寺前 環,河口 慈,砂場 倫太郎,辻岡 佑介,安西 優佳,金田 晃
2020年のIPA「アジャイル領域へのスキル変革の指針 なぜ、いまアジャイルが必要か?」によると,アジャイル開発はビジネス一般における価値創造の局面でも活用できるとされる.しかし,PMI日本支部のアンケートによると,組織で取り組む主要なプロジェクトマネジメントのアプローチは,ウォーターフォールが主流でアジャイルは少なく,課題は人材,スキルにあるとされる.PMBOK®は,2021年に,ウォーターフォールに加えてアジャイルも範囲が拡張された.アジャイルを学ぶ必要性を感じた筆者は,ITソリューション会社A社で,アジャイル開発現場に配属される人材の実践力の養成とチームとしての即戦力醸成を目的とした6週間の研修を受講した.本研修後に参加者は,顧客視点から自己に問いかける姿勢や,チームに対して主体的に貢献可能な分野を探す姿勢を身に着けたことがわかった.また9か月経過したのちに,心理面や行動面で変容があったことがわかった.
角 正樹,梶浦 正規
システム開発やシステム運用は製造業ほどに自動化が進んでおらず,未だ多くのプロセスに人間が介在せざるを得ない.ゆえにこれら開発や運用で発生するインシデントの多くが人間の行動に起因する.そこで,筆者らは人間の行動に着目し,インシデント発生に至るまでの過程を「認識」,「判断」,「処理」,「確認」の4つのプロセスに分けて真因究明する手法を考案した.この手法を「行動プロセスに基づくインシデント再発防止検討ガイドライン」として体系化し,実際に発生したインシデントの真因分析支援や,研修を通じて普及浸透を図ってきた.これら4つの行動プロセス分類は,元々は真因の所在を明確にする目的で定義したものであるが,研修の受講を受け身にとどめず,受講者自身の行動変容を促す手法にも応用可能であることがわかった.作法を教える研修では,主に「処理」と「確認」を教えるが,受講後に受講者が主体的に行動するためには,「処理」に至るまでの「認識」と「判断」を理解させる必要がある.本稿では,暗黙知領域にとどまりがちな「認識」と「判断」を形式知化することで行動変容を促す教育方法について紹介する.
藤井 亮太,鈴木 隆之
近年、IT 運用が注目されつつある。IT 運用のコストは、IT 投資全体の 56.2%を占め、経営に及ぼす影響が日々高まっている。また、IT ライフサイクルにおいて、企業が事業利益を生み出しているのはIT 運用フェーズであり、その存在感、重要性が増している。一方で、現在のIT 業界は慢性的な人手不足に直面している。クラウドの浸透による爆発的なIT インフラ規模の拡大は、IT 運用要員の負荷を日々増大させている。生産性の向上やDigital Labor の活用が急務な状況にある。本論文では、Digital Labor 導入のためのValue Stream を用いた効果的なプロセス改善手法、Digital Labor導入時(運用設計時)の考慮点、そしてVUCA の時代において変化に柔軟に対応していくためのIT 運用体制について論じている。IT 運用で疲弊しているプロジェクト、また自動化によるコスト削減効果が出せていないプロジェクトは、是非参考にしていただきたい。
松田 力仁
経済産業省のDXレポートにより提唱された「2025年の崖」。これを乗り越えるため、システムは社会全体の変化に追従するための俊敏性や強靱性を持つ必要がある。そこで必要となるのがモダナイゼーションである。しかし モダナイゼーションプロジェクトはいくつか課題を抱えている。テスト工数の極大化とレガシーシステムで実現していた機能保証である。金融機関A社様のモダナイゼーションプロジェクトも同様の課題を抱えていた。これらの課題に対し、様々な施策の適用を行った。機能ごとに重要度付けを行い、重要度に応じたテストを実施し工数削減を実現。テスト運用の継続的な改善を行うことで無駄を省く。複雑化したレガシーシステムのアプリケーションを正しくモダン化できているかを確認するための仕組みづくり。結果、我々のプロジェクトでは、ITテスト工数の16.9[%]の削減や、本番障害11[件]の事前検知による安定稼働を実現した。本論文では当プロジェクトでの課題発見~施策適用に至るまでのアプローチ手法等、種々の開発案件での応用に向けて得られた知見・ノウハウを紹介する。
嶋田 康平
近年,多くの企業でDX推進が求められている.DX推進の課題として「人材・スキルの不足」や「レガシーシステムの存在」が挙げられる.長年の保守運用に伴い,仕様がブラックボックス化したレガシーシステムでは,業務知識が断片化した状態となっている.このような状況でシステム再構築を進めると,トラブルにつながることが多い.これらの課題を解決するためには,ユーザとベンダによる協働が必要不可欠であり,モダナイゼーションプロセスおいて,3つの追加施策を実施することで解決できると考える.実際に,業務知識が断片化した状態にあった事例プロジェクトにおいて実践した.「現場担当者によるプロトタイプ打鍵」により,下流工程での大きな手戻りの軽減につながった.「業務に沿った品質目標を設定」により,本稼働後は業務継続性を担保した品質レベルを達成することができた.「ユーザ主導での運用テスト計画立案および実施」により,ユーザ自身で業務知識の補完に取組むことができ,DX推進に踏み出すことができた.今後,ベンダとして取組んでいくシステム再構築プロジェクトは,業務知識の断片化がより深刻になっているシステムが多くなると予想できる.したがって,これらのユーザ協働への取組みを確実に実施し,ユーザとベンダが共に成長していくことが重要である.
