策について論じる。
生山 陽
セキュリティ現行踏襲案件では,プロジェクト初期時点のスコープ合意形成が難しい/日々運用の中で流動的に設定が変化する非機能要件がある/ユーザー業務が見えにくく想定外の業務に影響を与えることがある.といった問題が発生する.こうした問題を解決する,あるいは軽減するためには,上流工程でのスコープ定義の明確化/日々変更が発生する非機能のフィードバック計画を行うとともに、ユーザー業務継続に着目した監視の追加が効果的である.
遠藤 貴芳
現在のITインフラは,従来のPC,サーバ,ネットワークといった機器を購入,所有する形に加えて,クラウドと言われるITインフラをサービスとして利用する形態も増えており,より多様化し複雑化している.そのため,多くの企業ではITインフラの運用管理を自社のみで行うことは難しく,外部委託していることが一般的である.システム運用の現場では,お客様システムの運用に関する情報の共有が円滑に行われず,運用開始後に様々なトラブルが発生し運用品質が上がらないことが散見される.本論文では,運用に関する情報の共有を円滑に行うためのシステム運用実績適用プロセスの追加と運用必要作業リストの整備により運用品質を向上させる施策について論じる.
加藤 正義,秋山 友子,久我 聡子,久保田 真木
デジタル時代における競争力強化を図るため,多くの企業でDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進が行われている.特に多くの日本企業は,組織の縦割りや心理的安全性の欠如がイノベーションを阻害していると言われており,カルチャー変革は大きな課題となっている.我々は,横断的なコミュニケーションやコラボレーションを活性化させることで,企業のカルチャー変革を促進できると考えた.そこで,オンラインツールと,ワークショップの手法を組み合わせて,企業内にオープンなコラボレーション文化をつくるための「学習と実践のオンラインコミュニティ」づくりに挑戦した.その結果,このようなコミュニティづくりには,多様な組織・多様な立場の社員を数多く集める「広げる活動」と,社員同士の関係をつくり,その関係を深める「深める活動」を同時に行うことが有効であることが分かった.
宮島 賢悟
ビジネス環境が激しく変化している昨今,プロジェクトマネジメント力の向上は各組織において,より重要な要素となっている.実際のプロジェクトでの経験を通して,ものの見方や考え方,行動を振り返り,そこから次の改善につなげていくことは,プロジェクトマネジメント力向上の有効な方法の一つである.当社は2018年に旧(株)日立公共システムと旧日立INSソフトウェア(株)の合併により発足した.合併後はプロジェクトマネジメント部門であるプロジェクト管理部が中心となってプロジェクトに関する規則,規格などを統一してきた.プロジェクトの振り返りについても,全社プロジェクト完了報告会(以下、全社PJ完了報告会)として,プロジェクトの悪化防止活動や,プロジェクトマネジメント力の向上施策の強化・改善を図ってきた.全社PJ完了報告会では,プロジェクトの振り返り結果を幹部,社員,スタッフ部門と共有し,プロジェクトマネージャーおよび担当事業部門とは異なる視点で議論することで課題を明確にして,他プロジェクトで再発をしないよう全社へ横展開を推進してきた.しかし,従来の全社PJ完了報告会の方法によるプロジェクトマネージャーやその上長とプロジェクト管理部のみによる問題点や悪化要因に関する議論では,再発防止策の強化につながるような建設的な議論が行えない場合がでてきた.そこで参画するメンバーの変更や全社PJ完了報告会の目的を変更し,報告会前の振り返り方法の強化・改善を図った.これにより課題の深掘りが可能となり,監視プロセスの改善や規格の変更などを行うことで,真の再発防止策を全社展開することができた.
米澤 直之
近年,情報システムは,システムのオープン化やインターネットの普及,クラウドの利用拡大等の技術革新に伴い,連携するシステムの数は増加している.そのため,情報システムのプロジェクトマネージャーは,ステークホルダーとして自分のプロジェクトの顧客やプロジェクトメンバーを管理することは当然のことながら,国から展開される情報を把握し,適宜,システム連携先と仕様の確認や,課題の共有を行うことが重要である.本稿では,国からの標準仕様に沿って開発している連携先の類似システムに係るステークホルダーに着目し,適用した具体的なステークホルダーマネジメント施策とその効果について報告する.
今谷 恵理,宗守 浩昭,正木 裕一,磯部 聡,佐藤 直人
2010 年代から始まった第3次AIブームの発展として,現在はビジネスへ機械学習(AI)の活用も盛んになりつつある.機械学習の中でも教師あり学習と呼ばれる分野の機構が特に頻繁にビジネスに用いられ,その名に表れているとおりこのAIは教師データから振る舞いを習得(学習)するものであるため, 内部仕様はブラックボックス化しやすいという特徴がある.また一方で,AI全般にいえる特徴として,AIの振る舞いには間違いが混ざることが許容されるという特徴もある.AIではない通常のITシステムの品質はテストにより確保されるものだが,AIにおいては上記2つの特性から仕様に基づくテストケースを作りにくく,テストケースを作ってテストしたとしても見つかった結果不正がAIの再学習により解消する必要があるかどうかの判断がしにくい.このような理由から,AIを搭載したシステムの品質確保方法はまだ一般的に確立されていないが,日立製作所では顧客に適正な品質のAI搭載システムを提供するための3段階の品質確保スキームを設け,また汎用性のあるテスト方法であるリスクベーステストを適用している.リスクベーステストを導入することでテストケースを作れ,対策(AIの再学習)の要否も判断しやすくなる.これら,品質確保の概要とリスクベーステストについて本稿にて報告する.
五十嵐 達也
近年,加速の一途にあるビジネス環境の変化に対応し,企業の経営改革を進めていくには,最新のデジタル技術とデータを活用した経営のデジタル化,デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組まなければならない.また,経営層だけではなく,さまざまな業務部門において業務環境のオンライン化,業務プロセスのデジタル化など,デジタル活用が必須となっている.一方で,老朽化したITシステムが複雑化,ブラックボックス化し,レガシーシステムとなりDX推進の足かせとなっている.このレガシーシステムをいかにデジタル経営に対応すべくモダナイゼーションしていくかが,今後の経営デジタル化において重要な項目となっている。本稿では,筆者が担当したレガシーシステムのリビルドをモダナイゼーションプロジェクトのモデルケースとして,計画段階での考慮点と遂行上の課題について考察する.
吉枝 努
SIプロセス改革を実施した。その効果の観察報告である。ここで言うSIプロセスとは、受注SIにおける提案・受注から本番・運用までのSLCPを指す。対象となる組織は、設立の経緯および担当する事業領域の特性よりSLCPに多くの課題を抱えている。その組織の外部から第三者が、その課題解決を図るべくSIプロセス改革と銘打って施策を実施した。課題の原因が、やり方にあるものは大きな改善が見られた。原因が意識にあるものは、それぞれの意識変化レベルおよび人によって効果が異なるものとなった。原因がスキルにあるものは、わずかな改善に留まった。その後は、その組織が自立して自己組織の改善を推進しており、意識面およびスキル向上を通して継続的に改善されていくものと考えられる。
谷 寿人,青木 直子
大規模なエンタープライズシステム開発において,提案依頼書(RFP)に記載される要求の品質は,プロジェクトの見積に大きな影響を与える.要求のスコープ逸脱や抜け漏れを防ぐために,RFPに対する要求インスペクションを実施している.RFP受領後の見積回答までの時間の制約から,見積にインスペクション結果を反映するためには,インスペクションの所要期間の短縮が求められている.そのため,従前のRFPインスペクションとの併用を前提として開発した速報用RFPインスペクションをインスペクションプロセスに適用し,その有効性を評価した.
富岡 重光
情報システムの案件の移管には,通常,システム稼働後の業務集約のため運用の移管やオフショアの開発等あるが,システム構築案件自体の移管も頻度は少ないものの発生する.前述のような移管と異なり,案件の移管においては,それまで対応してきた部署と引き受け部署との連携や引継ぎ,引き受け側の準備が発生するため,これらをできるだけ短い期間で滞りなく実施する必要がある.この案件移管,情報システムのインフラ基盤更改の案件の移管を立て続けて対応することとなった.これらの移管対応の中で実践した内容を纏め報告する.実際に対応した短納期のインフラ構築案件について,通常案件と移管案件との違いを比較しながら,移管後の迅速なプロジェクトの立上げおよび遂行のために,プロジェクトマネジメントのPMのタスクであるチームビルディング,ステイクホルダーマネジメント,環境整備,移管引継ぎにおける課題と対応策を挙げ,実施した案件移管の評価と考察を行う.
三好 きよみ,細田 貴明
本研究は,仕事上のコンフリクトについて,コンフリクトの内容,対象,対処などについて実態を調査し,効果的なコンフリクトマネジメントについて知見を得ることが目的である.チームや組織で仕事をした経験がある会社員を対象としてアンケート調査を行い,仕事上のコンフリクト経験について分析を行った.本稿では,コンフリクトへの対処方略を「統合」,「妥協」,「回避」,「主張」,「服従」に分類し,対処,および対処への納得感について分析した.さらに,転職経験について4群に分けて,転職経験とコンフリクトへの対処との関連について検討した.
船越 岳人
今日の我々の社会は, コンピュータや情報ネットワークなどを構成要素とする情報システム基盤に大きく依存しており,システム障害発生への安全性要求が高くなる一方である.しかし,信頼性設計をしているにもかかわらず何かしらの異常で製品での異常検知や切替に失敗し, 業務継続が阻害されることや復旧までの時間が長期化するようなシステム障害が後を絶たず, その対策が急務である.こうした未然に防止することが難しい不具合を起因とする障害への施策として,レジリエンスエンジニアリングの安全方法論を導入し, 業務停止発生時に対する運用を含めた回復力を確認する点検手法(レジリエンス点検)を新たに策定した。このレジリエンス点検をプロジェクトにて適用した結果として,障害時における対処判断の迅速化と復旧手番の短縮に貢献できると評価する.本稿ではシステム基盤を中心とするレジリエンスの考え方と,レジリエンス点検活動を実施した結果について紹介する.
石川 研吾
アジャイル開発では短期間での繰り返し開発を行うため、各機能の品質の管理がしばしば課題となる。ウォータフォール開発では各工程の終了時点でその工程の品質の状況が明確になっているが、アジャイル開発では、短期間で設計/実装/評価を行うことに加え、仕様変更やソースコード改変が頻発するため、成果物の品質状況が分かりにくくなる。このため、いかに迅速に品質状況を把握できるかが品質確保の要となる。また、開発を外部に委託したプロジェクトにおいては、その成果物の品質の妥当性を適宜検証することも重要である。本論文では、開発を外部に委託したプロジェクトにて実践した品質管理の方法とその効果について述べる。
田島 千冬
日本国内でシステム運用を実施している作業の中でもシステムに直接入る必要のない作業は定常的に発生し,対応のための時間が裂かれている.このような作業の中で,定期的にある程度定型化された作業対応をインドや中国から実施することを目的としたShared Serviceの提供を実施した.同じ言語文化を持つ日本人が同じ場所に集まった環境の中でチーム形成するものとは異なり,距離の離れた環境で,文化の異なるメンバーが,日本人同等のサービスを提供するものである.当論文では,ニューロロジカルレベルを意識したメンバーへのアプローチと,メタプログラム等のコーチングで用いられる手法を活用し,言葉や文化,価値観など様々な相違点のあるグローバルメンバーが1つのチームへと成長し,利用者から信頼を得ることができるチームを形成するまでのアプローチについて述べる.
鈴木 健一
システム故障をはじめとする重大なトラブルは,作業者の行動に起因するケースが多い.応用行動分析学では,行動の問題を勘や経験に頼って解決するのではなく,行動の基礎研究に基づいた科学的な手法によって解決する.プロジェクトのメンバの意識を変えることは難しいが,行動を変えることは可能である.「その時,なぜそのようなことをしたのか」を追求するよりも,「その時,どのような行動をとればよかったのか」を考えることがトラブルの再発防止につながる.トラブルの未然防止のために,プロジェクトのマネージャやメンバはどのような行動をとることが求められるのか?本稿では行動科学の観点からトラブルの未然防止について実際のトラブル事例を交えながら考察する.
藤田 祥平
現在,企業は新規領域拡大の一つの要素であるDXの商談を獲得していくことが強く求められている.DXの推進を図ろうとする企業は多く存在するが,企業が抱えるレガシーシステムが足かせとなっている実情がある.そのため,他社構築のレガシーシステムの再構築商談を獲得していく必要があるが,レガシーシステムの再構築は「複雑化したシステム」を理由に商談を辞退するケースや商談を獲得しても不採算となるプロジェクトが少なくない.不採算を防ぐためには,超上流工程での戦略的なリスクヘッジ策の実施が重要となる.本論文では,リスクヘッジとして必要と考えられる3つの施策「低リスクな再構築方法の選択と合意」,「不利な立場に立たせられない契約の締結」,「リバースエンジニアリングによる要件の洗い出しと次期要件の明確化」を検討し,実際に他社リ再構築プロジェクトでその効果を検証した.結果として,富士通の提案した再構築方法の採用により開発工数の大幅な削減や,リバースエンジニアリングと機能単位での処理ロジック整理により後工程での現行要件の検出0件を達成するなど,不採算防止に有効であることが確認できた.
金井 武志
近年、オンライン処理はクラウドに代表されるように処理能力自体を提供することが一般化しており、それに付随しシステムも複雑化を増してきている。複雑化したシステムでは複数ベンダーにより開発やコンポーネントの提供が行われることが多く、そのようなプロジェクトでは顧客との契約で作業スコープを定義しても、その範囲外の課題により、契約作業に多大な影響を及ぼすことがある。この場合、従来は顧客(発注者)のマネジメントに委ねられることが一般的だったものの、顧客がタイムリーに問題解決できない場合は自社の作業が滞る事態が発生していた。マルチベンダープロジェクトにおいて、このような状況の回避が可能であるのか、また、発生時の影響を軽減することができるのか、プロジェクト全体の体制や契約面を含め、一般的な課題と問題発生時における対応について整理・検討を行った。
佐藤 尚友,杉村 英二,黒木 信吾,岩田 美結
現在のシステム開発における重要なキーワード「アジリティ」.厳しい市場変化への対応力,素早い応答性を意味する言葉である.このアジリティを向上させる手法として「マイクロサービス」や「アジャイル」が注目され数年が経過した.これらは高い拡張性や柔軟性を理由に,今ではDXで先行する企業のほとんどの組織が開発プロセスに採用している.しかし,アジリティの評価方法は多岐に及び曖昧であるため,システム開発の評価に取り入れづらい.そこで本稿ではシステム開発に対するアジリティの評価軸を考察すると共に,実際に試行錯誤した事例をサンプルとして,システム開発におけるアジリティ向上に寄与するポイントを整理した.これにより,今後のDX推進の一助となれば幸いと考える.
緒方 昭彦
昨今,優秀なメンバがモチベーションの維持が出来ず,活躍が出来ないケースがある.コロナ禍のリモートワーク環境で孤立している時間が多くなっていることに加え,個人の抱える問題も多岐にわたり,マネージャから把握しづらい状況となっている.活躍できないことのすべてがマネージャに責任がある訳ではないが,結果として現場が混乱し,プロジェクト全体ひいてはプログラムに影響を及ぼす.モチベーションのマネジメント手法を分析し,適切な手法を適用し,メンバがモチベーションを維持し活躍できるプロジェクト/プログラムとすることを目的とする.
飯田 和之
システム開発プロジェクトにおける短期開発のニーズは,市場の加速とともにますます高まっており,アジャイル開発などの方法論も普及し始め,小規模開発などにはその活用が見られ始めているが,金融系システムなどの大規模システム開発では,十分に活用ができていない.従来のウォーターフォール開発からアジャイル開発への切り替えの難易度が高いことがその要因ではあるが,そのような状況の中,従来のウォーターフォール開発を継続しつつ,開発期間短縮を実現する手段としてテスト効率化への期待は高い.本稿では,大規模プロジェクトや輻輳プロジェクトにおける開発期間短縮を実現する手段として,リグレッションテストの効率化に関する検討を行う.
大迫 礼佳
コスト削減やリソースの有効活用を目的として,多くのアプリケーション開発プロジェクトではオフショア開発が採用されている.また,アプリケーション開発プロジェクトにおいて,成果物の品質を高い水準で維持することはプロジェクトマネジメントの観点から非常に重要である.一方で,海外チームと協業する場合,言語や文化の違いからオフショア要員とオンサイト要員の間では仕様理解や品質への意識に相違が生じる場合がある.それらの相違が品質の低下を引き起こし,いくつかのプロジェクトではプロジェクトマネジメント上も問題となる状況が発生している.本稿では,自身の海外チームとの協業経験に基づき,この課題を解決する取り組みの紹介,また,他の手法との比較および考察を行う.
小野島 直子
近年,システム開発の現場でアジャイルのニーズが高まっている.将来の予測が困難となり,社会変化へのスピーディな対応が求められる現代に,プロダクトの早期リリースと変更への対応を重視するアジャイルの考え方はフィットしやすく,様々な業界および職種で活用が進んでいる.公共分野のシステム開発においても,自然災害やパンデミックへの対応,法改正,防衛上の理由などコントロールできない外的要因が多いため,変更の発生を前提としたアジャイル・アプローチは有用と考えられる.しかし推進にあたって課題もある.本稿では,アジャイルを適用した複数の公共システム開発案件の中から,特徴的な事例を報告する.またその実践を通じて抽出した,公共のシステム案件におけるアジャイル適用の有用性と課題に関する考察を述べる.
木村 良一,三好 きよみ,酒森 潔,木野 泰伸
2018年に“DXレポート”が経済産業省から公表されて以降,デジタルトランスフォーメーション(DX)は社会に広く浸透しつつある.そのDXを推進する1つの手段としてのアジャイル開発についても関心が高まっており,プロジェクトマネジメント学会においても,さまざまな局面においてアジャイル開発の適用が試みられ,多くの研究発表がなされている.本研究では,これらを対象にしたテキストマイニングによる分析結果を報告する.分析の対象は,1999年から2023年までの間にプロジェクトマネジメント学会の春季・秋季研究発表大会の予稿集に掲載された論文の要旨部分である.各論文要旨を発表年で3つの時期に分けて各時期の特徴を分析した.その結果,発表論文の傾向は,プロジェクトの課題に関することから,企業としての課題に関すること,さらには大規模プロジェクトへの適用に関することへと変遷していることが示された.
北川 圭介
顧客エンゲージメントを高めるためにはステークホルダーマネジメントは有効であり,年々重要性の認識は高まっている.また,システム導入形態は時間がかかり比較的費用が高くなるフルオーダーメイドのスクラッチ開発から,安価ですぐに利用可能で社会の動向に追随しやすいパッケージ・サービスへシフトするニーズが高まっている.当社においても従来のスクラッチ開発と合わせてパッケージ・サービスの開発を進め,その拡販活動を推進している.受注に至るまでの活動においては顧客のニーズに合わせて開発するスクラッチ開発案件の受注活動と,多数の顧客のニーズをうまくパッケージ・サービスに合わせる受注活動ではステークホルダーマネジメントが異なるためマネジメント 手法に工夫が必要である.また,多数の顧客にアプローチするため顧客の企業風土や事業環境によって活動が異なり,更に各顧客の発注に至るまでのプロセスを正確に把握し,どういう手法を使いアプローチすればよいかについても営業やSE,幹部などで共通的な意識をもって対応することが重要である.ついては,合理的かつ効果的な組織的対応の実現のため,顧客の選定から契約・受注までをフェーズ分けし,顧客ごとにどのようなアプローチをすべきか,注意点は何かなどについてカスタマージャーニーマップを作成し,整理した.これにより営業,SE,幹部間で課題の共有,対策をスムーズに推進することができた.今後はこのカスタマージャーニーマップを充実させ有効に活用することで受注を拡大していく.
細谷 徹
リモートワークが浸透してきた一方,リモートワークには特有の課題も存在する.さらに,システム開発は委託先や再委託先を含む体制で実施するため,プロジェクトマネージャは委託先や再委託先で発生するリモートワークに起因する課題にも対応しなければならない.本稿では筆者の経験に基づき,リモートワークの課題に起因して,進捗遅延とバグ多発という問題が発生した状況において,プロジェクトマネージャ自身が委託先や再委託先の課題把握や解決に主体的に関与することで改善させた事例を示す.
南 幸雄
プロジェクトマネージャ(PM)は,経営戦略に適合したプロジェクトを円滑に遂行し,計画された最終成果物を提供し,プロジェクトを成功させる責任を担っている.デジタルトランスフォーメーション(DX)やIT技術の発展により,プロジェクトを取り巻く環境は高度化,多様化している.これらの環境に対応したシステムは,より高度化,複雑化したものとなり,さまざまなステークホルダーの満足を達成しつつ,計画された品質,コスト,納期の実現が求められている.プロジェクトを円滑に遂行し,成功させることが従来よりも増して困難になってきており,ますますPMの存在が重要となってきている.このようなPMを育成するためには,高度なスキルとコンピテンシーが求められ,中長期的な視野に立った育成が必須であるとともに,ビジネス戦略や事業ポートフォリオとの関連性も考慮する必要がある.このような課題を解決するために,本稿では,統一的な基準による人材の見える化,教育,育成するための仕組み,および実際のプロジェクト経験を踏まえて総合的に取り組み,実効性のあるPM育成を実現するための施策について,人材育成事例を通じた検証を行い考察する.
中原 あい,関 哲朗
中原らはKotlerらの顧客志向の概念を援用して,プロジェクト・メンバの内的動機付けモデルを提案した.この提案モデルは,プロジェクト・チームと顧客の間の相互ロイヤルティの下で,メンバのモチベーションを高め,プロジェクトの成功を確保しようとするものである.この提案の仕組みはメンバの利他的行動に起点を置くものである.中原らは,Kotlerらの顧客志向に理論的裏付けを得るために,利他的行動による幸福論など,人間の基本的な行動にもとづく考察を行っている.本研究では,アドラー心理学を背景とする利他行動の整理によって,中原らの提案するモチベーション形成モデルの理論的裏付けを行った.結果として,提案のモデルが理論面で有効であることが確認された.
片山 結沙,関 哲朗
プロジェクトの成功確保の基本の1つは,コロケーションの実現である.これは,偶発的コミュニケーションの成功確率が個人間の距離に依存することに由来する.2019年末から始まったコロナ禍は,リモートワークによるプロジェクトへの参画をプロジェクト・メンバに強制し,このような常識の変化を余儀なくさせた.しかしながら,現状のツールを用いた遠隔参加による作業や会議には深刻なコミュニケーション不全が存在し,結果として,プロジェクトの生産性の低下や失敗が指摘されるようになった.本研研究では,コミュニケーション不全の原因を,コンテクスト共有の欠落とノンバーバル・コミュニケーションの不足と仮定し,これらに該当する事例を示すとともに,その原因を示すことで,現状のリモートワーク環境の改善を示唆した.
西中 美和
プロジェクトの成否は,そのプロジェクトでのチームとしての能力に負うところが大きい.このチーム能力の構築には,知識統合の仕組みが求められる.先行研究では,知識統合の前提条件としてチーム内の信頼があると言われている.また,信頼の先行要因の1つは能力であることが述べられている.しかしながら,プロジェクトにおけるチーム能力と信頼,知識統合の関係は研究が不十分である.先行文献調査により,それらの関係を調査し,リサーチ・ギャップを提示した.「相手に能力があるから信頼し,その結果,知識統合が起きるのではないか」をリサーチクエスチョンと設定し調査の結果,「知識統合は,信頼を生みだし,ひいてはチーム能力が向上する」という関係も考えられることがわかった.信頼構築に関し,他要素との関係を示唆することにより,プロジェクトが成功するための要因研究に繋がることで理論貢献を行い,ひいてはプロジェクト運営に貢献する.
木村 翔,下村 道夫
ビジネスシーンでは問題解決が必要になるケースが多い.問題解決をするには筋道を立てて考えたり,選択肢の比較評価により最適解を導き出したりすることなどを含む論理的思考力が必要になる.その力を向上させる手段としては,書籍を読む,議論をするなどがあるが,いずれも楽しさや夢中にさせる要素が少ないため継続性に欠けると考えられる.そこで本稿では,論理的思考力を向上させるための一手段として競馬の勝馬予想に着目した.勝馬予想では様々な情報を分析して比較評価し最適な勝馬投票券を導出する思考プロセスが含まれており,論理的思考力と類似する部分が多い.これまでに,競馬の勝ち馬予想で論理的思考力が向上すると主張する文献は存在するが,その効果を定量的に評価したものはあまり見当たらないため,今回検証した結果を本稿で報告する.20歳から24歳の40人を被験者とする検証の結果,勝馬予想を3回実施した場合に13%の論理的思考力向上が見られた.
徳永 成朋,藤本 歩夏
昨今のビジネス環境の凄まじい変化により、企業間の競争は国境を越えて行われ、従来の市場の枠を越えた競争は日々激化している。企業はこの変革の波に押され、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していくことが急務となった。そして、その一環としてERPシステムを用いた業務改革を検討する企業が増えている。ERPシステムの中でも、SAP S/4HANAは世界で最も導入されているソリューションであり、新たなビジネスモデルへシフトするための基盤としての重要な役割を果たしている。しかし、SAP S/4HANA導入においては、SAPの「2027年問題」や慢性的なSAP人材不足などの諸問題が絡み、複数の課題に直面することとなる。本論文では、それらの課題の中で運用体制構築における課題解決へのアプローチとして実施した「SAP S/4HANA教育を含めたユーザ企業IT部門への運用引継ぎ」と「ニーズに合わせたカスタム運用サービスの提供とそのシェアード化」について紹介するとともに、その成果について述べる。
二村 公英
ITプロジェクトを開始する際にはスキルセットや経験が異なる要員を招集し,チームを編成するが,それだけではメンバーが協力してプロジェクトが円滑に開始されるとは限らない.円滑にプロジェクトを推進するためには,メンバーがメンバーシップを発揮し,自律的に行動できるようになる必要がある.本報告では,同一期に同一目的の2プロジェクトを立ち上げた実践を通じ,メンバーがメンバーシップを発揮し,チーム内で協力し,チームとしてどう活動に着手したかを比較する.
渡辺 祐希
弊社では全社的にグローバル要員との共業を進めることでビジネスの拡大を図っている.筆者が携わっているパッケージシステムでは製品保守においてグローバル要員との共業体制を構築していたが,更なるリソース拡大を目指して製品開発における業務範囲の拡大を目指した.しかし,従来の製品開発は弊社及び国内パートナーを主体とした開発体制をとっていたことから,グローバル要員への体制シフトを行ってしまうと品質が悪化する可能性があった.また,国内パートナーにとっては請負範囲が減ることによるビジネスインパクトや,継続した体制が維持できないといった問題もあり,これまで培ってきた関係性の悪化にもつながりかねないという課題を抱えていた.そこで,国内パートナーとの協力関係を維持しつつ,体制変更による品質の低下を防ぐため,弊社と国内パートナー及びグローバル要員の開発プロセス再構築の取り組みを行った.本論文では品質確保をしつつグローバル要員との共業体制によりリソース拡大を実現した手法と成果について述べる.
曽根 寛喜
近年,仕事をしながら大学院に通い博士号取得を目的とした,いわゆる社会人ドクターが増えている.その背景の一つとして,各大学院が仕事と大学院での活動を両立できる仕組みを導入していることが挙げられるが,社会人ドクターとして実際に両立できるかは別の話となる.本稿では筆者が現在実施している1年近い社会人ドクターとしての活動を整理する.そのうえで,仕事と大学院での活動の両立状況や発生している課題および解決策,大学院入学までに検討・実施すべきであったことについて考察する.
伊藤 智信
デジタル化の進展に対する意識調査では,約8割の企業がレガシーシステムを抱えていると回答しており,これらの企業がDigital Transformationを推進していく上では,システムの見直しが必要である.システムを見直す手法として,モダナイゼーションが挙げられる.モダナイゼーションを推進する上では,システム全体の機能を整理し,広範囲にわたって個々の機能を点検する必要がある.点検する上での課題は,「システム全体の熟知が困難」と「点検に充てる開発期間,開発予算の不足」が挙げられる.その対策として,「システムの要所を押さえた重点的な点検アプローチ」,「費用対効果を向上させる効率的な点検アプローチ」と,さらに「データ起点と運用起点にもとづいた点検観点の抽出」,「システムテストにより課題を抽出するイテレーション型の点検プロセス」などの新たな観点を加え,「システムの広範囲にわたる機能点検手法」を定めた.この手法を同様の課題を抱えるプロジェクトに対して適用した際,ユーザーに対するリスクを最小限に抑え,安定した品質を確保することができた.この手法は,モダナイゼーション問わずシステム点検において幅広く適用できると考える.プロジェクト適用事例での効果,教訓と今後の展望について論述する.
櫻井 希
筆者は,お客様業務部門が主体となるシステム開発にPMOとして10年従事した.情報システムを専門とする部署ではないことから,システム開発経験が無い方が多数いること,スキル・経験を得た人材が異動してしまい,組織としてスキルが定着しないことをお客様自身が課題として捉えていた.本稿では,業務部門のお客様の特性を元にした研修内容の策定方法,およびその考察を述べる.具体的なアプローチとして,過去に発生した事象を原因分析し,「基礎的なプロジェクト管理スキル」,「担当システムの開発方針の理解」,「発注者として役割認識」を重点とした研修を開催した.研修では,必要性の理解,興味がある内容の深堀り、具体的な注意点の説明に重点をおいて実施した.受講者からの評価フィードバックでは90%以上が,本研修が役に立ったとの評価を得たことから,業務部門向けの研修として高い効果を得ることができた.テーマの選定方法や研修内容は,他の業務部門向けにも今後活用が可能である.
佐藤 隆広,西中 美和,山本 靖
高品質な製品の製作プロジェクトの現場では,他者との関わり合いが製品を製作するうえで重要である.そこには,仮想的に他者の立場に立つという「視点活動」が求められる.視点活動は,他者の心情理解を行い,他者が見ている情景をイメージとして生成する情景理解を行うことであり,それらによって関係性は築かれている.先行研究では,視点活動が経験に基づいた行為であり,現場で活用されるイメージ生成を行っていると述べられている.しかし,視点活動が実際に活用されるに至る人の内的な過程は明らかになっていない.本稿では,事例研究と定性分析を行い,視点活動が経験に基づいた行為であるという点と,現場で活用されるイメージ生成を行っているという先行研究を検証した.さらに,視点活動は,それらの要素の仲介活動であるという新たな含意を提示した.理論が現場で活用される過程を明らかにしたことで,他者理解と関係性を促進し業務に貢献する.
菅原 康友,水野 亮,森口 隆弘,石野 克徳
近年のDXの流れにおいて,様々な業界でデータやAIを活用した取り組みがなされている.NTTデータでは,プロジェクト管理におけるDXの取り組みとして「品質管理におけるバグの定性分析の一部自動化」をテーマにAI開発を行っている.本取り組みでは,定性分析をバグ票を起票する「報告」ステップ,バグの種類や原因をグループ化する「分類」ステップ,分類結果から対策を検討する「分析」ステップの3ステップに分類し検討している.このうち,「報告」の質を高めることでその後の「分類」,「分析」の精度・効果を高めることが期待される.しかし,バグ報告の質を高めるためには,バグ報告に書くべき観点が正しく記載されているかについて,有識者がチェックする必要がある点が課題である.そこで本研究では,有識者によるバグ報告チェックをAIで代替可能かどうかを明らかにすることを目的として,バグ報告チェックAIを開発した.その結果,有識者によるバグ報告チェックの内,最も重要なチェック観点において,最大約80%が代替可能であることが明らかとなった.
樋熊 博之
多くの企業では組織の職掌が明確に規定され,自部門の目標を達成することが求められる.ITベンダー企業の多くはプリセールスとポストセールスとで役割が分担され,前者は営業・提案活動,後者は一般にプロジェクトという形式となる.プロジェクトでは設定された目的を達成するための計画策定とその遂行が優先される上に,新規ビジネスはプリセールの役割であるとの考えが浸透している.しかしながら,プロジェクトの現場こそが新規ビジネスの宝の山であり,それを発掘することが企業の成長の原動力となるのである.本稿では,筆者らが参画した,ある大型プロジェクトにおけるプロジェクト管理アドバイザーという僅か2名の『掘っ立て小屋』のような案件から始まり,新規ビジネスを獲得して『タワマン』のような巨大プロジェクトに成長させた事例とその中で活用したプロジェクトマネジメントの手法とナレッジである「コミュニケ―ションマネジメント」「ステークホルダマネジメント」「期待値コントロール」について具体的に紹介する.
佐藤 雅子
Covid-19の流行と共にリモートワークの推進が様々な企業で行われ一般化してきており,今後も働き方の選択肢としてリモートワークが定着していくことが考えられる.リモートワークは通勤時間の短縮などメリットもあるが,一方でプロジェクトチーム育成の観点からすると,チームメンバーのモチベーションの維持,スキルの育成,コンピテンシーの改善,チームの結束力の強化などをどのように行うのかということが新たな課題になっているプロジェクトも多いと捉えている.「チームの結束力の醸成」はリモートワークにおいて実現することが難しい課題の1つであると筆者は考えている.今回は特に人間の源泉である霊長類や人の「五感」に注目し,ここからプロジェクトチームの結束力の醸成やパフォーマンスに対して効果的な手法とは何かを考察する.
野尻 一紀
ウェルビーイングはSDGsの目標3に掲げられ,非常な注目を集めている.またPMBOK®ガイド第7版ではサーバントリーダーシップが強調されている.メンタルヘルス研究会では心の健康に着目したプロジェクトマネジメント研究を行ってきた.内容はプロジェクトのメンバーがメンタルヘルス不調に陥らないための対処法から,ポジティブ心理学の考え方の取り入れ,メンバーのモチベーションを挙げて上げてプロジェクトを進める方法へと変遷してきた.プロジェクトのメンバー全員が主観的ウェルビーイングとレジリエンスを高め,メンバーみなとの人間関係のつながりを強めていくことが,プロジェクトにおいて,創造性,業績と働き甲斐を同時追求していくために重要である.
大貫 隼輝,吉田 知加
デジタルトランスフォーメーション(総務省, 2018 )や,デジタルディスラプション(総務省, 2021)により国内外の企業がデジタル化の影響を受けるなかで,時代は,新しい製品,サービスをいち早く市場に出し,より良いフィードバックを得て,より多くの顧客を獲得する時代へと突入している.アジャイル型開発は,短期間の開発で必要機能をリリースでき,市場へ展開できるソフトウェアモデルとして,関心を持たれてきた.しかし,日本企業の中では,思うほど推進されていない.本論文ではこのアジャイル型開発とシステム開発契約に関する先行研究から,そのモデルの特徴と日本企業での実践における特有性と課題を確認する.さらに,日本企業で一般的とされる受託開発でアジャイル型開発を実践する企業実務家へのインタビューをもとに,アジャイル型開発における契約の現状をテキストマイニングにより確認する.そこに見られる課題から,ユーザー企業側,ベンダー企業の相互に有用な契約とは何かを考察する.
山本 椋平,石津 大輔,桑田 直樹,後藤 卓司,浅田 隼人,山村 喜恒
近年では,ビジネス環境の変化に追従するため,短いリリースサイクルで仮説検証を繰り返すアジャイル開発が多く採用されている.ビジネスアプリケーション開発においては,十分な品質を確保するためにウォーターフォールとアジャイルの開発を組み合わせたハイブリッド開発を採用し,テスト工程を設けて時間をかけてテストすることがある.しかし,アジャイル開発の本来の目的である短いリリースサイクルの達成は難しく,アジャイル開発に適したテスト方法に変えていく必要がある.そこで,世の中にある多くのテスト技法や考え方などから情報を集めて,テスト4象限をベースにアジャイル開発に必要なテストや実施方法を検討した.さらに,短いリリースサイクルの中で効率よくテストを進めていくための品質確保方法論にまとめた.本稿では,プロジェクト立上げ時のマネジメントポイントとして体制やテスト計画の勘所を論じる.
笹野 真子,高木 輝希,白井 伸司
1.背景顧客企業には老朽更新が必要な基幹システム、IT資産が多く存在している。彼らはそれらを活用しながら、業務を継続させねばならないという課題に直面している。そのような背景の中、私たちは製造業の生産管理システムに対するマイグレーション開発をおこなった。2.課題ウォータホール型のスクラッチ開発と異なり、マイグレーション開発には要件定義や設計工程は存在しない。対象システムに対する有識者がおらず、テストケースが作成できないという状況で、段階的に品質確保を行う開発プロセスが必要であった。また、顧客の要求事項である高品質・低コスト・短納期を達成するために、現行資産の改修範囲の極小化や最大限の属人性排除が必要であった。3.対策私たちは最初にマイグレーション開発における開発プロセスを定義した。そして、プロジェクト企画・開発・テストの各開発工程で段階的に品質を積み上げるため、次の施策を実施した。 1)企画工程では、開発プロセスの定義、現新非互換を埋める変換プログラムを設計 2)開発工程では、属人性を排除するための変換手順、変換ツール化、レビュー方法の確立 3)テスト工程では、UI部分の品質確保としてアドホックテスト、リグレッションテスト自動化
塚本 哲史
スクラムは一般的にはアジャイル開発に採用されることが多い.しかしスクラムはビジネス活動全般において広く採用されており,かつその特性から,ソフトウェア開発においても適用対象がアジャイル開発のみに限定されるものではない.スクラムの特徴は高速に経験を繰り返して学習することにあり,適用対象となる活動が有する不確実性を克服するためには有効な取組である.本稿では,体制や技術面に高い不確実性を有する大規模ウォーターフォール開発案件においてスクラムを適用した事例を通し,開発プロセスとしてのウォーターフォール開発とマネジメント手法としてのスクラムは決して背反するものではないことを説明する.またウォーターフォール開発において従来採用されてきたマネジメント手法との比較を通して,スクラムは,自発的に動く,人間らしい働き方を取り戻す,組織を変えるためのマインドチェンジとして有効であることを提案する.
峯岸 朋弥,大澤 博隆,宮本 道人,藤本 敦也,西中 美和
本研究では,SFプロトタイピングワークショップにおける発話の分析を行う.SFプロトタイピングは,SFを作る過程を利用して参加者の発話を引き出し,ビジョンを作成するワークショップ手法である.発話を効果的に引き出す手法とするには議論プロセスの分析が必要である.しかし,先行研究では,SFプロトタイピングの成果物を評価しているが,議論中に発話された未来の言葉がどのようなプロセスで発生したかを分析した例は少ない.この課題を解決するため,発話プロセスを時系列で記録するツールとしてWebアプリケーションを開発した.アプリケーションで取得した データと議論の録音データを照合し分析した結果,発話のタイミングを可視化することができた.時間管理をアプリケーションで行った結果,手順に従って議論したグループは最終成果物の制作とブラッシュアップに時間をかけることができ,ワークショップの成否を評価することができた.
平田 修司
近年,お客様を取り巻く環境の変化や様々なニーズに対応するために,ソフトウェア開発の分野においてもアジャイル開発を取り入れているプロジェクトが増加してきている.それはニアショア拠点のプロジェクトにおいても同様で,お客様に素早く価値を提供するためにアジャイル開発を実践する事例は増えており,プロダクトオーナーと開発チームの拠点が離れているという構成も多くみられる.しかし,アジャイル開発の本質としては,同じ作業スペースで一丸となって開発を進め,コミュニケーションを形成するということが推奨されており,いざ実践してみるとコミュニケーションや意思疎通の面において,難しさを感じることや課題も多い.本稿では,ニアショア拠点におけるアジャイル開発の取り組みや実践例を紹介するとともに,その効果およびそこから見えてきた課題・問題点の考察とその対策について提示を行う.
磯本 憲一
システム導入プロジェクトにおいては,上流工程におけるプロジェクトのコントロールがプロジェクトの成功を左右すると言って過言ではない.上流工程において,顧客の要求事項を正しく分析し,その結果にもとづいた後続工程の計画立案が重要である.一方,上流工程においては,要求事項を積み上げた結果,スコープクリープを引き起こし,納期オーバー・予算オーバーへとつながりプロジェクトを再考せざる得ないケースも少なくない.このことから,上流工程を推進する過程において,要求事項の変動に対するスケジュールおよびコストへの影響を定期的に評価し顧客と共有することが非常に効果的であると考える.本稿では,実際のプロジェクトで実施した上流工程における規模変動管理の有用性について検証する.
金山 尚史
プロジェクトマネジメントにおいてリスクを適切に管理することは,スケジュール遅延やコスト超過を発生させず,成果物の品質を維持するためにも非常に重要である.また,適切にリスク管理を行うためには,管理するリスク項目の数がプロジェクトチームの制御可能な規模を維持する必要がある.しかし,いくつかのシステム開発プロジェクトでは,作業の平準化ができていないことで,プロジェクト作業のピーク時にリスクへの対応が疎かになり,その結果としてプロジェクトチームで管理可能なリスク項目数を超えてしまうことで,プロジェクト全体に大きな影響を与える場合がある.本稿では,適切にプロジェクトチームの制御可能な状態でリスク管理を行うために,段階的なシステム開発・導入を行うプロジェクトに従事した経験から得られたメリットと考慮すべきリスクを整理し,そのリスク対応策についての考察を行う.
海堀 修,袖 宏冶
当社では組織的なプロジェクトマネジメントの取り組みを進めてきた。不採算プロジェクト(当社で設定した基準を超える赤字となったプロジェクト)の発生件数および金額は減少傾向にあるがその要因については明確に把握できていなかった.そこで近年不採算プロジェクトの発生を抑止できた組織(事業部門)に対しヒアリングを行い,組織とプロジェクト,PMOがどのような取り組みを行っているのか調査した.不採算プロジェクトの発生を抑止できるようになった組織には共通の特徴があることが分かった.調査の結果について報告する.
金子 英一
DXを推進する国内の企業や組織の人材育成の指針として,DX推進スキル標準がIPA/経済産業省から発表され,既存のDXリテラシー標準と合わせて,デジタルスキル標準が整備された.企業・組織がデータやデジタル技術を活用して競争力の向上を目的として, 国内では"学び直し"と表現されるリスキリングを進めるうえで,デジタルスキル標準の今後の活用が期待される.一方で,DXソリューションを顧客に提供するITソリューション・プロバイダーにおいても,顧客のDXへの取組に先行して自社のDX人材育成を進めているくことが更に重要となっている.国内でリスキリングを推進する一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブによるリスキリングの定義は「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し,そして新しい業務や職業に就くこと」を指す.ITソリューション・プロバイダーが自社の要員を従来のIT領域からDX領域へとシフトするために,新たなスキルを習得させる/することも,DXのリスキリングと捉えることができる.顧客のDXの取組を支える役割を担う,プロジェクトマネージャーのDXリスキリングは,DX領域へのシフトの中でも特に注力が必要な課題である.本稿では,プロジェクトマネージャーを取り巻く環境の急速な変化に対し,ITスキル標準及び新たな領域の"学び直し"の指針であるITSS+と合わせてDX推進スキル標準を,プロジェクトマネージャーのDXリスキリングの指針として活用することの有効性を考察する.
櫻澤 智志
筆者は,自社にてマネジャー業務を行う傍らで,非常勤講師として,北海道内の大学におけるプロジェクトマネジメント講義を長年担当している.振り返ると,一連の授業を通して得られた経験や知見の多くは,実は,教わる立場の学生たちによってもたらされたものである.さらに,これらの学びが,組織の活性化や若手~中堅社員育成といった場面で大いに活用されていることを再認識した.この経験事例研究が,各企業でマネジャーが直面する「壁」を打破するヒントとなるべく,一企業の社員が大学生から何を学び,どう生かしていくのかを考察する.
中村 知久,鍋谷 祥子
本稿では、筆者が第三者品質保証として参画した大規模SIプロジェクトにて、適切な品質評価を行うため品質状況の見える化について工夫した事例を紹介する。NECでは、バグ密度とテスト項目密度を2軸とした「品質判定表」を用いて品質を評価しており、本プロジェクトでも「品質判定表」に工夫を加えて活用した。工夫点は3点あり、1点目は「優先的に品質評価すべきサブシステムの見える化」、2点目は「品質評価のタイミングの見える化」、3点目は「サブシステムの分布からの品質状況の見える化」である。実施した工夫が品質状況の見える化にどのような影響を与えたのか、その効果について述べる。最後に、品質状況がより見やすくなる改善案など、更に工夫をするための考察についても述べる。
五領 舞衣
「プロジェクトマネジメント」とはプロジェクトマネージャーだけが持つスキルではない.チームメンバー側でもできるプロジェクトマネジメントのスキルや領域は存在するが,今回は比較的新しい概念を紹介する.「ボスマネジメント」である.「ボスマネジメント」,より正確に言うとそれを応用した「プロジェクトマネージャー(PM)マネジメント」は,プロジェクトマネージャーとの関係を良好にし,チームや自分のパフォーマンスを最大化するために,メンバー側から働きかけることができる有効なコミュニケーション管理の一つだと筆者は考えている.コロナ禍でコミュニケーションを取る場所がバーチャルに移行し,マネージャー側から見えない部分が増えることにより,メンバー側からのコミュニケーションがこれまで以上に重要になっているからである.本稿では,これまでの筆者の経験を元にボトムアップからのコミュニケーション管理とその重要性について考察する.
黒柳 友菜人
近年,ビジネス環境の変化に適応し,継続的にサービスを改善するという目的で,アジャイル開発を適用するプロジェクトが増えている.一方,アジャイル開発が,コストカットや納期短縮の手段として適用するなど,アジャイルソフトウェア開発宣言の趣旨とは異なる使われ方をするケースが懸念されている.当部署でも,自社SaaSサービスの開発に対し,サービスの継続的な改善を実施するという観点で,アジャイル開発の1手法であるスクラム開発を適用した.しかしながら,厳しい納期で機能開発が優先となり,リリース前後で顧客より多数の指摘を受けるという問題が発生した.本稿では,スクラムの実適用で発生した問題,原因,今後の改善策について述べる.