高本 雄太
当プロジェクトではアジャイル開発を導入し、継続的に開発を進めている。その中で、アジャイル開発ではNGとされているスプリント中の開発項目の見直しが発生し、開発にかけられる時間の減少や品質低下が発生した。この問題に対し、プロダクトバックログの見直し、プロセスにテスト駆動を取り込むという施策を行った。その結果、スプリント中の開発項目の見直しや仕様変更は減少し、システムテストでの故障発生件数は約60%削減している。また、開発メンバーがアジャイルプロセスに慣れてくる中で、さらなる生産性向上に向けた施策の必要があり、継続的インテグレーションの導入や会議プロセスの改善、スキルマップ作成など、アジャイルプロセスを改善するための施策を行った。その結果、開発メンバーの意識改革が行われ、自己組織化されたことで、プロジェクトの生産性とお客様満足向上につながった。近年アジャイル開発を採用するプロジェクトは増加しているが、アジャイル開発におけるより良い環境構築へのアプローチの1つとして、本論は参考になると期待する。
針生 咲,木戸 美智子,森田 真理
これまで我々はプロジェクト成功をめざし,PMOによる組織的なプロジェクトマネジメント施策を整えてきた.特に,プロジェクトマネージャの実力を可視化し,プロジェクト規模に合った実力のプロジェクトマネージャを割り当てる制度がPM認定・PM任命である.組織上の理由でプロジェクトマネージャの配置が適切でない場合もあったが,成功プロジェクトが大半を占めていたために目立たなかった.しかし最近は大規模プロジェクトの増加とそれに伴う業績インパクトが大きくなり,プロジェクトマネージャの配置不備を見逃すことができなくなってきた.そこでデータサイエンティストとして,プロジェクト規模に合致しないプロジェクトマネージャを割り当てたプロジェクトに焦点を当て,施策効果を検証した.本稿では,その分析結果について報告する.
吉田 祐人
コロナ禍によって,私たちの生活環境は大きく変わった.そして,ニューノーマルな働き方として,テレワークが当たり前の時代になった.テレワークは移動時間や交通費の削減や柔軟な作業場所の選択や,集中して作業ができるなどメリットもあるが,一方で,実際に直接あって対面で会話する機会が減ったことで,「コミュニケーションロス」が起きたり,「状況の把握」「信頼関係の構築」が難しくなったり,また,「言葉」以外の「表情」や「ボディランゲージ」から入手できる情報が得られなくなった.プロジェクト立ち上げ時に,お互いを早く信頼し合い,効果的な作業を行うために,テレワークにおける遠隔コミュニケーションについて,対策を検討する.
吉田 和晃,松園 淳,遠藤 浩
システム開発プロジェクトでは,上流工程の段階で機能要件や非機能要件を満たせるよう設計を進めることが重要である.上流工程での設計を円滑に進めるために,共通技術部門を設置して,ナレッジを蓄積し展開する取り組みを行っている.しかし,展開したナレッジに関連したトラブルが繰返し発生しており,従来よりも効果的なナレッジ展開が必要であると考えた.そこで,PMO組織と連携して共通技術部門が技術ナレッジを必要とするプロジェクトを特定し,関連した技術ナレッジを適したタイミングで展開するプッシュ型のナレッジ展開活動を検討した.試行評価の結果,技術リスクに関連するトラブル発生の抑止に一定の効果が認められた.本稿では,試行評価や,試行結果からの課題を報告する.