明石 明日香
管理部門におけるDXとは、日々の模倣型、定型型業務をデジタル技術を活用し、ビジネスをより良い状態へ変革することです。一方で、企業の管理部門は、従来から形式的に行われている業務に加えて、DXを加速させるために創造できる思考力や駆動力が求められているところに課題を抱えている現状です。本件では、IBMから分社化したキンドリルの管理部門が1年を通じてプロジェクトマネジメント手法を活用し、プロジェクトを推進、改善してきたのかを論述します。
二ノ宮 朝子,安田 真規,塚元 裕加里,松田 健佑,椿 晃茂
DXへの取り組みが加速する中、製造業ではそれらを取り巻く環境の変化に伴い、エンジニアリングチェーンの機能強化が求められている。また、経営者としても、ビジネスモデルの変革が今後の重点課題として注目されているため、DX人材の育成は必須となっている。PLM(Product Lifecycle Management)はそれらの課題を解決できるシステムであり、価値の高いバリューチェーンを創出するための重要な構成要素である。本稿では、そのPLMの顧客への導入に対し、SEと営業が従来の役割の垣根に拘ることなく協力し、個のスキルアップを図り、若手中心の次世代型のチームとして自律的に活動しているその成果と教訓について述べる。またその活動の中で、クラウド・サービス化やSIプロセスの標準化に挑戦し、職種や会社の枠を越えたリソースの共有を目指していることについても触れる。さらに、プロジェクトマネジメントについても従来の役割に留まらず、暗黙知を形式知化させ、ナレッジ・エンジニアに組織全体を成長させるような役割を持たせる取り組みについても述べる。
關口 拓未,谷本 茂明
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い,企業はデジタル技術を活用し,ビジネスの利便性向上やイノベーション創出に関する取り組みを加速させている.その反面,誤操作による個人情報漏洩等のインシデントも数多く発生しており大きな問題となっている.本論文では,我々の先行研究である誤操作等に起因する情報漏洩インシデント低減に資するセキュアなユーザエクスペリエンス(UX)環境を対象にリスクアセスメントを実施し,その有効性を明らかにする.最初に,誤操作のリスク要因をRBS手法により53個抽出し,これらリスク要因に対し,リスクマトリクス手法を用いて,UXの特徴である非サイバー面も考慮した具体的なリスク対策を提案した.これらの対策案の開発に要する費用をファンクションポイント試算法により計算した結果,軽微な開発(約3人月)で可能であった。以上より,実運用性の観点より提案手法の有効性を評価した.
宮口 裕基,小田部 奈美,板谷 里美,有川 順二,古賀 茂毅,椛島 章正,藤 英樹,中村 隆宏,大田原 朗雄
我々は,2007年に初版を開発した通信事業者向けネットワーク管理システムを,約15年間,継続的に定期開発かつ短期間開発を繰り返し実施している.当初の開発技術は古くなり,お客様や開発体制も替わり,有識者や技術保有者が入れ替わって行く中で,あきらめずソフトウェア開発の効率化と品質確保のための改善活動を取り組んできた.その取り組みについて紹介する.
前田 紗矢香,清水 裕斗
近年,企業経営におけるデータ利活用の重要性は高まり,データ分析基盤の構築が求められている.特にプロジェクト運営の原動力となる人への投資,事業拡大や新事業開発に向けた投資など,経済的資源を有効に活用するためには,事業年度の早い時期に正確な利益予測を行うことが不可欠である.そこで本研究では,売上や経費の推移情報から事業年度末の利益を予測するモデルの構築を行う.具体的には,四分位数をカスタマイズしたアルゴリズムを用いて,売上や経費の推移情報から上振れや下振れ情報を排除し,標準的推移情報を構築する.この標準的推移情報を回帰分析することで,事業年度末の利益予測を行うモデルを構築した.
松岡 勲
第二次世界大戦で,旧日本軍は米ソ両方から,兵は優秀,下級幹部は良好,中級将校は凡庸,高級指揮官は愚劣と評された.なぜリーダーは凡庸ないし愚劣と評されるのか.組織論の立場から戦史を研究した良著「失敗の本質」を参考に,旧日本軍の個々の戦闘をプロジェクトに見立て,当時の将官の判断の背景を探ることで,プロジェクトマネージャの誤判断が自チームの実力過大評価によってもたらされやすいことを考証し,米国の事例と対比させることで日本のプロジェクト特有の問題点を提起した.
千葉 淳
【背景】近年リモートワークが普及した一方で、出社して対面で業務を行うことの価値も再認識されてきている。出社とリモートの両方の選択肢があるハイブリッドワーク下で、それらをどう使い分けていくべきかは、業務特性や個人の考えにも依存するため一定の答えはない。本論文では、メタバース空間のアジャイル開発において、出社とリモートを使い分けたマネジメントの実践例を紹介する。出社とリモートの使い分け方に一般的な答えはないが、メタバースのアジャイル開発という領域においては、有効な1つの回答を得ることが出来た。【実践内容】メタバース空間の開発は、成果物の細かいUI確認と相談を頻繁に行いたいため、ハイブリッドワーク下でのコミュニケーションに工夫が必要であった。まず、チームキックオフやスプリントレビューに対面を取り入れ、心理的安全性の向上を図りコミュニケーションの活性化を行った。その上でデイリースクラムにて利用するWeb会議のIDを常時開放しておき、気軽にコミュニケーションを取れるようにした。また、タスク管理はオンラインホワイトボードのMiroを活用し、直感的操作によるかんばん形式にて各タスクの状況を可視化した。これらにより課題の発見、共有から相談に繋げるという流れができ、短期間でメタバース空間を作成するという成果を得ることが出来た。
石原 寛紀
プロジェクトにおいて,プロジェクトマネジメントの専門組織であるプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)を設置することが多くなってきている.そして,PMOが,プロジェクトマネジャーを支援し,強力にプロジェクト管理,推進を行っていくことがプロジェクト成功モデルの一つとなっている.一方で,様々な背景や問題も見えてきており,PMOがうまく機能せず,プロジェクトを成功に導けない例もでてきている.本稿では,プロジェクトを成功へ導けないPMOの困難な点や問題点をあげ,その原因と解決方法を整理する.筆者が実際に適用しているプロジェクトのPMO業務を紹介し,その評価,考察を行う.
北岡 幸子
システムは構築後も,ニーズや最新技術を反映すべく,一般的に5~7年周期で大規模更改を行う.このサイクルを見据え,上流工程で必要となる有識者維持のため,大規模更改の間も含めたリソースプランニングが重要である.その際,同一システムに対し,ステークホルダー,要件,期間の異なる大小様々な複数プロジェクトを平行して開発することとなる.加えて,近年のビジネス環境,技術変化の速さや感染症,情報セキュリティ脅威といった不測かつ危急な変動要因が,複数プロジェクト遂行のコントロールをさらに難しくしている.これら複数プロジェクトの変動要因を許容しつつQCDを維持するために,ステークホルダーとお互いの課題を共有し,共に解決策を考えることで,柔軟かつ効率的なマネジメントを実施し,プロジェクトの同時遂行を可能とし成功裏に終えることができている.こういった,相互に影響しあう複数プロジェクトのプロジェクトマネジメントに関する対策事例を説明する.
河本 慎一郎
近年,プロジェクトの短納期化が進み,プロジェクトを成功に導くためにも,進捗状況を的確に把握していくことが重要となっている.筆者の所属組織におけるプロジェクト管理では,WBS形式の進捗管理が標準的に行われている.しかし,多量の機器を構築する大規模インフラプロジェクトにおいては,WBSは膨大な数のタスクに分解される.さらに,PJが短期間である場合,多数のタスクが同時並行で遂行されるため,常時網羅的に全体を把握しながらプロジェクトを管理していくことは難易度が高い.本稿では,筆者が経験した官公庁での大規模インフラ更改プロジェクトでの経験をもとに,サーバ・装置単位など多量の管理対象を,作業工程とのマトリクス形式で表現した進捗管理表による進捗管理手法について論じる.
西山 美恵子,森本 千佳子
働き方が多様になった現代において,社員同士のコミュニケーションが希薄であることが度々課題としてあげられる.本稿では,SIerにおける社員同士のコミュニケーション活性化への取り組みの第一歩として,社員同士がお互いを知る事を狙ったワークショップを実施し,ワークショップによる効果とそこから見えてきた組織への課題について示した.本稿での事例は,取り組みを開始したばかりではあるが,客様常駐が大半を占め,異なる勤務先やプロジェクト環境下にいる社員同士の帰属意識の醸成に対する課題を整理し,今後の取り組みの方向性を示すことができた.
平松 豪
コロナ禍において,多数の社員が密集するのを防ぐため,新入社員研修やプロジェクトワークを全てオンラインで実施するIT企業が珍しくなくなっている.こういった状況では,就職後にほとんど出社せず、オンラインでの新入社員研修やOJTを受けてきた新入社員をプロジェクトメンバーとして受入れ,チームビルディングを行う機会も増える.そのような場面でも問題なくプロジェクトを遂行できるようにするには,新入社員研修やOJTの場にて,技術の理解度や今後の業務に関わる人脈構築をより意識し,新しいアプローチで育成を行うことが重要になる.本稿では,筆者がコロナ禍の最中に入社し,オンラインでの新入社員研修・部門研修を経てリモートとオンサイト両方のプロジェクト業務に携わってきた経験をもとに,まずは,オンラインでの新入社員研修の利点と課題とその課題への施策について考察する.そして後続のOJT期間のプロジェクト作業に於いて,リモートでのプロジェクト業務とオンサイトでのプロジェクト業務で得られる学びについて,新人の立場から利点と課題を考察する.
坂 直樹
近年、変化の激しいビジネスニーズに迅速に対応するために「アジャイル開発」手法を導入するプロジェクトが増えてきている。各SIベンダーにおいても、大規模システム開発プロジェクトに対応できるアジャイル開発手法やフレームワーク導入を進めている。しかし、実際のプロジェクトでは、これらの開発手法やフレームワークを導入するだけではなく、これらを活用する数多くのチームに浸透させ、適切に運用できることが重要である。本稿では、実際に300人以上の大規模システム開発プロジェクトにおいて実践したプロジェクト運営方法や啓蒙活動に焦点を当て、発生した課題や工夫した取り組みを報告する。
平井 直樹
ソフトウェア開発は、多くの場合チーム作業として進めていくことになるが、近年アジャイルに代表されるように、ミーティングなどのチーミングが強く進められており、そうした場では建設的な意見、批判的な意見などチームメンバーが以下に発言できるかが重要であると考えられる。本研究では、そうしたソフトウェア開発において、様々な意見を気兼ねなく発言できる、近年注目が集まっている心理的安全性との関係性を明らかにしようとするものである。これまでの研究では、心理的安全性がなければ意見を言いづらい環境を生み出し、その結果パフォーマンスはもちろん、できあがるプロダクトやサービスにも悪影響を及ぼす傾向が確認されてきている。ソフトウェアにも同様なことが考えられるが、日本のソフトウェア開発に対して、そうした研究はほとんどなされていない。そこで定量的な調査を行い、日本のソフトウェア開発の心理的安全性と組織文化の関係性を明らかにする。
横尾 公一郎
マルチベンダ体制によるシステム開発プロジェクトでは,管理の範囲が広くなることで難しさが増し,プロジェクトを円滑に推進する為の工夫が必要になる.しかし,複数のステークホルダ間の認識に齟齬が生じてしまうのは必然であり,そういった問題を抑制しプロジェクトを推進することが,マルチベンダ体制のプロジェクトを成功させる要因となる.プロジェクト推進上の管理項目は多岐にわたるが,その中でもどのような観点に着目し,管理強化することで,マルチベンダプロジェクトで発生するリスクを効果的に低減し,プロジェクトを円滑に推進できるかについて,実際のプロジェクト事例を用い管理強化ポイントの評価を行った.
新谷 幸弘
アジャイル開発はソフトウェア業界向けに考案されたが、VUCA対応への利点から、最近では非ソフトウェア開発分野へも適用されている。しかし、アジリティの概念を非ソフトウェア開発に用いる場合、ある種の困難さや複雑さが生じる。本研究では、アジャイルを非ソフトウェア開発へ適用する際の課題を考察する。
杉本 裕介
変化が激しい近年の開発プロジェクトにおいては,従来よりも短期間かつ低コストでの開発が求められており,クラウド開発のメリットを最大限に生かしたクラウドネイティブ開発に対応できる体制や仕組み作りが重要性を増している.現状,業務アプリケーション,ミドルウェア,クラウドサービスを個別に扱うスキルを有する人材は多数いるが,クラウドネイティブ開発においてはクラウドサービスに合わせたアプリケーション設計が最重要かつ高難度であり,対応できる人材が不足している.本稿では,各レイヤの個別スキルを有する人材に対して,クラウドネイティブ開発に対応するためのアプリケーション設計を可能とする体制や仕組みづくりについて,実際の開発プロジェクトの経験をもとに施策と効果について考察する.
吉津 充晃
プロジェクトの成功のためには, ステークホルダーの要望を漏れなく洗い出し,スコープ・ベースラインに含めるに十分な要求事項を引き出す必要がある.効果的な要求事項の収集を行うには,ステークホルダーへ積極的に関与し,適切なアプローチを実施することが重要と考える.2017年秋季大会において,要求事項収集の技法として,インタビュー形式とファシリテーション型ワークショップ形式に着目し,実検証した要求事項収集の技法とその成果を整理し,報告した.本研究においては,新たにフォーカス・グループ 形式による要求事項収集を行い,実検証の結果をとおして,効果的な要求事項収集を行うための適切なアプローチについて,考察をまとめる.
弓削 裕要,佐藤 裕介
近年,DX(デジタルトランスフォーメーション)により,ビジネス環境の変化が起こっている.アプリケーション開発では高速化のニーズが高まっており,ローコード開発やテスト自動化への注目が高まっている.ローコード開発のプラットフォーム上で自動テスト機能が提供される場合は,業務処理とテスト用処理の両方をローコードで実装できる.一方で,ローコード開発のプラットフォームでは定期的にアップデートが行われるため,プラットフォーム上に構築したアプリケーションの動作にも影響が生じる可能性がある.筆者らは,ローコード開発においてテスト自動化を実装し,プラットフォームのアップデートに起因するアプリケーションへの影響の早期検知を試みた.本論文では,ローコード開発のプラットフォーム上で実施したテスト自動化事例と課題について報告する.
児玉 直人
2021年に当社お客様にてストレージ装置のハードディスクドライブ(以降,HDDと記載)多重故障により,上位サーバ装置からストレージ装置のデータにアクセスできなくなる重大トラブルが発生し,お客様業務に多大な影響を与えた.原因は,長期稼働によりHDDのピボットオイル(磁気ヘッドを駆動する機構の軸受け部のオイル)が磁気ヘッドに付着したことと判明.HDDは長期稼働にともない,故障率が年間に1.5倍~2倍と急激に上昇する傾向にある.さらに,短期間に複数HDDが故障することにより冗長性が失われ重大トラブルに至るリスクがある.一般フィールド全体の稼働状況では約半数のお客様が当リスクを抱えている状況である.そのため,お客様に長期稼働にともなうリスクを迅速に正しく伝えることとトラブルを未然に防止しなければならないという課題がある.本論文では,リプレースまでの稼働品質を担保,維持するために,お客様への情報公開と稼働状態の点検方法ならびに予防処置の方法についてまとめたものである.
塚田 喬志
需要の変化から、通常月/数人月規模の体制から急拡大を求められる場合がある。また、システムリリースの日程や予算の制約などのユーザー起因の課題。システム目線では俗人化に伴うドキュメント不足などの様々な課題があり、困難を強いられる。上記に対して、自身の経験からプロジェクトマネジメントを考察するもの。
宮田 剛,山吹 大地,高橋 涼
環境変化が激しく複雑化した現在の状況下では,より積極的に先回りしたプロジェクトマネジメントが必要となる.そして,意思決定は漠然としたプロジェクトマネージャーの主観的な感覚ではなく,進捗や予算に対する課題の残存量などプロジェクト遂行上のリスクに関連したエビデンス(ファクト)に基づいて的確に実施されるべきだと考える.本稿では,こうしたエビデンス(ファクト)に基づき、PMOやコンサルタントとしての取り組みを踏まえたプロジェクトマネジメントの意思決定のあり方について考察する.
奥村 真也,増田 浩之,上條 英樹,鞆 大輔
近年、ITの進歩とともにソフトウェア技術者のニーズの高まりが更に増している。その背景には、企業のビジネスアジリティーを加速させる取り組みとしてのDX対応が企業の成長を左右する状況になっている。実際、Fortune Global 500社のトップ10企業に25年前から名を連ねている企業は1社もない状況である。この傾向はさらに加速しておりデジタルディスラプションといわれるデジタルによる既存の者を破壊するような革新的なイノベーションにITエンジニアが重要な役割を果たす時代となっている。そのため製造業も積極的にソフトウェアエンジニアの採用や育成に力をいれている。このようにソフトウェアエンジニアの重要性は、更に増しているが日本においては人口減少が今後進むこともありITエンジニア不足がさらに加速されると予測される。そこで、ITエンジニア育成につながるプログラミング学習について学生から社会人へ広く裾野を広げ、その対象毎にそれぞれの特性を活かしたリメディアル教育手法を用いた産学共同研究を近畿大学と実施した。社会人は、IT未経験者を対象として学生は、経営学部の学生を対象としたロボット教材とビジュアルプログラミング言語によりコースウェアを設計し検証を実施した。本論分では、この産学共同研究におけるリメディアル教育手法を用いたIT人材教育の有効性について論ずる。
山口 敦史
レガシーシステムのモダナイゼーションにあたっては、従来の開発プロセスとは異なるアプローチを取る場合があり、想定されるリスクや対策も異なってくる場合がある。筆者も大規模なモダナイゼーション案件のプロジェクト管理を担当しており、プロジェクト開始前の提案にあたっては、複数のプロジェクト方針をユーザとの間で合意した。具体的には「直感的で使いやすいUI/UX」「マイクロサービス化」「クラウドインフラの採用」「アジャイル開発の導入」などである。本稿では、大規模モダナイゼーション案件を開始するにあたり、所与の要件やプロジェクトの特徴を踏まえ、プロジェクト計画作成時に検討した開発プロセスとリスク対策、および先行開発を通じた実践の結果についての事例を報告する。
井上 明彦
DX推進が行われていく中,金融機関においてもレガシーシステムからの脱却を図っている.営業店システムのインフラ構築においては要員の少人数化や短納期化の傾向にあり,いかに効率よく作業できるかがポイントとなっている.インフラチームでは自動構築の活用に取り組んでいるものの,取り組んだ知見を各プロジェクトに共有するまでには至っていない.その根本として「構築の自動化を行うメリットが少ないと考えられている」「パラメタ確認やテストで自動化が行われていない」「標準ツールが存在しない」という課題がある.取り組むべき施策は「構成管理ツールを用いた構築自動化」「パラメタ確認やテストの自動化」「標準ツールの制定」である.
小境 彩子,中島 雄作
毎年,IPAは「情報セキュリティ10大脅威」という資料を公開している.2022年における個人と組織向け脅威のトップ10について,ITシステムの運用PMは対策を常に考えなければならない.例えば,組織向けの6位に「脆弱性対策情報の公開に伴う悪用増加」がある.ソフトウェアに脆弱性が発見され,パッチや回避策が公開されたものの,そのパッチを適用するか回避策を講じるまでにはいくらかの時間が掛かり,この未対応の時間に存在する脆弱性を攻撃されることが増えている.脆弱性とOSS利用についての現状,近年のOSSの脆弱性に関するインシデント,運用における効果的な脆弱性対策,OSS活用における脆弱性対策事例について解説する.本稿では,サービス運用における脆弱性対策に関する一考察について述べる.
小形 絵里子,吉積 一斉,吉田 敏之,南部 俊弘,飯田 貴史,鈴木 勝,大倉 聖一,中島 雄作
筆者らは,システムプラットフォームを主な事業領域とするSIerであるが,一部,建設工事部門も存在する.当部門は,データセンターの設計・建設工事・保守運用・コンサルティングを事業領域としている.近年,ヒヤリハットの事例が複数見られ,未然に,作業ミスが発生しないよう作業品質改善活動を展開することとした.従来は,工事前に工事関係者と有識者を招集し,リスクチェックシートを元にして作業手順書に漏れや誤り等が無いかレビューをするのみであった.そこで,建設工事部門に加えて全社PMO担当と情報セキュリティ推進担当が共同で,筆者が独自に開発した時系列化思考フレームワークとSAFETYフレームワークと,世の中にあるヒューマンエラーの要因解析をするための理論を組み合わせて,建設工事部門における新たな作業品質改善フレームワークを考案した.直近のサーバー撤去工事の計画段階で前記フレームワークを用いることにより,実際の工事において,作業ミスはおろかヒヤリハット事象も皆無であり,非常に高度な作業品質を達成することができた.本稿では,建設工事部門における作業品質改善活動の一事例について述べる.
中島 雄作,住谷 多香絵,神崎 洋,小豆澤 亨,木村 和宏,中村 仁之輔,大槻 義則
ヒューマンエラーの予防については,数十年前から多くの文献が公開されている.しかし,工事現場,工場,交通,病院,調理等に関するものが多く,IT企業のSE,営業,スタッフ等のホワイトカラーに関するものはほとんど公開されていない.我々,基盤プラットフォーム分野を主に展開する企業,つまり,基盤エンジニアと営業部門とスタッフ部門が多く在籍する企業での,ヒューマンエラー対策を推進する際の,苦労している事例を紹介する.
松村 陽子,安田 有志
次世代リーダーの育成の方法は,様々なプロジェクトへの配置による経験やOJT,座学を中心としたOff-JTなどと多くあるが,その中でも座学を中心とした研修を手段として,若手の能力を向上させた取り組みについて紹介する.対象者は,通常システム開発のプロジェクトリーダーを担っており,受注プロジェクトにおけるQCD遵守を得意とするミドルマネージャー手前の若手層である.この研修においては,プロジェクトの範囲でのみ物事を考えがちな思考を抜け出すため,顧客を取り巻く外部環境の変化へ「視野」を広げる,自プロジェクトや担当から会社や業界,社会へ「視座」を上げる,複数年に跨る中長期的な長い「視線」を持つという3つの点に焦点をあてて実施している.この実施効果の検証のため,外部の人材アセスメント結果を活用しているが,その結果において不足する能力を特定し,新たな打ち手を実施,その後のアセスメントへと繋げるという取り組みを行った.本稿では,このようなPDCAを回すことによる次世代リーダー育成の有効性今後の課題について述べる.
古川 夏帆
大規模プロジェクトの運用設計はプロジェクト全体の計画はもちろん,各チームの計画や進捗に大きく左右される.新システム構築前に運用保守を担当している別会社を含めたステークホルダーマネジメントやスケジュールマネジメント観点での運用設計の実例紹介やより良い進め方の提案を行う.筆者が参画したプロジェクトは運用設計のチームを2つに分け、役割分担をした.その背景と実績を紹介する.また、サービスイン日が2回延期されたことによる運用設計への影響と対応について実践した内容を検証し、考察する.サービスイン後、運用の引き継ぎのために組んだ特別保守体制についても紹介する.
橋爪 裕介
プロジェクトマネージャは計画から品質確保まで幅広い作業を行う責任者となり,プロジェクトマネージャの行動はプロジェクトの成功可否に大きく影響する.プロジェクトの形態により,プロジェクトマネージャに求められるスキルや役割は多様であるが,プロジェクトおよびその事業を成功させるためにはプロジェクトメンバーがプロジェクトおよびプロジェクトを牽引するリーダ(プロジェクトマネージャ)に協力的であることが不可欠である.本論文では心理学の分野で研究された人間が要求を承諾する際の動作パターン「返報性」「一貫性」「社会的証明」「好意」「権威」「希少性」をもとに,プロジェクトメンバーを協力的とするために必要なリーダの行動やプロジェクトマネジメントにおける工夫について考察した.
永嶋 啓章
昨今はシステムが複雑化しており基幹システム刷新のような大規模プロジェクトでの一括システム導入はリスクが高いことから段階的に導入する案件が増えている.フェージングされた段階的なシステム導入の場合,次段階のシステム導入時に前段階で導入済みのシステム機能に影響がないことの品質担保が求められる.一括導入と比較して,段階的導入の場合はリグレッションテストの工数が累積的に増加するため,後続段階のシステム導入規模抑制と品質維持に関してテスト効率化が鍵となる.本稿では,基幹システムを業務領域でフェージングし段階的に導入したプロジェクトでのテスト効率化の経験を事例として,テスト自動化の効用とその反面で自動化することにより発生した課題を論じ,プロジェクト計画作成時の考慮点を提案した.
渡辺 由美子,磯 英樹,北條 武,三角 英治,佐藤 慎一,中島 雄作
NTTデータでは約20年前からメンタリング手法に着目し,PM育成の研究及び実践を行ってきた.その流れを受けて,約10年前からNTTデータユニバーシティとNTTデータ品質保証部が事務局として,このPMメンタリングの運営を行ってきた.FY2019から筆者らは事務局として参画してきた.「ブランド力強化」と「共に成長」を運営方針に掲げた.進捗や実施状況を可視化し,課題をキャッチアップし,イベントや情報を提供する等,参加者のニーズにあった運営を行ってきた.また,2020年のコロナ禍によるオンライン化への移行という予期せぬ事態にも対処した.本稿では,PMメンタリングの育成効果を高める運営に関する一事例について述べる.
小玉 寛
アジャイルの実践については,スクラムの運営など,プロジェクトのコミュニケーション計画や運営を大きく変える必要のあるものも多いが,プロジェクト憲章のアジャイル版とも言われているインセプションデッキは,アジャイルのツールの中でもプロジェクトでの利用・導入が比較的しやすいツールになっている.筆者は2022年に別サイトで実施している運用業務を仙台のセンターに移管するというプロジェクトを担当したが,そのプロジェクトの中でインセプションデッキを作成し,各ステークホルダーと,目標の共有,リスクの特定,優先順位付けの方針策定,メンバーへの期待値の認識合わせなどを行った.本稿ではインセプションデッキをプロジェクトで利用した経緯とその効果について述べる.
山田 知明,岩城 侑,赤塚 宏之,吉井 稔晴,荻野 貴之,宮崎 正博
近年,デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて,基幹システム刷新やデータ活用の需要が高まっており,複雑化・ブラックボックス化した既存システムの刷新のような高難易度のプロジェクト(PJ)を遂行できる高度 IT 人材(プロジェクトマネージャ)が枯渇している.弊社では,プロジェクトマネージャ(PM)の人材像を定義し,それに向けた育成や認定を実施するPM育成制度を策定している.しかし,従来のPM人材像定義は計画に沿ってPJ遂行するマネジメントスキルに着目しており,高難易度PJに求められるPJ目的や方針策定のような方向性を指し示すリーダシップスキルの観点の強化が必要であることが課題であった.この課題に対して,PJの新規性や構成要素の観点で昨今のPJを分類し,従来のPM人材像で定義したマネジメント面に加えてリーダシップ面を具体化することでPM人材像を再定義した.これをもとに育成施策を検討し,リーダシップ面も考慮したPM育成制度に改定した.本稿では,PM育成制度の改定内容やその実践結果,今後の展望について述べる.
竹嶋 宏亮
開発業務だけでなく、自動化検討から運用業務をアジャイル開発手法のスクラムで業務する事例
河村 智行,野口 晴康,鷲谷 佳宣,当麻 哲哉
日本の多くの企業が,デジタルトランスフォーメーション(DX)による成果を十分に得られていないと言われており,DXを効率的に推進できる能力の獲得が求められている.能力の獲得には,まず企業が実践出来ていない活動を理解することが重要であり,そのために診断ツールの活用が一般的である.しかし,診断ツールの多くが比較的規模の大きな企業を想定しているケースが多く,活動範囲が限定される中小企業などの組織には過剰な診断内容となっていると考えられる.本研究は,中小企業にも適したDX診断手法を調査・試行し,その有効性を確認することを目的とする.DX診断手法を調査した結果,診断範囲を柔軟に調整できるDX-CMMが中小規模の組織に適していると判断した.DX-CMMを日本の中小企業に適用した結果,必要な診断範囲に絞り込むことで「診断作業の無駄が減らせる」,「課題を深堀り出来る」などの利点が確認された.DX診断の1事例として同様の課題を抱える組織の参考になること期待する.
豊島 直樹
2022年度当社において数多くのシステムがハードウェアやソフトウェアの老朽化を迎え,様々なシステム移行プロジェクトが発足された.1つは中枢の基幹系システムをパブリッククラウドに移行する大規模プロジェクト.1つは一部の部門システムを素早く,少数精鋭で最小限のコストで移行を行った小規模プロジェクト.筆者においては,それぞれのプロジェクトにおいて全体移行の取りまとめを行い,移行当日の運営,移行後のシステム稼働状況の経営報告などを行った.大規模プロジェクト参画の実績を評価いただき,後続の小規模プロジェクトでも同じ移行取りまとめを行ったわけであるが,大規模プロジェクトの参画直後であったため,直前のノウハウを駆使すれば簡単に業務を遂行できると自負していた.ただし,蓋を開けてみれば,自身の必要な工数,労力を始め,移行品質,直前で見つかった課題など,小規模プロジェクトの方が数が大きい結果であった.様々な視点にて両プロジェクトの結果を振り返り,事例を踏まえて考察したことを本稿にて述べる.
畠 俊一
クラウド環境へ既存システムを移行するプロジェクトが年々増加している.このシステム移行プロジェクトでは,オンプレミスからオンプレミスへ移行する時とは違った視点が必要になる.この視点がないことでプロジェクトがトラブルに見舞われることがある.また「現行通り」という要求仕様を実現するため,安直にクラウドリフトした結果,運用フェーズで想定外の事象(コスト高,レスポンス性能低下)が発生し,結果オンプレミスの環境へ戻すということも起こりうる.こういったケースに陥らないための工夫として,クラウドをベースにしたアーキテクチャの考え方,お客様の理解促進,「現行通り」にはならない変更点などクラウド環境へシステム移行する際の考慮点について整理・考察する.そして,これら考慮点をリスクとして捉えて適切にマネジメントすることでプロジェクト品質の向上を目指す.
片峯 恵一,梅田 政信
ソフトウェア技術者は,自らの能力を定量的に計測し,継続的に自己改善できることが重要であり,そのためにはソフトウェアプロセスの技術が有効である.九州工業大学では,2007年度から米国カーネギーメロン大学ソフトウェアエンジニアリング研究所で開発されたパーソナルソフトウェアプロセスを大学院生向けに教育してきた.その結果,多くの学生はソフトウェアプロセスの重要性を理解し,その成果をデータとして示してきた.しかし,学習負荷が高いことなど幾つかの問題が明らかとなっていたことに加え,コロナ禍による遠隔授業の導入や改組による講義時間の短縮などの環境の変化により,従来の方法での実施は難しくなってきた.そこで,プログラム内容と実施方法を修正し,大学院生のコースに適用することによって,効果や改善点について考察する.
小野 久子
日本では人口減少が加速し,労働人口の減少や人材不足が叫ばれ続けている.現在もIT人材が枯渇した市場環境が継続しており,2030年には80万人のIT人材不足が見込まれると言われている.そのような労働人口状況から,女性労働力への期待が高まり,女性活躍推進活動が政府主導で行われてきた.諸外国から遅れをとっている日本のDX推進において重要な人材であるプロジェクトマネージャーの育成は極めて重要な事項の一つと言える.そこで本稿では,筆者が過去所属した団体で,女性プロジェクトマネージャーの活躍を阻害する要因について研究した際の内容と,厚生労働省発行の「働く女性の実情」などをもとに考察と提言を行い,プロジェクトマネージャーを増やす取り組みについての事例報告と助言を行う.
七田 和典
近年, IT技術の急速な発展により次々に新たな製品やサービス,ビジネスモデルが生まれており,デジタルトランスフォーメーション(以下DX)の時代だと言われている.DXの時代で企業が生き残っていくためには不確実性が高い創造や変革を実現する必要があり,新規性・難易度の高い要件の実現や新技術・新製品への対応が求められるDXプロジェクトが多く発生している.特に大規模DXプロジェクトをウォーターフォール開発にて進めるケースにおいてはプロジェクトの下流工程において新規性や不確実性に起因する問題が顕在化し,プロジェクトの進捗に影響を与えるリスクが高い状況となっている.本稿では大手金融機関のプロジェクトの事例を交え, DXプロジェクトのリスクに対応するためにアジャイルプラクティスを導入したプロジェクトマネジメント手法の適用効果を考察する.
吉岡 直紀
現在,システムインフラ構築プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメント手法において,アジャイル形式を採用しているプロジェクトは少ない状況である.キンドリルジャパンのお客様にご協力いただき,システム構想からテストまでのフェーズにおいて,アジャイル(スクラム)を効果的に活用する方針でプロジェクトマネジメントを実施したが,プロジェクトプランニングの作成,プロジェクト予算の作成,進捗管理,完了基準の設定等に非常に苦労した.その解決方法としてハイブリッドなプロジェクトマネジメント手法が一番望ましいという考えに至った.本論文では,その背景と課題について共有し今後のプロジェクトマネジメントの参考となる教訓を共有する.
富田 幸延
あるPMがPMO責任者として,開発や運用保守の品質モニタリングを行い,啓蒙,啓発,開発プロジェクトの問題化や重大システム故障発生時の消火活動にも貢献している.彼は,システムエンジニアやPMの経験も比較的豊富である.しかし,他のPMと彼の違いに,IT技術者以外の経験の有無がある.社内においては企業法務,社外では金融機関,居住するマンションの管理組合理事に従事したり,震災復興ボランティア活動に参加した経験もある.彼が,一見SEとは関係ない経験から,PMO施策のアイディアを出して実践し,成果を挙げている.そこで本稿は,彼の多様な経験とPMO技量への貢献について紹介する.
佐藤 慎一,山田 博之,井上 真男,西尾 幸佑
あるシステムで障害が発生した際に,同様の障害を予防するために他システム横並びでの点検がよく実施されるが,概してこのような点検は,システム安定運用に向けたすでに取り組んでいるシステムにとっては負担感が強く,単に故障原因に対応する点検項目に沿って点検するだけでは,効果的な点検が行えない懸念がある.当社では,前年度発生した障害の再発予防に向けた全社的な横並び点検を毎年実施しているが,点検項目に,単に再発防止の観点だけでなく,現状からの改善を意識した観点を含めることや,点検観点の意図や確認すべきポイント,点検の起因となった障害事象の詳細情報などをあわせて示すことで,単なる再発防止だけでなく,システムにおける障害予防に対する意識向上や改善の気づきを促すことを意識している.これまで数年間本取組を実施しており,障害発生予防だけでなく,障害予防に向けた改善の気づきを得られたとの結果が得られている.
楠森 賢佑,三角 英治,佐藤 慎一
当社では,QMSの適合性及び有効性評価のため,内部監査を実施しており,プロジェクトマネージャ(以下,PM)やITサービスマネージャ(以下,SM)に対する育成の機会として,PMやSMを監査員に任命している.監査員はシステム開発・サービス提供のプロセスを理解しているため,他組織のシステム・サービスに対する監査を適切に実施できている.しかし,監査員と監査される組織(以下,被監査者)の双方にとって監査をより有意義な活動にすることが課題であった.そこで,課題解決の要素として,監査を通じた監査員と被監査者間での実態に踏み込んだ情報・意見交換があると考え,情報・意見交換に関する特定のテーマを設定し,それを促進するツールとしてオープンクエスチョンシートの活用を考案した.情報・意見交換に関する5段階評価の満足度平均は,監査員が4.4,被監査者が4.2であり,双方にとって有意義な活動となった.
南 圭介,森本 千佳子
演劇とは,俳優が舞台上で身振りや台詞などにより,物語や人物などを形象化して演じ,観客に見せる芸術のことであり,一般的に総合芸術と言われる.そのジャンルは幅広く,いわゆる商業演劇や小劇団演劇,市民演劇や学生演劇など様々な形態がある.総合「芸術」と言われるがゆえに,その創造環境はアーティスティックな側面が強調されがちである.また制作母体も劇団のような固定集団の場合と,作品ごとに人が集まるカンパニー形式など様々な形態があり,ノウハウの蓄積が難しい分野ともいえる.一方で,演劇の制作は公演日・予算などに制約があり,非常に多くの人が関わる「プロジェクト」であり,プロジェクトマネジメントの手法が十分に適用可能な世界である.しかしその制作プロセスは,勘と経験と度胸(KKD)手法を中心とした手作りであることが多く,業界としての健全性のためにも社会的成熟が期待されている.本稿では,演劇制作のプロセスを整理する第一歩として俳優視点での事例を紹介する.
田中 良治
デジタルトランスフォーメーションを迫られる企業が,これまでのビジネスモデルを変革した新たなビジネスモデルとして同業企業との人的協業から,異業種企業とのデジタル技術による共創に挑戦した弊社の取り組みを題材としました.具体的には,金融サービス他を組み込んだフィンテックアプリサービス開発プロジェクトです.筆者には長年にわたり金融機関(特に銀行)の提供する対顧サービスアプリ開発経験がありました.が,その経験値で蓄積し,活用してきた生産性指標を大きく超越して,サービスローンチを実現できました.その実現実績をもとに振り返りを行い,実施施策の効果分析を行いました.多くの企業でデジタルトランスフォーメーションが迫られる中,その実現においては,厳しいスケジュール要件はついてまわります.また従事できる人材も潤沢ではない,まさにAs a Startupとして新規事業を起業し,新サービスを実現できたその要因を探りました.限られた人材と時限の中で高生産性を実現した要因を考察し論じています.
鏑木 智也,鈴木 賢一郎,安部 裕之
AIの性能向上により,適用範囲が社会的に高い信頼性が求められる領域に広がってきたことで,適用にあたって求められる視点が社会的,倫理的なものに広がっている.しかしながら,AI活用によるトラブル事例では,特にAIの適用そのものが倫理的に不適切,社会から受容されない事例が増加している.倫理・社会受容性に対する配慮不足は,その企業に対する急速なレピュテーション低下を招き,その影響は1つのプロジェクトに留まらず事業レベルの損失のリスクがある.こうした問題に対して各国ではAIの適用に対して法規制の動きもあるが,日本ではまだその動きは見られず,企業には自主的なリスクマネジメントが求められる.本稿ではAIリスクの最新動向とそのリスクマネジメントにおける3つの要点を示す.
桜井 貴幸,打越 恭平,桑野 凌介,三原 拓也,岡村 龍也,加藤 潤,鈴森 康弘
一般的にエンタープライズ向けのシステム開発においては,市場の求めるタイミングや競合優位性獲得のため早期のローンチポイントを設定し,それまでに「作りきる」ことが必達条件である.その為には高い非機能要件を満たしつつ,プロジェクトをドライブしていくことが非常に重要である.一方で現在のビジネス状況は,デジタル技術の進歩を背景としてスピード感を持って対応していくことが求められており,そのための開発手法として「アジャイル開発(注1)」が広く採用されてきている.このような不確実性が高いビジネス環境でサービスを継続的に成功させる為に,SRE (Site Reliability Engineering)というOps実現のプラクティスが採用されてきている.本稿では,エンタープライズ向けアジャイル基盤における統合マネジメント,コミュニケーションマネジメント,スケジュールマネジメントに関する知見と,そこから見えてきた改善点及び対応策に関して言及する.
依田 玲央奈
Apache BigtopはHadoop 関連ソフトウェアのパッケージングやインテグレーション・テストをおこなっているオープンソース・ソフトウェア(OSS)であり,近年重要性が高まるなか,NTTデータも積極的に修正・改善活動へ携わっている.本論ではApache Bigtopのプロジェクト概要や,どのように修正・改善活動がなされているかについて紹介した上で,プロジェクト運営に関する改善について,2022年度の取り組みをもとに紹介・考察を行う.
ラナヴィーラ ラヴインドラ サンダルワン,小林 佑輔,井村 太一
気候変動問題を解決するための国際枠組みであるパリ協定の実現に向け様々な活動が活発的に行われている.日本政府は2050年のカーボンニュートラルの達成を掲げており,その実現に向けては企業が果たす役割が大きい.より環境負荷が少ない,排出量が少ない製品が今後ユーザに好まれる傾向にあり,透明性のある一貫した製品別排出量算定が必要になる.製品別排出量算定には,サプライチェーン全体から排出量データを収集すること必要である.本論文では,サプライチェーン全体から排出量データを収集する際の課題について説明し,考えられる解決策について考察する.
藤澤 朝香,田中 俊介
近年,ICT領域において利用可能な技術は急速に増加しており,どれだけ早くそれらの技術を習得,検証,実ビジネスに応用できるかが企業の経営戦略においても重要課題になっている.そのような背景のもと,NTT DATAでは,グローバルに点在する先進顧客に対して先進技術をより早く展開することを目的として,国内本社と海外協力会社が連携するグローバル組織を立ち上げた.当該グローバル組織では,世界各地の個々のチームが行う,先進技術の発掘・調査・実証実験を「グローバルイノベーションプロセス」として整理した.グローバルイノベーションプロセスを管理する上では,各フェーズにおける評価基準と指標値を検討した.本発表では,グローバルイノベーションプロセスのための指標値モニタリング基盤の設計・開発・運用というシステム開発プロジェクトの事例について報告する.
安河内 静,山谷 彬人,梅森 直人,三浦 広志
NTTグループが全社一体となって推進するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向け,当社NTTデータではあらゆる外部パートナーとの技術実証から事業導入推進までを支える技術検証環境としてテストベッドを整備している.昨年,NTTグループのある組織の研究成果からビジネスを創出することを目的として,世界各国のNTTグループが参加するハッカソンが,当社が提供したテストベッド環境を用いて行われた.筆者らは,運用者の立場からハッカソンで発案されたアイデアの実装環境としてテストベッドを提供すると共に,利用者の立場からハッカソンに参加し,テストベッド上でアプリケーションを実装した.本稿では,ハッカソンのためにテストベッドを整備する際に直面した運用者目線での課題および知見を報告する.具体的にはセキュリティを担保した上で利用者に活用の自由度を持たせるために検討した技術的な工夫点を述べる.また,ハッカソンに参加することで得られた利用者目線での課題および知見を報告する.具体的にはテクノロジードリブンで社会課題を解決する際の効果的なアプローチ方法,世界各国のNTTグループの社会課題に対する取り組み姿勢,知の創出の場としてテストベッドを活用することの将来展望を述べる.
遠藤 貴紀
近年,DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として,基幹系システムの刷新に取り組むプロジェクトも多くなっているが,一から自社で作りこむスクラッチ開発で構築した基幹系システムであっても,刷新にあたってはグローバル展開されているパッケージ製品を利用し,早く,安くシステムを導入することがトレンドとなっている.パッケージ製品を利用したシステム導入には,パッケージの製品仕様に合わせた業務の標準化が必要となるが,スクラッチ開発で構築された現行システムの仕様が複雑であればあるほど,業務標準化の検討も複雑になり,現行仕様を踏襲したい要件も増加する.そのような要件はアドオン開発で対応せざるを得ないがアドオン規模が増大すると,安くシステム導入ができるパッケージ適用のメリットが失われてしまう.そのような事態に陥らないためのスコープマネジメントについて検討する.
北村 正和
発注側と受託側の目的・ゴールは同じだが,受注段階で双方が抱いているスコープや仕事の進め方には食い違いがある.そのギャップを確認・共有し,軌道修正する最初のチャンスが立ち上げフェーズであると認識しているにも拘わらず,疎かにしているケースがほとんどである.その理由は,成功事例を基にしたガイドラインやベストプラクティスがなく,そこに時間を掛けることの意義やメリットが浸透していないためだと推測する.本稿では,その重要性を再認識して頂くことを目的に,立ち上げフェーズにおいて顧客との合意形成や関係構築に力を入れたプロジェクトとそうでないプロジェクトで,その後の進め方にどのような影響が出たかを紹介し,その重要性を考察する.
栗城 信明
昨今,アジャイル型での開発は分野を問わず,さまざまな業種で適用の検討が行われている.IT業界においても初期開発からアジャイル型で行う開発やウォーターフォール型で開発を行っていたものをアジャイル型の開発に変更することを検討する取り組みが進められている .アジャイル型の開発を行うためにはアジャイル型とはどういう手法であるかを理解することやアジャイル型の開発を実行する上での環境準備が必要不可欠であり,そのためには人財育成を計画立てながら 推進していくことやアジャイル型の開発に必要なツールなどの理解が重要である.A社のプロジェクトにおいてもアジャイル型の開発を行う組織作りを推進しており,アジャイル型での開発経験やPMOの経験が無い状態ではあったがアジャイル開発組織内においてPMOの一員として当社は参画した .A社のプロジェクトでは,ウォーターフォール型で開発を行っている各々の開発チームをアジャイル型での開発 に変更していく取り組みを行っていく過程で課題が山積みになっていた.本稿では,アジャイル型での開発が未経験の状態でPMOの一員として参画し,課題解決に向けて取り組みを行った際の気付きについて述べる.
斉藤 俊介
現在,企業が運用しているレガシーシステムは改修が多岐に渡り,複雑なプログラム構造になっているものも少なくない.また,システム自体もハードは汎用機からオープンプラットフォームへの移行が必要となってきており,ソフトも古いOSやアプリケーションを使用しているため,サポート期限が迫っているものもある.このような中でマイグレーションニーズは高まってきており,市場規模も2021年で433億円,前年比125%と伸長している.当社ではすでに2002年3月よりマイグレーションサービス事業を開始し,これまで200件以上(140MStep)の実績を積んできた.マイグレーション後のテストの大半は現行システムと新システムのアプリケーション実行結果を比較検証(以下,現新比較検証)するものであるが,テスト範囲が広範囲であり,ブラックボックスによるテストであるため,工数が膨大になる傾向がある.そのため,当社ではこの現新比較検証作業をサポート対象外とし,原則顧客で対応してもらうようにしてきた.しかしながら,昨今顧客からの現新比較検証作業のニーズが高まってきていること,レガシーマイグレーションの市場規模は伸長してきていることから,現新比較検証作業をマイグレーションのオプション機能としてサービス化することにした.サービス化の実現にあたってはA社のマイグレーション案件の現新比較検証を弊社で受注した際に,作業ごとにサービス化を検討し,ツールによる効率化を図ることで検証を行うことにした.これにより,現新比較検証サービスを実現し,A社の作業もツールを活用することで効率化できただけでなく,人的ミスも減少し,品質を確保した上で納期通り本番リリースを行うことができた.また,当社のマイグレーションサービスのオプションサービスとして現新比較検証サービスを追加し,競合力のあるサービスとして提供できるようになった.
住谷 多香絵,岡本 直樹,尾高 知宏,山野 大佑,中島 雄作
近年,サーバ,データベース等はオンプレミスでなく,パブリッククラウド上に環境構築することが主流である.筆者は新卒2年目ではあるが,ある案件のクラウド構築の環境設定作業と単体試験工程に限定したミッションリーダを任された.1回目の構築ではヒューマンエラーによる設定ミスが多発した.そこで,ヒューマンエラーの12分類を参考にして改善活動を行い,2回目の構築ではヒューマンエラーによる設定ミスを92.3%削減することができた.本稿では,クラウド構築におけるヒューマンエラー削減活動の一事例について述べる.
石川 武人
各開発プロジェクトにおいて,スコープの不明確さに起因するトラブルが後を絶たない.特にプロジェクト初期段階(要件定義工程~基本設計工程にいたる上流工程)において,顧客及び各ステークホルダーとのコミュニケーションがコスト,スコープを明確に確定するために特に重要であるにも関わらず,顧客の実現したい機能の本質を導き出せず,後々のトラブル起因となっている.この様なトラブルを回避しプロジェクトを成功に導くためには,顧客体制上のキーマンと立場を理解した上で適切なコミュニケーションが重要であると考える.私は、2つのユーザが経営統合を行う際のシステム統合のプロジェクトマネージャーを担当した.本論文は,そのプロジェクトの中で特に重要であった要件定義及び基本設計について、両ユーザとのコミュニケーションを通じて実践したことを分析し課題,成果として纏めたものである.
福田 徹
プロジェクトマネジメントで採用するプロセスには幾多の普遍的な方法論があり,多くのITベンダではこのプロセスを育成・発展させながら改良を続けていく必要がある.しかしながら,有期で繰り返される各々のプロジェクトには事実上多くの特異性があり,王道とされるものは存在しない.これは,システム規模が同等であったとして,顧客特性や業務形態,公共利用範囲に伴うミッションクリティカルとなる重要性の差異によってマネジメントの質と範囲が大きく異なる.こうした個別特性や属人的になる傾向のある重要なマネジメント思考と観点を,可視化されたプロセスに反映し組織展開することは容易な活動ではない.事業面積拡大に伴い,領域を広げたマネジメントを行うためには,これらのノウハウを余すところなく後進に伝授し,育成に注力することが肝要であり,自身の上位マネージャとして取り組んだ組織活動を事例と共に紹介し,一考察を述べる.
柳沢 満,吉村 直人
当社では,ソフトウェアドキュメントの作成工数削減,ソフトウェアプロジェクトの全体の品質と開発生産性向上を目的に,ソフトウェアドキュメントの曖昧表現と誤表記を機械的,網羅的に検出するドキュメント検証ツールとそれを利用したドキュメント検証サービスの社内展開を推進している.本稿ではドキュメント検証サービスの導入支援活動と適用領域拡大の事例として,著者の所属する自治体向けパッケージソフトウェア開発部門と共著者の所属する部門で体制を組み実施した,ドキュメント検証の評価結果について報告する.ドキュメント検証ツールを使って大量に出力された検出結果について,有識者が振り分けた正しい用語を辞書に登録することで検出を抑え,誤りの用語を抽出しやすくすることで,開発者による工数削減を見込むことができる.
中浦 秀晃
システム開発プロジェクトにおける課題のひとつとして,上流の要件定義が曖昧のまま双方が合意,下流工程での後戻りや仕様の追加変更などにより,納期遅延やプロジェクトの中断等のトラブルの増加がある.昨今は顧客が承認した要求仕様通りに設計,開発を行っていても,要件や機能不足が原因で納期に間に合わず,システムを稼働できなかった場合,受託側ベンダのプロジェクトマネージメント義務違反を問われるケースがあり,損害賠償請求など裁判にまで発展することもあり,プロジェクトの最大のリスクとなっている.これは比較的小規模なプロジェクトでも複雑性の高い業務などは,顧客の全面的な協力体制は必要であり,業務の専門性の高い有識者がアサインされずに体制が不十分なままプロジェクトが進んでしまうことがプロジェクト失敗の主な要因でもある.本発表では,小規模なプロジェクトの事例をもとにプロジェクトが中断となってしまった原因,問題点などを考察し,その時,プロジェクトマネージャーとして何をすべきであったのか等,契約事項だけでは解決できないベンダ側の管理責任と顧客の協力義務について述べる.
池田 真也,齊藤 拓也,矢野 雄輝,松島 明美
当社では,ウォータフォール開発の品質をAI予測する手段として「出荷後バグ基準達成確率の予測」と,「FDレビュー十分性診断」を策定し,運用している.しかし,バグ数を直接AI予測して品質分析に活用する施策はまだ運用していない.そこで,我々が出荷後品質を担保するうえで特に重要と考える機能設計工程(FD)のウォータフォールV字モデルに対応する機能テスト工程(FT)に着目した.そして,当社の情報通信業領域データを学習データとし,プロジェクト計画値および実績値を基にFTバグ数を予測するAIモデルを機械学習(回帰)で構築した.また,そのAIモデルに説明可能なAIを適用し, AI予測値の主要因を特定する手段も構築した.本施策をプロジェクトで検証した結果,予測値を押し上げる要因は品質が悪い要因に,予測値を押し下げる要因は品質が良い要因になり得ることがわかった.そして,予測値を押し上げる要因を回避するアクションをとれば,予測した状況を改善できる可能性があることがわかった.
齊藤 邦浩
国内向けのアプリケーション開発において中国の低コスト人材を活用するオフショア開発プロジェクトが2010年代に増加したが,世界一位の人口を誇るインドでの開発事例は未だ発展途上と考える.筆者は国内向けアプリケーション開発プロジェクトにおいて,日本語が通じないインドメンバーとの協業を経験した.協業したインドメンバーは,英語コミュニケーション力に優れ,特定エリアのアプリケーション開発経験が豊富で,かつプロジェクトマネジメントの分野でも優れたスキルを保有しており,そのメリットを享受することができた.またインドと協業を行うことで,日本側メンバーの英語コミュニケーション力を高めることができ,メンバーのモチベーションアップにも繋がった.本稿はインド人材との協業メリットおよび協業の際の課題と対応策の事例をまとめたものである.
駿河 義行
ITプロジェクトにおける損益悪化原因は上流工程にて作りこまれる傾向がある.特に要件定義書においてスコープを明確化することが重要である.スコープの明確化のための解決策として,サービス仕様書を策定して,成果物スコープ,プロジェクトスコープを定義するという試みがなされてきた.これによりスコープの明確化および損益悪化の抑止に一定の成果を上げてきた.しかし,サービス仕様書の基となる要件定義書そのものの品質が悪い場合や,要件定義書を開発ベンダが正しく理解できていない場合は,サービス仕様書でスコープを明確化したつもりであっても,スコープギャップが生じる.スコープギャップの抑止のためには,基本設計工程前に要件確認工程の期間を設けることが効果的である.
宮本 翔一郎,周 蕾,田村 慶信,山田 茂
オープンソースソフトウェア(Open Source Software, 以下OSS)においてリリース後に発見されたフォールトは,アップデートで修正される.この過程は従来より,ソフトウェア信頼度成長曲線(Software Reliability Growth Model, 以下SRGM)を用いて示されてきた.一方,近年ではセキュリティ上の問題の修正および機能の改善等を目的としたアップデートを実施するOSSが存在する.このようなアップデートには,開発当初の要件定義に含まれない要件が含まれることも多く,新規のフォールトが作り込まれることがある.したがって,アップデートによるフォールトの増加を想定したSRGMが必要とされている.本研究では,フォールト数の増加を想定したSRGMを構築することを目的として,アップデートがSRGMに与える影響を分析し,アップデート前後のSRGMの推移について考察する.
出井 優駿,小林 義和,針間 正幸,吉原 秀幸,竹田 佳史,伊東 恒,秋庭 圭子
プロジェクトを成功に導くためには,過去の経験から教訓を得て,プロジェクト推進に生かすことが重要である.これまで我々は,プロジェクトのプロフィールから失敗の原因となり得るリスクを定量化し,スコア化することで,プロジェクト関係者へ注意喚起を促す活動を行ってきた.しかし,スコアを示すだけではプロジェクト関係者に危機意識を持たせ,過去の経験を活かすよう促すことが難しかった.そこで,過去プロジェクトのプロフィールを用いてクラスタ分析を行い,プロフィールの組み合わせと成功率の関係性を可視化した.これにより,進行中のプロジェクトと類似する過去プロジェクトの成功率を提示し,失敗する可能性が高いプロジェクトの関係者へ根拠のある注意喚起を行えるようになった.本稿では,行った分析の概要とその結果について報告する.
中島 雄作,大槻 義則,神崎 洋,小豆澤 亨,中村 仁之輔,木村 和宏
ヒューマンエラーの予防については,数十年前から多くの文献が公開されている.しかし,工事現場,工場,交通,病院,調理等に関するものが多く,IT企業のSE,営業,スタッフ等のホワイトカラーに関するものはほとんど公開されていない.我々,基盤プラットフォーム分野を主に展開する企業,つまり,基盤エンジニアと営業部門とスタッフ部門が多く在籍する企業での,ヒューマンエラー対策を推進する際に苦労している事例を紹介する.
四ッ橋 章匡,山本 元樹,前川 拓也,鈴木 健之,大倉 弘貴,中山 晃治,才所 秀明,飛石 健一朗
AIの躍進により,プロジェクト管理情報を元にしたプロジェクトトラブル予測が進んでいる.しかしながら受託開発においてはプロジェクト開始時点の情報が不足していることもあり,予測精度が確保できないという課題があった.本稿では,プロジェクト経験情報を元にしたプロジェクト開始時点でのトラブル予測を検証する.
山下 俊幸
PMBOK®第7版のプロジェクト・マネジメントの原理・原則の一つとして,協働的なプロジェクト・チーム環境を構築することがある.複数の組織が共同で進めるプロジェクトでは,組織間の文化の違いを踏まえて,プロジェクト・チーム環境の構築に取り組む必要がある.ネットワークに関連する人員がプロジェクト・メンバーであるプロジェクトに対するマネジメント経験はあった筆者が,システム・オペレーション拠点の複数拠点化に向けた先行プロジェクトをマネジメントした際に,オペレーション部門の人員にプロジェクト・メンバーとして参画してもらい,部門間を跨ったプロジェクト・チーム環境を構築した.プロジェクト現場の視点から,協働的なプロジェクト・チーム環境を構築するに当たっての気づきと考察を紹介する.
柴田 健一
システム開発の成功に向けては,各社員やチームメンバーが高いモチベーションを持って仕事に取り組むことは非常に重要な要素となり,モチベーションの低下はシステム開発品質の低下を招く要因になる.そのため,社員が高い意欲を持って業務に取り組めるように動機付けをし,組織的にサポートするモチベーションマネジメントの活用が必要不可欠である.モチベーションマネジメントの観点としては,いかに内発的動機付け(強制されたものではなく,自己実現によりもたらされる動機付け)をして,高いモチベーションを維持させるかが重要で,モチベーション維持のためにはモチベーションを下げる要因を特定し,それを排除することが重要と考える.本論文では,システム障害や開発プロジェクトのトラブルが継続的に発生している組織において,根本的な課題解決をしていくために取り組んだ各個人のモチベーション向上に向けた対応と成果を纏める.
久保 和寿
スマートフォンが事業や生活に台頭する現在,通信インフラの性能も向上し「第5世代(5G)移動通信システム」の普及が始まった.4Gが実現した高速・大容量を更に拡大し,低遅延・多数接続を特徴とする5Gには期待も高い.新規サービスの創成に取り組む多くの企業で5G導入プロジェクトが進んだが,製品は開発段階で性能が理論値に届かないなど,プロジェクトの成功は安易ではなかった.顧客の期待を裏切らないPMとして,アジャイル,OODA,アメーバなど手法の検討を行い,延いてはマネタイズ考慮の必要性を考察したスコープマネジメントの取り組みについて報告する.
角 正樹
プロジェクトマネージャ(以下PM)は経営戦略に適合したプロジェクトを円滑に遂行し,計画された最終成果物(納入物,サービス)を成功裡に提供する責任を担っている.プロジェクト遂行に際しては,さまざまなステークホルダの満足を達成しつつ,計画された品質,コスト,納期の実現を求められている.一人前のPMになるためには,単なる知識や一般的な方法論を身につけるだけでは不十分であり,実際のプロジェクトでの経験を積み重ね,判断力や決断力を身につける必要がある.判断力や決断力等の醸成には演習(討議,ロールプレイ等の疑似体験)が欠かせないが,限られた時間内で演習効果を高めるためには演習題材の選定が重要となる.筆者が企画・制作と講師を務める研修では,(1)研修受講者全員にとって同じ知識や経験を前提とした題材,(2)研修受講者個々の異なる知識,経験を前提とした題材を選定し,それらを組み合わせて演習を実施している.本稿では,演習題材の選定と演習の実施における工夫と配慮について紹介する.
小境 彩子,中島 雄作
筆者は,女性社員向けのコミュニティを立ち上げた.情報セキュリティ技術に興味がある女性を対象に,気軽に技術的な質問や何気ない悩みを話しあうことが出来る,会社内の組織の枠を超えたコミュニティである.本稿では女性限定コミュニティの運営について工夫している点を紹介する.結果として,IT技術領域における女性限定の技術コミュニティの普及につながることを期待する.本稿では,女性限定のセキュリティ技術コミュニティを運営するプロジェクトマネジメントの一事例について述べる.
内島 拓次
開発規模が10Mstepを超える大規模開発プロジェクトでは,開発期間が複数年に渡る場合が多い.発注者側の事業計画(予算,スケジュール)と,開発ベンダ側で考える実行可能なスケジュールには乖離があるケースが多く,そのギャップを埋めるための工夫と検討におけるポイントを考察する.COCOMOやファンクションポイント法などの一般的な指標で説得力のある交渉を行うとともに,発注者側の企画段階でどこまで関与できるかが大きいが,それ以降で開発規模の削減や開発期間の短縮が必要となった場合には,開発限界規模や目標となる指標を提示する必要が生じる.その実践にあたっての結果と考察を報告する.
渡辺 耕介,片寄 智之,椚 勇太,小山 誠,杉田 渉,三橋 彰浩,中島 雄作
NTT データグループでは,IT-SM 育成塾という,保守運用リーダ向けのメンタリング制度を運営しており,筆者らは,そのとある一グループである.筆者らが,保守運用の現場における改善テーマを討論したところ,リーダからメンバへの育成が多くの問題を抱えている共通課題であった.育成がうまくいかない原因は,教える側のリーダと教わる側のメンバとの,現場の改革に関する意識の高さ/低さの相違であることを突き止めた.そこで,最も困難な状態である「リーダは改革意識が高いのにメンバは改革意識が低い」場合について,ナッジ理論を活用した対策をとることにした.本稿では,ナッジ理論を活用した保守運用メンバの育成に関する一提案について述べる.
大方 信一
ウォーターフォール型の開発においては,類似開発の平均生産性を根拠としてスケジュールを作成することが多いが,この生産性は開発内容や個人のスキル等に依存して変動することが分かっている.この変動要素を計画当初に想定せずに,スケジュールを作成すると,個人ごと,チームごとに必ず遅延や待ち時間が発生してしまう.この遅延・待ち時間の問題が発生した後の対策検討では,対策が不十分になる可能性もあり,一時的に個別のチームメンバーの負担が平準化されていない状況になってしまう.本論文では,この問題を解決する方法を検討するために,あるプロジェクトをサンプルとして,変動要素についてどの程度の変動が想定されるのかを分析する.その後,この変動に対して,プロジェクト計画当初から取り得る対策を論じる.
八木 礼佳,藤田 晴樹,佐藤 裕介,清水 理恵子
近年,アプリケーションのレガシー化,ブラックボックス化が進み,複雑化したアーキテクチャの刷新が求められている.アーキテクチャの刷新は,新旧アプリケーションの知識や経験が必要となるため,開発効率の低下に起因したコストの増加やスケジュールの遅延が課題となる.我々が参画した大規模開発プロジェクトは,開発言語とアプリケーションの処理方式を変更する必要があり,現行アプリケーションの開発より開発効率の低下が想定されたため,開発効率の向上が求められていた.大規模開発の効率化については,先行研究で「必要な標準化が実施されたプロジェクトは開発効率が向上する」ことが分かっている.そのため,本プロジェクトでも必要な標準化成果物を準備し開発を進めた.また,現行アプリケーションからの開発言語とアプリケーション処理方式の変更に伴い,詳細設計工程で多くの課題が発生することが見込まれた.そこで我々は,詳細設計工程で利用する標準化成果物に記載する内容を検討した.本論文では,本プロジェクトで作成した詳細設計工程の標準化成果物の効果について考察する.
市岡 亜由美,清水 翔平,富田 満紀子,林 智定
社会生活の高度化/複雑化に伴い、これを支える情報システムも大規模化/多様化の一途をたどっており、その実現に際しては、高度かつ広範囲なノウハウを集約した大規模な体制の構築が必要となる。しかしながら、多様なノウハウを持った人材の確保等、様々な課題があり単独企業、単独組織では容易ではない。この様な問題に対する解決策のひとつとして、『コンソーシアム型』のプロジェクト体制の採用がある。これは多様なノウハウを有する複数の組織(企業や政府などの団体)が共同体を構成し、お互いを補完し合うことでプロジェクト全体を成功に導く事を目的としたものであり、各組織が自身の特色(得意技やノウハウなど)を発揮し易い点が最大のメリットである。一方、文化の異なる企業や団体の特性を活かしながら、プロジェクトを円滑に進める事は容易ではなく、単独組織によるプロジェクトと比較して、遥かに広範囲で、きめの細かいマネージメントが求められる事が大きなリスクである。本稿では、コンソーシアム型のプロジェクトにおいて、著者らが実際に直面したマネージメント上の問題と対策および、その効果について報告するとともに、今後のマネージメントに向けた提言を紹介する。
高橋 秀行,掛川 悠
近年,通信や金融分野の大規模ミッションクリティカルシステムにおけるトラブルが多発しており,その影響の大きさが問題視されるようになっている.時に社会活動を阻害するほどの影響となることもあり,迅速な対処や,根本原因に対する再発防止策の確実な実施が求められている.筆者が参画した大規模ミッションクリティカルシステムの炎上プロジェクトでは,商用トラブルが週3件以上発生している状況であった.短期目標は新規トラブルの発生低減,長期目標は再発防止策の定着だが,既に63件発生したトラブルを短期間で全て分析することは困難な状況であった.そこで,分析対象をサンプリングし,主になぜなぜ分析で個別トラブルの根本原因を導いた後,共通性を検討した.その後,(1)開発時のマネジメントや体制などから間接原因を検討し,(2)根本原因と間接原因の因果関係の検証をして,トラブル多発の妥当な間接原因を特定するまで(1)(2)を繰り返した.また,サンプリング対象外の個別トラブルは前述の分析に基づき類型化し,追加分析・対策の要否を判断した.本稿では一連の取り組みと効果測定,今後の課題について論じる.
加藤 尚輝
本稿では,テレワークが広まる現代において,プロジェクトマネージャーやチームリーダーが直面するテレワーク環境下でのプロジェクトの課題に焦点を当て,それらの課題を解決するための実践事例示す.テレワークによって生じるコミュニケーションの困難さ,タスクの追跡と管理の複雑さ,チームメンバーのモチベーション低下などの課題について,自身がプロジェクトを通して実践した改善事例を記載する.
影山 陽平
ITプロジェクトが混乱する要因としては,ステークホルダ間に跨る事項に対する認識の相違に起因するものが多い.アプリケーションソフトウェアの開発を伴うプロジェクトでは,見積もり時,契約交渉時,設計時など,各工程の断面で仕様やスケジュールなどステークホルダとの段階的に詳細な合意を図るが,人と人との関係においては個々人の解釈の違いにより,すべての事項について認識を完全に一致させることは困難であり,認識相違の顕在化が頻発するとプロジェクト混乱につながる.こうした問題を解決する,あるいは軽減するには,タスク・課題管理担当の設置し,各ステークホルダ間に跨る潜在的に抱える事項を表面化し,計画されたコントロール可能な状態でプロジェクト運営を行うことが効果的である.
佐藤 柚希,湯浅 晃
近年,様々な研究機関や企業によってAI開発に関するガイドラインや方法論が策定されており,AIが組み込まれたシステム開発における汎用的かつ網羅的なプロセスが定義されているが,実際の開発現場においては,網羅的なプロセス定義の中からプロジェクト特性に応じて必要なタスクを選定する方法がわからない等の原因により,標準類の定着に向けた課題がある.そこで筆者らは様々なAIを含むシステム開発のうち,主にBERT等のモデルをベースに学習を行い,REST APIの形で推論機能を提供する部分のシステムコンポーネントに焦点を当て,開発の上流工程に最低限必要な成果物とプロセスを定め,実際の開発プロジェクトに適用しその効果を検証した.本論文では,検討した成果物およびプロセスの内容とともに,プロジェクトリーダへのヒヤリングをもとにした効果について報告する.
新間 陽一郎
メンタルヘルス研究会では,「リモートワーク下のプロジェクト現場におけるメンタル不調を予防するには?」というテーマで毎月議論を重ねてきた.議論のテーマはコロナ禍におけるリモートワークなどの環境変化やメンバー間に存在する物理的な距離とは異なった仮想的な距離がチームマネジメントに及ぼす影響などであった.仮想的な距離が長くなると対象のメンバーは孤立感や疎外感を持ちながら仕事をこなしている状況である.この仮想的な距離を短くする取り組みとして,朝会や朝礼にて一言雑談というツールを活用する方策を2021年に紹介した.一言雑談はリモートワーク下でメンバー間のコミュニケーションの向上と健全なメンタルヘスルの維持を可能とすることが確認されている.本論文では,一言雑談に企業標語という明確なテーマを与え,メンバー全員が自発的に発言するコミュニケーションモデルを検討した.企業標語は日々変化するが月毎にループするキャッチコピーの集合体であり,変化するキャッチコピーに対してチームメンバーが個人の意見を毎日発表する環境を構築した.このモデルの活用は意見交換が闊達になるチームビルディングを可能とし,チームメンバーの健全なメンタルヘルスの維持と企業DNAの継承を同時に実現する取り組みであったことを紹介する.
加藤 光雄
プロジェクトを成功に導くには,事業部門(現場)とスタッフ部門(全社PMO)の両部門がプロジェクト計画を把握した上で,双方が情報共有しながら問題点を監視・フォローし,計画との乖離を抑止することが重要である.しかし,双方がタイムリーに情報共有することは簡単ではない.本研究では,事業部門によるプロジェクト計画立案の遅れやスタッフ部門による多数ある中小規模プロジェクトの状況把握の遅れに対して,BIツールを活用してプロジェクト状況を視える化することで,プロジェクト推進を円滑に行えるようにしたことについて報告する.
大山 健太朗
【背景・目的】当社ではローコード開発基盤Mendixを活用することで、社内システムの高速開発自体は可能となってきている。しかし、画面設計段階でのコミュニケーションロスや、UIコンポーネントの部品化などができておらず、開発現場で工数の無駄が見受けられた。デザインシステムを導入することでどのような効果があるかを本稿では明らかにする。【方法】実際にデザインシステムを活用して社内システムの開発をしたエンジニアにインタビューを行った。【結果】デザインシステムの導入によって、工数削減効果があるとインタビューから結果を得ることができた。【結論】デザインシステムを活用することで、画面設計・実装段階で工数削減効果が得られる。またUI・UXの品質向上などの数字に表れない部分での効果もある。
林 直希
近年,ビジネスの市場投入のスピードは加速している.このビジネスのスピードに知財創出のスピードもキャッチアップする必要があるができていない.特に特許創出活動において,この問題は顕著になっている.我々は特許創出活動に時間が掛かるという問題に着眼し,問題の本質とその解決策を見出したので,本論文で論じる.問題の本質は,発明に関する思考停止と呼ばれる状態に陥ることであり,その原因は発明者の心理的不安感である.この問題を解決する施策は,我々がサポータ制と呼ぶ施策である.このサポータ制は,心理的安全性(心理的安心感)を根幹とする施策である.またこのサポータ制の特徴は,発明者や我々担当者以外の冷静かつ客観的な第三者を特許創出会議に投入することである.その結果,特許創出活動において導入前の2倍のスピードアップを実現した.本論文では,このサポータ制のノウハウとその有効性について,脳科学の知見等を用いて多角的に分析した結果を紹介する.
高橋 新一
新システム構築やシステム更改を契機に,クラウド型システムを選択する機会が増えており,特に,オンプレミス型システムから,クラウド型システムへの移行が進んでいる.一方でプログラムマネジメントとして長期のシステム運用を考慮し,オンプレミス型システムとクラウド型システムでの違いや注意点を検討し,円滑な移行について準備を行うことが肝要と考える.そこで,本論文では,プログラムマネジメント観点でオンプレミス型システムからクラウド型システム移行の注意点を検討し,課題や考慮事項とその解決策について考察を行う.
谷元 久実子
アジャイルなど短納期,段階的な開発など,開発方法は様々な選択が可能となる一方,ソフトウェア等のライフサイクルにあわせ,一定間隔でシステム更改が必要となる事象は継続している.更改プロジェクトの多くは,一定間隔の更改後,法令順守,サービス拡大など改修を行った後,次の更改タイミングをむかえるというサイクルを繰り返し,保守体制の延長から,大規模更改プロジェクトに突入し,管理体制の不足や,有識者不足による品質低下,スケジュール遅延が発生する事例は多く発生する.本稿は,大規模更改プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメントの実践を事例研究としてとりまとめる.
條野 孝雄
近年,病院情報システムがサイバー攻撃によってランサムウェアに感染する事例が増加しつつある.病院情報システムにおいては,外部との接続に閉域網を使用するケースが多く,USBメモリやメールからのウイルス感染を防止するために,境界防御型のセキュリティ対策が一般的であるが,昨今のサイバー攻撃の事例を鑑みると,今後は外部からの侵入を前提としたゼロトラスト対策が必須課題となっている.サイバー攻撃からの復旧プロジェクトでのマネジメント経験を踏まえ,病院情報システムにおける情報セキュリティマネージメントの在り方について述べる.
溝渕 隆,三宅 敏之,仁尾 圭祐
システム開発プロジェクトにおいて,設計書に記載された機能仕様通りではあるもののユーザ受入テスト時に多数のエラー指摘を受けてしまうことに悩むプロジェクトマネージャーは多い.これはシステム開発ベンダによるテストが開発者視点テストに偏っており,ユーザ視点テストを実施できていないためであると推察される.ユーザ視点テストでは実際の業務オペレーションに従うことが求められるが,システム開発ベンダは業務オペレーション経験がない.そこで本論では,プロセスマイニング技術を活用することでベンダによるユーザ視点テストを可能とする手法,及び,ユーザ視点テストにおいてテスト密度・バグ検出密度に頼らない品質保証手法を提案するものである.
武田 嘉徳
2019年12月に初めて確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2020年2月から急速に世界で拡大し始め,2023年現在もまだ完全に封じ込められたとは言えない.新型コロナウイルスの感染拡大抑制を期待して,テレワークが推進されているが,全ての産業・業種で十分な活用は期待できるわけではない.筆者のプロジェクトは情報システムのITインフラ構築であったが,以前から対面式の会議が多く,急なテレワーク導入による混乱から,今まで友好な関係を築けていたステークホルダーとの関係が損なわれる場面があった.しかし,テレワークにおけるコミュニケーションと,会議におけるファシリテーションを見直すことで,関係を改善し,新たな契約を取り付けることにも成功した.本稿では関係の改善に至ったテレワーク下におけるコミュニケーションとファシリテーションについて,その影響と効果を評価する.
宮下 力丸
POSは,小売り店舗で必須のシステムであり,エンドユーザーが利用するシステムである.プロダクトの品質とリリーススケジュールが必達条件となり, ウォーターフォール型の開発でスコープコントロールしながらプロジェクト遂行する事例が多い.筆者が担当したA社は,クラウド上にアジャイル開発で構築中のAPIを活用した新たなシステム構成の実現を目指しており,定期的なサイクルでプロダクトを実際に見ながら製品を育てていきたい要望あり.対向システムがアジャイル開発を進める中,アジャイル開発未経験メンバーがプロダクトの最終品質と納期を確保する為に施行錯誤したウォーターフォール+スプリント開発の併用事例を紹介する.
山本 智基,華本 絢陽
近年の開発現場ではGit,CI/CDなど開発や管理を支援するツールが浸透し,開発業務に伴う開発行動データが自動的に生成,蓄積されるようになった.従来のプロジェクトマネジメントでは特定の管理目的で収集・投入される管理データが利用されているが,管理データは粒度が粗いうえに新たな収集にかかるコストも高く,状況の詳細把握や問題の深掘分析には不向きである.ここで,開発行動データの活用が課題解決に寄与する可能性がある.近年注目されるプロセスマイニングは,実業務のイベントログから業務プロセスを可視化する技術であり,ファクトに基づき無駄なプロセスの発見やボトルネック分析が実現できる.本検証ではシステム開発プロジェクトマネジメントにおけるプロセスマイニングのユースケースと分析観点を立案し,実際のプロジェクトでユースケースの検証と評価を行った.結果,立案したユースケースは一定程度有効であることが確認された.
越智 克史
IPMA(International Project Management Association)が発行しているICB(Individual Competence Baseline Ver.4)は, プロジェクト/プログラム/ポートフォリオマネジメントを行う際に, PM個人が保有すべきコンピテンスが一覧化されている.この点が, PMBOKに代表される他のプロジェクトマネジメントガイドとの大きな違いである.つまり, ICBにはプロジェクトを管理する手順やプロセスは記載されていない.この意味するところをふまえ, 今回は特にICBの人材コンピテンスに着目し, その内容を再解釈してみたい.また同時に, 若手PMへのメンタリングやコーチングでの適用の可能性についても考察を試みる.
五丹 悠多,宮本 翔一朗,周 蕾,田村 慶信,山田 茂
オープンソースソフトウェアは,様々な分野において利活用されている.また近年注目を集めているエッジ環境においても,オープンソースソフトウェアは活用されている.こういったソフトウェアの信頼性を定量的に評価する手法は提案されておらず,試行錯誤的に行われているのが現状である.本研究では,開発工数を予測する確率微分方程式モデルと,突発的なノイズに対応できるようにジャンプ項を組み合わせたジャンプ拡散過程モデルを提案する.また,数値例として,重み関数であるのこぎり波の概形を変化させることによる感度分析を行うことで,提案モデルの妥当性について考察する.
田島 千冬
改善と聞くと「悪い状況を良い状態に変えること」そんな活動に感じるのではないでしょうか?悪い状態を良い状態に変えることは、課題であり、やらなければならない改善活動のように捉えられることもあるかもしれません。また、普段から忙しいのに改善活動にまで時間が取られると感じることもあるかもしれません。一方、改善とは、「改善」「カイゼン」「KAIZEN」と表し方も様々で、悪い状況を良い状態に変えるだけではなく、自らの問題に気付き、良い状態に進化させ、継続して対応することとしても用いられています。今回は、向かいたい方向に進むために、現在の状況とのギャップを埋めていく、やらされている改善からメンバーが主体的に活動するカイゼンに変わる。そのようなカイゼンの目標設定をコーチングで用いているGROWモデルとプログラミング開発でも用いられるモブを参考に実施しましたので事例として紹介いたします。
斎藤 大輔
顧客の新商品開発の定期スケジュールに沿って「既存システムの改修を行うプロジェクト」を繰り返し実施するような,いわゆる「継続プロジェクト」は,システムインテグレータの事業継続性を支える収益源となる一方で,プロジェクト体制の固定化・高年齢化,知識・スキルの属人化などの要因により,プロジェクト推進が阻害され,人材・チームの成長が停滞する傾向がみられる.本稿では,このような継続プロジェクトが抱える課題について,人的資源マネジメントに着目した課題解決に取り組み,プロジェクト活性化を実現した事例について報告する.
西山 美恵子,金 祉潤,大関 一輝,森本 千佳子
IT業界では客先常駐型で働く社員が一定数いる.そのような組織において,社員同士のコミュニケーションが希薄であることが度々課題としてあげられる.本稿では,システムインテグレーターにおける部員同士のコミュニケーションの活性化を狙ってワークショップを実施した.このワークショップを通して抽出した課題として,所属組織や所属部員を「知る」ことの重要性があげられた.そこでワークショップ以降,どのように「知る」活動に取り組んだのか,信頼構築プロセスモデルをベースに具体的な取り組み事例を紹介する.
下河邊 喜誉
昨今ビジネス環境の変化の速さから,ITプロジェクトにおいて準備期間が短くなり,同時に複数プロジェクトを立ち上げねばならない状況が頻繁に発生する.本論文においては,某ユーザ企業の販売部門で3件の性質の異なるプロジェクトをほぼ同時に立ち上げ,推進し,完了した案件を基に,マルチプロジェクトのマネージメント上の施策を評価・整理する.
豊島 直樹
当社では毎年度,様々なIT開発を行うプロジェクトが立ち上がる.システムの老朽化対応,戦略的な新規システム開発の対応,DXやAIへの挑戦など,その内容も「攻め」,「守り」目的が多種多様である.その中で一定規模以上になると,「プロジェクト化」され,社内の全体ガバナンス運営に組み込まれ,管理される.プロジェクトの体制についても社内の審議にかけられ,リスクに応じた重厚た体制でないと承認がされず,それに基づき,社員も日頃からスキルアップや実績を積む必要がある.ここ数年,筆者においてもいくつかの重要プロジェクトのPM(またはPM補佐役)にアサインされ,実績を積んできたが,ダブルPMの体制で進めることが多かった.このダブル体制というのが,一見,権限保持者や意思決定者が2人以上いることで,プロジェクト運営上非効率のようにも見える.当初は自身の保有スキルや社内の役職上,致し方ないことであると考え,非効率であるという考えを持ちながら半信半疑,プロジェクトを進める立場にあった.ただし,案件を進めるにつれ,このダブルPM体制というのが,逆に言えば,非常に効率的な手法であり,シナジー効果が高かったと感じた.プロジェクトの特性により,ベストプラクティスの1つの手法として取り扱っても問題ないと言っても過言ではない.本稿では自身の経験したダブル体制での効果について事例を踏まえながら,考察を述べることとする.
唯松 大輔
近年の企業環境の変化による人材不足の影響を受け,日本ではマネージャーのプレイングマネージャー化が進んだ.現代のマネージャーは,組織の人を通じて成果を生み出すマネジメント業務と,自らがプレイヤーとして成果を生むプレイング業務を両立する必要がある.このような背景下でマネージャーとプレイヤーとしての業務の両方をこなしつつ,なおかつプレイングマネージャーであることの利点を活用してより高い成果を出していくための方法を確立することが重要であると考える.本稿では今年新任マネージャーとして着任した著者の経験と直面した課題を元に,プレイングマネージャーとして効果的にチーム・マネジメント,プロジェクト・マネジメント業務を推進させていくための対策について考察を行う.
石原 寛紀
システム開発におけるプロジェクトは,複雑なステークホルダーとの関係,ビジネスの変化への対応,短納期および高品質への要求などから高度化,複雑化している.その様な状況で,プロジェクトマネジメントは,プロジェクトの特徴に応じて,適切な手法を適切なタイミングで適用または,組み合わせ,優れた結果を出すことが大きな成功要因となっている.このように,マネジメントの手法がハイブリッド化して適用する中で,そのプロジェクトマネジメント能力を客観的に点検,評価し,さらに能力向上を目指して成長させていくことは,プロジェクトの成功や組織の成長において重要な活動と考える.本稿では,複数のプロジェクトマネジメント手法をハイブリッドに適用するプロジェクトにおいて,マネジメント能力の評価軸を提案し,適用させた.結果的に得られた効果とその有効性について検証する.
戸谷 和宏,奥谷 出,帆刈 勇貴
顧客の行動変化や多様な生活様式を踏まえた昨今において,DXの導入による新しい顧客体験の実現を目指す企業が増えている.このような企業のプロジェクトは,複雑なステークホルダー,多岐にわたる要求事項,新技術の適用,安心・安全な本番切替など,多くの潜在的なリスクが伴う.本稿では,リスクマネジメントにおける回避・転嫁・軽減・受容の戦略をもとに,事実の実態把握・可視化,根拠に基づいた方針案検討,ステークホルダーとの交渉・合意形成といった基本行動を徹底したことで成功したプロジェクト事例を紹介する.
北畑 紀和
RCA(Root Cause Analysis)は日本では"5Why"や"なぜなぜ分析"と呼ばれ,問題分析手法として広く知られている.問題の真因を特定し対策を立てる上で有効な手段であるが,発生した問題の種類や運用する人間によっては,必要以上に担当者に負担を強いる場面もあると考える.RCAの課題と思われる事案と対策について考察する.
野元 拓也
ITシステムの社会的重要性の高まりとプロジェクトマネジメント手法の進展によりIT業界では形式知の集積は進んできた.しかし一方でコロナ禍の影響からコミュニケーション不足を起因とするプロジェクトマネジメント不良によるコスト超過プロジェクトが増加傾向にある.このプロジェクト成功率の減少は特にコスト超過と直結するため,コスト超過が顕在化するよりも前に,早期にコスト超過プロジェクトを検出し対策を講じる必要がある.本対策として当社では,AI機能を使用して,コスト超過プロジェクトを早期に検出する施策を実施した.その目的はプロジェクトメンバに対して気づきを与え,コスト超過に対して早期の対策実施を可能とすることである.本稿ではこれらの施策の内容とその結果評価,及び今後の課題を述べる.
小形 絵里子,吉積 一斉,河内 福賢,飯田 貴史,大倉 聖一,中島 雄作
我々の会社は,システムプラットフォームを主な事業領域とするSIerであるが,一部,建設工事部門も存在する.当部門は,データセンタ(ファシリティ)の設計・建設工事・保守運用・コンサルティングを事業領域としている.近年,ヒヤリハットの事例が複数見られ,未然に,作業ミスが発生しないよう作業品質改善活動を展開した.今回は加えてヒューマンエラー防止に着目した.ヒューマンエラー12分類を元にリスクを洗い出し、ヒューマンエラーの対策に有効な11のフレームワークに基づいて,対策立案していった.本稿では,建設工事部門におけるヒューマンエラー防止活動の一事例について述べる.
小林 美苗,村岡 千紗
近年,ニューノーマルな働き方として様々な企業がテレワークを導入している.弊グループも離れた拠点間で,大規模かつテレワークベースのプロジェクトに参画している.顔が見えないプロジェクト推進において,多くのメンバが,チームのコミュニケーションに不安を抱いている事が判明した.円滑なコミュニケーションを阻害する課題である,メンバの顔が見えないという不安や,気軽に会話が行える環境づくり,面識のないメンバ同士の心理的抵抗感に対して,施策を検討した.Zoomのブレイクアウトルームを活用した施策と,心理学ラポール手法を活用した施策を実施し,効果を検証した.検証の結果,同じプロジェクトルームで共に作業をしている様な環境が生まれ,チーム内・チーム間のコミュニケーションの活性化や孤立感の軽減が実現出来た.各個人のミーティング管理やPMOによるチーム間の調整に必要となる作業工数が削減されるという結果も確認出来た.これらの結果は,大規模かつテレワークベースのプロジェクトであっても,チーム間の距離を感じさせない活発なコミュニケーションの実現により,円滑なプロジェクト推進が可能であることを示す.
渡辺 由美子,北條 武,中島 雄作
NTTデータでは約20年前からメンタリング手法に着目し,PM育成の研究及び実践を行ってきた.約10年前からNTTデータユニバーシティとNTTデータグループ品質保証部が事務局として,PMメンタリングの運営を行っている.育成効果を高める運営事例について,2022年度の本大会に発表した.本稿では,昨今のNTTデータのメンタリングではどのようなテーマで議論をし,メンタのどのような言葉で気づきを得ることができているのか,また,知識,コンピテンシのカテゴリ別に分析した成長例についてポイントを紹介し,効果の評価を行い,今後の課題について述べる.
石村 裕里
プロジェクトマネジメントというものは常に進化しており,プロジェクトマネージャーとしてより良い手法を追い求めるのは当然のことであり筆者もまた,多くの他のプロジェクトマネージャーと同様に自然とそのようにしてきた.新たなプロジェクトに参画するたびに,常にこのプロジェクトにおけるマネジメントはどのようにすべきかを自身の経験や学習した知識,そのプロジェクトの環境や特徴,メンバーの構成や性格により試行錯誤しながら確立させてゆくものである.特にコミュニケーションの分野においてはCOVID-19の影響で急速に進んだリモートワークにより、一からコミュニケーションについて考え直さなければならなくなったプロジェクトマネージャーは数多くいると思われる.本論文では,これまで筆者が経験したコミュニケーション手法の中で最も画期的だと感じたあるコミュニケーションツールについて,その有効性を筆者の実際の経験を交えて解説する.
石川 峻
2020年コロナ初期,日本のビジネスシーンにおいても大きな混乱をもたらした.筆者の環境においても在宅勤務の拡大に伴うリモートワーク環境の緊急増強,複数プロジェクトの中止による要員のリリース等が発生し,従来に比べ推進が難しいプロジェクトが多数発生した.今後も災害の発生等により通常のプロジェクトマネジメント手法通りには進められないケースが発生するものと考える.本稿では,イレギュラー発生時のプロジェクト推進をテーマに大手金融機関様向けのリモートワーク環境増強プロジェクトについてご紹介する.2週間という「超短期プロジェクト」を完遂した経験から,体制の組み方,ユーザ折衝の変化等について自身の考察を交え提言する.
平井 直樹
不確実性が前提となりつつある時代において、これまでのリーダーや管理者を中心とした中央集権的な権限を個人やチームそのものに権限移譲し、分散させ、さらに自律的に変化に対応して行動することができる自律分散型組織が着目されている。こうした自律分散型の組織の一つとして挙げられるのがアジャイルであるが、その特徴の一つである「自己組織化」についてはあまり研究が進んでいない。アジャイルソフトウェアの12の原則では、最良のアーキテクチャ・要求・設計は、「自己組織的なチーム」から生み出されると述べられているが、スクラムガイド2020では、これまで「自己組織」と表現していた文言が「自己管理」という表現に代わられている。そもそもアジャイルにおける「自己組織化」とはどのようなものであろうか。本研究では、この自己組織化について先行研究より考察する。
谷口 幸生
近年, 業界ではスクラッチ開発による最適化よりも, 標準化準拠・開発迅速化・開発費用低減を重視する傾向が増しており, ミッションクリティカルなシステムでも同様の要望が見られる.本稿では, その具体例として, 従来のスクラッチ開発からパッケージ製品活用による標準化・高速・低コスト化の実現に成功したプロジェクトを紹介する.パッケージ製品を活用するためには業務仕様に加えてパッケージの知見も必要であり, 海外製品ベンダーとの体制構築にあたっては海外要員との開発プロセスや考え方の違いを考慮する必要があった.そのため, 海外要員を活用するための体制, 品質向上の取り組み, 密なコミュニケーション手法を考慮・導入し, PJを完遂した.本論文では, これらの取り組みをもとに, 「パッケージ製品を活用したスクラッチ開発からの脱却」に向けた課題と, パッケージ・海外要員活用の勘所について論じる.
畠 俊一,山内 貴弘,羽田野 孝,原田 裕治
既存の業務システムをクラウド環境へ移行するプロジェクトが年々増加している.業務システムを移行するプロジェクトでは,オンプレミスからオンプレミスへ移行する時とは違った視点が必要になる.この移行プロジェクトを安全に立ち上げ,遂行していくための全社横断組織としてCloud Center of Excellence(CCoE) 組織を立ち上げる事例が増えてきた.本稿では,お客様の組織内でCCoE組織を立ち上げるあたり参考としたフレームワークの紹介と,そのフレームワークを活用した結果について考察する.次に,CCoE組織を立ち上げるプロジェクトでお客様とどのような役割分担としたかを整理する.最後にそのプロジェクトの中で直面した課題と,その課題に対する解決策について考察する.
水村 健一
品質保証を目的とした部署におけるプロマネの支援活動について、ウォーターフォール型PJの各工程での支援と、開発プロセスや成果物に対する品質評価でプロジェクトの品質改善に貢献してきた活動を紹介する。これまでに品質向上に貢献できた支援活動について、進めてきた品質改善活動の詳細を共有し、その評価と今後の方向性をまとめる。
青木 政之
失敗プロジェクトは,企業経営に大きなインパクトをもたらす.失敗プロジェクトを減らすためには,専門家や有識者の監視が必要である.しかし,その数は限られているため,全プロジェクトの監視は困難である.そこで,プロジェクトデータから,AIとロジックの2手法を利用し,失敗プロジェクトの予兆検知に挑んだ.結果,AIによる検知率42%,ロジックによる検知率80%を得た.今後の課題は,検知精度の向上である.
新谷 幸弘
本研究の目的はパーパス経営の視点からアジャイルメソロジーを再考察し、その交差点を探求することである。パーパス経営とは、企業が自らの存在意義を明確にし、それを経営の中心に据えることで、戦略の方向性を強化する経営手法である。他方、アジャイルは組織が市場の変化に迅速かつ柔軟に対応するためのマネジメント手法である。表面的な違いこそあれ、アジャイル手法とパーパス・マネジメントは、戦略的アジリティと組織の目的意識の向上という共通の目標を追求する上で交差している。本研究では、この2つの概念がどのように交差し、相互作用しているかについて理論的に分析する。
小嶋 祐貴
近年、社会や企業を取り巻く環境が急激に変化する中で、リリースまでの早さや仕様変更に対する柔軟性を持つアジャイル開発が注目を浴びている.本稿で説明する社内WEBシステムの開発事例についても、同様のニーズからアジャイル開発(スクラム)を採用している.採用の際、金融機関としてお客様が求める「品質(本番環境と同等の環境でのテストをパスする必要がある)」や「セキュリティ(テストデータをお客様のイントラネット外に持ち出せない)」といった特性から「ビルド・テストの自動化(CI)やリリースの自動化(CD)を全体に適用ができない」や「一部のプロセスを在宅環境で行えず、コロナ禍においても出社の必要があった」といった課題があった.それらの課題をどのように整理して開発プロセスに落とし込んだかを紹介する.
別府 薫,佐伯 明音,遠藤 圭太,仁尾 圭祐
昨今ではビジネス変化の激しい時代であり,従来のウォーターフォール型の開発では,市場・顧客のニーズに答えることが難しくなっている.そのため,新しい機能を短期間で継続的にリリースするアジャイル開発を採用するプロジェクトが増加している.しかし,開発実績が多くノウハウのあるウォーターフォール開発と比較して,アジャイル開発は実績が少なく品質管理手法も明確に定まっていない.本論文では,アジャイル開発のアプローチを品質管理視点で分類し,実案件に適用した品質管理事例を紹介する.さらに,ウォーターフォール開発における品質管理のアプローチと比較した際に,どのような差異があるのかをまとめる.
中島 大寿
日本国内においてIT人材が不足している中で,企業ではIT人材の確保や社内人材のリスキリングの実施など,あらゆる取り組みを実施している.人材育成のため社内教育制度の充実を図り,情報習得型のスキル習得は進む一方で,実務レベルでのスキル習得には場の提供だけでは十分に習得できない状況があると考える.筆者は自身が担当したプロジェクトに参画したOn-the-Job Training (以下,OJT)メンバーや自社部門において,技術的スキル習得がうまく進まないメンバーに対し,どのような課題や背景があるのかを考察した.IT技術だけでなく,コミュニケーション面や心理的安全性もスキル習得向上に関連していると考える.OJTでのスキル習得のためのサポートやプロジェクトチームでOJTメンバーを受け入れる際の体制,OJTメンバーとのコミュニケーションに関して考察する.
橋爪 大
お客様を取り巻くビジネス環境の変化は著しく,発展を続けるデジタルテクノロジーに順応することで競争力を高め,ビジネスを展開し続けていくことが必要である.そのため,今日のシステム開発では開発の短納期化が進んでおり,PJを成功に進めるためにはPJ開始前に立てる計画が重要である.だが,計画通りにPJが遂行することは難しい.なぜなら,遂行していく過程の中で様々な課題が生じるためだ.その課題の1つに成果物の仕様変更が挙げられる.仕様変更対応によるスケジュールインパクトを抑えるために,仕様変更をどのように管理していくか,その変更管理手法について紹介する.
杉山 昌彦
IT業界は独立・転職などによる優良人材の減少・人手不足が深刻な問題となっている.そういった状況の中,若手メンバーを積極的にプロジェクトマネージャーに登用することによる組織力の底上げを図っているが,経験の浅いプロジェクトマネージャーは,プロジェクト関係者との信頼関係の欠如や不満拡大の予兆に気づくことができず,プロジェクトメンバーからの報告の遅延や報告事項が後になって覆される事を経験している.本稿では,プロジェクトの事例を通じて,プロジェクトマネージャーの上司という立場で,プロジェクトマネージャーとステークホルダー間のコミュニケーションを中心に実践計画を立て,検証した結果および考察・改善点についてまとめる.