西山 美恵子,金 祉潤,大関 一輝,森本 千佳子
ITエンジニアの現場力を高めるために「仲間意識」は重要なキーワードである.しかし,IT業界では客先常駐で働き,自社の社員と関わる機会が少ない社員が一定数存在する.そのような組織において,社員の仲間意識が希薄であることから発生する課題が度々ある.本稿では, システムインテグレータ企業の1部門の社員に対して,仲間意識を醸成することを狙い,信頼構築プロセスモデルをベースに1年を通じてワークショップや他己紹介などの取り組みを実施してきた.それらの取り組みの成果を紹介する.
矢野 雅也
私達の生活や企業活動とシステムはより密接になってきており、システムトラブルが起きると顧客満足度の低下や企業への不信感、機会損失など企業にとっては大規模な損害が生じる。私が担当しているお客様の基幹システムはお客様ビジネスを支える「止められないシステム」として安定稼働を最優先に長く運用されている。しかし、前回のHW更改による再構築対応において、リリース時にシステム全停止を伴う大規模トラブルが発生し、今回の再構築対応では安定稼働最優先のプロジェクト推進、リリース対応をお客様より求められた。私は前回トラブルの振り返りを行った中で、システムの全体像を把握するための体制面見直し、リリース方式の検討・評価が不十分という2点の課題を抽出した。システム全体把握のための体制組成を行い、組成した体制と連携しながら業務継続性確保を最優先とした段階リリース計画策定、検証を進めた事で、大規模トラブル0件での安定リリースを実現する事が出来た。再構築プロジェクトに潜むリスクを未然に防止し、お客様ビジネスの業務継続性を担保する取り組みとして、本論文は大規模で長く運用されているシステムの再構築プロジェクトに従事する方を対象に有益なマネジメント手法であると考える。
森本 千佳子,南 圭介
アジャイル開発が主流となりつつある現代のプロジェクトにおいて,様々なバックグラウンドを持つメンバーでの素早いチームビルディングはマネージャにとって重要任務の一つである.本研究は,演劇的アプローチとしてロールプレイに着目し,自己理解と適切な自己表現をチームビルディングに適用したものである.職場において昇格研修などでロールプレイを行うケースは見られるものの,チームとして適用した事例は少ない.これまでの演劇的アプローチにおいて,戦隊ヒーローワークショップで「仮面をかぶる」ことの自己表現がチームビルディングに効果があることが分かっている.本稿ではその「仮面」効果について分析を行い,役割を演じる(ロールプレイ)がチームビルディングに果たす効果を検討するものである.
佐々木 真弥,岡田 太,佐藤 裕介,齋藤 洋
基幹業務システムの更改プロジェクトを中心に,旧システムを踏襲したアーキテクチャを前提とする予算及び要求仕様を重視する傾向があり,要求事項通りにシステム開発を遂行するプロジェクトマネジメントが必要とされてきた.このようなプロジェクトでは,スケジュールやコストをIT計画や予算の範囲内に収め着実な遂行を行うプロジェクトマネジメントが求められることが多い.近年では,モダン化を含めた様々なアーキテクチャを実現し得るクラウドサービスを必要な時に必要な数量だけ使えるようになり,技術的な検討範囲が大きく広がった.それに合わせてシステム化の検討プロセスにも変化が生じている.検討プロセスの一例として,超上流工程において新技術を用いた実現可能性の検証のPoCを実施し,その結果を踏まえて要求仕様を策定する取組みが挙げられる.PoCでは,画面や機能のプロトタイプを作成しフィードバックを基に改善するなど顧客から要望を引き出すことが主な目的となるため,従来とは異なるプロジェクトマネジメントが求められる.このような新しい時流に対応するプロジェクトマネージャが獲得すべきスキルは,超上流工程の段階からあるべきシステムの姿を議論し,より良いものを作っていくことに変化していると思われる.本論文では,プロジェクトマネージャ人財がこのような時流に適応するためのスキルや素養について,「サービスデザイン」「システムデザイン」の視点を踏まえて考察する.