池田 浩
近年,システム開発は従来のシステムインテグレーションだけでなく,アジャイル開発やDX,IoTといった新しいテクノロジーやビジネスアーキテクチャーをふまえたプロジェクトの推進が求められる場面が増加している.これらのプロジェクトの品質,予算,納期に責任を持つプロジェクトマネージャーについて,新たに育成するだけでなく,既存の人財を適合させていく取り組みも重要となる.人財の育成について,外形的な診断が可能な知識や経験,スキルに偏りがちだが,普遍的な能力としての「コンピテンシー」を伸ばすことがロバストなプロジェクトマネージャーの育成に重要である.
塩谷 春生
プロジェクトを成功裏に遂行するためには,ユーザーから要件を適切に聞き出し,合意形成を経てプロジェクトを遂行する事が重要であることは言うまでもない.ただ,どのように詳細に要件定義フェーズで要件確認を実施しても,後続フェーズで変更要求は発生する.これは後続フェーズでシステムが具体化することにより気付けることがあるからだ.近年ではアジャイル開発の手法を用いることで,変更要求を最小化する工夫をするプロジェクトが多くなっているが,一方で,大規模プロジェクトでは,全体開発規模の立てやすさなどから,未だウォーターフォール開発を利用することが多くを占める.本稿では,変更要求が多くでる機能群と,変更要求があまり出ない機能群が明確に分かれる場合,開発手法を分けて進める「ハイブリッド型開発」を用いることで,その優位性について言及するとともに,注意するポイントを考察する.また,本稿執筆時点では解決できていない課題事項にも触れ,より効果的なハイブリッド型開発についても展望する.
福田 淳一
本論文は筆者が2021年PM学会秋期研究発表大会で発表した「スコアモデル開発のメソドロジー」の実践編である.筆者はスコアモデル開発の技術をより実用的なものとするべく,オープンデータ及びフリーソフトであるRを使ったスコアモデル開発を試行している.本論文は現在試行中である,ソフトウェア開発分析データ集2022のデータを使ったプロジェクト満足度評価スコアモデル開発の中間報告である.中間報告ではあるが,開発したモデルではプロジェクト満足度スコアを向上させるためには,コストと品質の評価が重要であることを示唆している.また,コストのみの評価は却ってプロジェクト満足度を低下させることも示唆している.開発途上のモデルであるので変数選択及びその離散化等モデルのチューニングが十分できておらず課題は残っている.今後取り組む予定である.
久保田 次郎,松尾 拓郎
近年システムにおけるUI/UXは重要なテーマとなっているがシステムの機能要件/非機能要件と異なり定量的な定義が難しくプロジェクトを推進するうえで後戻りのリスクとなりうる。本論文ではUI/UXの要求レベルが高い新規プロジェクトにおいてQCDを確保するうえでの課題と、その解決に向けて取り組んだ内容および成果について論じる
安田 憲司
オフショア開発は,主に以下のような目的で利用される.コスト削減: オフショア開発を利用することで,開発にかかるコストを削減することが出来る.一方,オフショア開発には注意すべき点も存在する.Face to Faceでの会話が難しい環境のために,コミュニケーションの困難さがある.また,遠隔地でのメンバーアサインとなり,作業状況を直接見ることができないために,チームミーティングやレビュー体制等を考慮し,求められるアウトプットが出せる環境を準備し,適切なプロジェクト管理手法の導入が重要となる.本稿では実際にオフショア開発での経験を踏まえ,具体的に取り組んだ事例や対応策を紹介する.
児島 伴幸
昨今のインフラ技術の多様化により,日々,技術が進化している.技術が複雑になり,要件定義から運用までプロジェクトの全体を依頼する顧客も増えている.同時に,顧客主導のプロジェクトも多く,プロジェクトの一部のみを担当する中小規模の案件も増えている.このような背景から,顧客が当社へ期待する内容に変化が生じており,当社は,大/中/小規模案件を柔軟に対応する必要があった.本書では,チーム編成とプロジェクトマネージャ育成を,タックマンモデルを用いて実績から評価する.収益,品質,育成,モチベーションの4つの観点で考察する.
吉澤 憲治
ローコード開発基盤は、近年働き方改革やDXを加速する日本企業で導入が急拡大している。ローコード開発は、ビジネス部門が自ら開発する市民開発も期待されており、IT人材不足と高齢化が進む中でビジネス変革を進めなければならない日本のIT業界において非常に注目度が高い。当社においても例外ではなく、社内DXを早急に進めるため2021年にローコード開発のCoEを組成し、社内展開を開始した。2023年7月現在において30プロジェクトがローコード開発を取り入れている。本紙では、ローコード開発導入にあたり当社で実践した施策を「戦略」「ガバナンス」「プロセス」「リソース」の4つの観点で報告する。また、市民開発を中心とした今後の取り組むべき課題についても報告する。
安田 清人
本論文では,大規模ミッションクリティカルシステムのHWマイグレーションプロジェクトにおけるレビューア負担軽減策を検討する.IT人材確保競争とクラウド技術シフトにより,オンプレミスシステムプロジェクトで新規参画者のスキル低下に伴うレビューア負担が問題化している.主要課題として「過去資料の再利用誤り」や指示不足やごく単純な誤りを示す「非エラー扱い」が多いことが明らかになり,原因として新規参画者のセルフチェックスキル低下や暗黙知への依存が挙げられる.対策として新規参画者向け教育,設計工程改善,セルフチェックシート導入を提案し実施.対策後のデータから負担軽減と品質向上が確認されたが,今後の調査や対策が必要であることが示唆された.
井野 駿也,關 咲良,小笠原 秀人
今、世の中では様々な問題を解決する1つの手段として、ChatGPTが活用されており、その注目度は飛躍的に上がっている。そこで筆者らは,大学の講義にて,プロジェクトマネジメントに関する知識を活用し実践する,プロジェクトマネジメント演習(以下,PM 演習)と呼ばれる PBL(Project Based Learning)に取り組み,WEBアプリケーションの開発プロジェクトを行った際、プログラムを作成する上で行き詰まった場合や発生した問題をChatGPTを活用し解決した。このChatGPTを活用し解決した問題、またChatGPTによって逆に起きてしまった問題をまとめ、Webアプリケーションを開発する上でのChatGPTの活用方法について提案する。
岩重 博行,中谷 悟,米倉 伸輔
昨今,情報システムの老朽化・HW保守停止などにより,現行システムの更新が必要となるケースが増加している.私の担当顧客(A社)でも同様にHW保守期限が迫っているシステムがあり,新システムへの更新が急務となっている.今回更新対象となるシステムについては関連する周辺システムが多く,更新の影響は複数システム・複数ベンダに及び,プロジェクト自体はマルチベンダ体制となる.そのため難易度が高いプロジェクトであるが,顧客体制の問題(人材不足)からシステム企画が進んでない状況であった.さらにA社はコロナ禍による減収により十分なプロジェクト予算の確保が難しい状況であった.この状況を克服するためには,「マルチベンダ体制のコントロール」「顧客体制」「納期・コスト」などの課題への対策と高度なリスクマネジメントが必要となった.本論文では,マルチベンダ体制におけるプロジェクト管理の課題に対する対策とその効果について考察する.
石井 優輝,下村 道夫
コミュニケーション能力は,組織でのプロジェクトマネジメントで中核となる能力の一つであり,採用の選考においても重要視されている.しかし,コミュニケーション能力が指し示す具体的対象の種類は極めて多く,組織や職種によってどの能力を指してコミュニケーション能力と呼んでいるかが異なる場合が見受けられる.例えば,プレゼンテーションを流暢に行えるといった表面的な能力を指していたり,相手の気持ちや立場を察して先手を打って行動を起こせるといった内面的な能力を指したりする場合がある.本稿ではこの問題に対して,コミュニケーション能力が指し示す具体的対象を整理し,包括的に体系化した形式知を作成し実社会で広く活用してもらうという解決アプローチを提案する.これにより,コミュニケーション能力という用語の使用時に生じる誤解を回避することを狙う.
浦川 恵一朗,下村 道夫
近年,大学の講義における学生の受講態度の悪化が問題になっている.例えば,遅刻や早退,居眠り,過度な私語,教材以外のコンテンツ利用(ゲーム・漫画・Youtube)などが挙げられる.これらの原因としては,学生の修学意欲の低迷(講義への関心がない),合格判定基準の低下(問題容易化,再試の実施など),教員の魅力の低さ(容姿,声質や話し方など)が考えられる.特に,大学教員の年齢層は40~50代がほとんどを占めており,学生世代との年齢差による教員の魅力低下が原因となる場合が多いと考えられる.本稿では,この問題の一解決手段として,最近の魅力的コンテンツである「タートル・トーク」やVTuberで用いられている映像・音声のリアルタイム変換技術を教員が行う講義に適用することを提案する.これにより,教員に対する興味や親しみを持ち,学生の講義への聴講意欲を高めることを狙う.
島田 直享
製造業A社が、出荷計画の立案を従来のやり方であるカンコツから疑似量子アニーリングを活用した最適化手法へ変更することを試みた。技術検証(PoC)により、疑似量子アニーリングの結果のランダム性やインプットデータの変化による影響、求解性能、業務ルールの抜け漏れなどの課題を発見した。プロジェクトの進め方としては、ユーザの参画を通じた品質確認、手戻り工数を減らす工夫、検証のプロセス変更などを提案した。現在は追加検証1の段階であり、疑似量子アニーリングの実用化に向けたノウハウを積みながら取り組んでいる
青山 直樹
新型コロナウイルスの拡大により、システム開発プロジェクトの現場もテレワークなどの在宅勤務、リモート会議、クラウド利用の様々なコミュニケーションツールを利用した「非対面コミュニケーション」を中心としたプロジェクト管理となった.私達はSalesforceの導入・開発プロジェクトが中心である.私達はそれらプロジェクトを通して、在宅勤務での分散開発、二アショア、オフショアを行いながら、開発を行ってきた.その中でチャットシステムなどを使用した課題管理、情報共有のコミュニケーション方法事例を挙げながら、The New Normalとなったシステム開発における「非対面コミュニケーション」を考察していく.
小椋 大輔
複数チームからなる大規模プロジェクトかつリモート開発において,メンバーのモチベーションがシステム品質と開発生産性に与える影響に着目している.そのような状況下では,共通認識の難しさやその手間がモチベーションの低下に影響する.簡潔な対処方法としてコミュニケーション機会の増加が考えられるが,大規模・リモートの制約下では,メンバーの数の多さや物理的距離という制約から,小規模・対面のプロジェクトと同様の気軽なコミュニケーションを実現することは難しいため,コミュニケーション機会の増加を見込みにくい.すでにビデオ会議やチャットツールが導入されている前提で,「簡潔な日報の活用」や「フィードバック文化の構築」など,情報共有とメンバー間の交流を重視したアプローチで,モチベーション向上を目指した.今回考察した手法とその実践結果を元に,有用性について考察する.
藤田 航平,宮本 翔一郎,周 蕾,田村 慶信,山田 茂
現在,データをクラウドによる一極集中で処理・記録するのではなく,分散化したエッジサーバで処理するエッジコンピューティングが普及しつつある.エッジコンピューティングにはオープンソースソフトウェア(Open Source Software,以下OSSと略す.)が用いられているが,そのような運用環境の場合,OSSだけではなくデータベース上で発生する故障などを考慮することが必要となる.先行研究では,ウィーナー過程を用いることで,定常的な開発工数の変化のみを考慮していた.本研究では,ソフトウェア特有の突発的なノイズに対応できるジャンプ拡散過程を導入した複合確率過程モデルを提案し,エッジ環境におけるソフトウェアの最適メンテナンス問題を扱い,その感度分析と適用結果について考察する.
早川 芳昭
ITサービス提供事業者では,システムの老朽化や他の理由により,やむを得ず利用者を旧システムから新システムへ移行させる必要が生じることがある.今回取組んだプロジェクトは,IaaSサービス提供事業における利用者移行プロジェクトで「利用者に移行作業を進めてもらう必要がある」という特性があり,「利用者が実施する移行作業が複雑で失敗リスクが高い」といった課題があった.この課題に対して対策を行うことで,利用者が移行作業で失敗することを未然に防ぐことができ,プロジェクトとしても致命的な事故無く,利用者移行を成功させた.本稿ではこの利用者移行プロジェクトのマネージメント事例で実施した対策や工夫点について述べる.
梅木 美裕
システム構築プロジェクトにおいて上流工程は、プロジェクトの成功に不可欠なフェーズであると同時に、見積り誤差を引き起こすリスクも持ち合わせている。本論文は、実際のプロジェクトデータから上流工程の重要性と見積もり誤差との相関関係を調査・分析し、プロジェクトマネジメントにおける上流工程の意義と重要性を述べるとともに、見積もり誤差軽減のための具体的な施策案を提案するものとなる。
湯浅 英人
デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる企業の割合は年々増加しており,企業戦略としての重要性が高まっている.一方,DXに取り組んでいない,または,成果途上の企業も数多く存在しており,これらの企業はDXのプロセスであるデジタイゼーション,デジタライゼーションにおいても途上の状態である.DXの推進において人材が課題と言われている中で,お客様と多くのコミュニケーションを図っているプロジェクトマネージャーの役割がますます重要となり,従来の品質,コスト,納期,リスク管理に加えて,お客様と共に創造(共創),共に発想(共想)できるプロジェクトマネージャーが必要と考える.DXが重要視されている状況においてプロジェクトマネージャーに求められる3つのコンピテンシーを提言し解説する.1.お客様とお客様の業界を知る2.実践に向けたお客様にとって臨場感がある提案と共創を推進する3.お客様と共に先見的な発想をする(共想)
七田 和典
近年,IT技術の急速な発展により次々に新たな製品やサービス,ビジネスモデルが生まれており,デジタルトランスフォーメーション(以下DX)の時代だと言われている.DXの時代で企業が生き残っていくためには不確実性が高い創造や変革を迅速に実現していく必要があり,新規性・難易度の高い要件の実現や新技術・新製品への対応を短期間で求められるDXプロジェクトが多く発生している.本稿では大手金融機関のDXプロジェクトにおける不確実性に対応し短期間でのシステム開発を実現するため,アジャイルプラクティスの導入,CI/CD・テスト自動化の導入,APMソリューションの導入といった開発・運用プロセスの効率化(DevOps導入)と,マイクロサービスやコンテナといったクラウドネイティブ技術の活用によるアプリケーションのモダナイゼーションにより高生産性と高品質を実現したプロジェクトマネジメント事例を考察する.
石川 雅人
近年, 日本の多くの企業において, 「ビジネススピードの加速による新規アプリケーション開発のニーズの増加」「IT人材の不足」などの理由から, ローコードプラットフォームの導入が急速に進んでいる.また, ローコードプラットフォームの導入により, アプリケーション開発の内製化が促進されている.当社の社内システムにおいても「Mendix」「ServiceNow」といったローコードプラットフォームを導入し, アプリケーション開発の内製化を進めている.本稿では, 当社が開発してきたローコードアプリケーションの事例を紹介し, アプリケーション開発に関する課題とその解決手段について考察する.
石栗 智裕,永井 進之介
我々が提供しているシステムは公法人の業務効率化を目的とし、RFPという顧客からの要求仕様に沿った提案を行う入札が前提となる。要求仕様には顧客特有のカスタマイズが開発スコープに含まれているため、カスタマイズ内容が当初想定から増大しスケジュールの遅延が発生するリスクがある。今回受託したプロジェクトでは特殊なカスタマイズが多いことに加え顧客の要求仕様で定められたクリティカルパスの遵守が求められたため、提案時のスケジュールから詳細設計、製造・単体テスト工程の短縮が必要となった。上記に対して顧客上層部の関与、フィージビリティを意識したプロジェクト遂行、開発実施体制の早期構築、ファスト・トラッキングを用いた並列化を行い、クリティカルパスを遵守した。この成果は、スケジュール短縮が必要となるプロジェクトの遅延防止に有効であると考える。同時に今後のプロジェクトマネジメントの効率化についても考察した。
房山 渉
ITシステムの多くは,VUCA時代に相応しいシステムを開発することを目的として,アジャイル開発手法を採用している.一方,ITシステムであってもミッションクリティカルなシステムは,要件変動が少なく,開発ボリュームも大きいため,ウォーターフォール開発手法を採用している.我々の開発しているテレコムネットワークシステムについても,ミッションクリティカルなシステムであることから,ウォーターフォール開発手法を採用していた.しかしながら,近年のテレコムネットワークシステムは,多種多様なプロダクトがネットワークに接続され,競合他社に先駆けて新しいサービスを提供する必要が生じ,要件変動が多く発生するようになった.そのため,1年間かけて開発していた機能を細分化し,現状のウォーターフォール開発手法は変更せずに,短期間かつ数回に分けて提供する手法を用いたが,様々な課題に直面した.本稿では,ウォーターフォール開発手法を短期間で実行する手法に加え,直面した課題に対してどのように解決したかを新たな開発手法という切り口で提言する.
中村 匡伸
大規模システム構築プロジェクトにおいては従来から様々なバックグラウンドを持つチームが協業してプロジェクト運営するケースが多いが,近年,さらにその傾向は加速しており,その状況に起因する品質課題の発生リスクが高まっている.そこで本稿では,著者がプロジェクトマネージャー(PM)として参画した大規模プロジェクトにて,本番移行直前(移行リハーサル)で発生した複数回の品質課題を解決して成功裡のサービスインを達成した事例を通して,チーム横断の対応が必要なプロジェクト全体の品質課題に対して,一ベンダーのPMが短期での立て直しのためにいかにリーダーシップを発揮するかを考察する.
中元 信吾,水澤 浩司,金子 康浩,黒岩 正樹,坂元 隆宏,余吾 貴志
ソフトウェア開発を中心とする事業体において,ソフトウェア開発の品質保証基盤に加え,SIの構成要素の一つであるハードウェアの品質保証基盤を整えることは,体制面等で非常に多くの維持費が掛かり,コスト競争力が低下しかねない.一方,ハードウェアの品質保証の対応を怠ると,法規法令違反といったインシデントの発生や,出荷後の障害多発という事態を招くことになる.これまで,開発委託や購入するハードウェア製品の品質担保のために,最低限実施すべき事項を,品質管理プロセスとして構築し改善を図ってきたが,プロセスの構築だけでは十分ではなく,ハードウェア開発経験の少ない営業やSEにおいても,知識,スキルやマインドが十分でないと,プロセスが適正に運用されないことが分かった.今回,知識面においては技術法規制対応の認識不足,スキル面においては品質管理プロセスを運用する勘所の不足,マインド面においては品質管理プロセスの大切さについて,それぞれ,情報基盤整備に依る知識の拡充,ハードウェア開発リーダー支援によるスキルの向上,定期教育によるマインドの刺激を通して,ハードウェア品質風土の醸成を図った.本論文では,知識拡充,スキル向上,マインド刺激を通して,ハードウェア品質推進風土の醸成に向けて,工夫した点とその成果について述べる.
中西 苑美
国内市場の縮小と海外市場の規模拡大、および海外企業が様々な分野の市場に進出している状況を踏まえ、大企業の海外展開・グローバル化は避けられない課題である。海外ビジネスの推進に当たっては、現地の法規制や商習慣に合わせた対応に知見のある現地スタッフや、実際に現地で業務を行う担当者の協力が欠かせない。海外で利用する業務システムの開発プロジェクトにおいても、そういった日本語を母語としないステークホルダーとの合意形成は不可欠であり、それは意思決定や開発の主体が日本側に存在するケースにおいても例外ではない。一方で、システム開発と日本語・英語双方のコミュニケーションに一定程度の技能を持つ日本人技術者は限定的であることが実情であり、英語翻訳がボトルネックとならない開発体制の検討が重要となる。本論文では、実際に英語ドキュメントの作成を必要とした日本国内での開発プロジェクトを例に挙げ、システム開発の特性に応じた英語ドキュメントの作成方針について考察した。
平方 泰光
システム開発プロジェクトの不採算化は開発ベンダーに多大な影響を及ぼす.QCD確保のため各社さまざまな対策を講じており,弊社でも長年取り組んできた重要テーマである.一方で,システム開発発注側のクライアントでも,失敗プロジェクトとなった場合の影響は多大であり,いかにQCD確保していくかは大きな課題となっている.弊社で培ってきた不採算案件抑止の仕組みをベースにアセット化し,クライアントのクオリティアシュアランス(QA)や組織ガバナンス向上支援に取り組んでおり,進行中のプロジェクトを通じて得た私なりの考察を述べたい.
中野 和哉,中島 由恵,神野 学,渡辺 秀樹,後藤 協子
「プロジェクト」の特徴として有期性・独自性の2つが知られているが,展示会や発表会などのイベントは明確に期日が決まっており,ユニークな価値を生み出すためプロジェクトの1形態と考えることができ,本稿ではイベント型プロジェクトと称する.これまで,イベントに対するプロジェクトマネジメントの考え方の適用に関する先行研究は存在するが,現在日本で活用が広がりつつあるIPMA ICBを活用した研究は存在しない.本稿では,一般的なイベントに対してIPMA ICBの考え方がどのように適用できるか論じた上で,具体的なイベントに適用した事例を紹介し,IPMA ICBの中で活用できるコンピテンスについて考察する.
野尻 一紀
ウェルビーイングはSDGsの目標3に掲げられ,非常な注目を集めている.本稿では,社会のウェルビーイング向上を目的として進行中のプロジェクトにボランティアで参加した経験と,自身のプロジェクトの改善策としてのウェルビーイング取り組み事例を示す。さらに今の時代に必要なプロジェクト遂行上の考慮点について言及する.プロジェクトのリーダーとメンバー全員が主観的ウェルビーイングとレジリエンスを高め,人間関係のつながりを強めていくことが,プロジェクトの創造性・業績を高め,自己肯定感・自己思いやり感を向上していくために重要である.
山口 由貴,上村 興輝,島田 佑磨,小坂 由依,田中 基己,中島 雄作
筆者は当時新卒1年目の新入社員であった.次年度の新卒採用の候補となる学生向けにインターンシップを行うこととなったが,自事業部のカリキュラムの企画・運営のリーダに任命された.筆者は全くのPM初心者だったので,ChatGPTを活用してプロジェクトマネジメントとして為すべきことのヒントを得た.その先は,当社のウェルビーイング経営の方針に基づき、インターンシップをマネジメントしていった.本稿では,ChatGPTを活用したインターンシップの企画と運営のプロジェクトマネジメントの一事例について述べる.
千田 貴浩
二拠点生活とは,首都圏と地方など二つの拠点に住み,行き来しながら生活をすることで,デュアルライフとも呼ばれる.新型コロナウイルスの影響下,リモートワークが普及し,二拠点生活や移住を始めた人が増加している.二拠点生活では,首都圏では文化・教育などの利便性を楽しみ,地方では自然やゆったりとした時間を楽しむといった二拠点の特徴を活かした生活を送るメリットの他,居住費が二重に発生したり,二拠点間の移動時間の考慮が必要といった留意すべき点も存在する.本発表では,二拠点生活のメリットや留意すべき事項にフォーカスをあて,プロジェクトマネジメント技法を活用した有意義な二拠点生活の具体的事例について発表する.
大島 祐子,前田 真輝,大塚 有希子
競争力の強化が目的であるDXへの取組みは増加しているが、各国と比較すると効果は限定的である。情報処理推進機構が公開しているDX実践手引書では、”DX の起点は「目指すべきビジョン」の共有”と示されている。そこで「目指すべきビジョン」を「DXビジョン」と名付け、DXビジョンの策定と共有にアジャイル手法を用いたプログラムを提案する。DXビジョンを策定・共有することでDX推進に組織の力を発揮させ、DXによる変革を実現することが目的である。プログラムでは3回のイテレーションでDXビジョン・戦略を策定する。イテレーションごとのレトロスペクティブでDX推進に必要なステークホルダー分析を行い、次のイテレーションの参加者に加える。段階的に参加者を増やしDXビジョンを評価することで、組織内の意見をDXビジョンに反映するとともに浸透させることができる。また、プログラムで策定した成果物を用いて経済産業省が整備しているDX認定を取得することで本プログラムの有効性を示す。現在、プログラムの構築過程であり、広く意見を求めるため発表する。
井上 文博
これまでの日本の開発現場においてはウォーターフォール型開発手法が主流であったが,ここ最近ではアジャイル型開発手法を用いる開発現場も聞かれるようになってきた.ある金融会社の開発現場においては,スクラッチで新規に基幹システム開発をすることは完了しており,その後の維持保守開発(エンハンス開発)の段階でのアジャイル型開発手法適用を約2年に亘って試行してきた.アジャイル型開発手法を試行することの目的は,「開発スピードの向上」と「速やかな仕様変更の取り込み」の2点にあった.その試行の中で得た経験と知識をもとに,ウォーターフォール型開発手法とアジャイル型開発手法それぞれのメリットを生かせる融合型の開発手法を模索した.
森本 千佳子
近年,産業界ではデザイン思考が注目されている.スタンフォード大学で有名なデザイン思考プロセスや英国デザインカウンシルのダブルダイヤモンドが有名である.いずれも,ゴール志向型のプランナブルなプロジェクトとは異なり,試行錯誤を繰り返しながらゴールそのものを創発・探索する取り組みとなる.いいかえれば,探索型プロジェクトであり,従来のプロジェクトマネジメントとは異なるアプローチが必要となる.いっぽう,ヨーロッパに端を発したコ・デザインアプローチは地域課題や社会課題に対し,地元住民と専門家が「共(コ)」に課題に取り組むアプローチである.そこでは多彩なステークホルダーと関係を結び解決策を探索的に取り組む必要がある.またその活動はゴール達成で終わりではなく,長期的な関わり合いが必要となる.従って,チームとして「共に」活動する基盤が重要となる.本稿では北海道長万部町で実施したコ・デザインの事例をもとに,探索的なプロジェクトにおけるチームビルディングの課題と解決案を述べる.
櫻井 啓明
2010 年代から、ビジネス価値を継続的に創出する為に、環境の急激な変化に対して、素早く柔軟に対応する必要があるとされている。システム開発においてもアジリティが重要視され、多くのシステム基盤でクラウドが採用されるようになった。クラウドを用いたシステム開発における主要課題の一つに、妥当性のある投資計画の立案がある。クラウド利用料は従量課金制による変動費である為、正確に支出状況を把握するのが困難で、容易に予算が超過する。この課題に対して、FinOps という方法論が生み出されたが、Return on Invest の最大化に向けた具体的な作業や道筋は、導入するプロジェクトで試行錯誤する必要がある。最近、筆者が参画するプロジェクトもクラウド財務管理に関する課題に直面した。そこで、筆者は FinOps を特定のプロダクトチームに対して導入し、FinOps の有効性に関して検証した。本稿では、FinOps 実践の検証内容、結果について述べた後、FinOps を実践する上で鍵となる要素について紹介する。
山口 智司,須藤 陽介,齊藤 智宏,西谷 智志,平塚 大樹
弊社では長年にわたり、放送局の基幹システムである送出システムを担当している。送出システムとは、番組表に沿って放送局内外の番組素材をフレーム単位に正確に切替制御を行うと共に、緊急時の速報を瞬時に伝達するミッションクリティカルなシステムである。これまでは専用機器を中心としたシステム構成であったが、ICT技術の進展に伴い、映像素材の様な大容量のコンテンツをIP網で構築することが可能になった。新たなアーキテクチャによる送出システムを標準システムとして商用開発を行い、複数のプロジェクトへの適用を行ってきた。標準の適用に向けた客先調整、さらには半導体需給逼迫のリカバリー対応を行い、複数並行したプロジェクトをどの様に進めてきたかを紹介する。
吉澤 由比,町田 欣史,久保 翔達,小嶋 洋二,飯塚 裕一,貞本 修一
アジャイル型のソフトウェア開発では, ビジネス価値を早期にかつ効果的・継続的に顧客へ提供するため, 短いサイクルで高い品質でのプロダクトリリースと, 継続的な改善を両立させる品質管理手法が求められる.あるアジャイル型開発プロジェクトでは, 定量的な品質管理手法として, 開発プログラムコード行数を用いたテスト充足性・バグ摘出妥当性を指標値と比較し評価していたが, 特性が都度異なる小規模開発を短いサイクルで繰り返すアジャイル開発では, マネージャ層および開発者が納得した品質管理活動に至っていないことが課題であった.本稿では, プログラムコード行数によらない品質管理手法である, テスト観点カバレッジとDDPモニタリングを活かし, 開発メンバが日々の開発の品質管理に効率的に納得感を持って取り組むことができた事例と今後の課題を紹介する.
三好 きよみ
日本のデジタル競争力は低下しており,その要因は人材不足といわれている.特に,先端IT 人材は,2030年に約30〜50万人不足する見込みである.それには,従来の技術・領域に携わるIT人材の転換やリスキリングなどにより,人材の流動性を高めることが必要である.そこで,本研究は,IT人材の流動性を高めるための知見を得ることを目的として,先端IT人材の働き方に関する意識・行動の特徴について検討した.働き方に関する意識・行動についてアンケート調査を行い,先端IT従事者と従来型IT従事者,非IT人材の3群に分けて比較検討した.その結果,先端IT従事者の特徴として次のことが示された.仕事で通じて人と積極的に関わり,自分の能力や適性に合った働き方を目指している.自己のスキルを認識し,成長のために積極的に行動するとともに,資源を活用しており,自分の興味があることについてはより深く学ぶといった傾向がある.
三角 英治,佐藤 慎一
IPMA ICBは,プロジェクト,プログラムおよびポートフォリオの各マネジメントを実施する個人が必要とするコンピテンスを定義したものである.プロジェクトマネージャー等の役割としての観点からではなく,プロジェクト等のマネジメントに携わる個人の観点からまとめられている点が大きな特徴となっている.一方,社会やビジネス環境がますます多様化し,プロダクトやサービスを通した価値提供が求められてきている昨今,我々も,これまで培ってきた「Q・C・D」の確保と安定的なサービス提供を実現するだけでは十分ではないと感じていた.価値提供に向けて,従来から取り組んでいたマネジメントの「実践」だけでなく,「視座」や「人材」のコンピテンスを含むIPMA ICBに着目し,活用を検討している.
下村 英嗣
富士通ではテレワークが主流になりつつある.当プロジェクトでも大半のメンバがテレワークに移行している.しかし,テレワークを初めて2年程度の中で生産性の悪化,メンバへの教育不十分,定例会の不備が発生している.ヒアリングを行うと「何を参照したらよいのか分からない」や「プロジェクトの雰囲気が分からない為報告のレベル感が分からない」,「上司やリーダーと会話する機会がテレワーク以外のプロジェクトに比べ極端に少なく話しづらい」などの声が上がっている事が分かった.課題を解消するにはメンバが参画時から使用するツール,参加する会議,テレワークでメンバがよく使うものに対して改善を行う事で,生産性の向上や若手の教育,報告漏れに対する施策を導入した.3つの視点として,Zoomでの質問や相談時にZoomでの履歴検索に特化したフォーマットを導入した.若手の教育については勉強会や簡易1on1の実施,作業計画ツールの導入,定例会については報告フォーマットと意識づけを行った.結果として生産性は1割削減,若手教育についてはアンケート結果から開始前よりも1.7倍理解度が向上した.定例会については報告漏れ0件,打ち合わせ時間超過0件と改善が見られた.本プロジェクトではテレワークで発生するコミュニケーション課題に対して,3つの視点(生産性に対する視点,若手教育・成長に対する視点,定例会に対する視点)で導入した施策を実施することで,今回のテレワークで課題としている事象が解消された.今後は更なる向上の為に3つの視点から更なる改善施策を実施し,他プロジェクトでも実施可能にする.
宮田 剛
これまで,プロジェクトを成功に導くために,複数プロジェクト間での成功事例及び失敗事例からノウハウを継承する「第三者による振り返り」や進捗や予算に対する課題の残存量など,プロジェクト遂行上のリスクに関連した「データ(エビデンス)に基づくプロジェクトマネジメント」をPMOとして検討,推進してきた.本稿では,これら2つの試みを踏まえ,プロジェクトの課題解決のための打ち手を検討するに当たって,過去に実施した改善施策が及ぼしたプロジェクトへの寄与度を分析し,そのデータに基づいた,より効率的に又より高い効果を生み出すためのアプローチを考察する.
西條 幸治
不確実性の増す時代背景や,働き方改革,SDGsの流れを受けて,自律型の取組みが推奨されるようになっている.この,ともすれば息苦しい時代の中,プロジェクトマネジメント学会の研究会の一つであるPMメンタルヘルス研究会では2009年11月のワークショップ以降,毎年ワークショップを実施してきており,2022年度も2月にワークショップを開催した.今回は、当該研究会の創立者であり,現在もメンバーとして参加している前田さんを講師とし,孤独リスクやIKIGAIをテーマにした講演と,それらをテーマとしたワールドカフェとしてのグループディスカッションを行った.本稿では,当ワークショップの様子を紹介しつつ,その中での話題に上がった対話型AIによる孤独リスク回避と,サードプレイス・IKIGAIの一例としてのボランティアについて,定例会での話題提供や現状の考察について論じる.本稿は経過報告の段階であり,研究会の方向性の模索をしつつ継続して取組んで行きたい.
波多野 英樹,安達 定昌,中島 雄作
2009年以降年々,全国新聞に載る障害発生件数が増加し続けている.2019年はクラウド,決済システムなど大規模で国民生活に直接大きな影響を与えた障害が発生した.筆者らの運用プロジェクトにおいても,稀に商用環境でトラブルが発生することがある.ひとたび発生すると十分な再発防止策を立案し,顧客説明をしなければならない.従来,なぜなぜ分析をしていたが,有効な対策が考えられていなかった.そこで,筆者らが考案したSAFETYフレームワークと,巷でよく採用されるブレーンストーミングの双方で再発防止策を検討した.本稿では,それらの比較と考察をした.その結果,SAFETYフレームワークが優れていることが確認できた.
吉岡 直紀
プログラムマネージャーとして、プロジェクトマネージャーやチームリーダーのアサインを適切に実施する為、必要なポイントを体系的に纏めましたので展開いたします。
小島 洋一
近年,緊急性のあるシステム対応が増加しており,短期間での本番リリースが求められている.例として,サイバー攻撃の標的となった場合,被害を最小化するために早急なシステム対応が必要となる.一方,現在日本で主流のウォーターフォール開発はシステムの早急対応には不向きである.私が担当しているウォーターフォール開発のシステムにおいて,フィッシング詐欺に対する対策として短期間でのシステム開発を余儀なくされた.私の担当システムではウォーターフォール開発に対し,アジャイル開発の考え方を取り入れた開発手法を導入することで開発期間の短縮を達成した.導入した開発手法は,「設計工程の進め方の見直し」,「工程の並走化」,「対応要件の段階リリース」の3点である.開発手法を円滑に導入するための施策として,「鳥瞰図の作成」,「テスト仕様書,テストデータの雛形作成」などを実施した.これらの開発手法,施策の導入により,短期間での本番リリースを障害なく完遂する事ができた.この事例より,ウォーターフォール開発においても開発手法の見直しやツールを有効活用より品質を確保しつつ短期間での開発が可能であるということが証明できた.他システムで同様の事象が発生した際は,今回の開発手法や導入施策を是非参考にしてもらいたい.
寺前 環,河口 慈,砂場 倫太郎,辻岡 佑介,安西 優佳,金田 晃
2020年のIPA「アジャイル領域へのスキル変革の指針 なぜ、いまアジャイルが必要か?」によると,アジャイル開発はビジネス一般における価値創造の局面でも活用できるとされる.しかし,PMI日本支部のアンケートによると,組織で取り組む主要なプロジェクトマネジメントのアプローチは,ウォーターフォールが主流でアジャイルは少なく,課題は人材,スキルにあるとされる.PMBOK®は,2021年に,ウォーターフォールに加えてアジャイルも範囲が拡張された.アジャイルを学ぶ必要性を感じた筆者は,ITソリューション会社A社で,アジャイル開発現場に配属される人材の実践力の養成とチームとしての即戦力醸成を目的とした6週間の研修を受講した.本研修後に参加者は,顧客視点から自己に問いかける姿勢や,チームに対して主体的に貢献可能な分野を探す姿勢を身に着けたことがわかった.また9か月経過したのちに,心理面や行動面で変容があったことがわかった.
角 正樹,梶浦 正規
システム開発やシステム運用は製造業ほどに自動化が進んでおらず,未だ多くのプロセスに人間が介在せざるを得ない.ゆえにこれら開発や運用で発生するインシデントの多くが人間の行動に起因する.そこで,筆者らは人間の行動に着目し,インシデント発生に至るまでの過程を「認識」,「判断」,「処理」,「確認」の4つのプロセスに分けて真因究明する手法を考案した.この手法を「行動プロセスに基づくインシデント再発防止検討ガイドライン」として体系化し,実際に発生したインシデントの真因分析支援や,研修を通じて普及浸透を図ってきた.これら4つの行動プロセス分類は,元々は真因の所在を明確にする目的で定義したものであるが,研修の受講を受け身にとどめず,受講者自身の行動変容を促す手法にも応用可能であることがわかった.作法を教える研修では,主に「処理」と「確認」を教えるが,受講後に受講者が主体的に行動するためには,「処理」に至るまでの「認識」と「判断」を理解させる必要がある.本稿では,暗黙知領域にとどまりがちな「認識」と「判断」を形式知化することで行動変容を促す教育方法について紹介する.
藤井 亮太,鈴木 隆之
近年、IT 運用が注目されつつある。IT 運用のコストは、IT 投資全体の 56.2%を占め、経営に及ぼす影響が日々高まっている。また、IT ライフサイクルにおいて、企業が事業利益を生み出しているのはIT 運用フェーズであり、その存在感、重要性が増している。一方で、現在のIT 業界は慢性的な人手不足に直面している。クラウドの浸透による爆発的なIT インフラ規模の拡大は、IT 運用要員の負荷を日々増大させている。生産性の向上やDigital Labor の活用が急務な状況にある。本論文では、Digital Labor 導入のためのValue Stream を用いた効果的なプロセス改善手法、Digital Labor導入時(運用設計時)の考慮点、そしてVUCA の時代において変化に柔軟に対応していくためのIT 運用体制について論じている。IT 運用で疲弊しているプロジェクト、また自動化によるコスト削減効果が出せていないプロジェクトは、是非参考にしていただきたい。
松田 力仁
経済産業省のDXレポートにより提唱された「2025年の崖」。これを乗り越えるため、システムは社会全体の変化に追従するための俊敏性や強靱性を持つ必要がある。そこで必要となるのがモダナイゼーションである。しかし モダナイゼーションプロジェクトはいくつか課題を抱えている。テスト工数の極大化とレガシーシステムで実現していた機能保証である。金融機関A社様のモダナイゼーションプロジェクトも同様の課題を抱えていた。これらの課題に対し、様々な施策の適用を行った。機能ごとに重要度付けを行い、重要度に応じたテストを実施し工数削減を実現。テスト運用の継続的な改善を行うことで無駄を省く。複雑化したレガシーシステムのアプリケーションを正しくモダン化できているかを確認するための仕組みづくり。結果、我々のプロジェクトでは、ITテスト工数の16.9[%]の削減や、本番障害11[件]の事前検知による安定稼働を実現した。本論文では当プロジェクトでの課題発見~施策適用に至るまでのアプローチ手法等、種々の開発案件での応用に向けて得られた知見・ノウハウを紹介する。
嶋田 康平
近年,多くの企業でDX推進が求められている.DX推進の課題として「人材・スキルの不足」や「レガシーシステムの存在」が挙げられる.長年の保守運用に伴い,仕様がブラックボックス化したレガシーシステムでは,業務知識が断片化した状態となっている.このような状況でシステム再構築を進めると,トラブルにつながることが多い.これらの課題を解決するためには,ユーザとベンダによる協働が必要不可欠であり,モダナイゼーションプロセスおいて,3つの追加施策を実施することで解決できると考える.実際に,業務知識が断片化した状態にあった事例プロジェクトにおいて実践した.「現場担当者によるプロトタイプ打鍵」により,下流工程での大きな手戻りの軽減につながった.「業務に沿った品質目標を設定」により,本稼働後は業務継続性を担保した品質レベルを達成することができた.「ユーザ主導での運用テスト計画立案および実施」により,ユーザ自身で業務知識の補完に取組むことができ,DX推進に踏み出すことができた.今後,ベンダとして取組んでいくシステム再構築プロジェクトは,業務知識の断片化がより深刻になっているシステムが多くなると予想できる.したがって,これらのユーザ協働への取組みを確実に実施し,ユーザとベンダが共に成長していくことが重要である.
高本 雄太
当プロジェクトではアジャイル開発を導入し、継続的に開発を進めている。その中で、アジャイル開発ではNGとされているスプリント中の開発項目の見直しが発生し、開発にかけられる時間の減少や品質低下が発生した。この問題に対し、プロダクトバックログの見直し、プロセスにテスト駆動を取り込むという施策を行った。その結果、スプリント中の開発項目の見直しや仕様変更は減少し、システムテストでの故障発生件数は約60%削減している。また、開発メンバーがアジャイルプロセスに慣れてくる中で、さらなる生産性向上に向けた施策の必要があり、継続的インテグレーションの導入や会議プロセスの改善、スキルマップ作成など、アジャイルプロセスを改善するための施策を行った。その結果、開発メンバーの意識改革が行われ、自己組織化されたことで、プロジェクトの生産性とお客様満足向上につながった。近年アジャイル開発を採用するプロジェクトは増加しているが、アジャイル開発におけるより良い環境構築へのアプローチの1つとして、本論は参考になると期待する。
針生 咲,木戸 美智子,森田 真理
これまで我々はプロジェクト成功をめざし,PMOによる組織的なプロジェクトマネジメント施策を整えてきた.特に,プロジェクトマネージャの実力を可視化し,プロジェクト規模に合った実力のプロジェクトマネージャを割り当てる制度がPM認定・PM任命である.組織上の理由でプロジェクトマネージャの配置が適切でない場合もあったが,成功プロジェクトが大半を占めていたために目立たなかった.しかし最近は大規模プロジェクトの増加とそれに伴う業績インパクトが大きくなり,プロジェクトマネージャの配置不備を見逃すことができなくなってきた.そこでデータサイエンティストとして,プロジェクト規模に合致しないプロジェクトマネージャを割り当てたプロジェクトに焦点を当て,施策効果を検証した.本稿では,その分析結果について報告する.
吉田 祐人
コロナ禍によって,私たちの生活環境は大きく変わった.そして,ニューノーマルな働き方として,テレワークが当たり前の時代になった.テレワークは移動時間や交通費の削減や柔軟な作業場所の選択や,集中して作業ができるなどメリットもあるが,一方で,実際に直接あって対面で会話する機会が減ったことで,「コミュニケーションロス」が起きたり,「状況の把握」「信頼関係の構築」が難しくなったり,また,「言葉」以外の「表情」や「ボディランゲージ」から入手できる情報が得られなくなった.プロジェクト立ち上げ時に,お互いを早く信頼し合い,効果的な作業を行うために,テレワークにおける遠隔コミュニケーションについて,対策を検討する.
吉田 和晃,松園 淳,遠藤 浩
システム開発プロジェクトでは,上流工程の段階で機能要件や非機能要件を満たせるよう設計を進めることが重要である.上流工程での設計を円滑に進めるために,共通技術部門を設置して,ナレッジを蓄積し展開する取り組みを行っている.しかし,展開したナレッジに関連したトラブルが繰返し発生しており,従来よりも効果的なナレッジ展開が必要であると考えた.そこで,PMO組織と連携して共通技術部門が技術ナレッジを必要とするプロジェクトを特定し,関連した技術ナレッジを適したタイミングで展開するプッシュ型のナレッジ展開活動を検討した.試行評価の結果,技術リスクに関連するトラブル発生の抑止に一定の効果が認められた.本稿では,試行評価や,試行結果からの課題を報告する.
西山 美恵子,金 祉潤,大関 一輝,森本 千佳子
ITエンジニアの現場力を高めるために「仲間意識」は重要なキーワードである.しかし,IT業界では客先常駐で働き,自社の社員と関わる機会が少ない社員が一定数存在する.そのような組織において,社員の仲間意識が希薄であることから発生する課題が度々ある.本稿では, システムインテグレータ企業の1部門の社員に対して,仲間意識を醸成することを狙い,信頼構築プロセスモデルをベースに1年を通じてワークショップや他己紹介などの取り組みを実施してきた.それらの取り組みの成果を紹介する.
矢野 雅也
私達の生活や企業活動とシステムはより密接になってきており、システムトラブルが起きると顧客満足度の低下や企業への不信感、機会損失など企業にとっては大規模な損害が生じる。私が担当しているお客様の基幹システムはお客様ビジネスを支える「止められないシステム」として安定稼働を最優先に長く運用されている。しかし、前回のHW更改による再構築対応において、リリース時にシステム全停止を伴う大規模トラブルが発生し、今回の再構築対応では安定稼働最優先のプロジェクト推進、リリース対応をお客様より求められた。私は前回トラブルの振り返りを行った中で、システムの全体像を把握するための体制面見直し、リリース方式の検討・評価が不十分という2点の課題を抽出した。システム全体把握のための体制組成を行い、組成した体制と連携しながら業務継続性確保を最優先とした段階リリース計画策定、検証を進めた事で、大規模トラブル0件での安定リリースを実現する事が出来た。再構築プロジェクトに潜むリスクを未然に防止し、お客様ビジネスの業務継続性を担保する取り組みとして、本論文は大規模で長く運用されているシステムの再構築プロジェクトに従事する方を対象に有益なマネジメント手法であると考える。
森本 千佳子,南 圭介
アジャイル開発が主流となりつつある現代のプロジェクトにおいて,様々なバックグラウンドを持つメンバーでの素早いチームビルディングはマネージャにとって重要任務の一つである.本研究は,演劇的アプローチとしてロールプレイに着目し,自己理解と適切な自己表現をチームビルディングに適用したものである.職場において昇格研修などでロールプレイを行うケースは見られるものの,チームとして適用した事例は少ない.これまでの演劇的アプローチにおいて,戦隊ヒーローワークショップで「仮面をかぶる」ことの自己表現がチームビルディングに効果があることが分かっている.本稿ではその「仮面」効果について分析を行い,役割を演じる(ロールプレイ)がチームビルディングに果たす効果を検討するものである.
佐々木 真弥,岡田 太,佐藤 裕介,齋藤 洋
基幹業務システムの更改プロジェクトを中心に,旧システムを踏襲したアーキテクチャを前提とする予算及び要求仕様を重視する傾向があり,要求事項通りにシステム開発を遂行するプロジェクトマネジメントが必要とされてきた.このようなプロジェクトでは,スケジュールやコストをIT計画や予算の範囲内に収め着実な遂行を行うプロジェクトマネジメントが求められることが多い.近年では,モダン化を含めた様々なアーキテクチャを実現し得るクラウドサービスを必要な時に必要な数量だけ使えるようになり,技術的な検討範囲が大きく広がった.それに合わせてシステム化の検討プロセスにも変化が生じている.検討プロセスの一例として,超上流工程において新技術を用いた実現可能性の検証のPoCを実施し,その結果を踏まえて要求仕様を策定する取組みが挙げられる.PoCでは,画面や機能のプロトタイプを作成しフィードバックを基に改善するなど顧客から要望を引き出すことが主な目的となるため,従来とは異なるプロジェクトマネジメントが求められる.このような新しい時流に対応するプロジェクトマネージャが獲得すべきスキルは,超上流工程の段階からあるべきシステムの姿を議論し,より良いものを作っていくことに変化していると思われる.本論文では,プロジェクトマネージャ人財がこのような時流に適応するためのスキルや素養について,「サービスデザイン」「システムデザイン」の視点を踏まえて考察する.
河田 知里
当社では、2020年度に顧客向け自社運用基盤において不正アクセスが確認され、多くのお客さま に多大なるご迷惑をお掛けした。お客さまへの安心、安全なサービスの提供、および当社の経営リスク回避に向け、サイバーセキュリティ対策の強化が急務となった。この状況を踏まえ、2021年4月、顧客向け自社運用基盤のセキュリティ運用監視を目的としたSecurity Operation Center(SOC)を新規に社内に立ち上げた。社内IT部門、社内セキュリティ統括部門、品質保証部門が一体となって推進し、有事と平時の両面から、高度化するサイバー攻撃へのセキュリティ対策を強化してきた。本プロジェクトにおいて短期間かつ高品質な成果を出すために工夫したポイントは大きく3つある。1つ目は、SOCを立ち上げる際に、キーパーソン確保、既存サービス活用を実施した点である。2つ目は、専任組織による第三者視点でのチェックとフォロー体制を整備した点である。3つ目は、業務自動化・効率化施策として、インシデント対応管理基盤の導入や業務プロセスの継続的改善まであらかじめ考慮した計画を策定した点である。その結果、お客さまへの安心、安全なサービスの提供に向けた、顧客向け自社運用基盤のサイバーセキュリティ対策強化に貢献することができた。
和田 良
ITプロジェクトが混乱する要因の一つとして,顧客側体制が弱いことに起因することが挙げられる.特に大規模プロジェクトでは,顧客システム部門にステークホルダーを取り纏める高いマネジメント能力が求められるが,その経験が不十分であることが多い.また,顧客システム部門では多数のシステムの維持保守をしていることから,十分な体制が確保できずにその状況が改善されないまま,プロジェクトが開始することもある.さらに,顧客内のシステム・ユーザー部門間の縦割り関係に起因する問題は根が深く,一枚岩となってプロジェクトを推進することが困難な場合がある.このような状況でベンダーとしてプロジェクト参画する場合は,プロジェクト開始前から十分状況を把握して各種施策が必要となる.例えば,顧客側の立場で推進・支援を行うコンサルティング要員の提案,中長期的には顧客側要員育成に対する支援やシステム部門の業務効率化に関する提案が考えられ,本論文ではこれらの内容について整理する.
綾野 未来,滝澤 健人,杉原 直樹,宮本 充,高槁 僚史,内山 航輔,渕上 恭平
昨今,変化の激しいビジネス環境に対応するため,アジャイル開発への注目が高まっている.アジャイル開発は,柔軟性とスピードを重視した開発モデルであり,コードの自動生成を行うローコード開発手法と親和性が高い.ローコード開発手法を用いたアジャイル開発における品質評価の課題として,アジャイル開発は開発方式やプロセスが多様なため従来の品質指標値を適用できない点,またローコード開発は自動生成率が高いため従来の品質評価規模(ステップ数)を用いた開発規模の算出が困難な点が挙げられる.当社内でも品質評価ナレッジの整理を進めているものの,過去実績が少なく定量的な品質評価手法は確立されていない.そこで今回は,一般的なアジャイル開発の管理指標であるストーリーポイントを活用し,スプリント毎の不良推移に着目することで品質予兆検知の試行検討を行った.具体的には,ストーリーポイントを用いて不良密度を算出し,スプリント毎の不良密度推移の評価結果と不良内訳結果を照らし合わせることで,推移パターン毎の品質リスクの仮説を検証した.本論文では,これらの手法としての妥当性を評価し,使用する上での利点や懸念点について言及する.
今岡 収,影山 剛
製造業A社では,同様の業務を実施するシステムを2つ保有しており,維持保守費用がかさむ,業務改善に2重の工数を必要とする等の問題があった.解決のために,システム統合プロジェクトが立ち上がったが,通常のシステム開発による統合では,期間的,要員的な問題があることがわかった.そのため,ノンプログラミングでデータを代行入力する手法を選択し,段階的な実施検証,PDCAやOODAループによる改善を通して移行をやり切った.本稿では,システム統合を短納期,ノンプログラミングで実施するために行った施策,および実際に起こった問題とその対策について記述する.
渡辺 由美子,北條 武,中島 雄作
NTTデータグループでは,20年前からPM育成のためにメンタリングを実施しており,筆者らが運営している.メンタリングの効果的な運営方法やメンタの育成方法については本学会で報告した.経験豊富な上級PMがメンタとなり,成長過程にある若手PM(メンティ)に対する実践的な助言,指導を通じて,ヒューマン・スキル,ビジネス・スキル,効果的なPM技法の活用などPMスキルの継承を行っている.1年間のグループメンタリングの実施前後にメンタ,メンティの双方からアンケートを取得している.さらに,メンタ及び事務局の所感も記録として残している.本稿では,それらのアンケート結果を定量的かつ定性的に分析した.PMメンタリングについての目的の達成状況を論じるとともに,メンティの参加1年後の追跡調査から彼らの行動変容に影響した事例も紹介する.
堀田 明秀
オペレーティングシステム(OS)の機能は多岐に渡り,OS機能の開発には,下位で動作するハードウェア(HW)や上位で動作するミドルウェア(MW)など様々な知見が必要である.また,メインフレームは企業の基幹業務に使われておりミッションクリティカル性の高いシステムを実現するために高い品質が求められる.更に近年のDX化によりコンピュータに求められる機能要求が高くなってきている.こういった広範囲,高難易度の開発を高品質に行うために実践している施策を紹介する.
市川 慶
近年の急速なデジタル化を背景として,企業の事業環境はより複雑化している.そして,複雑な事業環境に対応するため,新規事業やサービス開発にIoTやAIといったデジタルソリューションの適用を試みる企業が増加している.こういった背景の中で,新規事業創生におけるサービス定義もまた複雑化・難化しており,PMBOKに代表される従来のスコープマネジメントの手法では対応できなくなってきている.特に,前例の少ないサービスにおいては,サービス定義において検討すべき事項が充分に体系化されていないほか,不確定要素の多さから検討の精度も低くなりがちであり,従来の手法のみで進めるとサービスの失敗を招きかねない.そこで本稿では,実際のプロジェクトで実施したサービス定義を踏まえて,新たな検討の体系につながりうる,再現性のあるサービス定義の工夫について考察する.
慶寺 千佳,宮本 由美,小村 卓巳,清水 理恵子
近年,ローコード/ノーコード開発を採用したWebアプリケーション開発が増加している.しかし,ローコード/ノーコード開発は,採用するツールが提供する機能によって制約を伴う開発手法であるため,どのような要件のシステムにも適合するわけではない.そのため,適合・不適合を判断するための指針が必要であり,かつ不適合とする場合は検討工数の削減や別手段の早期検討のため,早々にそれを判断する必要がある.また,ローコード/ノーコード開発のメリットを最大限に活かし,Webアプリケーション開発を成功に導くためには,コーディングによる機能実装を前提とした従来のスクラッチ開発とは異なるノウハウが必要である.そこで,本稿では複数のプロジェクトで調査・検討されてきたローコード/ノーコード開発の適用における検討内容を整理し,指針を示す.
広瀬 哲
コロナ禍によって疑似体験したオンラインやバーチャルが当たり前となるアフターデジタルの社会においては,企業や組織のDXの推進が加速していく.既存事業の継続的優位性は低下し,ディスラプターによる業界破壊が起きている中,デジタル化により社会全体の構造変革が起こりつつある.こうした中,企業には社会に対して新たな価値を生み出すDXソリューションを創出することが求められており,これまでのプロジェクトマネジメントとは別の視点でプロジェクトを推進する必要があると考える.本稿では,プロジェクトマネージャがDXソリューションの検討を推進する上で必要とされる4つの役割を重要視し,ソリューションを創出する上で効果的なフレームワークとしてソリューションの階層定義を活用して推進したプロジェクト事例を報告し,適用結果の分析を通じてこれらの有効性について検証する.
齊藤 誠
弊社で活用を進めている海外現法との主たる取引の方法はこれまでウォーターフォールがほとんどだった.だが近年特に需要が拡大しているDX分野においては,顧客の需要の変化に迅速に対応するために,短期間での変化に柔軟に対応できる技術やマインドセットがデリバリチームに求められてきており,従来の仕様を挟んだ受発注の関係とは違う「協働パートナー」の関係に変革することが必要になってきた.協働パートナーには変化に強いプロセスだけでなく,発注元の指示に従うだけのマインドセットから,提供価値を発注元と議論しながら創っていこうとするマインドセットへの変化が求められる.この特徴はスクラムにおける自己管理型チームの特徴に近い.そのため,我々はスクラムを真に理解して実践できるチームになることで関係性が変革できると考え,単にスクラムのルールを適用するだけでなく本質を腹落ちしながら実践できるチームになるような施策に取り組み,関係性変革を実現した.
貝増 匡俊
課題解決型学習では、地域や企業など学外との連携が一般的になっている。神戸女子大学家政学科ではMORESCO社と協働した連携授業を実施した。事前に学生は、教室内でデザイン思考やロジカルシンキングの手法などを学ぶことで、ユーザー目線からのアイデア創出方法について理解が進む。課題解決型学習の授業デザインとして、提供されるサービスをユーザー目線と提供される価値を合わせて考えられることができる学習設計を行えるように設計した。通年で実施されるこの授業での実践した内容は、前期では課題解決に向けた学習として現状把握、問題分析やフィールドワークなどを行なったのち、学生による提案が行なわれた。後期には、同じ手法を繰り返し使いつつ、提案内容をより運用を考慮した詳細化したものにした。本稿では、連携先の学外とのコミュニケーション、授業設計や授業実践について報告する。
小栗 達也
近年ではマイクロサービスアーキテクチャを利用しマルチベンダで開発したサービスをつなぎ合わせてアプリケーションを構築するのが主流となってきている.一方,コンシューマ向けのスマートフォンアプリケーションは各社独自性を訴求するために新規開発するものも少なくない.そのため,新規マイクロサービスをマルチベンダで構築しながら,そのサービスをつなぎ合わせてフロントアプリケーションを構築することになるため様々なプロジェクトリスクが発生する.本稿は,このようなマルチベンダによる新規マイクロサービスアーキテクチャでのコンシューマ向けスマホアプリ開発プロジェクトのプロジェクトマネジメントの実践を事例研究としてとりまとめる.
三好 きよみ,片岡 典子,斎藤 識樹,田中 敦也,鳥海 阿理紗
日本においては,少子高齢化による労働力の減少や従業員の高齢化が問題となっており,その対応策の1つとして生産性向上が挙げられる.本研究では,生産性を規定する要因として,ワークモチベーションを取り上げ,チームで働く人のモチベーション要因の把握状況とキャリア自律,職場環境等の関連について明らかにする.その結果から,チーム業務においてチーム全体のパフォーマンスを向上させるための知見を得ることが目的である.チームで働いたことのある者を対象としてアンケート調査を行い,自分自身や一緒に働く人のモチベーション要因の把握状況とキャリア自律,職場環境等の関連について,統計的に分析した.その結果,自分自身のモチベーション向上要因の把握状況は,キャリア自律,主観的幸福感,職場満足感との正の相関関係が確認された.一緒に働く人のモチベーション向上要因の把握状況は,キャリア自律との正の相関関係,組織風土との負の相関関係が確認された.
吉田 憲正
25年前横浜市都筑区港北ニュータウンにおいて,CATVで仮想空間を活用し,コミュニケーションやショッピング,バンキングを行う,1000世帯規模・2年間(1995年~97年)の極めて画期的な公開実証実験である「港北ニュータウンVirtual N-Town 実証実験」が行われた.筆者は,この実証実験プロジェクト責任者として企画・開発・運用に携わっていた.そして昨年2023年は,改めて仮想空間の活用が注目された年でもあった.本論文では,25年前のプロジェクトで得られていた多くの知見や教訓を再整理し,現在の仮想空間(メタバース)プロジェクトの企画・開発・運用について考察する.
三宅 由美子
変化が激しく,将来の予測が困難なデジタル時代において,アジャイル型の情報システム開発を行う機会が増加している.アジャイル開発では,小規模なチームがチーム間の情報を共有しながらプロジェクトを進める.そのため,プロジェクトには垂直方向のリーダーシップだけではなく,水平方向のリーダーシップの必要性が高まっている.水平方向のリーダーシップでは,リーダーの役割をもつ人だけでなく,リーダーの役割をもたないメンバーがリーダーシップの意識をもち行動するシェアド・リーダーシップ(以下,SL)の研究が増加している.しかしながら,ITプロジェクトのSLに関する研究はまだ少ない.そのため,本稿ではSLに関する先行研究を調査し,ITプロジェクトにおけるSLのあり方について考察する.
森 智明
顧客の要求に対し,システムの提供をもって応えるベンダーにとって,顧客の要求事項を正確かつ網羅的に把握・理解することは重要である.システム開発を行うプロジェクトにおいて,後続工程で認識の相違が発覚し以前の工程に戻った場合,プロジェクトの収益や納期が悪化し,プロジェクト運営が混乱する要因になる.顧客の要求事項は,明示される項目と明示されない項目がある前提をおくことで,網羅性を確保するためには,要求事項を引き出すことが必要になる.過去の事例やチェックリストは,網羅性を確保するために有効な手段として機能するが,顧客の要求事項を引き出す気付きを与えるものであり,各項目を確認する作業に活用するものではない.これらを活用して,現時点で判明している要求事項に従いシステム提供した場合に,どのようなシステムが出来上がるかを顧客に示しながら相違点を解消する議論を反復して行うことで,正確かつ網羅的な要求事項を纏めることができる.
石井 祐雄
現状のシステム開発プロジェクトでは,プロジェクトやシステムの取り巻く環境が,高度化・多様化している.また,発注側企業からの納期や価格の圧縮要求も強くなってきており,プロジェクトを成功裏に完了させることが,従来よりも難しくなってきている.このような環境下で,PMはより高度なスキルとコンピテンシーを求められている.本稿では,PMコンピテンシーに着目し,実際の組織に適用した事例の分析を通して,今後のPM育成方針へのヒントを探求する.
櫻澤 智志
ITプロジェクトに関わるメンバーを,リーダーやマネジャーへ育成することは,自身のCapability向上と,キャリア形成,チーム力強化と活性化,組織におけるローテーション促進といった多くのメリットがある.ここで注意したいのは,育成したいメンバーの経歴やスキルセット,マインドセットには個人差があるため,あらかじめ準備されている研修やOJT(On the Job Training)に加え,メンバーの特性を生かしたプログラムを組み立てる必要がある,という点である.本稿では,メンバーに応じたITプロジェクトリーダー育成プログラムの計画と実践に関する実例を挙げ,ポイントや注意すべき点,見えた課題に対するアクションプランを考察する.
市原 信博
「SAP 2027年問題」とは,SAP ECC 6.0の標準保守(メインストリームサポート)が2027年末に期限を迎えるという問題である.以前は2025年末が期限であったため「SAP 2025年問題」と呼ばれていたが,期限が2年延長されたことを受け「SAP 2027年問題」となった.当社ではSAP S/4HANAへの移行を決定し,移行方式としてブラウンフィールド(コンバージョン)を選択した.SAP ECC 6.0からSAP S/4HANA へのアップグレードは単なるバージョンアッププロジェクトではない.プロジェクトマネージャーにとって多くの課題をもたらす,非常に困難で複雑なプロジェクトとなる.本稿では,特にプロジェクトマネージャーが直面する会計領域における課題とそれらの解決策について考察する.また,今後新しいバージョンへのアップグレードを確実に成功させるための戦略についても報告する.
赤塚 宏之,水谷 文香,荻野 貴之,宮崎 正博
デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて,基幹システム刷新やデータ活用の需要が高まっており,複雑化した既存システムの刷新のような高難易度のプロジェクト(PJ) を遂行できる高度IT人材(プロジェクトマネージャ)が求められている.弊社では,プロジェクトマネージャ(PM) の人材像を定義し,育成や認定を実施するPM 育成制度を策定している.昨今の事業変化の速度に追随していくためには,事業目標の達成に必要なプロジェクトマネージャ(PM)の育成が必要であるが,適切なスキルレベルを保有したPMを適時育成することが課題であった.この課題に対し需要と供給の両面からアプローチを図った.需要の側面からは,これまで培ってきた標準化したSI方法論とPMの人材像を組み合わせて事業計画が求めるPMの必要所要をスキルレベル別に明確化した.また,供給の側面からは従来は内部育成を前提としていたが,社内リスキルやパートナ連携といった外部調達も含めた育成のフレームワークを改定した.本稿では,事業計画と連動した育成活動の実践結果,今後の展望について述べる.
北 昌浩
プロジェクトの成功には,ユーザ含めたプロジェクト関連部署との共通理解に基づく遂行が不可欠である. プロジェクト規模の増大に伴い,各担当部署間のコミュニケーションロスや各々の思い込みによる想定外事象が発生する可能性は増大する. 加えて,システム老朽化等に対する更改を目的としたプロジェクトでは,現行からの変更が好まれず踏襲することが多いが,結果的に失敗するケースも多く存在する. 本論文では,過去2度の更改においてトラブルが多発していたプロジェクトに筆者が新規参画し,ユーザ含む関連部署間との連携強化や既存プロセスへの改善について提案と実践を推進したことでトラブル発生無くプロジェクトを完遂させた事例について紹介する.
大森 伸吾
昨今のコロナ禍において,感染予防対策の観点から在宅勤務への対応要求が高まり,その後,生産性向上施策という観点も加わり,在宅勤務ニーズは高いレベルで継続している.また,システム構築プロジェクトにおける顧客要望の高度化や複雑化に伴い,プロジェクトチーム組成時の有識者確保が困難になってきており,この観点から,複数の遠隔地拠点からのリモート参画を前提としたプロジェクト体制を構築するケースが見受けられる.一方で,電話やメールといった従前のコミュニケーション手段に加えて,在宅勤務や遠隔地からのプロジェクト参加を可能とするさまざまなコミュニケーションツールが急速に世の中に浸透し,利用できる環境が整ってきている.こうした背景を踏まえ,在宅勤務および遠隔地からのリモート勤務を含めたテレワークを前提としたプロジェクト運営にあたっての,効果的なコミュニケーション手法,テレワークを行う上でのコミュニケーションにおける課題と対応策,およびその効果について考察する.
福本 剛,三角 英治,佐藤 慎一
NTTデータでは,システムの開発品質を評価する指標として,システムの開発規模(コード行数等)に基づいた「サービス開始後6ヶ月バグ密度(以降,「S後バグ密度」という)」を測定,モニタリングしている.しかし,昨今,ローコード/ノーコードやSaaSを利用した「作らない開発」が増えており,規模をベースとした指標では妥当な評価ができなくなっている.規模に基づかない品質管理手法としては,開発工程間のすり抜けバグに着目した手法が提案されており,その考え方を応用して開発全体の品質を評価する指標として「サービス開始後6ヶ月すり抜けバグ摘出率(以降「S後すり抜け率」という)」を提案した.当社で試行的に測定・分析した結果,従来の指標であった「S後バグ密度」と同様の傾向を示し,「作らない開発」も含めたシステム開発全体の品質傾向を分析する指標として妥当であることを確認できた.
竹本 敦子,海老原 聰,戸成 真紀恵
IT人材不足が深刻化している昨今では、質・量ともに充分なエンジニア調達が難しくスキルに応じたエンジニアの配置が必ずしも最適に行えないことがある。「高スキル者が少なく潤沢に配置できない」、「要員数は充足したがスキルが浅いメンバも多く混在する」というケースは少なからずあり、このような体制は、高スキル者が本来スキルを発揮すべきタスクに時間がさけず、結果的に品質低下や納期遅延をまねく要因となりやすい。一例として製造工程においてはソースコードレビューがこのような状態に陥りやすく、特に大規模プロジェクトでは要員数もレビューすべきソースコードの量も多くリスクが高まる。本論文では、当社が製造工程を担当した大規模システムにてソースコードレビューの効率化を狙いとして導入した静的解析ツールの事例紹介およびその効果を考察する。
伊藤 晋
2020年,コロナ禍の到来によってビジネス環境が大きな変化を遂げるなか,あらゆる企業において新規事業創出への機運が高まっていた.同時に,このミッションを担う人財育成のニーズが高まっていた.当社では2020年度から「体制」「事業創出プロセス」「人財育成」の強化を,部門ごとの推進から全社推進へと発展させ,サービス・新事業創出に向けた取り組みを行ってきた.この中で「人財育成」においては,プロジェクト全体を見通して顧客をリードする「顧客対応フロント力」と事業ポートフォリオ変革による新たな成長事業を創造するための「新価値創造フロント力」という「2つのフロント力」の強化を掲げ,全社展開・実践を行い,社内浸透を推進してきた.これを受け,現場各部門では,サービス化・新事業創出の動きはあるもののアイディア出しレベルで停滞している現状があった.そこで当部門では,「2つのフロント力」に関するアンケートを実施し,浸透度の現状を把握することにした.結果,必要性は高いものの,理解は低く,業務に直結しないという意識から現場へ浸透していないことがわかった.アンケート結果から,当部門では,「新事業アイディア創出WG」を立ち上げ,「2つのフロント力」の浸透,強化を図り,既存事業に対して,顧客視点で付加価値を創出できる組織への変革をめざすことにした.「新事業アイディア創出WG」では,伝道師の育成,実践力の向上,新たな事業構想の立案を目的として,各プロジェクトのリーダー層を選抜し,事業アイディアの整理までのプロセスを実践形式で学んだ.これにより,1つの事業アイディアがフェーズゲートを通過し(事業構想検討中),参加メンバーの「2つのフロント力」に対する意識が向上した.また,事業アイディアの整理に向けて,調査,議論を重ねることで,現場目線での新事業創出に向けたノウハウを蓄積することができた.
川原 拓馬
近年,スマートシティ実現の重要性が高まっている.当社は日立とともにスマートシティの実現に向けたソリューションに取り組んでおり,概念実証への参画やサービス開発を進めている.まだ実績が少ない分野のため明確な要件が決まっていない場合が多い.例えば,UI/UXの変更や機能の追加など,頻繁な要件変更やアーキテクチャの見直しが発生する.このような状況では頻繁な変更に対する適応力が要求される.このようなプロジェクトを進めるため,DevOpsを採用し,Westrum博士の組織文化の研究を参考にPoCを進めた.しかし,本番システムの開発になると新たな課題が浮上した.特に,各チーム間のサイロ化やプロジェクトメンバーの適性やスキルのミスマッチなどが課題となった.これらの課題に対処するため,DevOpsのCALMSフレームワークに着目し,対策を行った.この結果,各チームが同じ目標を共有できる体制を確立し,プロジェクトメンバーが互いに学び,助け合う文化を形成することができた.また,失敗に直面しても協力して解決する自律的なチームを築くことができた.このチームをさらに成長させるため継続的に受注し,一段上の目標であるSREにチャレンジすることをめざしていく.
古川 茉幸,貝増 匡俊
我が国では少子高齢化の影響を受け労働人口が減る中で、多くの外国人が長期滞在するようになった。プロジェクトにおいて多国籍のチームが珍しくなくなる中で、外国人の受け入れに関する政府の方針や施策は重要である。政府は、多文化共生社会の実現を掲げ、関連する法律を制定した。かかる法の下、各自治体では条例を制定し、日本語学習教室や文化交流など具体的なプログラムを実施している。本研究では、神戸市、大阪市、京都市における多文化共生社会の事例を比較するともに質的調査を実施した。それぞれの都市のもつ社会経済的な背景の違いにより、実施された具体的なプログラムは異なる。神戸市では、日本語教室の開講や行政の相談窓口を設け、多文化共生社会推進に取り組んでいる。一方で実現した状況が具体的に数値化するなどの課題があることがわかった。
白浜 真一
数十Mstepを超えるシステムの更改案件において,見積時に全ての影響範囲を抑えたスコープの明確化は非常に困難であり,特に関係するシステムが多数ある場合,その複雑性は更に増す.リスクバッファを加味した算出では回答する側,受け取る側の双方にとって納得感のない数値になってしまい,リスクを取らなければ案件自体が成立しなくなるため,責任範囲,具体化する時期を区切り,後続工程において都度,追加見積とすることをステークホルダー間で事前合意してプロジェクト着手する手段が効果的と考える.本論文では金融システムにおける勘定系システムの大規模更改案件を題材に,関連システムに起因するスコープマネジメントで取り組んだ内容について論ずる.
高井 雄司,猪股 隆之
近年のデジタル化やイノベーションの進展/推進によるデータ量の増大,AI能力の向上などを背景に,企業のデータドリブン経営を支えるためのDMP(Data Management Platform)の導入や活用が必要不可欠になってきている.DMP上におけるデータセット開発においても,企業全体として標準化され利用しやすい高品質なデータだけでなく,マーケティング施策において有効かつ効率的な様々なデータの蓄積と迅速な提供が求められている.加えて,データ提供後においても,ソースとなるデータ自体が変化する頻度が高い特性を持つため,その変化を継続的に取り込む事を目的とした開発と運用の一体化の仕組み作りも必要とされる.これらのデータセット開発を通じて得た従来の開発手法との違いに関する知見と,そこから見えてきた課題及び対応策について言及する.
苑本 進
コロナ渦でのプロジェクトマネジメントにおいて,国内の緊急事態宣言や海外の外出禁止令が発令されたため,プロジェクトのいくつかのタスクが円滑に進めることができない問題が発生し,プロジェクトに影響があった.また,メンバーとのコミュニケーションでは,リモートワークに慣れていない等の理由により,作業が効率的に進まないことや生産性が低下する課題があった.このような状況下で,プロジェクトを円滑に進めるため,リモートワーク環境でのビジネスチャットツールやWeb会議アプリケーションといったITツールの有効活用やコミュニケーション計画を詳細に策定し,プロジェクトを進めることで期待できる効果について考察する.
岸下 孝志
プロジェクトマネジメントの方法論として,業界内でもProject Management Body of Knowledge(以下、PMBOK) やフェーズゲートによるリスク対策などが浸透し,8割以上のプロジェクトが成功プロジェクトとなっている.成功する大規模プロジェクトにおいては,顧客業務,アプリケーション開発,非機能要件,プロジェクトマネジメントなど幅広い知識を有しているゼネラリストが存在する.プロジェクト期間中に徐々に担当範囲を越えて活躍し,プロジェクトのバランスを調整する能力を有している.彼らは,自身の経験やプロジェクトの背景,目的,ステークホルダーの意思などの暗黙知を正しく理解し,プロジェクトチーム全体で共有して形式知化を図っている.プロジェクトにおけるナレッジマネジメントに着目し,SECIモデルを適用する有効性を検証する.
竹嶋 就一,寺田 由樹
本稿では筆者の製造業でのITプロジェクト経験を踏まえ,PM業務の効率化について述べる.デジタルトランスフォーメーションの推進が進む中で,製造業においても従来のウォーターフォール開発に加えて,アジャイル開発を適用するケースも増えてきている.ITプロジェクトの要件も多様化し,お客様の期待値も更に高くなっている.特に製造業においては,海外との競争力強化のために,ITプロジェクトの要件が複雑になり,難易度が高い開発を求められる状況もある.このような環境下で,プロジェクトマネジメントスキルはPMだけではなく,あらゆるIT人材に求められている.IT人材の不足は引き続き,大きな課題ではあるものの,限られた要員にて,プロジェクトを実施するために,PM業務の効率化が極めて重要である.本稿ではPM業務の効率化に関し,検討すべき課題を考察し、具体的な取り組み事例を紹介する.
東芦谷 祥子,井上 裕太,宮脇 佑弥,前田 健太朗,菅沼 秀敏
ITビジネスでは,クラウドやAIを活用したDX商談が主流となっているが,即座に提案できる人材が少ないため,体系的な育成が求められている.しかし,現行の教育は基礎知識が多すぎて時間がかかり,また,社内には実践的な知識が点在している.そこで富士通は,学習時間の短縮と効果的な教育提供を目指し,オンデマンド形式の学習提供システムを配備した.これにより,社内の実践知を動画で提供し,受講者は効率よく学習できる.また,システムは自動化されており,運営コストも削減できる.このシステムの導入により,学習コストを8500万円,教育運営コストを1800万円削減した.この学習提供システムが必要とするものは,自動化に用いるMicrosoft社のM365のSaaSサービスと実践知の蓄積のみである.本稿では,このシステムによる人材育成の仕組みと効果,発展性について紹介する.
伊藤 礼人
プロジェクトの難易度が年々上がる中,プロジェクトを求められる水準に到達させるためには,リスクをコントロールすることが必要となる.リスクの中でもとりわけ,QCD(Quality, Cost, Delivery)をコントロールすることが重要である.本論文では,実際の事例である,多拠点間を繋ぐ広域ネットワークの構築・展開をもとに,QCDコントロールの効果的な取り組みについて考察する.
中野 真那,有竹 康浩
少子高齢化により,将来,人材不足が懸念されることは以前より指摘されていたが,プロジェクトの状況によっては,世代交代のためのスキル移転に十分な時間を割けていないことがある.長期保守活動などで顧客と深い関係をもつビジネス組織では,それを成してきたシニア世代の要員が離職することで,顧客との人間関係以外にも文書化されていないスキルや知見が失われてしまい,以後の業務に影響が出る可能性がある.このリスクをできるだけ減らし,残された要員でビジネスを継続するために,普段のプロジェクトにおいても世代交代の準備をしておく必要がある.本稿では,筆者の属する組織でのこれまでの経験をもとに,引継ぎの方法や結果を考察し,プロジェクトが日々行うべき項目を提言する.
平岡 卓哉
筆者はプロジェクトマネジャーのスキルをプロジェクトの体験から習得できると考えている.また,過去を振り返ることで当時は見えなかった出来事の本質を捉えようとしている.そこで,筆者が体験したプロジェクトのプロジェクト計画と実績をプロジェクト資源(人,物,資金,情報,時間)にて振り返り,どの資源に対して課題が発生しているのかを分析した.結果,人に関係した課題が多かったため当時のチームにてバーチャルプロジェクトを立ち上げ,スチュワードシップを意識しながらコミュニケーション計画,チーム育成計画を見直して考察することで課題の本質を見つけ今後に役立つ気づきをまとめる.
久田 大地,岩島 菊生,石田 敏寛,熊谷 健,中島 秀一,岡本 圭介,野口 裕介,稲葉 新
近年,ChatGPT(GPT-3.5,GPT-4)をはじめとする大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)活用が活発化しており,単純な文書生成だけでなく,ソースコード生成や,テストコード作成などSW開発の分野においても活用検討が進んでいる.そこで本稿では,品質管理における活用例の1つとして大規模言語モデルを活用した障害分析を提案する.本手法は障害情報と命令文(プロンプト)をLLMに入力することにより,なぜなぜ分析を含んだ障害分析結果を出力することが可能である.さらに本稿では,過去発生した障害事例に対する本手法の定性評価を実施し,今後の現場適用に向けた課題についても考察する.
加藤 迪子,中島 雄作
当社はSIerの中でも,NTTデータのグループ会社における基盤プラットフォーム分野を主に担当する位置づけにある会社である.筆者マネジメントする部署は,ある事業部の物販,保守契約や請負,準委任契約などの契約事務を一手に引き受けている.組織長から,契約事務の効率化,言い換えると,業務見直しと属人性の排除をするよう指示があった.そこで,ボトムアップによる課題形成,仮説構築,系統マトリクス図による対策立案,契約事務改革のリスク洗出しフレームワーク,非定型業務の細分化,無駄をなくすフレームワーク,タスクフローの見える化等,様々な施策により,プロセス改善活動を推進した.結果として,5年前に比べ,28%の工数削減を達成した.本稿では,契約事務におけるプロセス改善活動の一事例について述べる.
川村 昌司
当事業体では,リスク管理帳票「PJリスク管理シート」の活用と組織的な確認でプロジェクト開始前に抽出したリスクへは正しいアプローチができているが,開始後に発生したリスク(未抽出リスク)がプロジェクトに多大な影響を与えてるため,未抽出リスクの傾向と原因を分析した.分析は,対象プロジェクトの決定とPJリスク管理シートを収集するフェーズ,プロジェクト開始と終了のPJリスク管理シートを突合し未抽出リスクを特定するフェーズ,未抽出リスクの傾向と原因を分析するフェーズの3フェーズで実施した.分析した結果,件数は少ないが3割に近いプロジェクトで未抽出リスクが発生,プロジェクト管理のプロセスに問題はないがプロジェクトリーダが経験に頼ったリスク判断をしているの原因であることが判明した.そのため,未抽出リスクの内容,原因,改善策およびを経験でなく事実に誠実にリスクを抽出すること展開する活動が必要であると考える.
鹿島 史貴
AWSクラウドへのモダナイゼーション事例を通して,モダナイズの主な検討項目について論じる.検討すべきポイントは以下の3つである.まず第1に,クラウド移行戦略についてである.クラウドへの移行手法とそれぞれの特徴,導入後の影響について言及し,本事例で発生した課題とその解決策について述べる.また,移行戦略を策定する際に移行手法の特徴と導入後の影響を理解することの重要性を強調する.次に,クラウドサービスの活用方針についてである.サービスの利用可否を判断するためには,コスト評価が必要であることを指摘し,アーキテクト体制確保と評価期間確保の重要性について論じる.最後に,現行ソフトウェア,主にソースプログラムの移行方針についてである.現行の仕様書や仕様管理キーマンが不足している状況下でのソースプログラムの移行プロセスについて述べ,その進行方法について本事例を通じて示す.
黒田 克徳
レガシーシステムからのマイグレーションや法律改正などの対応で大型の開発案件が完了し,エンドユーザーがシステムを利用し始めると細かい機能変更や,新しい機能の追加など,新たなニーズが発生し,追加の開発を依頼される.しかし依頼はある機能に限定したものではなく,さまざまな機能かつ大小細かな部分への改修となるため,自ずと細かく性質の異なる案件を並行して対応することとなる.結果的に作業が輻輳し,機能間の仕様に関する連携の検討だけでなく,その作業管理手法においても個々の案件の難易度以上の複雑さとなる.本論文では,このような輻輳開発において過去の実体験や事例からプロジェクトマネジメントにおける問題点を探り,今後のプロジェクトマネジメント対応において見積りおよびプロジェクト計画など上流工程段階でどのようなことを考えておく必要があるか考察する.
八巻 義正,福田 秀紀,木村 和宏,中島 雄作
プロジェクトを成功に導くためには,プロジェクト特性を考慮して全フェーズを見通した品質保証方法を策定し,それを実現する開発・管理プロセスを定義し実行管理することが重要である.NTTデータでは,プロジェクトを円滑に遂行する規範となる開発・管理プロセスを適切に定義,実行するために,品質保証ストーリーの考え方を導入している.しかし,当社は先進的な基盤技術に強みを持つ集団であるが,品質保証ストーリーの考え方はまだ十分に普及していない.そこで,筆者らは,あるセキュリティソリューションの開発において,品質保証ストーリーを採用して品質管理を行った.それにあたって,想定リスクが存在したり,実際にいくつかの問題が生じたが,これらに適宜適切に対応することにより,QCDを遵守して開発プロジェクトを成功に導くことができた.本稿では,品質保証ストーリーを適用したシステム開発の一事例について述べる.
岡野 孝典
公共分野の大規模システムの中には,長年に亘って顧客独自の仕様で開発・運用されているシステムが数多く存在する.デジタル庁の発足もあり,これらの大規模システムについて,システム更新時に独自の仕様を一部見直し,業界で標準的となっている仕様を採り入れることで,業務効率を向上させるといったケースが増えてきている.しかし,一方では既存システムで実現している独自機能の中には,顧客の特性上,無くしてはならないものも多く存在している.そのため,要件定義においては,標準的な仕様をベースとしながらも,既存システムで長年培ってきた顧客独自の業務要件や,業務運用上のノウハウを吟味し,必要な要件を漏らすことなく要件定義書に組み入れる必要がある.本稿では,要件定義において発生する,スコープギャップを極小化するためのコミュニケーション手法を検討,実践し,その結果について考察する.
谷元 久実子
プロジェクトは有機的な活動のため,開始したのち、必ず終結を迎える.プロジェクト終結時,将来のプロジェクトにむけて教訓を残すことは,社会の変化や不確実性への対応などプロジェクト管理手法が変更を求められるなか,プロジェクト終結フェーズでの重要タスクでることは変わりない.本稿は,一定間隔でシステム更改を繰り返す大規模更改プロジェクトでのプロジェクト終結時における2段階での「プロジェクト振り返り」の実践を事例研究としてとりまとめる.
高山 快
大型のソフトウェア開発プロジェクトはサービス・インを迎えた後,往々にして高品質のシステム保守と体制の削減を同時に顧客から要請される.本稿は,実際の大型プロジェクトの事例をもとに,通常両立が困難なこの要請に対する一つの対応例を示すものである.サービス・イン直後から,プロジェクトの保守は3段階のフェーズ(品質向上フェーズ,収益構造最適化フェーズ,運営永続化フェーズ)を意識的に,かつ順番に経ることで,品質面・財政面において成熟した状態に移行可能であることを説明する.また,それぞれの局面で生じる課題に対し有用な施策についても併せて紹介する.
田島 千冬
運用改善を実施する場合,そのテーマを検討し対応計画を作成する段階までは,参加者の協力と共に高いエネルギーでスタートできる.一方で,計画が進む中で日常業務に忙殺されることにより,改善活動の優先順位が下がり,それと並行して改善へのエネルギーも低下し,次第に計画に対する進捗管理のみが定型化され,終了時には当初想定していた価値が見出せない結果になる経験があった.今回,スクラムの考え方やイベントを取り入れた運用改善サイクルを実施することで,メリハリのある活動サイクルによる活動の活性化と価値に焦点を当てる意識への変化に繋った.そして,運用改善のテーマとして掲げた3つの価値を具体的な形にすることができた.この活動は,今後に向けて改善する余地はあるものの,忙しい中でも全員が参加し,持続的にエネルギーを持って取り組むことができる活動となった.当投稿では,その経験を事例としてまとめる.
義経 真一
少子高齢化による労働力人口の減少の影響によりIT人材の不足が深刻化している.特に先端技術やプロジェクトマネジメントなどの高度なスキルを持つ人材不足が深刻化している状況である.また,顧客が当社へ期待する内容についても従前の期待から変化が生じており,様々な技術のプロジェクトを立ち上げねばならない状況が発生する.本論文では著者の経験と直面した課題を元に,プロジェクトマネジメント上の施策についての事例を示す.
川村 圭祐,高森 康之,伊藤 桂,小畑 啓悟,猪瀬 朋克,中島 雄作
従前から世の中の多くのプロジェクト運営上の課題として属人化が存在する.筆者らのプロジェクトにおいても,DB移行作業において属人化を解消しなければならない状況にあった.筆頭筆者は2年目新卒社員であるが,QCストーリーに従って,属人化を解消するPDCA改善活動のリーダとして推進した.ナレッジ,PM,品質の領域から合計7つの真因を抽出し,最終的には,メンバへの共有体制見直しという対策を実施することで,属人化の解消に成功した.本稿では,DB移行作業における属人化の解消活動について述べる.
内田 裕子
既存事業を活かして事業拡大を図ろうとしたとき,限られたリソースで同じサービスを繰り返していても飛躍的な成長は望めない.日立製作所のERPパッケージ事業は,製造・流通分野の顧客に対し,SAP社のERPパッケージなどを活用して基幹業務を刷新するソリューションを25年以上に渡り提供してきた.ERPパッケージ市場は再び活性化しているが,近年どのERPパッケージ製品も成熟して機能差は減少し,実績のあるERPベンダーの数も増加しているため,当社独自の強みを活かした新しいソリューションを開拓していかないとパッケージビジネスは拡大しづらい環境にある.また,SaaS型ERPの需要が高まり,従来のビジネスモデルそのものが通用しなくなってきている.長らくERP導入という歴史あるビジネスを繰り返してきた社内のエンジニアをどのように配置し,従来と異なるプロジェクトを並行推進していくか,最適解をめざし検証する.
石原 寛紀
プロジェクトの上流局面である要件定義は,外的リスクや不確実,未確定な事項が多く,計画通りに進まないことが常に発生する.要件や仕様が確定せずに進むプロジェクトにおいては,WF(ウォーターフォール)とアジャイル手法を組み合わせたハイブリッドアプローチが効果的であり,その適用により,変化に対する柔軟性や迅速性の期待に応えながらプロジェクトを推進することができる.ただし,一般的に,WFとアジャイル手法を用いたハイブリッドアプローチは,開発局面に適用されることが多く,その効果が現れてくるのが下流の工程からとなってしまう.本稿で提案するWFとアジャイル手法を用いたハイブリッドアプローチは,開発局面よりも早い設計局面での適用を実践し,迅速かつ柔軟に変化への取り込みを行い,品質や進捗に与える影響を最小限に抑えながら成果を上げることができた.その適用方法と効果を紹介し,考察を述べる.
高田 淳司,常木 翔太,松井 千代子,平山 景介
生成AIの登場により,人工知能(AI)はより身近になり,さまざまな業務でAIの活用が進んでいる.PMO活動においてもAIは活用されており,機械学習を用いてリスク予兆を検知し,失敗プロジェクトを予測する取り組みが報告されている.しかし,属人的な要素が高いプロジェクトの成否は,最適化指標の設定が難しく,その判定の自動化が困難であり,判定ができたとしても,AIが予測した結果について根拠を読み取ることができないという問題がある.本稿では,熟練者の行動から行動基準となる意図を学習し,意思決定を模倣するAI技術を用いることで,複雑で属人的なリスクプロジェクトの判定を自動化する取り組みについて紹介する.また,AIモデルの作成時に大規模言語モデルを活用した工夫と実際の業務に適用した結果の有効性を過去の機械学習モデルとの比較により考察する.
清水 友恵,百々 久司,山本 篤,塚原 康司,中島 雄作
筆者らは基盤プラットフォーム領域の保守をしている.頻繁にトラブルが発生しているわけではないが,第一筆者はヒヤリハットを体験することが頻繁にあった.新人・初心者だからというわけでもなさそうだった.クラウドサーバのメンテナンス対応作業内で起きた作業ミスに関してメンバ内に聞き取りを行ったところ,ヒヤリハットが月に1回程度起きていることがわかった.そこで,4Eをキーワードに挙げ,ヒヤリハットの要因を洗い出した.さらに,SEARCHフレームワークを活用して要因を洗い出した.対策立案においても,4M5E分析とSEARCHフレームワークの両方を使って,数多くのヒヤリハットの対策案を挙げた.結果として,3カ月間,ヒヤリハットが発生しなくなるまで改善した.本稿では,保守運用作業におけるヒヤリハットの防止活動について述べる.
田中 梨夏歩,望月 怜衣,柳瀬 勝也,山本 祐也,中島 雄作
筆者らは,ネットワーク製品等の基盤プラットフォーム領域のお客様サポートに従事している.筆者はお客様からのクレームにつながる問い合わせ対応の悪い点をいくつか見つけた.そこで,4C分析を活用して既存のクレームを整理した.取り組みやすさ等から,Convenience(顧客利便性)に着目して掘り下げることにした.なぜなぜ分析を行い,7つの要因にたどりついた.そして,クレームの見える化,お客様ボイスの適切なフィードバック,個人スキルギャップの把握と平準化の3つの対策を実施した.その結果,課題を解消することができた.本稿では,ネットワーク製品保守における問い合わせ対応の顧客満足度向上活動ついて述べる.
天羽 宏嘉
セキュリティオペレーションセンター(SOC)は情報システムのセキュリティ警告を監視し、セキュリティインシデントへの対応を行うための人員、プロセス、技術等によって構成される。一般にSOCプロジェクトは単にセキュリティ製品を導入しただけでは不十分である。様々な要因を考慮して慎重に計画することが重要であり、非常に複雑なものである。しかし、SOCを効果的に計画するための方法は広く知られておらず、また、公開されいる具体的な事例も少ない。そこで本稿では、公開されているガイドラインを活用して仮想の簡単なシステムモデルにおいてSOCを構築する例を考え、過去の経験を踏まえて、SOCプロジェクトを成功させるための管理方法を考察する。
大沢 和弘
我々は技術研究開発部門として,新たな技術獲得に向けた技術研究開発のテーマ選定,検証,展開活動を行っている.この活動では,組織において有益となる技術所産を効率的に蓄積し,その研究成果を組織内に広めることを目標に,短周期のプロジェクトとして研究を行っている.本稿では,活動における工夫点と何故その工夫に至ったかの理由,現時点での気付きや課題を共有する.
羽根木 宏拓
ソフトウェアの品質「プロダクト品質」を決定づける品質要素の1つである「プロセス品質」は、成果物を作り込んでいく過程、つまりプロセスにおいて誤りが入り込む余地をなくすような環境や仕組みを整えるといった組織的な品質であるため、プロダクト品質に与える影響が大きい。本論文では、レビュー記録票や障害票などの品質記録の集計・分析に依存せず、設計書やソースプログラム等の成果物から取得できる情報から見えてくる「プロセス品質」に着目し、その綻びから発生するリスクをリアルタイムに検知可能にする新たな手法を確立した。この手法を適用することにより、SIプロジェクトのソフトウェア品質の向上および、対策遅延による手戻りコストの最小化に貢献できると考える。
松崎 祥子
長年運用されているシステムにおいては,システムの老朽化・肥大化・複雑化により,システムがブラックボックス化することが懸念される.当社がスクラッチ開発したシステムは,顧客の特殊業務を支えるシステムであり,数十年顧客の運用に合わせてシステム改修を重ねてきた.本稿で取り上げるプロジェクトでは,本システムの老朽化に伴いアーキテクチャを刷新した.開発期間中にはシステムのブラックボックス化を危惧する場面があり,施策を打ってきた.本稿では,開発・保守を請負うベンダー企業の立場で実施した,システムのブラックボックス化に対する施策について紹介する.