河田 知里
当社では、2020年度に顧客向け自社運用基盤において不正アクセスが確認され、多くのお客さま に多大なるご迷惑をお掛けした。お客さまへの安心、安全なサービスの提供、および当社の経営リスク回避に向け、サイバーセキュリティ対策の強化が急務となった。この状況を踏まえ、2021年4月、顧客向け自社運用基盤のセキュリティ運用監視を目的としたSecurity Operation Center(SOC)を新規に社内に立ち上げた。社内IT部門、社内セキュリティ統括部門、品質保証部門が一体となって推進し、有事と平時の両面から、高度化するサイバー攻撃へのセキュリティ対策を強化してきた。本プロジェクトにおいて短期間かつ高品質な成果を出すために工夫したポイントは大きく3つある。1つ目は、SOCを立ち上げる際に、キーパーソン確保、既存サービス活用を実施した点である。2つ目は、専任組織による第三者視点でのチェックとフォロー体制を整備した点である。3つ目は、業務自動化・効率化施策として、インシデント対応管理基盤の導入や業務プロセスの継続的改善まであらかじめ考慮した計画を策定した点である。その結果、お客さまへの安心、安全なサービスの提供に向けた、顧客向け自社運用基盤のサイバーセキュリティ対策強化に貢献することができた。
和田 良
ITプロジェクトが混乱する要因の一つとして,顧客側体制が弱いことに起因することが挙げられる.特に大規模プロジェクトでは,顧客システム部門にステークホルダーを取り纏める高いマネジメント能力が求められるが,その経験が不十分であることが多い.また,顧客システム部門では多数のシステムの維持保守をしていることから,十分な体制が確保できずにその状況が改善されないまま,プロジェクトが開始することもある.さらに,顧客内のシステム・ユーザー部門間の縦割り関係に起因する問題は根が深く,一枚岩となってプロジェクトを推進することが困難な場合がある.このような状況でベンダーとしてプロジェクト参画する場合は,プロジェクト開始前から十分状況を把握して各種施策が必要となる.例えば,顧客側の立場で推進・支援を行うコンサルティング要員の提案,中長期的には顧客側要員育成に対する支援やシステム部門の業務効率化に関する提案が考えられ,本論文ではこれらの内容について整理する.
綾野 未来,滝澤 健人,杉原 直樹,宮本 充,高槁 僚史,内山 航輔,渕上 恭平
昨今,変化の激しいビジネス環境に対応するため,アジャイル開発への注目が高まっている.アジャイル開発は,柔軟性とスピードを重視した開発モデルであり,コードの自動生成を行うローコード開発手法と親和性が高い.ローコード開発手法を用いたアジャイル開発における品質評価の課題として,アジャイル開発は開発方式やプロセスが多様なため従来の品質指標値を適用できない点,またローコード開発は自動生成率が高いため従来の品質評価規模(ステップ数)を用いた開発規模の算出が困難な点が挙げられる.当社内でも品質評価ナレッジの整理を進めているものの,過去実績が少なく定量的な品質評価手法は確立されていない.そこで今回は,一般的なアジャイル開発の管理指標であるストーリーポイントを活用し,スプリント毎の不良推移に着目することで品質予兆検知の試行検討を行った.具体的には,ストーリーポイントを用いて不良密度を算出し,スプリント毎の不良密度推移の評価結果と不良内訳結果を照らし合わせることで,推移パターン毎の品質リスクの仮説を検証した.本論文では,これらの手法としての妥当性を評価し,使用する上での利点や懸念点について言及する.
今岡 収,影山 剛
製造業A社では,同様の業務を実施するシステムを2つ保有しており,維持保守費用がかさむ,業務改善に2重の工数を必要とする等の問題があった.解決のために,システム統合プロジェクトが立ち上がったが,通常のシステム開発による統合では,期間的,要員的な問題があることがわかった.そのため,ノンプログラミングでデータを代行入力する手法を選択し,段階的な実施検証,PDCAやOODAループによる改善を通して移行をやり切った.本稿では,システム統合を短納期,ノンプログラミングで実施するために行った施策,および実際に起こった問題とその対策について記述する.