三宅 啓太,亀井 清正
本稿は、米国における特許ライセンス企業(パテント・トロール)による高額な訴訟に直面する企業のために、訴訟総コストを最小化する方法論を開発することを目的とする。この方法論は、弁護士費用がパテント・トロールの要求額を超える可能性がある損益分岐点を事前に予測し、その点に到達する前に和解準備を迅速に進める必要があるという課題を解決する。リスク・コスト評価式に基づく優先順位付けに従って最小限の調査アプローチを実施し、損益分岐点予測を用いて訴訟取り下げや和解準備を期限内に完了させる戦略を提案する。つまり、弁護士費用と技術者の調査コストを低減し、訴訟総コストと知財紛争リスクを最小化する。当社の過去の訴訟事例を中心にした分析を通じて、この方法論の有効性を検証し、必要なノウハウと戦略的なアプローチを提供する。
山本 雄一郎,佐藤 勝
基幹システムの老朽化対策として,ERPパッケージが採用されている.ERPパッケージの採用は,業務プロセスを標準化し,情報統制を図るという,デジタルトランスフォーメーションの基盤作りの戦略である.ERPパッケージによる基盤作りのためには,自社の業務プロセスを,ERPパッケージの標準業務プロセスに合わせる必要があるが,ERPパッケージの適用検討を進めていくと,ERPパッケージの標準業務プロセスでは,自社の業務プロセスの優位性を損なってしまうというケースがある.その際,ERPパッケージを改修して,ERPパッケージの標準業務プロセスを,自社の業務プロセスに合わせるという選択肢がある.※今後,このERPパッケージを改修するという選択肢をアドオン要求とよぶ.注意しなければならないのが,このアドオン要求をプロジェクトのスコープに含めすぎると,高品質なシステムを,短納期,かつ,低価格で導入するという,ERPパッケージ採用のメリットが損なわれる.また,逆にアドオン要求を全て排除すると,お客様業務プロセスの優位性を損なってしまうという二律背反が生じる.プロジェクトマネージャとして,お客様の価値を創出し,ERPパッケージの導入を完遂するために,一番難しいのが,このアドオン要求のスコープコントロールとなる.実戦経験を踏まえ,アドオン要求をどのようにコントロールするのが最適か考察する.
山崎 真湖人,本美 勝史,林 貴彦,武田 修一,大関 かおり,室井 哲也,白坂 成功
組織のアジリティとはビジネス環境における内外の課題や不確実性に積極的に対応する組織の能力であり、変化するビジネス環境において組織の競争力を維持するうえで重要である。製品・サービス開発におけるアジャイル開発のアプローチは知られているが、それを開発以外の組織にも展開し企業全体のアジリティ向上を期す方法は確立されていない。本研究では、製造業企業の組織アジリティ向上を目指す組織的な取り組みの事例を報告する。特に、各チームが自らのアジリティを評価し向上のポイントを設定する活動を支援する評価手法の開発を紹介する。
中原 あい,関 哲朗
アスリートの養成は,多様なステークホルダが関与する長期的かつ複雑なプロジェクトである.実際には,それぞれに目的と目標を持った複数のプロジェクトとオペレーションからなるプログラムとしての性格を持つ.アスリートを養成するプログラムにおいて最大化すべきベネフィットは競技会で優秀な成績を上げることであり,その最高峰と言われるものが世界大会やオリンピックである.一方で,時系列的に変化するステークホルダの期待,すなわち,時系列に従った変化をともなうポートフォリオをマネジメントしながら,同じ個人に対するプログラムの目的と目標を達成するといったマネジメントを求められる特異性を持ち合わせている.本研究では,競泳を題材に,著者の経験を踏まえながら,アスリートの養成プロセスを整理し,そのProject, Program and Portfolio Management(PPPM)の視点からの整理を行い, PPPMにもとづくアスリートの養成に関するモデルを提示することで,合理的なアスリートの養成への組織的関与の在り方を提示した.
坪田 祐二
システム開発プロジェクトの推進において,品質マネジメントがプロジェクト成功の重要な要素であることは言うまでもない.プロジェクトを成功に導くためには,成果物の品質を測定しながら適切な分析を行い,品質を定量的に評価し,適宜対策を図っていく必要がある.ただし,品質を正しく分析し評価するためには,元となる品質データの精度が高いことが前提となる.つまり,品質分析を行う上で重要なのは,システム開発工程において品質マネジメントのプロセスが正しく機能し,高い精度で品質データを取得できているかを検証する事である.特にプロジェクトの上流工程において,品質マネジメントのプロセスの検証方法を確立し,プロセスに不備があった場合は是正することが,品質を高める上で有効と考える.本稿では,上流工程における「品質マネジメントプロセスの検証」方法を紹介し,プロセス検証結果が下流工程へ及ぼす影響を検証する.
山中 淳市,古屋 優希,遠藤 圭太,仁尾 圭祐
近年,開発スピードの高速化を意図するアジャイル開発を採用する企業が増加している.アジャイル開発でのメジャーな開発プロセスは「スクラム」と呼ばれているが,スクラムに対するルール,理論,イベント,ロールを定義した「スクラムガイド」の中では具体的な開発進捗管理方法について言及されていない.そこで,本論文では金融機関の中長期アジャイル実案件における事例2 件をスクラムガイドに基づき進捗管理の観点で比較・検証しながら,成功/失敗要因を分析する.また,分析結果に基づき,プロダクトゴールを達成するための最適な進捗管理にはスクラムガイドの解釈内のどの観点が重要なのか,各ロールはどう関与すべきか,そしてマクロな視点での在るべきPBI 管理方法について考察を加える.
大野 晃太郎,劉 功義,石井 信明,横山 真一郎
プロジェクトの類似情報はリスクの特定,プロセスの最適化,コストと時間の見積もりの改善などに利用されている.そのため,過去のプロジェクトから得られた類似情報の活用方法やデータ分析に関する研究がなされている.近年の研究では,AI技術の活用により,経験不足を補い,プロジェクトの成功率を高めることを目的としており,それらの成果は,新しいプロジェクトの参考となる.しかし,取得された類似プロジェクトの情報を正しく活用するためには,その背景や関連性などを理解しておく必要がある.そのため,本研究はプロジェクトの類似情報がどのように活用されているのかを分析の目的として分類整理することを試みた.さらに分類に基づいて,類似情報の活用の実行可能性について言及した.
坂本 調
要件定義作業においては,その精度が低いと後工程で仕様変更要求の多発につながり結果顧客不満足となる可能性が高い.作成した要件定義書を要件確定度表で評価することにより見える化する.また顧客とも共有することで認識相違を無くし,後工程でのトラブル発生を抑止する.ソフトウェア開発プロジェクトにおけるRFP(提案依頼書)は発注側で全て作成するケースは少なく,ベンダの支援を受けるケースが多い.RFPの基となる要件定義工程はシステム開発の最上位の工程であり,ここでの誤りは後工程に影響し,仕様変更や手戻りによる作業量増加,納期遅延につながる.そこで顧客,ベンダ双方が要件定義の成熟度が見える化できるよう要件確定度表を用いて要件定義を評価する手法を適用する.
山下 統
本稿では,ハードウェア技術職として携帯電話の装置開発に従事してきた筆者が,システム開発のプロジェクトマネジメント業務にジョブチェンジし,成果物や品質管理の違いに苦戦しながらも,アナロジー思考を用いて対処した実践例を報告する.アナロジー思考とは,違う事柄の中から双方の類似点を見つけて,解決策を見いだす思考法である.当該思考を適用することで,装置開発で実践してきた不具合解決のアプローチが,システム開発でも効果的なアプローチとなることが確認できた.本稿では,ジョブチェンジだけでなく自分にとって未知の領域・案件・技術にチャレンジする際に,アナロジー思考で仕事の共通点に目を向けることで,培ったノウハウを応用することが可能であることを示す.
篠宮 佑太
本論文の筆者が担当したプロジェクトにおける成功事例・失敗事例を紹介する.担当プロジェクトは,現行システムから次期システムへ移行する大型プロジェクトであり,筆者はプロジェクトリーダーの役割を担当した.当該プロジェクトにおいては,要件定義フェーズでのステークホルダーとの整合不足あり,基本設計フェーズ工程の遅れから製造以降の後続開発工程への影響が生じた失敗事例等を紹介する.合わせて,現行システムでは開発言語の影響からテスト自動化を実現できていなかったが,次期システムでは開発言語の最新化に依りテスト自動化を実現し,安定したノンデグレードテストを実現した成功事例等を紹介する.
藤原 育実
一般的にパッケージソフトウェアでは,導入した企業の業務内容に合わせてパラメータの変更やアドオン開発などのカスタマイズが行われることが多い.特に,改修を繰り返しながら長期間運用される場合には,カスタマイズの範囲が広がり,ビルドやリリース,テストなどの作業が頻繁に行われるようになり,その結果,工数が増加する傾向がある.ビルド,リリースにおいては,パッケージソフトウェア独自の作法や環境の違いなどPJ固有要件によって,作業が俗人化して熟練者しか実施できなくなっているという問題があった.また,パッケージソフトウェアのカスタマイズに関する知識やスキルについて,経験豊富な熟練者と初心者では,テストの品質や工数に大きな差が生じることがしばしばある.そのため,開発者の熟練度に関係なくビルドやリリース,テストを容易に実行できる環境が整っていれば,開発工数の削減と品質向上が実現できると考えられる.このような背景から,ビルド,リリース,テストの自動化に取り組んだ.本稿では,パッケージソフトウェア導入時のビルド,リリース,テスト工程の自動化を実践することで得られた知見について述べる.
田崎 宏大,大木 聖太,矢田 捷真,吉野 貴大,湯浅 晃,菅原 康友
近年,様々な業界においてDXが進められており,その中でもデータやAIを活用した業務高度化・効率化が益々期待されている.NTTデータでは,プロジェクト管理の高度化に向けた取り組みの一環として,「品質管理におけるバグの定性分析の一部自動化」をテーマに,AI導入に向けた研究を行っている.その中でも,起票されるバグ報告の質を高めることにフォーカスを当て,記載内容の有識者チェックをAIで代替可能かについて検討してきた.これまでの研究から,開発したバグ報告チェックAIが,有識者によるバグ報告チェックの内,最も重要なチェック観点において,最大約 80% が代替可能であることが明らかとなっている.ビジネス効果を高めるためには,更なる精度向上が必要であり,バグ報告チェックAIを導入するプロジェクトの特性に沿った学習データを増大させることで学習モデル性能を向上させるという一般的なアプローチをとりたいが,実際の現場のバグデータは少なく,学習には不十分である点が問題である.そこで本研究では,近年広く研究されている大規模言語モデル(Large Language Models : LLM)を活用し,プロンプトエンジニアリングによってバグデータを拡張生成することで,学習データの不足を解消し,精度向上を図った.その結果,バグデータの品質に関わる重要な記載項目において,チェックAIの精度が最大13.5%向上した.
町田 欣史,坪井 豊,榊原 直之,上原 光徳
これまで、ソフトウェアやシステムの開発における品質管理の技術や手法が体系化され、高品質なプロダクトの開発を実現してきた。しかし、昨今ではシステムだけを提供するのではなく、それを活用したサービスを高い品質で提供することが求められるようになっている。したがって、サービスの品質を管理、保証することが重要であり、DXが推進される中ではビジネス視点での価値が向上していることも保証しなければならない。サービス品質については過去にも様々な検討、研究、規格化などが行われているが、それらが実際の開発現場で活用されているとは言い難いのが現状である。本稿では、サービス品質管理に関する過去の取り組みを振り返った上で、それらを現場で活用するための課題や改善案を整理するとともに、サービス品質やビジネス価値の定量化や評価のための考察を行う。
長久 幸雄
プロジェクトでは、運用・保守フェーズで問題が発生しないようにするために、設計フェーズにおいて、運用設計等から運用・保守フェーズを見越したドキュメントの作成が必要になる。また、運用・保守フェーズでは、Service Level Agreement(SLA)順守が求められると共に、大規模システム等においては、システムが複雑になり、トラブル発生時に適切な対応が取れる施策が必要になる。本稿では、プロジェクト運用・保守フェーズの改善活動として、全プロジェクト横断型のサービスマネージャを配置することでお客様が実施しているITシステム運用をInformation Technology Infrastructure Library(ITIL)に準拠した形で整理し、運用・保守チームとの橋渡しをすることで、運用・保守フェーズでトラブルが発生した際に適切な対応を実施することが可能になるような施策について考察する。
秋田 朋寛,安田 裕二,掛地 隆博
近年,生成AIの業務応用が進み,業務の効率向上が期待されている.各組織・チームが持つ業務を効率化することにより残業時間の低減や,モチベーション向上,生産性向上は比較的分かりやすく効果が得られる.一方,業務効率化により体制を適正化し,戦略的な領域へ人員を配置する事には十分に結びつかない課題が浮かび上がっている.本稿では,数多くのシステムを保守・開発する大規模プロジェクトにおいて,業務効率化を実施し,その成果により体制を適正化,戦略領域へ投資するプロセスを具体的な事例とともに紹介する.さらに,体制を適正化し,戦略的な領域へ人員を配置した結果,サービス量やサービス品質といったサービスレベルが低下していないかを確認,評価する具体的なプロセスについても紹介する.
野尻 一紀
ウェルビーイングは SDGs の目標 3 に掲げられ,非常な注目を集めている.本稿では,社会のウェルビーイング向上を目的として進行中のプロジェクトにボランティアで参加した経験と,自身のプロジェクトの改善策としてのウェルビーイング取り組み事例を示す.さらに今の時代に必要なプロジェクト遂行上の考慮点について言及する.プロジェクトのリーダーとメンバー全員が主観的ウェルビーイングとレジリエンスを高め,人間関係のつながりを強めていくことが,プロジェクトの創造性,業績と自己肯定感・自己思いやり感を追求していくために重要である.
山口 由貴,上村 興輝,島田 佑磨,小坂 由依,田中 基己,中島 雄作
NTTデータグループは多くのミッションクリティカルシステムを手掛けている.当社は,NTTデータの傘下でこれらミッションクリティカルシステムにおける基盤プラトフォーム領域を担当することが多い.筆者らも,とある勘定系のミッションクリティカルシステムの開発・運用のプロジェクトメンバの一員である.結合試験の定量評価では,全て管理限界内であり,品質は高いレベルを維持しているようにみえた.ところが第一著者は疑問を感じ,過去3年間の品質データを入手し,T型マトリクスですり抜けバグの分析をしてみたら,バグ24件のうち,設計工程での混入バグが18件,そのうち設計工程をすり抜けたバグが14件あることが判明した.さらに層別してみると,案件参画年数が1年,2年の設計者が,一番多くバグを混入させていることがわかった.品質管理の4MにおけるMachineをEnvironmentに置き替えて,特性要因図を用いて分析したところ,4つの真因が導かれ,まとめると「新規参画者に必要な情報が提供されていない状況が生まれているため」であると判明した.さらに深堀したところ,「設計書のレビュー観点が抽象的」と「作業前ミーティングがない」の2点の対策をすればいいことにたどりついた.そして,まだ新規参画者(2年目)の1名ではあるが,すり抜けバグを0件に削減することに成功した.本稿では,ミッションクリティカル案件における品質改善活動について述べる.
松本 萌里,平尾 悠輔,大熊 三徳,関 良博,中島 雄作
筆者らは,セキュリティソリューションを対象として,コンサルティングや提案等の超上流工程から,設計,製造,開発,保守運用までの工程を幅広くカバーしている組織である.第一著者が担当するセキュリティ製品開発環境を対象に,運用全体の工数の3%(375時間)を削減するというテーマを掲げた.セキュリティ製品開発環境のタスクの全量と工数を洗い出し,90%を占める上位6タスク(セキュリティ対策状況確認,管理サーバメンテナンス,問い合わせ対応,アカウント申請対応,アカウント棚卸,ドキュメント管理)を対象とすることにした.各タスクについて,「業務フロー把握」「要因解析」「対策立案」の3段階の手順で,改善活動を推進した.「対策立案」では,定量的な削減工数の効果だけでなく,副次的効果も含めて評価をした.対策案の1つとして,RPAアプリでシステム化することを実行し,情報取得元が複数サービス(SNS,Form,List,RPAアプリに跨るため,それらの独自仕様を調査し,システム実装することに苦労した.様々な改善活動の結果,当初目標375時間削減のところ,626時間削減と目標を大きく上回る成果を上げることができた.本稿では,セキュリティ製品の開発環境を対象とした運用工数375時間の削減について述べる.
遠藤 洋之
本稿では, 知識移転を知識共有の一部として位置づけ, 先ず国際IT サービス企業内組織間の知識創造及び共有に関する研究の経緯について説明する.続いて知識創造・共有プロセスを表すモデルを提案する.知識の送り手・受け手組織間で共有される知識には,プロジェクト要件知識とプロジェクト管理(PM)知識があるが,本稿では後者のPM 知識移転プロジェクト,及びその集合体としての知識共有プログラムに関する研究について述べる.筆者は, 国際IT サービス企業の知識移転プロジェクトに関し本社および海外拠点所属のプロジェクトマネージャ(PMgr)やプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)要員へのインタビューを行った.調査データを定性分析しプログラム視点で整理した結果,受け手組織における知識創造活動や創造された知識を組織間で共有するプロセスを明らかにした.これらは知識移転研究(Szulanski 1996)やリバースイノベーション研究(Govindarajan 2010, 2015)では把握困難だったプロセスである.また知識移転段階モデルでは表現し難かった,知識創造・共有プロセスを表す知識共有ループモデルを提案する.
小島 洋一
近年,緊急性のあるシステム対応が増加しており,短期間での本番リリースが求められている.例として,サイバー攻撃の標的となった場合,被害を最小化するために早急なシステム対応が必要となる.一方,現在日本で主流のウォーターフォール開発はシステムの早急対応には不向きである.私が担当しているウォーターフォール開発のシステムにおいて,フィッシング詐欺に対する対策として短期間でのシステム開発を余儀なくされた.私の担当システムではウォーターフォール開発に対し,アジャイル開発の考え方を取り入れた開発手法を導入することで開発期間 の短縮を達成した.導入した開発手法は,「設計工程の進め方の見直し」,「工程の並走化」,「対応要件の段階リリース」の3点である.開発手法を円滑に導入するための施策として,「鳥瞰図の作成」,「テスト仕様書,テストデータの雛形作成」などを実施した.これらの開発手法,施策の導入により,短期間での本番リリースを障害なく完遂する事ができた.この事例より,ウォーターフォール開発においても開発手法の見直しやツールを有効活用より品質を確保しつつ短期間での開発が可能であるということが証明できた.他システムで同様の事象が発生した 際は,今回の開発手法や導入施策を是非参考にしてもらいたい.
武山 祐
単一のプロジェクトを管理するのではなく,複数のプロジェクトを統括するプログラムマネジメント.その理念は,近年,日本のIT 業界で注目を浴び,PM 学会でも扱われる機会が増えてきた.一方,サービスマネジメントのガイダンスとして世界的に最も広く採用されているITIL(Information Technology Infrastructure Library)の最新版,ITIL4 では,”IT を活用してビジネスをいかに創造するか”という高度な視点が採られている.本稿では,開発フェーズに焦点を当てた実務で評価されているプログラムマネジメントと,運用フェーズに焦点を当てた実務で評価されているサービスマネジメントを比較分析する.その結果,両者の類似点と相違点を明らかにし,両者が補完し合い,進化してゆく可能性について提言する.
齋藤 翔馬,下田 篤
ディスカッションを成功させるためには様々なスキルが求められるため活動を正しく評価して改善することが求められる.従来 プロジェクト活動の評価方法として 自己評価と他者評価を比較して 評価に客観性を持たせる取り組みが報告されている.しかし 活動のレベルの高低については考慮されておらず 改善の余地があった.そこで 本研究は ディスカッションを対象として 従来の自己評価と他者評価に加え 新たに 活動レベルの高さを加味する評価方法を提案する.評価結果を 自己評価と他者評価の高低と 活動レベルの高低によって分類することにより 改善の優先順位づけに利用する.提案方式を 大学生 4名が実施するグループディスカッションを 27項目で評価する活 動に適用した.その結果 従来は区別困難であった 「レベルが低いにもかかわらず自己評価が高い 項目 」と「レベルが高いにもかかわらず自己評価が低い 項目 」 を区別して 優先付けできるようになった.
岡 デニス 健五,三宅 浩司
自動車業界では、より複雑なユースケースをサポートするために、より多くのソフトウェアとコネクティビティが使用されるようになり、サイバーセキュリティは 車載 システムの開発に不可欠なものとなっている。 ISO/SAE 21434のような 規格 に従って、自動車業界はプロジェクト・マネジメントにプロジェクト・ライフサイクル中のサイバーセキュリティ活動の管理を含めることを要求している。最も重要な活動の 1つは、サイバーセキュリティ計画の作成であり、この計画は他のサイバーセキュリティ活動の管理と追跡に使用される。これらの活動には、 TARA(脅威分析とリスクアセスメントの実施、サイバーセキュリティの目標と要件の定義、 セキュア な開発の実施、検証と妥当性確認の実施、さらにはサイバーセキュリティの監視、脆弱性管理、インシデント対応、 セキュア なソフトウェア ・アッ プデート といった継続的な活動の管理が含まれる。このように、自動車業界はサイバーセキュリティを管理するための適切なプロセスを早急に確立している。そのため、プロジェクト ・マネジメント は、サイバーセキュリティ活動の計画、活動の責任管理、プロジェクトの成功的な納品に向けた活動の追跡と予定通りの実行の確保において不可欠である。
齋藤 憲一
プロジェクトの推進にあたっては多様なリスクが潜み,数々の課題が存在するため,プロジェクトを成功に導くのは容易なことではない.実際,これまでに行われた調査結果でもそれが示されており,筆者の周りでも,プロジェクトの頓挫,スケジュールの延伸,予算のオーバー,障害の多発など,問題プロジェクトの話を度々耳にする.筆者が担当する基盤系のプロジェクトでも同様であり,特に基盤系プロジェクトはその基盤が関連している多くのシステム,アプリケーションに影響を及ぼすことが多く,多数のステークホルダーを巻き込みながらの推進が必要とな り,難易度の高いプロジェクトとなることが多い.このようなプロジェクトを成功に導くためには様々な領域,様々な局面において,戦略的に対策を仕込み,講じていく必要がある.筆者がプロジェクトマネージャーとして推進した 端末刷新プロジェクトで実践した取り組みの内容 やその 効果等について紹介する .
八木 翔太郎,吉田 悠夏
あらかじめ十全に計画 すること が できず 、かつソフトウェア開発のようなかっちりとしたアジャイル手法も適用できないような現場において、どのようにプロジェクトの 状態の 良し悪しを評価するべきだろうか。本稿では、プロジェクトチームの自律性が変化の激しいプロジェクトの成功に不可欠 であることを踏まえて 、どのような 実践 がチームの自律性に関わるのかを確認するため、 23プロジェクト( n=96)に対して、3種類の実践指標(①プログレス:ゴールやマイルストーンの言語化 と 見直し、②チーミング:互いの期待や違和感の言語化と見直し、 ③ プロセス: ミーティングを中心とした環境整備と 見直し)と自律性に関わるチーム指標( シェアド・リーダーシップ 、 心理的安全性、 エンゲージメント)を計測して、重回帰分析を行った。その結果、プロセスとチーミングがそれぞれ異なるチーム指標と 有意 に 正の影響 を持つことを確認した 。 これはチームメンバーの実践 が各々の経路で プロジェクトチームの状態を変化させ ること を示している。タスク進捗が 即 成否につなが ると限らないような VUCAな プロジェクト 環境 において、こうした実践指 標は 簡便かつ リアルタイムに プロジェクト を評価・改善するために有効である 可能性が確認された 。
佐藤 明
IT業界では顧客から受託する開発プロジェクトにおいて,開発規模とは関係なく,赤字プロジェクトが発生している.赤字プロジェクトの撲滅は顧客からプロジェクトを受託する企業にとって重要な経営課題の一つである.当社も同様に,赤字プロジェクト撲滅対策を継続的に実施している.近年では中小規模案件での赤字プロジェクトの発生が喫緊の課題となっており,中小規模案件では若年層や経験の浅いプロジェクトマネージャーが担当する案件において,見積スキル不足に起因する赤字プロジェクトの発生が散見される状況である.本論文では,筆者が全社の見積取りまとめ部門に所属しており,プロジェクト横断的な対応を要請されているため,全社の若年層や経験の浅いプロジェクトマネージャーに向けた見積スキルアップ対策として実施した,見積力強化研修や見積内容チェックリストの導入施策とその導入効果について紹介する.
掛川 悠,大貫 正也,米原 大輔
ビジネス環境の変化に伴い,従来ウォーターフォール(以降,WF)型の開発が主流であった大規模ミッションクリティカルシステムにおいてもアジャイル開発へのシフトが進んでいる.ミッションクリティカルシステムにおけるアジャイル開発では,柔軟性,アジリティといったアジャイルのメリットを享受しつつも,WFと同等の品質を求められる,いわゆる品質重視のアジャイル開発になることが多い.筆者の所属プロジェクトにおいては,ミッションクリティカルシステムならではの高品質を維持しつつ,柔軟性,アジリティ,そして生産性を高次元で両立させる開発としてテスト駆動開発(以降,TDD)をベースとしたアジャイル開発を行っており(以降,TDD高品質アジャイル),その品質管理プロセスを構築する必要があった.一方,アジャイルの品質管理手法は未だ確立されていない.そこで,ミッションクリティカルシステム,アジャイル,TDDそれぞれに求められる品質管理要件や先行事例を整理した上で,それらを矛盾なく統合し,TDD高品質アジャイルに最適化した実践的な品質管理プロセスを構築した.そして,実案件への適用を通じてその有効性を確認することができた.本稿では,該当品質管理プロセスの設計思想,具体的な分析観点・タイミングを実際の帳票を交えて説明するとともに,実案件を通じた検証結果を示す.
井川 大介
我々システムエンジニアがシステム開発を行う現場では,昨今,プロジェクトマネージャー(PM)人材の不足,それによる事業拡大機会の損失という話をしばしば耳にする.我々の職場でも同様であり,今後,競争を勝ち抜いていくためには,PM育成によるPM不足の解消が重要である.しかし,PM育成には時間がかかるとともに,育成方法についても確立された手段があるわけではない.また,PMに求められる知識領域,対応スピードは年々増している一方で,育成する側で,プレイングマネージャーとして働く管理職にとってPM人材育成が後回しになっている実態もある.そうした状況のもと,今回実践した後方支援によるサポートは,PM人材育成,PM不足解消に対する有効な手段の一つになり得る.また,PM育成を通じて,やりがいあるPMの魅力を若手に伝えていくこと,その仕組み作りを進めていくことが我々には期待されている.
佐藤 茂弘
近年,ITシステムはシステムのオープン化やクラウドの利用拡大で市場が拡大している.一方,少子高齢化やIT技術の急速な進歩により,最新のIT技術を扱う人財が常に不足している状況にある.基幹システムなどのミッションクリティカルなシステム開発では,実現すべき要件は,より高度で複雑となり多くの関係者が携わることから,高いマネジメントスキルが要求される.多くのプロジェクトマネージャーがプロジェクトマネジメントの知識体系であるPMBOKを学習し,基本的な知識を得ている中,品質・納期・コスト(QDC)を満たせないプロジェクトは発生している.また,単にプロジェクトを管理するだけではなく,いかに付加価値を提供できるかがますます重要になってきている.そこで,プロジェクトを成功に導く為に,SE作業の基本的な進め方と高品質な作業を行うためのノウハウをSEガイドラインとしてドキュメントに纏め,このSEガイドラインを使ってプロジェクトメンバーに定期的な教育や動機付けを行った.その結果,作業品質を確保し,プロジェクトを成功させることができた.プロジェクトメンバーはその効果を実感し,この取り組みの有効性を確認できた.本稿では,高い作業品質を確保するプロジェクトマネジメントの仕組みについて述べる.
高橋 玲児
本研究では,インフラ系システム構築プロジェクトの契約形態における一括契約から多段階契約への移行を促すアプローチについて考察する.インフラ系のOT(Operational Technology:制御技術)システムでは,物品購入の発注形態に準じて一括契約が長く適用されてきた.プロジェクトのリスク回避や効率化の観点から,多段階契約が望ましいとされているが,一括契約に慣れ親しんだ発注者側が移行に消極的な場合もある.本研究では,要件定義プロセスを中心に,発注者と受注者が円滑にプロジェクトを進行させるための実践的なアプローチを考察する.具体的には,発注者側が一括契約に慣れ親しむ理由の分析や,発注者に対する多段階契約のメリットの説明などを検討する.本研究の成果は,発注者と受注者の間での円滑なコミュニケーションを促進し,一括契約から多段階契約への移行の成功に寄与することが期待される.
溝渕 隆,三宅 敏之,仁尾 圭祐
プロジェクトに遅延が発生した際の代表的なリカバリ手法としてよく知られているものに「クラッシング」と「ファストトラキング」の2つがある.日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)によると,システム開発プロジェクトにおける最適な工期は「投入人月の立方根の2.7倍」といわれており,クラッシングによる投入人月の増加は工期の延長につながる場合もある.そのため,システム開発プロジェクトの遅延のリカバリ手段としてファストトラッキングが用いられることが多い.ファストトラッキングでは直列にスケジュールされたタスクを並列化することで期間短縮を行うが,タスク間の関係性を見誤り業務的な依存関係のあるタスクを並列化してしまったことで期待した効果を発揮できず,手戻りや品質問題を引き起こしてしまうプロジェクトは後を絶たない.そこで本論では,プロセスマイニング技術を活用することで,タスク間の業務的な依存関係を明確にし,並列化可能なタスクを適切に選定することで,システム開発におけるファストトラッキング時のリスク低減手法を提案するものである.
植野 晃成,廣滝 祐二,須藤 智子,正木 聡和
製品パッケージ適用システム開発の場合,顧客要件に対応し,機能ごとに製品パッケージへのアドオン/カスタマイズを行う為,ウォーターフォールモデル開発を前提としているものの,開発工程(詳細設計工程~単体テスト工程)において,機能ごとに詳細設計工程~単体テスト工程を推進する開発モデル(五月雨開発と定義)となるケースが多い.五月雨開発の品質確保では,各開発担当者力量と成果物品質の評価を,早期かつ適切な品質評価対象選定を行い,実行することが重要である.本稿では,五月雨開発における早期品質確保を目的とした,各開発担当者力量評価,早期かつ適切な品質評価対象選定施策の推進によって,早期品質確保を達成した事例を考察する.
石田 裕之,宮崎 肇之,若林 裕二
昨今,変化の激しいビジネス環境に対応するため,アジャイル開発への注目が高まっている.アジャイル開発は短期間でのリリースが特徴の開発モデルであり,開発ベロシティを高めることでプロダクト価値の向上が期待できる.定期的に安定したリリースを行うためには,適切なストーリーポイントの見積もりとチームベロシティの向上が必要である.ストーリーポイントは作業全体の大きさを表す指標であるが,ストーリーの規模を測る明確な定義はなく,チームメンバそれぞれの経験をもとにプランニングポーカーなどの手法を使用して各ストーリーの大きさを決定する.プランニングポーカーでストーリーの大きさを適切に見極めることができないと,その後のリリース計画およびベロシティの計測に影響する.そこで本稿では,データサイエンスの視点から実際のアジャイルプロジェクトにおけるストーリーポイントの見積もりの妥当性を振り返るための手法を提案する.提案内容としては,回帰モデルを用いてストーリーポイントと実績工数からアジャイルチームの基準工数を決定し,乖離した箇所を特定して振り返りを行う方法である.また,社内のプロジェクトを事例に本手法を用いた振り返りの事例を紹介する.本手法の振り返り結果を元に,プランニングポーカーでのストーリーポイント見積もりの精度向上と安定したリリースに向けたチーム力の向上を目指す.
山中 信一
ビジネス手法がプロダウトアウトからマーケットを意識したものが主流となる中,顧客との接点が重要となっている.プロジェクトマネジメントにおいても,顧客とのコミュニケーションの向上が,プロジェクトを成功に導くために重要な事項となっている.ステークホルダーマネジメントの方法論など様々に論じられているが,顧客の事務所所在地に着目すると,それぞれの地域の文化・特性があり,各地域の特徴を踏まえた顧客マネジメント,コミュニケーションが不可欠である.本稿では,各地域の特徴・特性を考察し,実プロジェクトで実践したコミュケーション活動により,スケジュール遅延を効果的に防いだことを示す.
川俣 智
ITプロジェクトにおいてQCD等,プロジェクトの目標を達成するためには,利用部門と連携した適切な要件定義,設計者による上流工程における品質の作り込みや,運用部門における受け入れ検証等様々な利害関係者との合意が必要となる.このような利害関係者と合意を得るために,プロジェクト・ステークホルダー・マネジメントのプロセスの中で,様々なツールをもとにステークホルダー管理を実現するが,プロジェクトマネージャの経験や勘に委ねられるところが多く,経験が浅かったり,組織の在籍期間が短いプロジェクトマネージャを配置したプロジェクトでは,ステークホルダー管理に失敗するリスクが高い.そのため,計画フェーズで作成するステークホルダー・エンゲージメント計画書に従いステークホルダー管理を行い,PM,PMOなどによって問題発生の予兆を監視する.従来のプロジェクトにおいては,ステークホルダーのコミュニケーションの齟齬を予防する観点からも,コロケーションが推奨されていたり,対面での合意形成が重要視されていた.しかし,近年の感染症の拡大を受けて,感染症予防の観点からもテレワークが促進されており,従来のコロケーション環境下であれば,比較的見出しやすかったステークホルダー管理不良の予兆を見逃す可能性が高くなっている.このため,ステークホルダー管理の状況を可視化することが重要である.今回,ステークホルダー・エンゲージメント計画書に,テレワーク主体の環境で重要となる,コミュニケーションのプロトコルを明確化し,進行中のITプロジェクトに適用し,その効果を検証した.その結果,本プロジェクトにおいては,意思決定に必要となるコミュニケーションは対面のコミュニケーションが望ましいことが分かった.
賀地 睦
日本の心理学者である三隅二不二によって提唱された『PM理論』とは目標設定や計画立案,メンバーなどによる目標を達成する能力とされる『P機能(Performance Function:目標達成機能)』とメンバー間の人間関係を良好に保ちながら,集団のまとまりを維持する能力とされる『M機能(Maintenance Function)』に分類され、各々の能力の大小によって4種類のリーダーシップタイプに分類される.これらのタイプの違いがプロジェクトの醸成方法や,業務の生産性,トラブルの減少など,組織に対する影響に関連することが実証されている.また組織としては最終的にP機能とM機能が一番強いとされる『PMタイプ』に個々のプロジェクトマネジャーを変化させることが課題となるはずである.弊社においても類似した問題を抱えており,そもそものプロジェクトマネジャーの数が不足している、プロジェクトマネジャーの育成に苦慮しているといった背景がある.以上のことから弊社内におけるプロジェクトマネジャーのプロジェクト推進状況を確認し、どのタイプのプロジェクトマネジャーたちにどのようなトレーニングを行うことが『PMタイプ』の変化に繋がるのかを考察し,最終的にその実行に対する課題,効果および有用性ついて考察を行った.結果として『PMタイプ』と必要なスキルセットの関連付けは確認できなかったが、どのプロジェクトマネジャーからも『交渉』について時間を要していることが確認できた.
川原田 一篤
システムの安定稼働を実現するためには,設計・構築フェーズで適切な運用設計を行い,運用フェーズで適切な工数内で運用設計どおりに運用を行うことが重要である.しかし,ITインフラシステムの設計・構築フェーズ完了後,運用フェーズでシステム運用作業を実施した際に,定期/障害運用フローや定期/障害復旧手順書の不整備などにより,想定よりも作業に時間を要することがある.想定される要因として①運用設計時の運用項目の検討不足.②運用フェーズでの運用管理文書の更新漏れ.③運用要員のスキル/経験不足.の3点が原因になることが少なくない.本稿では,設計・構築フェーズ時に運用設計で検討すべき事項および,運用フェーズ時にシステムの安定稼働に必要な定型業務や障害対応を適切に対応するための改善施策と,改善の結果,チーム内の稼働時間の変化について述べる.
福田 淳一
本論文は筆者が2023年PM学会秋期研究発表大会で発表した「プロジェクト満足度評価スコアモデル開発の試み」の続編に当たるモデルチューニング編である.昨年の論文で発表したモデルの精度はAR(Accuracy Ratio)値が0.32であり実用には供せられない試行レベルのものであった.今回,モデルのチューニングを実施した結果,AR値は0.64と倍に向上している.精度を低下させる原因は主にデータにあったので,データの偏りの除去や統計的な手法によるデータ増幅等のチューニングを実施した.データの離散化およびロジスティック回帰分析によるモデル作成の過程は変えていない.出来上がったモデルによると,コスト,工期,品質の交互作用が最も満足度に寄与する変数となった.また,品質のみによる満足度の評価は難しく,満足度はかなり低めに調整される傾向にあることも示唆している.前回のモデルとは異なる結果となっているが,これは分析に使える実データが不足していることが主な原因と考える.本論文ではデータチューニングの過程とモデルの解釈,課題と今後の展望について述べる.
吉田 弘毅
顧客とPoCを通じて新規のパッケージ製品を開発していく場合,開発前からパッケージ製品の販売価格をあらかじめ定めることは難しい.PoCの初期段階では期待成果を得られるか不確実であること,PoCの途中成果により顧客期待値も変動することなどが相まって,開発コストを想定することが困難なためである.一方で,実システムとして導入するには,顧客価値よりも低い価格でシステム提供できることを示せなければならない.本稿では,パッケージ製品の販売価格を決定するために、顧客価値を算定し、顧客価値とパッケージ製品の需要価値との比較により、顧客価値に合致させるためのパッケージ製品の価格設定を実践したので報告する.
小宮 啓暢
プロジェクトが危機にさらされる理由は多岐に渡るが,計画不備に起因するケースが多いのはよく知られている.ゆえに,我々は計画段階を重要視し,実現性を最大化しようと努力する.ただ,それでも不確実性は排除できない.加えてプロジェクトの複雑化・肥大化,価値観の多様化,コロナ禍によるニューノーマル等,プロジェクトを取り巻く環境が前にも増して慌ただしい.プロジェクトは常に何が起こるかわからない状態にあり,窮地に立たされる可能性は絶対に拭えない.一方,プロジェクトにおいて最も大きな不確実性とは人間(ステークホルダー)である.彼らはプロジェクトを停滞させるリスクを持つが,より推進させる力・避けられない大波から守ってくれるための盾ともなり得る.つまりプラス・マイナスの両面持った不確実性であると言える.これをうまくコントロールすることが,プロジェクトにおける不確実性を管理することに繋がる.それゆえ,プロジェクトマネジャーはステークホルダーの不確実性をよりシビアに・悲観的に評価し,その上で影響力を行使できる状態にしなければならない.本稿では,プロジェクトの成功確率を少しでも上げるため,ステークホルダーマネジメントを悲観的に捉えた上でのアクションを通じてプロジェクト内外への影響力を高めていく、というアプローチを検討する。また、本論の実案件への適用結果,有効性を論じていく.
角 正樹
問題プロジェクトの撲滅はシステム開発業界の重要課題ではあるが撲滅は難しく、「これを実行すれば必ず成功する」という王道は存在しない.問題の程度に大小の差はあれども、問題発生を抑止できていない状況にある。プロジェクトの立ち上げに際して「皆でプロジェクトを成功させよう」と訓示しても,プロジェクトメンバにはさほど響かない.むしろ,「当たり前のことを訓示してどうする」と反発されかねない.しかし,筆者が過去に担当したプロジェクトで「このプロジェクトを大炎上させ,過去最悪の損失を出そう!」と冗談半分で訓示したところ,大爆笑で盛り上がった.「大炎上,過去最悪の損失」を真に受ける者は誰もいないが,この訓示を逆説として,「大炎上,過去最悪の損失とは逆のプロセスを遂行すれば良い」と考えたはずだ.「事業に失敗するコツ 12 か条」を社訓として掲げている会社がある.この社訓は「ここに掲げてあることはやってはいけないが,それ以外のことは自由にやってよし」の意味であり,社員達が委縮せず自由闊達に振舞えるよう意図したものである.本稿では,過去に発生した問題プロジェクトの真因を分析し,そこから逆説的にプロジェクトを成功させる秘訣とその教育方法を探ってみた.
杉本 一樹
昨今,ますますITプロジェクトにおいて技術や要件の変動性・複雑性が増しており,プロジェクトチームはより高いパフォーマンスを発揮することが求められている.このような背景のもと,アジャイルのプラクティスを取り入れ,チームビルディングに取り組んだ事例を取り上げる.プロジェクトマネジメントにおいてスコープ,納期,コストと同様に,チームビルディングも重要な要素の一つである.チームが結成され機能的な状態となるには,共同作業を通して信頼を築いていく必要があり,積極的な働きかけが重要だと考える.事例のプロジェクトは筆者の所属するコミュニティにおいて,コミュニケーション強化に関する取り組みを課題に挙げ「心理的安全性,自主性,透明性」に重点を置いたチームビルディングを行った.チームメンバーは直接の面識はなく,遠隔での作業を中心に活動を行った.チームメンバーの意見をもとに考察を行う.
山本 久一
金融業界において,デジタルトランスフォーメーション(DX)は市場競争力を維持・強化するための必須要素となっており,地方銀行もその波を大きく受けている.地方銀行は自己改革を推進し,顧客への支援を通じてDXに取り組む一方で,自行保有技術の最新化・要員育成・経費効率といった課題に直面している.これらの課題克服の実例として,小規模な範囲からシステム構築に取り組み,段階的に規模を拡大していくことが多い.その結果,DXだけにとどまらず,自作の小規模システムが林立し一部のスキル保有要員による運用が行われている.しかしながら,これらの自行運営システムが,基幹系システムおよび周辺システムに影響を及ぼすことがあり,基幹系システムの本番運用や更改プロジェクトにおいて考慮すべき課題が少なからず存在する.本論文では,地方銀行の基幹系更改プロジェクトを複数遂行してきた実例をふまえ,課題の整理と影響軽減施策について考察を行った.
佐藤 一章,大橋 敏明,相澤 剛,奥田 兼次,嶋村 和良
当社では,システム開発における不採算プロジェクトが問題となっていた.主な原因は,上流工程でのリスク検知および対策の遅れであった.また,トップマネジメント層,SE,営業部門の組織連携が非効率であったことも一因であった.そこで,早期リスク検知と組織連携の強化が課題と考えた.具体的には,プロジェクトに関するデータをリスクに換算して「リスクの見える化」を図り,リスクを早期に検知する仕組みを導入した.また,トップマネジメント層,SE,営業部門がスムーズにリスクを共有し,対策を実行できる体制とプロセスを構築した.その結果,近年では不採算プロジェクトの減少とともに会社全体の利益率が向上してきている.本稿では,どのようにして早期リスクの見える化および検知する仕組みを構築したのか,さらには効果的な組織連携を実現したのかについて考察する.今後の展望として,さらなる効果的なリスク検知・対策の強化についても述べる.
真置 敏昭
プロジェクトを開始する際には,スケジュールマネジメント,コストマネジメント等,マネジメント計画をたてると思われるが,予定していたプロジェクトが受注できなかったり,いざプロジェクトが始まっても,スコープ変更が行われることは,たびたび発生する.その際の人的リソース変更については,調達マネジメントの実施や,他プロジェクトからリソースを移動することで対応していると思われる.しかしながら,機能型組織においては,組織間の垣根の高さや目先の場当たり的な対応により,必ずしも効率的な人的リソース配置が行えないケースもある.さらに,機能型組織においては,専門的な知識は身に着くものの,組織が硬直化し,広い視野で物事を見る機会が失われているケースもある.本稿では,機能型組織における人的リソースの効率的な配置と,配置した人的リソースをどのように組織成長につなげていくことができるかを示す.
三好 きよみ
東京都立産業技術大学院大学では,社会人のための専門職大学院として実践的な人材の育成に取り組んでいる.プロジェクトマネジメント科目として,プロジェクトマネジメントの基本・応用,シミュレーターを用いたプロジェクト・マネジャー疑似体験,大規模アジャイルのマネジメントといった科目を開講している.プロジェクトマネジメント科目では、人間関係スキルの1つであるコンフリクトマネジメントに関して、シナリオを用いたグループ演習を行っている.本稿では,シナリオを用いたコンフリクトマネジメント教育の取り組みについて報告する.シナリオとして利用するのは,本学の特色であるPBL(Project Based Learning)において開発した,コンフリクトマネジメント手法のためのガイドブックである.演習後のレポートからは,受講生のコンフリクト対処の重要性などに関する気づきや内省などが確認された.
野口 美帆,下田 潔,荒添 雅俊,三原 克史,大貫 敏之,河﨑 宜史
プロジェクトマネージャは,プロジェクトで起こり得る事象に対して,迅速かつ的確に意思決定を行うための感性(実践知)を磨く事が求められている.この感性を磨くことを目的に,対面形式のボードゲームを開発し研修を実践してきた.しかし,社会状況の変化によりリモート形式の研修が求められたので,オンライン形式の研修方法を新たに検討した.従来のボードゲームは対面形式で実施し,非言語コミュニケーションで意思伝達ができる環境であった.しかし,オンライン形式は非言語コミュニケーションによる意思伝達は難しく,意思伝達は言語での論理的な説明及び説得で行われなければならないので,今までの実績から重要な事象を限定し,対策案を論理的に説明,説得させることに重点を置いた.さらにはプロジェクトの変化への対応力に加えて,プロジェクトマネジメントの知識体系の中で形式知が認識できる構成とした.これにより,対面形式と同等な実践知獲得が認められたので,手法の詳細と実適用に基づく有効性について述べる.
西山 美恵子
本調査ではアジャイル開発の品質管理手法としてのテスト駆動開発について探究し,現状と課題を整理するものである.アジャイル開発は迅速なリリースとフィードバックにより,継続的な改善を促進する点で優れているが,品質の確保が課題となりやすい.具体的には,アジャイル開発によるプロダクトの内部品質,中でも保守性の高いコードをアジャイル開発の中でどう維持していくのかに焦点を当て,その手法としてTDD(テスト駆動開発)に着目して考察する.本調査では,アジャイル開発に保守性の高いコードについてどのように維持・管理していくのかついて分析し,今後実践するうえでの考慮する点について考察していく.
大関 一輝,長田 大河,森本 千佳子
本研究は,SI企業における部員間の積極的な発言や発表を促進し,信頼関係の構築を目指した部会コンテンツの改善に関する取り組みである.先行研究では,帰属意識を醸成するための「知る」活動を実施してきた.その結果,部会の満足度は向上したが,部員の積極的な発言や発表は見られなかった.そこで本研究では,先行研究の「知る」活動に加え,新たに「小さなアウトプット」活動を導入し,「お互いを知る」と「小さなアウトプット」をテーマに部会を実施した.それにより,部員の発言や発表への心理的障壁を取り除き,積極的なアウトプットの促進を目指した.アンケート調査を通じて活動の効果を評価し,結果として部員間の信頼関係の構築やアウトプットの活性化が確認された.本研究の取り組みは,様々な就労形態を有する企業における組織の活発化に寄与するものであり,仮説に基づく実践とその成果を報告するものである.
矢賀 寛久
プロジェクト個々の観点から,プロジェクトに参画する要員は固定してチームビルディングを行ったほうが安定的なパフォーマンスが発揮され,プロジェクトの確実な成功が期待できる.しかし,限られたリソースの中でより多くのプロジェクトを受注し,より大きな成功に導くためには,プロジェクト間におけるリソース流動化やコミュニケション活性化などが期待できるプログラムマネジメント手法を用いる必要がある.本稿では,筆者が直面した複数団体で同時期に発生したシステム更新プロジェクトにおいて,従来のプロジェクトマネジメント手法をプログラムマネジメント手法へ拡大,実践した経緯及びプロジェクト遂行中に発生した課題及びその対応について記述する.
石川 龍
「ある問題に対して,過去のプロジェクトではどのように対処したか」といった情報には,プロジェクト実行における問題の解決策もしくは解決策を導くヒントが含まれている事がある.よってプロジェクトは実行するだけでなく組織のプロセス資産としての教訓や振り返りをきちんと残すことが極めて重要である.しかしながら多くのプロジェクトでは完了フェーズにおいて工程・プロジェクトをまとめて振り返る事が多く,思い出せないものや個別のオペレーションに特化した教訓事項等が収集し辛い課題がある.本稿で紹介するプロジェクトでは初期フェーズから教訓登録簿を用意しリアルタイムな振り返りをおこなった.プロジェクト期間の教訓登録簿の運用方法と得られた教訓と分析結果,次回以降のプロジェクトに向けての反省点等を紹介する.
星 魁人,清藤 駿成,継田 尚哉
ソフトウェア開発などを行うIT業界では,社外のパートナ人財との協力がプロジェクト成功の重要な要素となる.あるプロジェクトが完了したときに,高い技術力を持つパートナ人財には社内の他プロジェクトに参画して契約を継続してもらうことで優秀なパートナの確保が可能となる.しかし,銀行向け,自治体向け,製造業向け,などプロジェクトが対象とするインダストリセクターごとに評価観点が異なるため,優秀なパートナであるにも関わらず他のプロジェクトでは適切に評価されず契約更新できないケースがある.そこで,パートナ人財のこれまでのプロジェクト参画実績から各インダストリに共通した評価観点をもとに他プロジェクトへの適性判断を行う人財マッチングAIを構築した.人財マッチングAIを活用した他プロジェクトへの推薦方法を考案し,過去のパートナ人財データを用いて実業務で活用できるか評価を行った.評価の結果,インダストリ固有の評価観点やパートナ人財のスキル感といった情報を追加することでより訴求力が上がることが分かった.
佐々木 建
これまで20年以上に亘り当部の事業を支えてきた銀行営業店ソリューション(アプリケーション)が存在する.昨今,金融機関を取り巻く環境は大きく変化しており,従来業務からの変革が求められている状況となっており,営業店ソリューションの在り方についても再考するとともに,次の事業の柱となる新たなソリューションを創出することが自部門の喫緊の課題である.これまで,顧客ニーズに合わせたソリューションの検討と製品リリースは行ってきているが,今後の事業の柱となるソリューションを創出するためには,組織的な取り組みが必要である.こうした状況を踏まえ,新たなソリューションを生み出し,事業をけん引するために,各種マネジメント体系の考えを取り入れたチームの組成や必要人財の確保を行い,成果を上げることが求められており,組織としての意志を示して改編に取り組んだ際に発揮したリーダーシップについて述べる.
迫 佳志
近年,価値観の多様化に伴い,心理的幸福感(ウェルビーイング)の考え方に注目が集まっている.また,心理的幸福感は,働き方とも密接に関わってくるため,働きやすさの新たな基準となりつつあり,多くの企業で重要視されている.プロジェクトマネジメントの観点においても,心理的幸福感を高めることで様々な成果が出ることが知られており,プロジェクトの成功には欠かせないものである.しかし,取り巻く環境の変化が激しい現代では,プロジェクトメンバーの心理的幸福感を高く保つためには様々な工夫が必要になってくる.本稿では,筆者が日々のプロジェクトマネジメント活動の中で取り組みを行っている具体例を交えながら,心理的幸福感を高めるために効果的な手法について考察を行う.
渡辺 由美子,北條 武,中島 雄作
NTTデータグループでは20年前からPM育成のためにメンタリングを実施しており,筆者らが運営している.メンタリングの効果的な運営方法やメンタの育成方法については本学会で報告している.経験豊富な上級PMがメンタとなり,成長過程にある若手PM(メンティ)に対する実践的な助言,指導を通じて,ヒューマン・スキル,ビジネス・スキル,効果的なPM技法の活用等,PMスキルの継承を行っている.メンタからメンタリングや現場のプロジェクトを通じ,現在のPMに対する課題感を論じてもらった.その課題感は,全体を俯瞰してみる力,マクロ的なコミュニケーション力であった.そこで,メンタリング終了時に,半年間の振り返りと今後に向けた活動宣言を,参加者全員が相互に発表するという取り組みを行った.当該発表の様式については,PMのコミュニケーションに必要な要素を盛り込み,かつ参加者に対して事前に意識付けを行うという工夫を施した.さらに,近い将来,生成AIの適用に伴うプロンプト等の的確に言葉を伝えていく重要性にも意識を高めるようにメンティに伝えた.そして,事務局も生成AIを活用し,終了時アンケートの傾向と対策について分析を行った.本稿では,メンティがPMメンタリング参加後,常に現在のマネジメント手法の問題に対して思考を重ね,時代や案件特性,顧客に合わせて,マネジメント手法を進化させることができる「プロアクティブなPM」を目標としていることが,前記活動宣言からわかったので,その事例を報告する.
大井 俊彦
総工数10000人月,4年,最大ヘッドカウント450名の大規模プロジェクトを東京・札幌・上海のリモートを含む3拠点で運営して成功裡にサービスインを迎えることができた.一般的なプロジェクトの運営には山谷があり,それらを乗り越えるには,ステークホルダーやチームの協力が大きく寄与することは言うまでも無い.一方で本稿では,チーム依存で無くプロジェクトマネージメントの視点で当初から計画可能なプロジェクト運営上の成功要因となった工夫をまとめる.工夫ポイントは,工程事前準備,体制,品質管理の3点に集約された.また,対象プロジェクトの振り返りを通して,今回は事前に計画できなかったが,類似プロジェクトを実施する際に最初から考慮できると良いと考えられるポイントも整理する.
柳沢 満,吉村 直人
当社ではソフトウェアの開発生産性,品質向上を目的として,上流工程の成果物に含まれる曖昧表現,誤表記を機械的,網羅的に検出するドキュメント検証サービスの社内展開を推進している.自治体向けパッケージソフトウェア開発部門とドキュメント検証サービス開発部門で連携して導入支援活動を継続的に行っており,これまでの取組みから,ドキュメント検証サービスの検出結果を削減することで確認工数を大幅に削減できる見込みが立った.本稿ではドキュメント検証サービスの導入支援活動の効果を測定するため,別の自治体向けパッケージにおいても同等の結果が出ることを想定し,検証に使用する辞書のカスタマイズを行い,そのカスタマイズした辞書による分析(検証)した結果を評価する.その分析(検証)結果と,検査員によるドキュメントのレビュー結果を比較検証して評価する.さらにドキュメント検証サービス利用時の開発プロセスの改善についても報告する.
石井 和弥
若手プロジェクトマネージャーにおいて,プロジェクトを成功に導くまでに,様々な課題があると考える.その課題の根本的な要因には,プロジェクトマネージャーとして必要なプロジェクトの経験や技術的な知識が乏しいことが挙げられる.しかし,若手プロジェクトマネージャーの経験値不足,知識不足は一朝一夕で埋めることはできない.そのために,周りの環境や人材の活用方法および, 若手プロジェクトマネージャーが抱える課題を解決するために有用的な環境が非常に重要であると考える.したがって,筆者自身の経験則と自社の若手プロジェクトマネージャーからのヒアリングを基にプロジェクトの成否に大きく影響すると考えられる要因とその対応について述べる.
田中 匠,吉永 孝文,西 由貴,岡田 靖士
病院情報システムは,電子カルテシステムを中心に医事会計システム,放射線部門システム,検査部門システム等,様々な部門ごとの専用システムが存在し,各現場の業務に連動して,それらのシステムが双方向にデータ連携することで成り立っている.病院情報システム更新プロジェクトでは,病院内のクライアント端末及びサーバ等の機器更新を行い,更新後の機器に対して各部門システムベンダーがソフトウェアの再構築及びデータ移行等を実施する.400床を超える中核病院や大学病院では部門システムの数は50を超え,プロジェクトを計画的に進めるためには,これらの部門システムを取り扱うベンダーの管理(進捗/課題/品質等)は重要なファクターの1つである.今回,限られたマネジメントリソースの中で効率的に管理する方法を具体的なプロジェクト事例を通して説明する.
瀬川 直矢,山口 千晴,竹村 和浩
システムの拡張性や可用性などを向上する設計手法のひとつとして,マイクロサービスアーキテクチャが注目されている.このようなマイクロサービス型システム開発では,機能単位で順次開発,リリースが可能なアジャイル開発手法に代表されるインクリメンタル開発が採用されている.本開発は,国内で主流のウォーターフォール開発とは開発プロセスが大きく異なるため,旧来にとらわれない品質管理手法の確立が急務となっている.筆者はインクリメンタル開発プロジェクトに参画しており,高品質の維持を目的として,①品質とスピードを重視した品質評価ポイントの設定,②インクリメンタル開発の特徴に応じた定性的品質評価による品質の積み上げを実施した.本稿では,2つの施策による設計・テスト工程の品質マネジメント効果を考察する.
中村 健治
ここ数年で,日本でも政府関連・東京都を含め,多くの公共の場でもアジャイルやDXといった言葉を聴く機会が多くなっている.また,今までは,アジャイルやDXと言えば,システム開発やIT関連を中心とした領域で利用されることが多かったが,最近は,システムやIT関連分野を超え,多種多様な場面で使用されるケースが多く拝見され,世間的にもかなり広がってきている.しかし,利用機会が増加したことで,本来の意味から離れた言葉のとらえ方や解釈の仕方が散見され,多様化し,IT関連のプロジェクトの推進にも影響を与え始めている.本論文では,システムの組織や開発の変遷から,アジャイル型プロジェクトを考察し,アジャイル型プロジェクトを推進するポイントに関しての研究結果を報告する.
松田 麻衣子
システム開発プロジェクトにおける投資予算金額は,発注元で費用対効果が得られる価格をターゲットに設定され,そののちに受注先に見積り依頼が提示される.一方でシステム要件は予算額や開発期間を考慮せずに,ユーザーから提示される.特に,ハードウェア保守期限に起因するシステム更改案件は,顧客業務改善へ寄与する効果が限定的であることから,この予算枠と要件のかい離傾向が大きい.また,「現行踏襲」という曖昧な要件提示により,詳細な条件が不明確な状況下での見積りを余儀なくされ,結果として投資予算と開発期間が折り合わないケースが発生する.本レポートでは,大規模・短期開発・低コストを要求されるケースを例において,実施した施策とその有効性について検証する.
小林 亮太
プロジェクト遂行において様々なリスク・課題が発生する.リスクマネジメントとしてリスクの洗い出し,分析,評価,戦略,予防策/対応策の立案などを行うが,ステークホルダーとのコミュニケーションなくしてリスクマネジメントは不可能と考える.今回,DX化実現に向けたアーキテクチャの全面刷新における技術面でのリスク.プロジェクト推進面では他ベンダ領域の現行システムリプレイスによる開発のためのインプット不足.向き合いのお客様PMとは初めてのプロジェクト.システムの特性上,外部結合以降の品質担保が必要など様々なリスクを抱えスタートしたプロジェクトにおいて,お客様とのコミュニケーションに重点を置いたリスクマネジメントの実践内容を報告する.
武内 和弥
プロジェクトマネジメントの知識エリアは,全体的にバランスを取って管理する必要があるが,プロジェクトの特性に応じて,特定の知識エリアに重点を置くことが求められる場合がある.近年,経験した複数ベンダーによるシステム開発プロジェクトでは,多くの関係者それぞれの背景や,それを管理するお客様PMの懸念に直面した.特に,ステークホルダーマネジメントおよびコミュニケーションマネジメントに重点を置いて進めてきた.本論文では,関係者の背景や懸念事項を分析し,どのようにしてステークホルダーマネジメントとコミュニケーションマネジメントを推進したかを含め,これらの知識エリアの重要性について検証・考察する.
岡崎 達朗,小林 義和,高田 晋太郎,末藤 守,近藤 正勝,秋庭 圭子
プロジェクトを成功に導くためには,過去の失敗プロジェクトと同じ過ちを繰り返さないことが重要である.そのため,過去の失敗事例から,プロジェクト状況が悪化していく際の典型的なモデルを作成し,進行中のプロジェクトがモデルに合致しているかを判定することで,悪化予兆を捉える取り組みを行ってきた.しかし,このモデルに基づいて人が悪化予兆を判定するには手間や個人差の問題がある.そこで,人による判定結果をAIに機械学習させることで,自動かつ早期に悪化予兆を検知する取り組みを行っている.本稿では,この取り組みについて報告する.
小境 彩子
マネジメント領域における女性が果たす役割はますます重要になっている.多様性を取り入れることで,組織の柔軟性と創造性が向上し,新しい視点やアイデアが生まれる.さらに女性のリーダーシップスタイルは共感や協力を重視する傾向にあり,チームの士気を高める効果や,職場環境の公平性の向上などを期待することができる.このように,女性とマネジメントの組み合わせは,組織の成功に不可欠な要素である.さらにこれらを支援することを目的として,「女性活躍推進法」の施行などをはじめとして,国や各企業においても女性活躍に対する積極的なサポートが行われてきている.一方で,残念ながら世界における日本のジェンダーギャップ指数はまだ低く,世界経済フォーラム「Global Gender Gap 2024」で報告されているジェンダーギャップ指数では,日本の順位は118位(全146か国中)という結果となっている.トップダウンアプローチによる女性活躍推進が行われているにもかかわらず,このような結果となっている理由について,実際に女性がマネジメント領域で活躍するために必要なことは何か,様々な業種や役職を任されている女性とのコミュニケーションを踏まえ,考察を行った.その中で多く聞かれたのが「女性ロールモデルの不在」というキーワードであった.この課題を解決することは容易ではなく,今後も中長期での多方面からのアプローチが必要である.これに対して,最も短期的で強力な効果を発揮する方法の一つとして,女性一人一人が「自分自身がロールモデルになる」という意識付けを行い,これに向けたマインドチェンジを行うという方法がある.本稿では,本ボトムアップアプローチの重要性について述べる.
住谷 多香絵,中島 雄作
大規模システム開発プロジェクトにおいては,長期間にわたって大人数のIT人材を確保し続けなければならない.我々の会社及び協力会社は,親会社の大規模システム開発プロジェクトのクラウドやデータベースの構築などシステムプラットフォーム領域を専担し,高度なIT基盤技術者を多く抱える.プロジェクトにおける管理工数は,プロジェクト全体の10~20%の比率であるという文献が存在し,我々の経験もそのとおりである.我々のプロジェクトでも,問題・課題管理,進捗管理,リスク管理,品質管理,生産性向上,コスト管理,内部統制など,プロジェクトにおける管理工数を熟練の管理職が一手に担っていたが,捌ききれないことにより,配下のチームリーダも前述のタスクを負担していた.負担が増えたことにより,チームリーダにPM管理業務が集中し過ぎて,オーバーフローしていた.しかし,高度なIT基盤技術志向が強い筆者らのメンバは,PM管理業務には全く興味が湧かず,むしろ避ける傾向にあった.そこで我々は,プログラマ,SEからPMへ昇格するための意義や目標を掲げるアプローチではなく,「こうはなりたくない」,「失敗したくない」,「負けたくない」という技術志向の人の欲求からいざなうアプローチのほうが良いと考え,高度なIT基盤技術者にも自主的にPM管理業務を遂行してもらう活動をした.結果として,当該プロジェクトは成功した.そして,当該プロジェクト完了後に,IT基盤技術者が好むICBのコンピテンス要素とは何かという視点で考察した.本稿では,大規模プロジェクトにおけるプロジェクト管理業務をIT基盤技術者に遂行させる心理的アプローチの一事例について述べる.
小形 絵里子,中島 雄作,大槻 義則
当社はITのプラットフォーム領域のシステム構築を主な主戦場としているが,筆者らの一部の部門だけはデータセンタの建築,空調,電気設備,配線工事などを担当するファシリティ部門である.当社における失敗プロジェクトはここ数年全く発生していない状況ではあるが,もし失敗プロジェクトが発生するとしたら,見積もり時,受注・契約締結前の事前検討不足であろうことが推察された.そこで,大型プロジェクトすべてについて見積提示前または受注契約前に,受注前リスクチェックを実施する仕組みを作ることにした.情報システムの開発における受注前リスクチェックシートは親会社のものを流用すると容易であったが,建設業の受注前リスクチェックシートは観点が異なるので,筆者ら建築業に従事するメンバが作成することにした.その作成においては,自らの経験・知見,普段使っている様式のほか,生成AIから示唆された観点も参考にした.結果として,当社の建設業務の見積もり時に適合した受注前リスクチェックシートを作成することができた.本稿では,建設業における受注前リスクチェックシートの作成に関する一事例について述べる.
清水 正一
IT業界に限らず,「人は必ずミスをする」という前提に立った場合,人的ミスやシステムの誤作動などのエラーを低減する(一定の確率範囲内にコントロールする)ことは,重要な課題である.エラーの発生確率を低減するための一般的な解決方法の一つとして,クロスチェックを採用することが効果的とされ,採用されることが多い.しかし,クロスチェックは,その効果や具体的な手順の落とし込みまで十分に検討されないまま,安易に採用されやすい手法でもある.クロスチェックを効果的に採用する際に十分な検討がされない場合,クロスチェックの採用に期待されていた効果が出ない可能性が懸念される.本稿では,クロスチェックの一般的概念をモデル化して整理するとともに,効果的なクロスチェックを採用する際のポイントについて考察するものである.
中島 雄作,石水 恵実,田本 樹里杏,﨑田 亜希子,内川 明美,齋藤 佳奈,高島 奈美子,煤田 弘法
我々は,過去,本学会で自社の新入社員研修について報告してきた.コロナ禍の状況を見つつ,集合研修とオンライン研修を織り交ぜて新入社員研修を実施し,雑談の促進,心理的安全性への配慮等,様々なノウハウを獲得したことを紹介した.自社の新入社員研修では,IT基盤技術の基礎知識を習得してもらう研修がほとんどを占める.情報システムの開発手順を教えることやプロジェクトマネジメントや品質管理に関することを教える研修は新入社員の期間は存在しない.本稿では,それら過去の活動について,IPMAのICBに沿って振り返って考察することにした.ICBの「視座」「人材」「実践」に関するコンピテンス領域から考察してみると,セルフマネジメントのコンピテンス要素が浮かび上がってきた.そして,新入社員という状況下では,明にプロジェクトマネジメント研修を行うよりも,それら優先度の高いコンピテンス要素を実戦形式で体感してもらうことが重要と考える.
山口 由貴,中島 雄作
本学会の2023年度秋季研究発表大会及びProMAC 2023において,生成AIを活用したインターンシップの企画と運営のプロジェクトマネジメントの一事例を発表した.当時新卒1年目の新入社員であった私が,次年度の新卒採用の候補となる学生向けのインターンシップを企画と運営しようとしたが,PMとして主宰することが初めてであったので,生成AIを活用しながらヒントを得て,プロジェクトマネジメントをすすめていった.我が社のWell-being経営方針を踏まえつつ,目的と目標の設定,タスクとスケジュールの管理,リソースの管理,リスク管理を採り上げて報告した.それらは米国発祥のプロジェクトマネジメント標準に沿ったものであった.本稿では,1年前に行ったインターンシップの企画と運営のプロジェクトマネジメントに関して,IPMAのICBに沿って振り返ることにした.但し,「実践」に関するコンピテンス領域は,米国発祥のプロジェクトマネジメント標準と類似するコンピテンス要素があるため,今回は除外し,「視座」と「人材」に関するコンピテンス領域に絞り込み,各コンピテンス要素に関して,PM初心者がどういう注意をすれば,円滑にプロジェクトマネジメントが推進できるかを考察した.本稿では,インターンシップの運営のマネジメントに関するICBによる一考察について述べる.
端山 毅
環境問題,少子高齢化,格差の拡大など社会的な問題が深刻化する状況下において,AIなど急速に発展する技術の活用と,事業環境の変化に対する迅速な対応が求められるなど,プロジェクトマネジャーは複雑な事情の中で多様な利害関係者と協力せざるを得ない状況に追い込まれている.リーダーシップやコミュニケーションなど対人関係能力(パワースキル/ソフトスキル)に磨きを掛けなければ,プロジェクトマネジメントそのものに関する知識やスキル(ハードスキル)の効能を発揮することが難しくなっている.本稿では,パワースキルの重要性が増している昨今の状況を概観し,その能力を向上させる方法について論じる.
大隈 泰將
近年,業務のデジタル化を目的とし,基幹システムを更改し,Cloudなどの新技術を有するシステムへシフトしている.システムの更改において並行稼働(現新比較)を行うことは,品質担保する上で,有効である.しかし,並行稼働(現新比較)作業の実施難易度の高さ,準備・実施に要するコストのデメリットが大きいことから,採用を見送るプロジェクトもある.本稿では筆者が体験した大型システム更改プロジェクトにおける並行稼働(現新比較)を踏まえ,現新比較の準備において実践した効率化を目的とした施策,新旧システムの並行稼働において現新比較を行うことによるリリース後の保守体制まで含めたトータルコストの低減効果について考察する.
原田 剛史
「2025年の崖」が差し迫る中,ITシステム刷新を急務とする企業が多く,各ベンダにてあらゆる手法でモダナイゼーションプロジェクトを推進している.適切な手法の選定は,プロジェクトの制約により異なる.特に現行仕様を生かし,新ニーズを多く取り込むシステム開発では,業務仕様面,技術面の実現性検証を行うこと重要である.過去のプロジェクトにおいて,上記の計画が不十分であり,設計からテスト工程においてコスト超過の問題が発生していた.これらの失敗・成功要因を分析した結果,業務仕様面の検証粒度,有識者のプロジェクト専任率が大きく起因していると判明した.この改善策として,検証粒度を高める取り組み,有識者のプロジェクト専任率を高める取り組みを行い,現在進行中のプロジェクトへ適用した結果,問題低減の改善効果が得られている.これらの改善策については今後のプロジェクトにも適用していくとともに新たな課題改善にも取り組んでいく.
高橋 新一
プロジェクトにはいろいろな課題や問題が発生するが,長期保守開発を行い,複数プロジェクトが行われている状況でのプロジェクト実施においては,さらに固有のリスクが発生する.特に,ミッションクリティカルな業務への対応や複数の組織にまたがったプロジェクト体制や,ステークホルダーが多岐にわたり複雑な要素が加わる場合も想定される.そこで,本論文では,コンプレックスプロジェクトの定義とそのリスク要因について検討を行う.また,具体的な事例をもとに,その対応方法を考察する.プログラムマネジメントにおけるコンプレックスプロジェクトのリスク考察を行うことで,対策準備に寄与することを目的とする.
三木 朗
日本社会のIT化が進む中,古くなった基幹システムを新しいシステムに移行するプロジェクト,つまりモダナイゼーションプロジェクトが増加しています.本論文では私達がそれぞれ特徴の異なる3つのモダナイゼーションプロジェクトを実施する過程で使用したツール,得られた知見を整理して紹介します.モダナイゼーションプロジェクトでは古い基幹システムの解析だけに目が向けられがちですが,業務の流れとシステム運用の考慮がプロジェクトの成否の重要なポイントとなります.私達は3つのモダナイゼーションプロジェクトを通じて,プログラム解析の自動化および生成AIの活用による見える化を実施しました.また業務の流れやシステム運用の見える化にも取り組みました.その結果,システムとプログラムの解析は一定の条件を満たすことで自動化が可能であることが分かりました.本論文が今後のITモダナイゼーションプロジェクトにおける実務的なガイドラインとなれば幸いです.
石原 雅也
PoCは新規事業やビジネスアイデアに対して試作と検証実験を行い、持続的な有益性があるかを検討するものであり、アイデアだけで終わらせず、新規事業や新たなプロダクトが会社の利益と発展につながるかを検証する重要な実証実験である。このような PoC プロジェクトを成功させるため、一般的には技術可能性,市場競争力・優位性などの観点より開発実現性や収益性を評価することが多い。本論文ではプロジェクトマネージャがパッケージ開発におけるPocを進めていく際に意識すべき観点について、ゲートチェックのプロセスを設けて開発の実行性、ニーズ合致度、価格競争力それぞれの観点を踏まえて検証結果の確認をしたことから、ゲートチェックの手法の再現性と効果について述べる。
浅野 実,山本 智基,大谷 悠太郎
昨今のプロジェクトマネジメントでは,プロジェクト判断の補助のため,BIツールの利用が増えてきている.BIツールを用いた分析手法一つとして,プロセスマイニング分析がある.プロセスマイニングは,作業ログの情報を可視化することで,プロセスの実態の評価を行い,プロセスを改善することを目的としている.本論文では,プロセスマイニング分析を実プロジェクトに適用し,プロセスの評価と改善検討に着手した事例を紹介する.実プロジェクトへの適用にあたり,同一プロジェクトの適用以前の過去データで事前検証を行い,特に重要と考えられる分析観点を特定し,分析の運用フローを定義した.その後適用対象のプロジェクトについて,ボトルネックの特定と定義したプロセスと実作業の乖離度合い(適合性)の評価を行った.評価の結果,当該プロジェクトにおけるボトルネック箇所と実作業とプロセスが乖離していることを特定し,改善に向けた課題を明らかにした.
大迫 礼佳
プロジェクトマネジメントにおいてリスクを効果的に管理することは,スケジュールの遅延や予算の超過を防ぎ,成果物の品質を維持するために極めて重要である.また,リスクを適切に管理するためには,プロジェクトチームが管理可能な範囲内でリスク項目の数を適切に制御する必要がある.しかしながら,いくつかのシステム開発プロジェクトでは,作業の平準化が不十分であるため,プロジェクト作業のピーク時にリスクへの対応が不十分となり,その結果,チームが管理可能なリスク項目の数を超えることがある.これにより,プロジェクト全体に重大な影響を及ぼす場合がある.特に,病院情報システムの構築プロジェクトでは,その重要性と複雑さからリスク管理が一層重要となる.病院情報システムが停止すると,患者の治療に直接的な影響を及ぼす可能性があり,安全性が損なわれることにもなりかねない.そのような状況を回避する目的で,段階的にシステム開発を行うプロジェクトが計画されており,自身もそのようなプロジェクトに複数従事した経験がある.本稿では,自身が従事した病院情報システム構築プロジェクトにおける段階的導入の事例を紹介し,比較による考察を行う.
佐々木 美緒
チームマネジメントを行うとき,チーム・プロジェクト全体の目的を踏まえた上で,チームの状況やメンバーのスキルに応じたマネジメント方法を検討することが重要である.筆者は,参画している基幹システム追加改善プロジェクトにて,若手メンバーが多いチームのチームリーダーを入社2年目で任命され,現在まで約3年間続けている.既にサービスインから数年経過し,安定稼働している基幹システムへの変更を行うため,障害が発生した場合はお客様業務への影響が大きくなってしまう状況,更に,自身を含め,経験の浅いメンバーが中心となってシステム開発を行うという状況で,システム品質を担保するために作成物のチーム内部レビュー体制を改めて構築した.本稿では,この経験をもとに若手中心のチームにおける効果的なマネジメント手法について考察する.
臼井 俊吾,高井 雄司,杉村 英二,佐藤 尚友
近年、急速に進む市場変化に合わせた柔軟なシステム開発が求められている。例えば、工程の終了を経て次工程に移るウォーターフォール開発から要求の変更に柔軟に対応するアジャイル開発への移行を行う企業が多く見られるようになった。しかし、旧来求められていた人材と、現在求められている人材にギャップがあり、急速に進む市場変化に合わせた柔軟なシステム開発への移行が難しい状況となっている。そこで、本稿では旧来と現在で求められる人材の違いについて考察すると共に、実際のシステム開発で試行錯誤した開発スタイルの変更に伴う人材リソースの考慮ポイントを整理した。これにより、今後のシステム開発における一助となれば幸いと考える。
足立 順,田中 邦彦,大和田 穣
近年の機械学習に代表されるデータ分析の高度化や、企業全体のデータドリブン経営を支える基盤としてDMP(Data Management Platform) への注目度は高まっている。DMP 上におけるデータセット開発においても、高速でのデータ提供が求められる一方、企業全体として標準化され利用しやすい高品質なデータの提供も求められている。高速なデータの提供を目的として、従来のウォーターフォール型開発手法にアジャイル開発要素を取り込んだプロジェクトの開発経験を通じて得た『大規模データセット開発において用いるべきマネジメント手法』に関する知見と、そこから見えてきた課題について言及する。
森 久
筆者は,PM学会メンタルヘルス研究会に所属して,プロジェクトマネージャーやメンバーが「心身共に健康」を確保しながら,プロジェクトを推進し,社会に貢献出来る方法を研究している.その活動の中で,プロジェクトマネージャーやメンバーが「様々な環境の変化」などで発生する強いストレスに対して,どのように軽減し回復する方法があるかについて,私たちは議論をした.厚生労働省の「仕事に関する強いストレス有無」に関する調査結果では,労働者の82%は,強い不安,悩み,ストレスを感じているという結果が出ている.本稿では,「レジリエンス」というキーワードを元に,困難な状況,危機的な状況に遭遇しても,ストレスを軽減し,立ち直ることが出来る人の特徴を分析し,その中でも特に重要な特性である「人とのつながり」を持つ能力について,ハーバード大学成人発達研究所の研究事例を元にPMの経験から推奨する.
横田 早紀,小林 万織,稲田 孝,宮島 雄一,加藤 潤,鈴森 康弘
エンタープライズ向けシステム開発においては,持続的な競争優位性を獲得するために、短期間でプロダクト価値の高いサービスを継続的に安定提供できるニーズが高まっている.既存のプロジェクトでは度重なる開発の結果、前述のニーズを満たせなくなってきており、この状況を脱却するためソフトウェアのリニューアルを行う必要があった.当プロジェクトにおいては、(1)要求仕様が不明瞭かつ設計書がない状況下で、(2)ローンチまでの期間が短く、(3)現行相当のユーザ価値を維持することが求められた.さらに海外のベンダと協業したオフショアの体制で案件を完遂する必要があった.本稿では,この高い要求に応えるために行ったマネジメント上の工夫・対策と成果に関して言及する.
蓮見 和也
プロジェクトマネジメントにおける様々なノウハウは,多くの成功/失敗をもとに蓄積されたその組織の有用な資産である.そのノウハウを形式知とし,伝承することでプロジェクト成功の再現性を大きく飛躍させることができる.ところが現在,多くの組織やプロジェクト環境で以下のような問題が発生している.プロジェクトマネジメントのノウハウがベテランに集中しており,その伝承がうまく進まない.膨大な労力と期間をかけて構築された様々なプロジェクト標準や開発基準などが形骸化している.これらの課題を認識し,危機感を抱いているものの時間がなく解決の目途が立っていない,などである.我々はCCPMをベースとしたプロジェクトマネジメント改革を進める中で,「段階的フルキット」「ネットワーク図作成」と有識者の形式知を組み合わせることで前述の課題に効果的にアプローチすることができた.本アプローチの詳細,具体的な事例,および得られた成果を本講演にて報告する.
橋本 美枝
VUCAの時代においては,企業が単独でイノベーションを生み出すことが困難になり,異業種間の連携や協力が不可欠である.日立グループが取り組んでいるLumadaによる顧客協創はこのような社会に対応するための戦略の一つである.Lumadaは顧客との協創を通じて新しい価値を創出するためのプラットフォームであり,当社でもデジタル技術を活用して社会課題の解決をめざしている.その中で当社内の新規アイデア提案活動において,農業分野のアイデアに日立の画像AI技術を活用する新事業を立案したところ,事業化検討に入ることとなった.しかし,農業分野は当社では知見がないため,事業化にチャレンジするには市場調査や業務分析の事前実施と相互補完できるパートナー企業が必要となった.そこで農業における栽培,収穫,加工,販売などの一連の知識を深めながら市場調査と分析,企業リサーチを行ったところ,農業関係企業との対話をスムーズに進められた.農業分野で事業展開している日立グループ会社,営農している企業,農機を開発している企業へ戦略的にアプローチした結果,Win-Winとなる相互補完関係を築けるパートナー2社それぞれとPoCを実施することができた.これによりLumada協創の考え方を各社と共有してビジネスパートナーとしての信頼関係を構築していった.本PoCが起点となり ,現在は別の新たな事業としてそのパートナー企業と相互補完の関係性への発展をめざして連携推進中である.新しい価値を生み出す戦略の一つとして ,事業化検討から今回のような企業間の関係性発展をめざした連携の継続が重要である.
藤咲 陽大,新谷 幸弘
アジャイル開発は、迅速な価値提供とチームの効率化を目指すプロジェクト管理手法であり、スクラムやカンバンなどのフレームワークを通じて短いサイクルで進行する。一方、ゲーミフィケーションは、ゲーム要素を非ゲーム環境に導入し、ユーザーのモチベーションやエンゲージメントを向上させる手法である。本研究では、アジャイルの特徴をゲーミフィケーションの観点から再考察し、両者の補完的関係を明らかにする。これにより、アジャイル開発プロセスに新たな視点を提供する。
矢野 雄輝,齊藤 拓也,池田 真也,松本 圭右,松島 明美
生成AIの活用が活発化するなか,ソフトウェア開発の品質判断にもAIを積極的に活用する必要があると考える.2023年,当社の情報通信業領域データを学習データとし,プロジェクト計画値およびコーディング工程(CD)完了時点の実績値を基に機能テスト工程(FT)バグ数を予測するAIモデルを構築した.また,そのAIモデルに説明可能なAI(以降,XAI)を適用してAI予測値の主要因を特定し,品質分析に活用する施策を構築した.そして,その施策に対するプロジェクト検証結果を本学会で発表した.今回,学習データの領域を情報通信業から当社の製造業,金融業など様々な業種を含んだSI系全体に拡げることで,情報通信業以外の業種にも対応可能なAIモデルを構築できた.また,完了した設計工程の品質を実績値の説明変数で分析したいため,訓練データの設計工程説明変数は実績値のみとし,計画値を除去した.この結果,XAIが予測値主要因としてあげる設計工程説明変数はすべて実績値となったため,プロジェクトは実績値に応じた品質改善のアクションを行えるようになった.また,XAI主要因分析結果を基にした品質分析文章の可読性を向上させるため,「XAI結果を基に品質分析した結果」と,「品質会計の上工程品質判定表を基に追加分析した結果」の二段階構成にした.これらの改善の結果,ユーザビリティを向上することができたため,プロジェクトは自らの品質分析に加え,第三者視点として本施策の品質分析を活用しやすくなった.
森 克彦
アプライアンス製品やパッケージ製品を利用したITインフラ構築では,製品の機能差やパラメータでの動作などブラックボックスとなっている機能の設計となることが多いため,ユーザアプリケーション開発とはことなる品質評価のアプローチが必要となる.特に基本設計など上流工程の設計ドキュメントは,アプライアンス製品やパッケージ製品など利用する製品の特性に合わせた様式となるため,品質を定量的に評価することが困難なケースも多く,定性的な評価のみ行なうことも多い.本稿では,著者が経験したプロジェクトにおいて,ITインフラ構築における上流工程の設計ドキュメントの品質を,不良密度という指標によって定量的に評価した事例を紹介する.今後のITインフラ構築における品質評価の1つの考え方,実践的な方法として参考にして頂ければ幸いである.
三浦 正彰
近年の日本の製造業,サービス業においての品質の低下は著しいと感じている.自動車産業においては,“空飛ぶタイヤ”や完成検査記録の改ざん,食品関連でも衛生問題となった牛乳製造など,すべての業種,業務には,品質管理が必要と考えるし,日常の生活の中でもプロセス品質と考えれば,いろいろなところに“品質”は存在している.現代の日本人は“品質”を受ける側の場合には,品質をすごく気にしているが,“品質”の提供側になると“品質”を唱えているだけで,“品質の本質”を考えていないことが問題と捉える.システム・インテグレータ業界でもプロジェクト内のトラブル,本番障害、検証漏れなどの問題が多い,システム開発の“品質とは”の本質を研究する為に社内研究会を立ち上げ,まずは,障害報告書や設計書の“品質”を高めるために「日本語」の使い方の問題と解決策を研究テーマに地方拠点の品質強化研修や新人向け品質管理研修で実践し,今後の課題と研究の方向性を考えた.
清本 隆司
「VUCA」と言われるように,現代ではさまざまな物事が目まぐるしく変化している.例えばAIのような最新技術が日々技術進化を遂げており,ことDX推進においては,ますますビジネスのアジリティが求められる状況となっている.このような状況下では,ややもすると品質管理プロセスはビジネスのアジリティを低下させるものと受け止められかねず,厳しく品質管理プロセスを浸透・徹底させようとすればするほどに,事業部門と品質管理部署との間で対立構造が深まることも珍しくない.本論文では,イソップ寓話『北風と太陽』の太陽に倣い,親しみやすく存在感のある品質管理部署としての社内ブランディングをはじめとする,品質管理プロセスを浸透・徹底させるための当社の多角的な取組みについて述べる.
郷田 光宏
プロジェクトにおいてプロジェクト終盤で品質悪化や進捗遅延を回復するには多くの工数・費用が必要となる.そのため,失敗プロジェクトの予兆を検知し早期に手当することがプロジェクトだけでなく経営にも重要となる.当事業体では非常に多くのプロジェクトを遂行しており,その中から,失敗プロジェクトの予兆を検知し回避する必要がある.そこで,プロジェクトの管理帳票を規定しシステムを活用して定期的に収集・分析を行った.閾値から外れるプロジェクトは状況を確認し,予兆があるものは幹部層へ報告を行った.対象となったPJ件数は年間約200PJであり,予兆検知と必要に応じた組織的なフォローを継続的に行った.その結果,この5年間で赤字プロジェクト0件を継続している.また,各PJの帳票の作成率の向上およびその記載内容の精度の向上が見られた.この活動の結果として組織全体の開発力の向上につながっていると考えられる.
金 祉潤
当社では,当社が求めている人物像および育成戦略により適合した研修を実施するため,外部研修機関に委託していた新入社員研修を内製化した.社内における品質管理プロセス遵守が重要視されており,その課題意識を持つ社員が新入社員研修の一部である品質管理研修を企画した.本研修は,品質管理の概念,品質を保証するためのテスト,品質の高いドキュメントの作成の三つの主要なテーマに基づいて構成されている.研修の実施後には,理解度確認テストと研修全般に関するアンケートを行った.本研究では,新入社員向け品質管理研修の目的,研修内容の工夫点,実施手法および今後の課題について述べる.これにより,本研究のアプローチは,若手社員向けの品質管理教育に課題を持っている組織にとって有用である.
北畑 紀和
組織を「アジャイルな組織」にしていくという課題に対して、どのように取り組むべきか、何が課題となりどのように解決していくかの検討を開始した。開発手法をウォーターフォールからアジャイルに変更するように考えることでうまくいくのか、開発手法と違い組織をアジャイル化するとはどういうことなのかを考察する。
川上 蒼太,大木 聖太,矢田 捷真,安藤 有希,瀧 比呂志
近年,大規模言語モデル(Large Language Models : LLM)の発展に伴い,様々な業界で業務の効率化が進められている.NTTデータでは,追加開発等のシーンにおいて設計書のメンテナンス漏れ等の要因により正しく設計内容を把握できない,もしくはそのリスクへの対処がプロジェクト進行の妨げとなりうる可能性があることに着目した.この課題に対し,LLMを活用することで,ソースコードの解析,設計書の復元を効率化し,ブラックボックスの解除を目指している.これまでの研究により,ソースコードから機能の処理フローなどをPlantUMLのダイアグラムとして生成し,設計書の情報を約80%復元できることが明らかになった.しかしながら,精度良く設計書情報を復元するためには,LLMに入力するソースコードの選定が重要であり,この選定作業に多くの作業時間がかかることが問題となっている.そこで,本研究では,ソースコードの選別にRAG(Retrieval-Augmented Generation)を適用し,自動的にLLMの入力として適切なソースコードを選定することで,設計書の復元のさらなる効率化と精度向上を図った.本稿では,生成AIを活用した設計書復元の実現性と,RAGの使用による生産性と精度の寄与について述べる.
南雲 慶憲,粟屋 崇,那須 裕,入山 卓斗,上村 洸太
当社は,日本初の人工衛星である「おおすみ」を始めとして「はやぶさ」等の多くの人工衛星を開発してきた.人工衛星は,宇宙へ打ち上げた後の修理が不可能であり,地上での開発・製造における品質確保が重要である.また,人工衛星は一品生産型であり,自動車等の量産型の工業製品と比較すると,工程自動化や量産を通したばらつきの抑制による工程品質の安定化が難しい.そのため,人工衛星の製造・試験工程では,品質保証担当者による製造・試験現場での作業や品質記録の確認,不具合対応等の三現主義を基本とした品質保証活動が重要である.品質保証担当者は,自社工場のみならず遠隔地の顧客設備の製造・試験現場でもこれらの活動を限られたリソースの中で行う必要があり,従来課題となっていた.この課題に対し, ITを利用したリモート環境を導入することにより,遠隔からでも現場作業の確認等をリアルタイムで可能にした.これにより,限られたリソースの中で三現主義に則した品質保証活動を実現した.
西川 浩太
継続的にシステム開発を行うにあたり,案件特性を考慮してプロジェクトを遂行していくことが重要である.筆者が参画しているプロジェクトでは,要件が決まらない,要件変更が多く発生するといった問題や通常開発とは別枠で迅速な対応が突発的に発生するなどの問題が発生していた.それらの問題について対応するために,実際のシステム開発の中で行った,体制,運用面を含むいくつかの改善施策の事例について紹介する.
武山 祐
サービスマネジメントの最適な形はプロジェクトの規模やビジネスの形態,採用されている技術要素などの特性により異なる.目指すべき姿が分からないまま現状を変えることを強いられ,何をどのように変えるのか悩む多くのプロジェクトを筆者は目にしてきた.本稿ではサービスマネジメントのガイダンスとして世界的に最も広く採用されているITILをベースにした,プロジェクトにおけるサービスマネジメントの代表的な段階をマッピングした"サービスマネジメント全体像"を提唱する.
宮内 裕正
商品開発プロジェクトにおける商品企画・マーケティング部門のコンセプトワーク(目標設定/リサーチ/アイディア創出/コンセプトの開発/フィードバック収集/プレゼンテーション/承認)のアウトプットは企業の収益目標の達成に大きく影響する.現代の急速な環境変化,特にAIの進化や多様な商品のネットワーク連携により,従来のプロセスやプロジェクトマネジメント手法では時間がかかりすぎて競争力を失う可能性が高くなっている.従来のプロセスでは,まず商品企画・マーケティング部門がコンセプトワークを行い,その後,開発部門がそのコンセプトの実現性を検証し,最終的に商品開発に移行する.この段階的なアプローチでは迅速な対応が難しくなっている.本講演では,短期間で幅広いインプットを収集し,最大のアウトプットを創出する新しいコンセプトワークの仕組みとプロジェクトマネジメントの手法を,実例を交えながら紹介します.
小林 康二郎
近年,デジタル化の急激な進行に伴い,ITプロジェクトに求められるIT技術やシステム開発手法が変化し,ITプロジェクトの難易度が高まっている.プロジェクトを推進する役割を担う,プロジェクトマネージャの重要度は,顧客はもちろん,企業においても高く,特に大規模プロジェクトの成否が企業に与える影響は大きい.しかし,プロジェクトマネージャの役割は幅広く,マネジメントに必要な知識を有し,プロジェクトに合った行動を適切に行うことが求められるため,知識の習得と数多くのOJT経験が必要であると考えている.プロジェクトマネージャの育成における課題を定義し,安定したマネージャ人材の育成に繋げる解決方法について検討する.
坂本 雅寛
本研究では,IT人材不足を見越してグローバル競争力を強化するためのオフショア開発の活性化に向けた実践的なアプローチを提案.その取り組みを通じて人財育成計画と一体となったオフショア開発の活性化を実現した事例を示す.まずオフショア開発の導入背景とその課題を詳細に理解し,資源の最適化,コスト削減,時差の利用といったメリットを活かしつつ,言語・文化の壁,品質管理,コミュニケーションの問題といった課題を克服するための具体的な手法に取り組んだ.その一環として,下流工程を中心とした作業の切り出し活用というオフショア開発モデルから,上流工程の要件分析~システム評価までの工程をオフショア先で可能とさせるモデルへの段階的な発展の方法を示す.またこの過程で求められるブリッジSEの能力と役割の遷移を理解し,作業環境と文化的背景も考慮に入れたジョブ定義の体系化を行なった.さらに,グローバル人財の育成に重きを置き,スキル・キャリアパスの具体化とカリキュラムを構築してきた.これらの取り組み全体が,オフショア開発の活性化とグローバル対応力の強化につながる一連の実践プロセスとなることが示された.
小林 貴幸
近年,システム開発においては新技術の基幹系領域への適用や納期短縮など,従来よりも大きなリスクを伴うプロジェクトが増加している.このような多様化したプロジェクトを成功に導くためには,プロジェクトマネージャーの育成が重要である.一方,システム開発の現場では,同時に進行する複数のプロジェクトのマネジメントと次世代のプロジェクトマネージャーの育成を両立させることが求められている.本稿では,異なる特性を持つ複数のプロジェクトに対して,限られた要員と体制の中で円滑なプロジェクト推進とプロジェクトマネージャーの育成を両立させるために,プロジェクト特性に応じて重点管理すべき項目や権限委譲の範囲について仮説を立案し,実際のプロジェクトを通じて得られた気づきについて述べる.
松澤 良多
人材不足の昨今において,経験者を採用し組織の活性化やコア人材の確保を行っている.中途採用者は即戦力を期待され,参画したプロジェクトで早急に成果を上げる必要がある.特にプロジェクトマネージャー(以降,PMと略す)は担当するお客様とのリレーションを構築し,活動中のプロジェクトチームをマネジメントし,チームメンバーの信頼を得る必要がある.そのため,お客様の考え方,プロジェクトの特性を理解し,メンバーとのコミュニケーションを密に実施する必要がある.また課題や問題に対する理解度と適切な判断の元,指示を行い,結果を出すことが求められる.これらはプロジェクトの異動または管理する組織が変わることでも同様に求められると考える.本稿では中途採用者のPMである筆者が,実行中プロジェクトへ参画した際に直面した課題とその解決策を元に,コミュニケーション・マネジメントを中心に,プロジェクトや組織を異動した際の心構えや異動後に取るべき行動について考察する.
石井 愛弓
PostgreSQLは世界で最も広く使用されているオープンソースのRDBMSの1つである.PostgreSQLの開発を行っているThe PostgreSQL Global Development Groupは世界中の多数の企業・開発者が参加し,活発に活動している.多数の企業が開発に関わっていることは,利用者にとってプロダクトの安定性の上で大きなメリットであるが,一方で,コミュニティとしては,いかにスピード感をもって効率よく,品質高くプロダクトを開発するか,といったマネジメントが課題となってくる.本稿では,PostgreSQLの開発プロセスやコミュニティの在り方に注目し,品質の高いプロダクトを継続的に開発するためのノウハウを提案する.まず第一に,コミュニティの文化として,コンセンサスを重視して開発を進めている点に注目し,コミュニティ全体にとって利益となる開発を実現していることを示した.次に,開発プロセスに注目し,新しい機能開発を積極的に実施しながら,高い品質を保っていることを示した.最後に,コミュニティが新規開発者を獲得・維持する重要性を認識し,開発者のモチベーションに繋がる取り組みを実施することにより,これまでPostgreSQLコミュニティが発展してきたことを示した.このようにPostgreSQLコミュニティは多様性を活かしたチームで高い生産性を実現しており,そのノウハウは,現代の様々なプロジェクトに有用であると考えられる.
高橋 英章
PMBOKガイド7版は,従来の5つのプロセスから12の原理・原則へと内容を大きく変更した.これは,時代の要求に応じた大きな変更といえる.一方,コロナによる働き方の変容,労働観の異なる若手職員の指導方法,今まで蓄積した課題解決に関わる方法論,手順や教訓では太刀打ちできない適用課題の解決方法,多様な価値観をもつ社外メンバーとの協業など,職場やプロジェクト遂行上の様々な課題が顕在化している.PMBOKガイド7版と同様,時代の要求に合致した見直しが必要と考えられる.本稿では人材育成とリーダーシップを取り上げ,筆者の経験も交えながら,職場学習のプロセスやプロジェクトマネージャの育成手法として確立したケーススタディを考察し,若手職員に受け入れられる今日的な職場やプロジェクトチームに適合する職場を中心とした人材育成方法への転換を提案する.合わせて適用課題を解決できる協業的な職場やプロジェクトチームで期待されるリーダーシップとして,シェアード・リーダーシップを提案する.
白片 知恵子,石原 司
テクノロジーの進化、社会情勢の変化、消費者行動のパターンシフトなど、市場環境は常に変動し続けている。またグローバル化、デジタル化、多様化する顧客ニーズなど、市場構造が複雑化し、因果関係を把握しきれない。この予測困難な環境下において、品質マネージメントを起因とした問題は後を絶たない。品質問題は納期遅延やコスト超過を招き、プロジェクト単独の問題ではなく、顧客満足度の低下さらには社会的な問題へと発展し、ビジネスへの影響は測り知れないものとなる。我々はこれまでも、この問題と向き合い、多くの対策を講じてきたが、市場変化に追従するためには新たな手法を取り入れる必要がある。これまで強化してきた「点」での分析つまり開発工程断面での評価に加え、「線」での分析つまり時間の流れの中での遷移分析を加えることにより、品質の変化をいち早くとらえる仕組みを試みた。この時間軸における遷移分析においては、「現在」を中心に、開発の時間経過に沿った品質追跡(トレースフォワード)と時系列に遡って記録を辿る(トレースバック)によって、開発の流れを読み解く。読み解いた結果については、誰しもが認識できる仕組みが不可欠であり、色の濃淡で表現する「ヒートマップ」手法を取り入れ、可視化を試みた。本稿では、適用した大規模プロジェクトの事例を交えながら、課題に対する具体的な改善とその効果を明らかにしている。
當間 毅
デジタル技術を活用した新しいシステムやサービスが華々しく業界をにぎわせている中で,レガシー資産である「基幹システム」は複雑化,老朽化・ブラックボックス化と評されている「既存システム」として現在も依然として稼働している.しかし,「既存システム」の継続利用には,「2025年の崖」[1]に象徴されるように様々な課題を抱えている.長期にわたり運用しているシステムについては,システム自体の仕様・運用の全体像がつかみきれず,ブラックボックス化し,システム改修の難易度が高く,保守性を疑問視されている.また,技術の進化が進む一方で,旧態然の技術を利用していることに対して,コスト高の元凶のように扱われ,ユーザ満足度の低下を招いている.ベンダ目線では,システム構築~運用保守に対して包括契約を行い,計画的な長期サポートを実現するため努力を重ねているものの,ユーザから予算の制約を理由に強いコスト圧縮要請を受けている.技術者の高齢化,IT労働コストの上昇により,従来のような要員確保や体制維持が難しくなるなかで,システム運用・保守ビジネスに対するモチベーションも下がる一方である.このような背景から,割の合わない運用保守からベンダ側が撤退するケースも珍しい話ではないが,ユーザがシステムを利用し続ける意思があるかぎり,ベンダ側都合で一方的に撤退することも難しい.長期の運用保守ビジネスを,如何に「持続可能なビジネスに変革させていくか」について論ずる.
柄澤 良和
現代のソフトウェア開発において, オープンソースソフトウェア(OSS)の利用が急速に拡大している.OSSはコスト削減, 迅速な開発, イノベーションの促進など多くの利点を提供する.その一方で, 脆弱性やライセンスの問題を適切に管理しないと重大なリスクを抱えることになる.近年, ソフトウェアの部品表であるSBOMを使って, こうしたリスクを管理しつつ効率的にソフトウェア開発を進める手法が注目を集めている.本論文ではSBOMを使ったリスク管理について紹介する.
佐藤 仁己
近年,ITプロジェクトの大型化,複雑化の傾向とともにトラブルプロジェクトの発生を抑制する為のPMスキルの重要性が増してきているが,筆者はトラブルプロジェクトが発生する真因を大きく二つに分類することができると考えている.一つはプロジェクト体制上の問題(プロジェクトマネジメントスキルを有した真のPMの不足,上流工程体制が不十分等)であり,もう一つは要件定義に関する問題(システム要件が明確化されないまま設計開発局面に進んでしまうケース等)である.本稿ではトラブルプロジェクトの真因となり得るケース分析を行ない,何故トラブルの種を生じさせてしまうのか,どうすればトラブルプロジェクトの発生率を低減することができるのかについて考察する.
三上 拓也,伊藤 拓也,高橋 亮介
当部門(品質部門)では近年のアジャイル開発採用プロジェクトの増加に伴い,アジャイル開発プロセスの改善を行い,開発/品質保証の効率化を図った.最初にアジャイル開発のプロセスの問題点について開発部門および品質部門へヒアリングを行った.その結果として開発部門からは不具合修正等の規模の小さい開発に対してプロセスが重い,ウォータフォール開発に比べてバグを摘出しきれていないか品質面での不安があるといった要望が上がった.品質部門からは開発途中における品質確認がしづらいといった要望が上がった.開発部門要望に対してはいずれもウォーターフォール開発プロセスで実施していたプロセスを流用し,簡易的な開発管理プロセスやバグ分析帳票をアジャイル開発プロセスにおいても使用できるように帳票やプロセスの整備を行った.品質部門要望に対してはスプリントレビュー資料のテンプレートを作成し,スプリントレビューで確認すべき事項を明確にすることで,開発途中における品質確保を図った.これらの改善施策によりどの程度の効果があるかついては今後の開発部門からのフィードバックを受けて判断することとする.
長久 幸雄
システム開発プロジェクトにおいて,開発環境が整備されてきたこと,働く環境に左右されずにシステム開発をすることができるため,ニアショアを利用したシステム開発も進んでいる.しかしながら,プロジェクトメンバー間でコミュニケーションが取れていない場合に,プロジェクトの進捗に影響を及ぼす場合もある.システム開発プロジェクトの進捗及び品質に影響を及ぼさないようにするために適切な施策が必要になる.そのため,システム開発プロジェクトの場合,プロジェクトメンバー全体のコミュニケーションが重要になってくる.コミュニケーションを円滑にするための環境の整備,メンバーの意識改善及びメンバーの教育が必要になる.本稿では,ニアショアを利用したシステム開発プロジェクトにおいて,コミュニケーション環境の整備を行うと共に,コミュニケーション計画を修正しながら,同時にチーム体制改善を行い,システム開発プロジェクトにおける品質管理の取り組みについて考察する.
豊島 直樹
当社のシステムにおいて数多くのシステムがハードウェアやソフトウェアの老朽化を迎え, 様々なシステムのバージョンアップやハードウェア更改を余儀なくされている.筆者においてはインフラ領域の所属であるため,このような刷新プロジェクトに関わることが多い.今まで数多くのプロジェクトを経験させていただいたこともあり,23年度から発足しているとある刷新プロジェクトのPMを担うことになった.PMを担当するシステムにおいては他社でも採用実績高い,メインフレーム領域の刷新であり,オープン系のインフラ技術を主に扱ってきた自身としては完全にシステム知識がない領域のPMとなる.当社においては,無論他社においてもシステムコストの削減は経営課題の大命題であると考えるが,最低限のコストでこのようなプロジェクトを推進するよう,初期学習コストなどを抑えるため,基本的にはシステム知識がある程度備わっている社員がPMになることが多い.自身においてのキャリアプラン上プロジェクトマネジメント経験を積むために,あえて無知識な領域を担当し,そのプロジェクトの成功基準を満たした達成責任を負うことで,自身のスキルアップに対して鼓舞することと,社内へのメッセージ発信を趣旨に奮闘した経験を考察する.
田中 彩恵
近年,従業員のエンゲージメント向上に取り組んでいる企業は多いが, 私の所属する部門でもコロナ禍でのリモートワーク増加,部門の統廃合に伴う縦割り文化を要因とするコミュニケーション停滞からエンゲージメント低下を課題として抱えていた.コミュニケーション活性化,事業部員の自発性と組織の心理的安全性に働きかける試みとして,社内サークルの設置及びサンクスツールの導入を実施し,運営プロジェクトを発足した.社内サークルは部門を超えた交流で相互理解が促進され自由な発想でチャレンジする場となった.また,サンクスツールで気軽に感謝や称賛の気持ちを伝える文化が広がっていった.さらに,2つの活動に繋がりを持たせることで相乗効果を発揮した.半年後に行ったアンケート結果から,本プロジェクトがエンゲージメント向上に効果があると67%の人が回答し,一定の成果が得られた.本稿では,活動に至る背景から,得られた成果,課題,今後の展望について考察する.
二宮 拓朗
本稿は,プログラムマネジメントオフィス(PgMO)のサービス品質を評価するための適切なモデルを選定し,その適用を検討するものである.PgMOは,プロジェクトの成功に重要な役割を果たしているが,複数のプロジェクトを統合・調整し管理するため,個々のプロジェクトのQCD(品質,コスト,納期)指標だけでは評価しきれない.また,PgMOの重要な役割にはプロジェクトの戦略的目標を達成することが含まれ,これは全体としての一貫性,包括的な柔軟性,各プロジェクトからの信頼獲得などに重きを置く必要がある.したがって,PgMOではQCDのみならず,サービス品質の評価が重要となる.本稿では,PgMOのサービス品質評価にSERVQUALモデルが適していると判断し,信頼性,応答性,安心感,共感性,具体性の5つの次元に基づく評価基準を設定した.アンケート調査やインタビューを通じて各次元の評価結果を分析し,PgMOのサービス内容の強みと改善点を明らかにする方法を提案する.さらに,実践的な改善策の提案と今後の課題についても言及する.
角 慎太郎
文書画像統合ソリューションという分野で私たちは市場参入が遅れ,シェアが延ばせない状況が続いていた.その原因は様々であるが,そこには「プロモーション力」,「提案力」,「お客さま接点」の3点が大きく関連していたと考えられる.課題解消に向けてWGを発足し,全国のシステムエンジニア(SE)にアンケートを実施するなど,改善活動を推し進めた.改善案の一つとして,これまでの提案方法を刷新し,文書システムや画像システムごとのソリューション単位の提案方法から,複数ソリューションを1つのソリューション(文書画像統合ソリューション)としてお客さまに提案することに切り替えていった.これにより自社の文書画像統合ソリューションという分野をお客さまに認知してもらい,かつ自社の強みをアピールすることが出来た.これらの活動により広告塔となるユーザを他社からリプレースすることも出来た.本論では,実際の取り組みなどを紹介し,複数ソリューションの一括提案による価値の創出までの経緯や今後の提案に向けての病院内のシステム構成をモダナイゼーションしていく有用性を述べている.これらは私たちが目指すコンサルティング力の強化につながるテーマであると期待している.
樋口 光希
本稿では,CM業界からIT業界に転職し上流工程に参画した若手である筆者の視点から,満足度の高いシステムの実現にむけたプロジェクトの進め方を考察した.近年システム構築のプロジェクトにおいては,出来上がったシステムが必ずしも満足度が高くはないとの見方がある.一方CM業界では,完成したCMに対して多くのケースで広告主の満足度が高く,“チームで作り上げるモノづくり”という観点では参画プロジェクトの進め方と類似していることがわかった.単に機能面の充実を図ることが目的ではなく,出来上がったシステムに対してどのような効果が得られるかという「ゆるぎない構想」を事前に打ち立ててモノづくりを行っているという類似点から,「ゆるぎない構想」を大切にし,事前に明確な構想を立て具体的機能要件に照らし合わせながらプロジェクトを進めることが有用であると結論付けた.
高良 一弘
IoTのように技術の進歩が速く,また明確な業務要件が定義されないITプロジェクトが増えてきており,その有効な対策としてアジャイルやスパイラル,あるいはプロトタイプと言われる新しい開発手法が存在する.これらも開発手法では曖昧なユーザニーズを具体化していく過程において大きく強みを発揮する一方,プラットフォーム開発などの案件ではハードウェアやソフトウェアなどの調達を伴うことから,適用困難であった.本稿では従来適用困難であった受託開発のプラットフォーム案件へ,クラウドサービスを活用することにより実現するアジャイル開発アプローチの適用について,課題と対策案を述べる.
大野 弘祐,下村 哲司,高橋 亮介,伊藤 拓也
弊社は異なるプロセスが部門毎に適用されているケースが多かった.差異として,各部門が扱う商材特性の他,部門ごとにPDCAを回す過程で追加された個別のルールがあり,似て非なるプロセスが乱立する状況にあった.一方で,企業の成長を加速させ,社会貢献,お客様へ価値提供を高めるために,弊社は,近年大幅な組織改革を行い,組織のフラット化,部門の統廃合を進めてきた.こうした背景から,多数のプロセスが存在する状況は以前からメンテナンス工数の増大要因となっており,そこに組織再編の影響が加わることで,新旧組織の適用プロセス差異により開発者が混乱するという問題が発生した.これらの問題を解決するために,今回,汎用製品/サービス商材を主管する組織の開発プロセスの統合・整備を行った.具体的には,多様化する商材に素早く対応できるように開発者が開発プロセス選定に困らない仕組みを整備した.結果として,社内の組織再編時の影響も低減することができた.
津熊 崇湖
昨今IT市場は事業機会の拡大と反してプロジェクト推進(PM・PL)人材不足をよく耳にする.その背景から我々の職場でもJob型雇用・人材配置の適正化・流動化を加速させており,システムエンジニアの目線ではより一層文化やドメインナレッジを知らずともPM・PLの役割を果たす事が重要である.そうした配置転換の中でも,PLとして迅速なチームビルディング,顧客から信頼獲得,システム構成の把握,プロジェクト推進する術を考察し体系化の上で述べる.なお本稿では筆者が初のプロジェクトリーダーアサイン,地元大阪から東京への転勤,部署異動,社内社外ともに初対面のステークホルダーを相手に推進したウォーターフォール開発プロジェクトにおける事例をもとに考察する.
片岡 麻衣
大規模BCP対策システム開発においては,実運用を想定した要件確定や,全関係者を巻き込んだEnd To Endでのテスト実施が難しい背景がある.このような高リスク案件において,上流工程でリスクを洗い出し,マネジメントする手法について仮説を立案し検証を行った.仮説としてQCDそれぞれのリスク対策をプロジェクト開始時に立案し,施策を実行する.施策実行中においてはその状況をモニタリングする.結果としてリスク顕在化を抑制することができた.が可能であることが分かった.本稿ではこのような高リスク案件においてQCDを適正化しマネジメントを行った取り組みについて紹介する.
田島 千冬
プロジェクトを円滑に進めるために必要なものとは何だろうか.プロジェクト計画,マネージメント能力,日々のセレモニーなど,さまざまな手法を用いて目的達成のための成果物につなげている.しかし,その中で最も重要なものは,目的達成のために日々働くメンバーであり,各々が自分ごととしてプロジェクトに参加することが,より高いパフォーマンスを発揮できるチームになるのではないだろうか.メンバーのニーズと育成について理解し対処することに重点を置いたサーバント・リーダーシップの影響について考える.
永田 真一
プロジェクトマネジメントにおいて,スケジュールマネジメント(進捗管理)が占める割合は大きい.大規模プロジェクトでは,顧客,プロジェクト管理層,開発グループで管理したいレベルも異なる.様々な進捗管理手法がある中で,プロジェクト状況を客観的に把握しやすいことから,最近はEVMの活用が推奨されている.また私がシステムエンジニアとして携わっている業種においても,EVMによる進捗管理と月次での報告が調達仕様書にて義務付けられている.私が所属する部門では,バグ追跡ツール(Trac)のチケットを利用した進捗管理の基盤を整備し,管理手法として標準化することで,進捗管理の質の確保と省力化を図ってきた.さらに私がプロジェクトリーダを担当した大規模プロジェクトでは,この進捗管理手法を活用し,顧客,プロジェクト管理層,開発グループの三者の管理レベルの違いを吸収する取り組みを行い,顧客向け進捗報告の省力化を実現した.今回考えた手法とその実践結果をもとに,有用性について考察する.
青山 道夫
本稿では,筆者が経験したオフショア型プロジェクトの開発工程ニアショア化についての考察を述べる.このプロジェクトは開発工程において既にオフショア化された体制が整っていた.しかし,COVID-19を契機にオフショア拠点でのロックダウンが起こり,開発に多大なる影響が発生し,ニアショア化の必要性が検討されることとなった.結果としてオフショアからニアショアへ移管する結論に達し実施したが,そこで発生した様々なメリット,デメリットを取り上げる.今後同様のケースが考えられることから,ニアショア化に対する計画,準備,要員調達,教育,引継ぎ,実行までを経験事例を交えて紹介し,また,計画通りに実行するための要員とのコミュニケーションやモチベーション維持などの考慮点をPMの観点から考察する.
野尻 一紀
これからのプロジェクトにおいては,職務環境の変化に前向きに対応可能な風土の醸成とアジャイルの考え方の適用が急務である.IT基盤システム運用プロジェクトにおいても,DevOpsの浸透やAIの発達に伴いオペレーションや監視の自動化が進んでいる.IT基盤システム運用管理業務に関わるメンバーには,ウェルビーイングな状態での自由な発想が必要で,AIの高度な制御やデータに基づくタイムリーな価値を生む提案が求められる.本稿では,個人のウェルビーイングの大切さとともに,レジリエンスを高める組織風土改善やアジャイルの考え方の重要性について述べる.
光國 光七郎,齊藤 哲
本稿は,経営情報システムの開発プロジェクト活動で活用する「情報連携組織の論理的設計」について考察する.経営情報システム開発時の要求定義方法はREBOK,BABOKなどで規定されている.また,情報システムが実装される事業構造の在り方は,経営者から提示されることが前提である.しかし,経営者からの提示が曖昧な場合に,開発した情報システムの稼働段階において,経営者の期待と開発した機能の不一致が表面化するという問題が散見される.この解決の考え方は,機能に対する要求を設計する前に,事業構造を「論理的な情報連携組織」として設計し,経営に提示して評価を受けることである.そこで本稿は、事業構造と情報連携組織の関係に着目する.まず,先行研究において,「事業構造」は「情報連携組織」として表現可能であり,逆に,その「情報連携組織」は事業構造を決定づけていることを明らかにする.次に,この情報連携組織を使って,情報処理技術を経営システムに実装する考え方を紹介する.そして,事業構造を「情報連携組織」として表記するには要素定義が重要であることを示す.最後に,これらを要約して情報連携組織の論理的設計手順を示す.
樋熊 博之
システム開発においては,その特性に応じてアジャイル型,ウォーターフォール型の住み分けが行われているが,プロジェクト管理の観点では一つのプロジェクトでは同一の方式で進めることが望ましい.一般に大規模なシステム開発ではウォーターフォール型が有利とされている一方で,個別のアプリケーション開発では要件変更に機敏に対応するためアジャイル型を取り入れることも多い.このように適材適所でシステム開発を進めると,プロジェクト全体の進捗が見えにくい,所定の品質のプロダクトがいつになったらできるかわからない,というプロジェクト管理上の問題が顕在化する.筆者らがプロジェクト管理アドバイザーとして参画した,あるミッション・クリティカル・システム開発プロジェクトではアジャイル型とウォーターフォール型がまるで悪酔いしそうなカクテルのように混在しており,プロジェクト・ガバナンスが困難になっていた.本稿ではこの状況からプロジェクトを可視化し,進捗管理を正常化するまでの事例を紹介し,その手法について具体的に論じる.そしてウォーターフォール型で管理すべき作業とアジャイル型で管理すべき作業が混在しているプロジェクトに直面した場合に,どのように管理するかについてのヒントを共有することを目的とする.
三宅 由美子
情報技術を学ぶ大学生が取得することを目指す資格の1つにIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の基本情報技術者がある.本試験の出題範囲には,PM(プロジェクトマネジメント)とSM(サービスマネジメント)が含まれている.本学の講義「ITマネージメント論」は,基本情報技術者の資格取得を目指す学生のために基本情報技術者試験の出題範囲に準拠したシラバスにしている.さらに本講義内のPMとSMについては業界標準の最新版を考慮している.そのため,シラバスには,PMについてはPMBOK®第7版のパフォーマンス領域,SMについてはITIL®4のプラクティスを含んでいる.本論文では,「ITマネージメント論」の概要と特徴について報告する.
木村 友紀
リスクマネジメントはプロジェクトマネジメントにおいて不可欠な概念であり、特にプロジェクトの不確実性が高まる現代において、最も重要な管理事項の一つである。これを進めるに当たり一般的なアプローチやツールが存在する一方で、プロジェクトやその環境に特有の要因に応じた分析や計画が不可欠である。また、認知バイアスによってリスクの重要性を過小評価する可能性もある。このような特性を持つ管理プロセスを実践的かつ効果的なものとするためには、関連するプロジェクトの専門家の経験、知識、そして能力に依存するところが大きく、そうした体制の確立や人材育成が課題となりうる。本稿では、これらのリスクマネジメントに関する課題を解決するために、生成AIの活用可能性について議論する。
永津 孝志
iPhoneが2007年に米国で発売されて以降,スマートフォンやタブレット型端末は急速に普及している.総務省のモバイル端末の保有状況によるとモバイル端末の普及率は86%に到達している.製造現場においても据置型のPCで使用していたシステムをスマートフォンやタブレット型端末で稼働するように変換するニーズが多くある.一方で据置型のPCで使用していた既存Webシステムはスマートフォンやタブレット型端末の様なモバイル端末で稼働するようシステム構築されていない為,モバイル端末への変換が求められている.本論文では,今後ニーズが高まると考えられる既存Webシステムのモバイル端末対応について,当社の取り組みとその評価について述べる.
廣本 浩大
本稿では,プロジェクトの目標設定を縦と横の観点でとらえプロジェクトの解像度を上げる方法を提案する.まず”縦”の観点では,TOC(制約理論)やMBO(目標による管理)に基づいて発展したODSC(Objectives, Deliverables, Success Criteriaの頭文字の略)のフレームワークを用いて目標の具体化と明確化を図る.また”横”の観点では,時間軸に基づくマイルストーン(中間ゴール)の設定を通じて,最終的な目標だけでなく,マイルストーンごとに達成すべき目的や必要な成果物,その状態を定義する.このように縦と横の観点で目標を具現化し,さらに最終的な目標だけでなくマイルストーンごとに達成すべき目標を明確にすることで,プロセスや必要なタスクの解像度も高くなる.さらに,これらの目標をステークホルダーやプロジェクトメンバーと早期に共通認識を持つことで,先手のリスク検知や必要なリソース配置にもつながり,プロジェクトの成功の可能性が向上する.本稿では,詳細なアプローチ方法,具体的な事例,および得られた成果を報告するものである.
松田 興治
新規委託先を選定する場合,取引実績の多い委託先に比べ,プロジェクトに適しているかを判断することが難しく,そのため,プロジェクト開始後に生産性や品質に問題が発生するリスクが高い.また,大規模プロジェクトでは,プロジェクトマネージャ自身が常に細部まで網羅的に把握することは難易度が高く,委託先内部の管理や責任者の報告に問題がある場合は,リスクが顕在化していることを検知するまでに時間を要してしまい,影響が拡大してしまう可能性がある.本稿では,筆者が新規委託先を選定した体制での官公庁向けの大規模インフラ更改プロジェクトにおいて,進捗遅延や品質問題を早期に検出して解決するために,プロジェクト計画時および遂行時に実施した施策とその効果について論じる.
三竹 吉伸
プロジェクト推進においては,多くの変化(要件,プロジェクト特性,技術,等)に,いかに対応していくか,変化に打ち勝つプロジェクトマネージメントが必要と考えており,プロジェクトマネージャー育成においても重要なキーワードとなる.実プロジェクトを推進していく中でも,スコープ,リスク,リソース等の「変化」をいち早く捉えて,それぞれ対応していくことが重要であり,その対応力向上がプロジェクトマネージャー育成のポイントになると考える.今回,自身が上位マネージャーとして,実案件推進下でプロジェクトマネージャーを育成していく立場において,「変化への対応」に注目し,以下の様なプロジェクトにおけるさまざま な変化への対応を改めて整理し,どの様なスキル・ノウハウが必要であるかを把握し,今後のプロジェクトマネージャー育成の高度化に寄与することを目的に取り組んだ.変化に対応するための準備、対応、結果検証のプロセスを導入して,実際のプロジェクト推進中に発生した変化への対応・対策を実施した.それにより,プロジェクトマネージャーの経験や知識に加えて,「変化への対応」に対する意識と経験をもつことの重要性を確認することができた.
河下 勇太
プロジェクトを進めていく上で,要件定義や設計などの上流工程での仕様決定や,本番で運用するシステムで問題が発生した場合など,お客様との綿密なコミュニケーションを必要とする機会はとても多い.その際のコミュニケーションは,対面で話をした方が精度も高く,意思決定も早い.しかし,コロナ禍以降,リモートでの働き方が広く普及し,対面で会話する機会はコロナ禍以前に比べて少なくなった.筆者が参画するプロジェクトでは,コロナ禍にプロジェクトが立ち上がり,現在に至っている.本稿では,プロジェクトマネジメントの観点でリモートワーク中心だった立ち上げ当初から,現在のリモートワーク,オンサイトのハイブリッド型の運用に至るまでの課題と最適なプロジェクト運用について考察する.
市川 友基,中川 健太郎,水谷 文香,荻野 貴之,赤塚 宏之,宮崎 正博
デジタルトランスフォーメーションの実現に向け,基幹システムの刷新やデータ活用への需要が高まっている.複雑化した既存システムの刷新など,高難易度プロジェクト(PJ)は優れたプロジェクトマネージャー(PM)が求められている.弊社ではPMの人材像を定義し,PM育成を社内メンバに対して実施してきた.需要拡大対応のため,昨年度,育成対象を外部調達(パートナー)まで展開して育成活動を推進した.この取り組みによりPM認定者の増加と今後の認定候補者選定の母数を拡大する成果が得られた.一方,さらなる改善として,急速な事業拡大に合わせた育成期間の短縮等の課題が明確になってきた.この課題への改善アプローチとして,PJの需要を加味した育成計画,認定候補者の経歴・スキルごとの個人別育成カリキュラムを取り入れ改訂した育成フレームワークの内容と今後の展望について紹介する.
星 翔太
長期間にわたる情報システム保守運用による運用体制の弱体化や品質低下により,運用インシデントの発生を招き,顧客満足度を低下させてしまう事例がある.事象の発生原因として,管理スキーム低下や作業の属人化,チームのサイロ化によるチーム間タスクの漏れであり,根本には目的である「何のために」作業をしているのかに焦点が当たらないまま,日々の運用されていたことにあった.「プロジェクトの目的」を明確化し,プロジェクトの再生を行うことで,属人化からの脱却,チーム間コミュニケーションの活性化,広く他領域知識を持ったT字型人材育成や自己組織化されたチームの構築が図れた.さらに目的にフォーカスしたことで,今まで気づけなかった課題を明らかにし,解決することでさらなる運用品質を向上させた.長年の運用保守により,PJ当初の志やあるべき姿の観点を失いがちである.プロジェクト憲章の再整備と目的のメンバへの再浸透により再生を果した事例について紹介する.
山内 貴弘
本考察では,生成AIプロジェクトにおけるリスク管理手法を提案する.金融機関で用いられるリスクアペタイトフレームワーク(RAF)を, 個人情報の第三者提供を含む生成AIプロジェクトに適用する方法とその効果を考察するものである.生成AIの急速な発展に伴い, チャレンジングなプロジェクトが増えるとともに, 法的前例のない状況下でのリスク受容が課題となっている.たとえば個人情報の利活用可能性が向上する一方, プライバシー保護と情報セキュリティの観点から慎重な取り扱いが求められている.本考察では, 実際の事例を通じてRAFの援用方法とその有効性を検証し, 生成AIプロジェクトのリスク管理に関する新たな知見を提供するものである.
前原 敏和
某社様にて製造プロセスにおける工程管理の高度化を図るべく,システム開発プロジェクトを開始した.プロジェクトは約1年間の開発期間で推進をしたが,度重なる仕様変更やプロジェクトメンバーの離脱などにより各開発工程のスケジュール調整が頻繁に発生.その状況の中,なんとか納期は間に合ったかに思えたが,仕様齟齬や仕様漏れ発覚により本番稼働後,即システムを停止.製造工程の一部遅延が発生しお客様の業務が止まる中,短期間かつ高品質なシステムの再リリースの為に取ったアプローチを紹介する.
重森 雄哉,川崎 大史
サイバーセキュリティ脆弱性対策として古いOSの最新化が急務となり,Windows系500システムのオンプレミス環境の最新化プロジェクトが発足した.我々は仮想サーバ2500台を各業務システム担当者に提供する役割を担ったが,案件ごとに環境やカスタマイズの要件をヒアリングし,構築,移行まで一気通貫で作業する従来の方法ではリソース不足で対応できなくなった.そのため,作業や体制の変更として構成検討専門チームの設置,構築ヒアリングシートの導入,サーバ構築パターンの整理およびパターンごとのチーム編成などを行い,作業効率を大幅に改善.スケジュール調整やコミュニケーション環境の改善,また各種人材育成施策の強化によりモデリング,標準化,継続的改善,自動化などの施策を通じて顧客IT基盤の環境提供の効率化を実現し,結果として,顧客の期待値を達成することができた事例について紹介する.
讓田 賢治
情報システムの抱える課題のひとつは,長年運用してきたレガシーシステムといわれるシステムの老朽化である.ハードウェアのサポートサービス終了が目前に迫り,最新技術を適用し,性能やセキュリティの課題を解決することを目的に再構築を検討する.しかしながら,長年の運用から有識者の離任やブラックボックス化により業務仕様を変更するにはハードルが高く,業務を変更はしないことも多い.このような再構築は現行踏襲と言われ,要件の明確化に課題を抱えるため,最終工程である現新比較で問題が発生し,稼働遅延となることが多い.本稿では,現行踏襲の再構築における,有識者不在,ブラックボックス化,現新比較における工夫について,具体的な計画および結果と評価についての事例を紹介する.
美濃和 徳幸
新しい技術を活用したサービス実現に際しては、技術面の事前調査に加え、明確な方向性の決定と有識者を巻き込んだ体制作りが成功のカギとなる。本稿では、オンプレミス環境で稼働しているソフトウェア開発者向けのクライアントOS提供サービスをクラウドシフト(Azure)するプロジェクトについて述べる。このプロジェクトでは、オンプレミスサービスのインフラ運用チームリーダーである筆者がプロジェクトマネジメントを担当した。リスク分析と対策を技術的課題だけでなく、体制作りやコミュニケーションにも重きを置くことで、クラウドシフトを成功裏に遂行することができた。本稿では、このプロジェクトの進め方や工夫した点を紹介する.
角谷 祐輝,尾島 優太,割田 祥
大規模言語モデル(LLM)は, 自然言語処理分野の多様なタスクで顕著な性能向上を実現しており, ビジネス用途での活用に向けた期待が高まっている.しかし,従来のLLMの評価指標とビジネス観点での評価基準 の間には大きなギャップが存在している.従来のLLM開発者はベンチマークに基づいて評価を行っているが, ベンチマークではビジネス用途での有用性が評価できない.したがって, ビジネス用途でLLMを活用する際には, ユースケースごとに評価基準を設定する必要 がある.一方,ユースケースに合わせた適切な評価には,評価者のスキルに左右されてしまう問題と,指標選定のコストと時間を要する課題があった.本研究は, ビジネスでのユースケースに応じて LLM の適切な評価指標やデータセットを選択するためのフレームワークを提案する.また, フレームワークで定めた指標に基づいてLLMの比較検証を行うことで, 有効性を確認した.本研究で提案したフレームワークにより, ビジネスと技術開発の間のギャップを埋め, LLMの導入と応用をスムーズかつ効果的に進めることが可能となる.
吉澤 由比,飯塚 裕一,貞本 修一
ソフトウェア開発における方法論, 手法, ツールが多様化していることに応じ, 品質評価の方法も変化に対応していく必要がある.特に, ソフトウェア開発のプロジェクトの特性を考慮しつつ, いかにして定量的に品質をとらえ, 評価する方法を選択するかが1つの課題である.長年経験的に定量的な品質管理の指標値として使われているテスト密度・バグ密度による評価方法が適しているプロジェクトもあるが, ソフトウェア規模が測定しづらい, あるいは過去の統計データが利用できない等の特性を持つプロジェクトでは, テストのプロセスに着目した別の定量的な評価方法が適している場合もある.本論文では, 公共・社会基盤分野のいくつかのプロジェクトを事例として取り上げ, それぞれのプロジェクト特性に応じて採用した品質の定量評価方法とその採用理由を説明する.これらの事例から得られた知見をもとに, 品質の定量評価の方法をプロジェクト計画段階で決定する際の評価軸を考察し, 提案する.
豊田 政嗣
企業や官公庁関連等のDX化が進み,基幹システムなどのインフラ基盤をクラウドに移行するケースが増加している.しかし,基幹システムのクラウド移行においては,多くの課題やリスクが潜在しており,構築や運用保守にて大きな品質問題が発生するケースも少なくはない.大規模なインフラ基盤ともなれば,運用開始後に品質問題が発生した場合,旧環境への切り戻しも不可能となり,業務への影響は甚大となる.本論文では,大規模なインフラ基盤をクラウドに移行した実例をもとに,運用開始後に発生した品質問題を取り上げ,システム品質と運用品質の確保という両面から実際に実施した対策について述べる.また本結果から得た教訓や構築時に講じておくべき対策について,考察を述べる.
青野 良一
プロジェクトマネジメント手法は確立されているが,プロジェクトを推進するのは人であり,プロジェクトメンバ全員のモチベーションが重要と考える.各開発工程の納期が厳しい大規模システム開発において,プロジェクトメンバに無理を強いることにより,メンバの不満が高まりメンバの離脱が多かった.メンバの入れ替わりによる想定外工数も発生し,周りのメンバのモチベーションにも影響したため,この問題を重要視し対策を実施した.組織的に体制強化を実施し,それに加え特に重要視したのはメンバのモチベーション向上である.一例として,メンバ個人との対面でのコミュニケーションの強化,メンバの特性を踏まえたチーム構成の見直しを行った結果,対策実施以降はメンバの離脱は発生しなくなった.本稿では,私が実際に経験したプロジェクトで発生した問題と,具体的な対策と効果を考察する.今後の展望として,新たに取り組む事項を述べる.
中村 英恵,豊嶋 淳史
ITベンダにとって,継続的に品質の高い製品やサービスを提供し,お客様の満足度を高めるためには品質保証活動は欠かせない取り組みである.近年のグローバル化やデジタル化により,お客様が求める品質は欠陥のないシステムにとどまらず,品質保証対象が変化している.また,グローバル企業として海外各社を統制するにあたり,日本のITシステム開発や運用で培ってきた品質保証の考え方は海外では受け入れらないという課題がある.本稿ではグローバル企業における新しい品質保証(Global Deliver Assurance)の考え方とその実現方法を提案する.新しい品質保証の考え方では,お客様が求める品質はITシステムにより提供される価値であると捉え,Risk reduction, Integration, Connectionの3つの観点でお客様満足をもたらす活動と再定義する.この品質保証のグローバルでの実現方法は,分散協調型による統治(Divide & Conquer)と継続的な改善活動(Continuous Improvement)を核とする共通のポリシーを策定し,これに基づいてグローバルスタンダードのプロセスやルールを整備する.当社ではこの考え方を実践し,品質保証の価値を定義しその能力と共にお客様に示し,共通のポリシーとしてグローバルガバナンスポリシーを策定した.当社ではこの考え方基づき,グローバルデリバリガバナンスポリシーを策定した.また,ポリシーの実践を通じて提供する品質保証の価値を,その能力と共にお客様に示した.これらはお客様調査の結果,高評価を得た.
秋山 義博
Standish GroupやJUASなどが長年に亘り、ITプロジェクトの成功率が20%に満たないと報告している。プロジェクトの開始時に設定(コミット)した目標を計画通りに到達できなかった理由(原因や症状)を数多く示している。今回は、この原因について検討し、解決のための新たな戦略があるかどうかを考える。特に、ベストプラクテスや組織プロセスに内在する特性、3つのソフトウエアプロセス(エンジニアリング、開発、プロジェクトマネジメント)を新しく統合する必要性を検討し、“現場”に導入するための新しいソフトウエア教育の戦略的なリーダーシップが重要であることを考える。
久住 徹也,小嶋 洋二,岡村 龍也,建部 忠史,加藤 潤,鈴森 康弘
System of Engagement(SoE)は,市場の変化や顧客との関係性の変化に素早く対応することが重要であり,アジャイル開発を採用するのが望ましい.またエンタープライズ向け開発において,新規サービスリリースやDX推進に向けたレガシーシステムの刷新といった大規模案件は,早期リリースが求められ,経営戦略上,納期までにリリースする「着地コントロール」が重要となる.このような大規模案件では,System of Record(SoR)でもAPI開発が必要となる場合が多く,また品質重視のSoRはウォーターフォール開発を採用する場合が多い.本稿では,SoRのウォーターフォール開発と並行してSoEのエンタープライズ向けアジャイル開発を行う際の着地コントロールの知見について言及する.
加藤 裕哉
日本の IT プロジェクトにおける品質管理では,開発工程で製造されたソフトウェアを含む IT システムを顧客の要望した仕様を満足しているかを主に考えており,プロジェクトマネージャーもこの観点でマネジメント業務として品質管理を行っている.この品質は成果物の品質,結果品質となる.しかしながら,品質にはもう一つ過程品質が存在する.前述の観点では結果品質のみが対象となっており全体としてのサービス品質を対象とすることは少ない.プロダクトの満足ではなくプロジェクトの満足度を向上させるためにはこのサービス品質が重要であると考え他業界での事例を調査し IT プロジェクトにおけるサービス品質の重要性を考察する.
田中 孝嘉
近年,デジタル技術の進歩に伴い我々の生活は豊かになっている.一方,セキュリティ攻撃は高度化・巧妙化の一途を辿り企業は攻撃され情報流出が危ぶまれている.弊社の提供サービスが外部から不正侵入を受けた.同サービスを利用して通信していたお客様の通信情報が外部に流出した可能性がある.真因は組織のセキュリティガバナンスの欠如であったことは否めない.企業では情報セキュリティ最高責任者(CISO)を設置し,強いリーダシップを発揮のうえ経営問題としてセキュリティ対策に取り組むことが増えている.弊サービス部門では,セキュリティ専任チームをつくりセキュリティガバナンスの向上に取り組んだ.どのようにして組織メンバーのセキュリティ意識を高め,強いセキュリティ組織に導くのか.本論文では,実際に発生したセキュリティインシデントへの対策を基に,作成したセキュリティ対策基準書や第三者監査機関によるセキュリティ評価を交え,組織のセキュリティ向上におけるプロジェクトマネジメントについて考察する.
西條 幸治
日本的経営システム(IBMの創業者トーマス・ワトソンJrも実は家族的経営を標榜したとはされるが)からの脱却や個の時代への対応が語られて久しい.プロジェクトマネジメント学会メンタルヘルス研究会にて,今年2月に2023年度研究報告セミナーを行い,レジリエンスをテーマに講演頂いた話の中で,個の時代で必要なこと~メンタルヘルスへの取組みとして,コーチングやアンガーマネジメントとともにマインドフルネスを紹介された.講演資料には,日本では宗教と捉える固定観念を振り払うことの必要性が書かれつつ,禅などを元にした取組みに対して日本の取組みの少なさへの苦言もあった.これと前後して種々,考察や発表,会話をする中で,家に宗派はあるが個人の信仰は覚束無い日本人にとって“個”を確立出来るのか、と考える状況にある.自治体等の共同体の存続も危ぶまれる中,会社が大家族としてこれらを補う,または,代替することが出来るかを考える.その要素としての冠婚葬祭,とりわけ物故者追悼・慰霊を扱って考察することを考えているが,これはあまり公にされない様子が伺える.某SIerに属し,浄土真宗本願寺派の中央仏教学院通信教育2年次(9月からは最終の3年次の予定)の者として,そこに至る考察と,研究,或いは,実践として取り組みたいことを記す.
小玉 寛
この1-2年で生成AIの利用は急速に一般化し、ビジネスの現場でも注目されている。プロジェクトマネジメント分野においてもその活用は進み、PMIの調査によると、プロジェクトマネージャーの5人に1人が最近のプロジェクトの50%以上で生成AIを活用している。本論文では、生成AIの機能を生成、要約、変換の3つに分類し、それぞれがプロジェクト計画策定にどのように役立つか、またどのような課題があるかを検討する。さらに、生成AIを使ったプロジェクト計画書作成の実例を紹介し、その意義についてまとめる。
七田 和典
ミッションクリティカルなシステムの大規模更改においては複数プロジェクトの並走,マルチベンダーでの開発,プロジェクト途中での要件変更の発生等の様々な事情によりプロジェクトが複雑化することで進捗や品質に影響を及ぼすリスクが高まる.本稿では大手金融機関のミッションクリティカルなシステムの大規模更改の事例を交え,複数プロジェクトの並走,マルチベンダーでの開発,プロジェクト途中での要件変更の多発等によりプロジェクトが複雑化し,リスクが高まった状況において,プログラムマネジメントの考え方をベースとした取り組みにより並走する複数プロジェクトのガバナンスを強化しリスクを軽減することで,プロジェクトの進捗・品質に影響を及ぼすことなく成功裡にプロジェクトを推進した事例から提案手法の有効性を考察した.
音川 英一
本論文は運用保守事業向けに型決めした「プロセス振り返りによる根本原因分析手法」の開発に関する主要な考え方と,筆者が担当した重大システムトラブルのヒアリング業務への適用実績から得られた手法の有効性評価結果を報告する.当社の運用保守事業はプロジェクト計画,実施要領,マニュアル,作業計画,手順と言った文書にてプロセスを予め定義して業務を遂行することで品質を担保しようとしている.この事業特性を踏まえると,プロセスの定義が不十分であるかプロセスを適切に遂行しなかったことがトラブルの根本原因である可能性が高いと考えることができる.この考え方に基づいて「プロセス指向」で分析対象と分析観点を型決めした根本原因分析手法を考案し,2022年に全社品質部門より社内向けに公開した.筆者が担当した8件のヒアリング業務にこの手法を適用し,分析精度と生産性の効果が一定程度認められた.
關 咲良,小笠原 秀人
本論文では,ドローン映像を基に震災時の避難および救助ルートを効果的に選定するシステム設計に焦点を当てる.ドローン映像から複数の避難/救助ルートの候補を挙げることはできる.しかし,それだけの情報では,最適なルートを特定することが難しい.救助する際には,被災者/関係者との連携,位置情報の共有,被害情報,リスクの確認など,さまざまな情報が必要となる.これらの情報をより効果的・効率的に活用するためにPMBOKの知識エリアが活用できると考えた.本論文では,PMBOKの知識エリアを活用したドローン映像に基づく震災時の避難/救助ルートを提示するための方法を提案する.
平岩 空音,木村 夢希,福田 楽心,小笠原 秀人
ソフトウェア開発のPBL(Project Based Learning)の特徴とは,実際のプロジェクトを通じて学習者が実践的なスキルや知識を習得することにある.だが,今回行っていく中でチームをまとめることの不慣れや,ソフトウェア開発についての知識不足,メンバの能力の把握不足のため様々な観点で問題が発生してしまった.今回,2024年4月から7月の13週間にわたりPBLを実践した.このPBLでは,4名のメンバでチームを構成し,「千葉工業大学新習志野キャンパスのスポーツ施設予約サイト」というシステムを開発した.本稿では,その実践内容を具体的に紹介し,その中で発生した課題とその解決案を提案する
加藤 翔一郎,赤松 章
名古屋産業大学現代ビジネス学部経営専門職学科は、日本初の「経営専門職」を名乗る学科であり、実践重視のカリキュラムを提供し、早期に経営学修士レベルの人材を育成することを目指している。本学科では新入生の時から、事業データの理解・活用能力を修得させるため、地元企業と提携して実データを活用し事業課題を発見し解決する『データ分析による問題発見/問題解決型学習(データ分析PBL)』を行っている。開講一年目では、データ分析の理論習得に集中できない学生が散見され、二年目にはデータ分析の理論学習に先行して、企業見学や社員との交流を行うことで改善を図ったが、課題設定や進行管理に課題が残った。そこで三年目では(1)プロジェクトマネジメント理論を導入し、(2)学生の自律性とモチベーションを高めるための事前調査、(3)自己効力感を醸成するケースメソッドを取り入れた学習体系を構築し、より効果的なPBLの実施を目指しているので紹介する。
黒木 弘司,木野 泰伸
要件定義はシステム開発の出発点であり,プロジェクトの成否を左右する非常に重要な工程である.しかしながら,ユーザーの要件を正確に把握することは経験を積んだエンジニアにとっても難しく,ましてや経験の浅い若いエンジニアにとっては非常に困難となっている.そこで,経験の浅い若いエンジニアでもユーザーが文章や口頭で伝えた要件を,より正確に把握するための方法としてテキストマイニングなど,テキストデータをある程度機械的に分析する手法の活用も考えられる.しかしながら,現状では,テキストデータの分析結果として示される共起ネットワーク図などの解釈においては,やはりある程度の熟練が必要となる.本稿では,共起ネットワーク図の解釈において,熟練した分析者の解釈結果と生成AIによる解釈結果との比較を行い,生成AIの要件定義への活用可能性についての検討を行った.
坂本 健一,福本 剛,三角 英治,佐藤 慎一
NTTデータでは,ローコード等による「作らない開発」が増えてきている背景を踏まえ,サービス開始前後のすり抜けバグに着目して開発全体の品質を評価する指標「サービス開始後6ケ月すり抜けバグ摘出率」を提案・検証し,会社全体の品質評価指標として運用している.次の検討課題として,「作らない開発」の開発時の品質評価方法を検討した.開発時の品質評価では,プロジェクト毎にお客様要望や開発方法等に応じて品質評価方法が多様なため,標準指標の提示ではなく,プロジェクトの品質評価事例を複数収集し,事例集として社内に展開することとした.しかし,その際,単に事例だけを展開するのではなく,プロジェクトの特性別に指標・評価方法等の情報を整理した概説を加えたガイドラインの形で提供した.こうすることで,利用者は,自身のプロジェクトの特性を踏まえ,適した指標や品質評価方法を定義でき,かつ,それに合致した事例を参照することができる.現在,このガイドラインを社内展開し,プロジェクトで活用されている.