渡辺 由美子,北條 武,中島 雄作
NTTデータグループでは,20年前からPM育成のためにメンタリングを実施しており,筆者らが運営している.メンタリングの効果的な運営方法やメンタの育成方法については本学会で報告した.経験豊富な上級PMがメンタとなり,成長過程にある若手PM(メンティ)に対する実践的な助言,指導を通じて,ヒューマン・スキル,ビジネス・スキル,効果的なPM技法の活用などPMスキルの継承を行っている.1年間のグループメンタリングの実施前後にメンタ,メンティの双方からアンケートを取得している.さらに,メンタ及び事務局の所感も記録として残している.本稿では,それらのアンケート結果を定量的かつ定性的に分析した.PMメンタリングについての目的の達成状況を論じるとともに,メンティの参加1年後の追跡調査から彼らの行動変容に影響した事例も紹介する.
堀田 明秀
オペレーティングシステム(OS)の機能は多岐に渡り,OS機能の開発には,下位で動作するハードウェア(HW)や上位で動作するミドルウェア(MW)など様々な知見が必要である.また,メインフレームは企業の基幹業務に使われておりミッションクリティカル性の高いシステムを実現するために高い品質が求められる.更に近年のDX化によりコンピュータに求められる機能要求が高くなってきている.こういった広範囲,高難易度の開発を高品質に行うために実践している施策を紹介する.
市川 慶
近年の急速なデジタル化を背景として,企業の事業環境はより複雑化している.そして,複雑な事業環境に対応するため,新規事業やサービス開発にIoTやAIといったデジタルソリューションの適用を試みる企業が増加している.こういった背景の中で,新規事業創生におけるサービス定義もまた複雑化・難化しており,PMBOKに代表される従来のスコープマネジメントの手法では対応できなくなってきている.特に,前例の少ないサービスにおいては,サービス定義において検討すべき事項が充分に体系化されていないほか,不確定要素の多さから検討の精度も低くなりがちであり,従来の手法のみで進めるとサービスの失敗を招きかねない.そこで本稿では,実際のプロジェクトで実施したサービス定義を踏まえて,新たな検討の体系につながりうる,再現性のあるサービス定義の工夫について考察する.
慶寺 千佳,宮本 由美,小村 卓巳,清水 理恵子
近年,ローコード/ノーコード開発を採用したWebアプリケーション開発が増加している.しかし,ローコード/ノーコード開発は,採用するツールが提供する機能によって制約を伴う開発手法であるため,どのような要件のシステムにも適合するわけではない.そのため,適合・不適合を判断するための指針が必要であり,かつ不適合とする場合は検討工数の削減や別手段の早期検討のため,早々にそれを判断する必要がある.また,ローコード/ノーコード開発のメリットを最大限に活かし,Webアプリケーション開発を成功に導くためには,コーディングによる機能実装を前提とした従来のスクラッチ開発とは異なるノウハウが必要である.そこで,本稿では複数のプロジェクトで調査・検討されてきたローコード/ノーコード開発の適用における検討内容を整理し,指針を示す.
広瀬 哲
コロナ禍によって疑似体験したオンラインやバーチャルが当たり前となるアフターデジタルの社会においては,企業や組織のDXの推進が加速していく.既存事業の継続的優位性は低下し,ディスラプターによる業界破壊が起きている中,デジタル化により社会全体の構造変革が起こりつつある.こうした中,企業には社会に対して新たな価値を生み出すDXソリューションを創出することが求められており,これまでのプロジェクトマネジメントとは別の視点でプロジェクトを推進する必要があると考える.本稿では,プロジェクトマネージャがDXソリューションの検討を推進する上で必要とされる4つの役割を重要視し,ソリューションを創出する上で効果的なフレームワークとしてソリューションの階層定義を活用して推進したプロジェクト事例を報告し,適用結果の分析を通じてこれらの有効性について検証する.
齊藤 誠
弊社で活用を進めている海外現法との主たる取引の方法はこれまでウォーターフォールがほとんどだった.だが近年特に需要が拡大しているDX分野においては,顧客の需要の変化に迅速に対応するために,短期間での変化に柔軟に対応できる技術やマインドセットがデリバリチームに求められてきており,従来の仕様を挟んだ受発注の関係とは違う「協働パートナー」の関係に変革することが必要になってきた.協働パートナーには変化に強いプロセスだけでなく,発注元の指示に従うだけのマインドセットから,提供価値を発注元と議論しながら創っていこうとするマインドセットへの変化が求められる.この特徴はスクラムにおける自己管理型チームの特徴に近い.そのため,我々はスクラムを真に理解して実践できるチームになることで関係性が変革できると考え,単にスクラムのルールを適用するだけでなく本質を腹落ちしながら実践できるチームになるような施策に取り組み,関係性変革を実現した.
貝増 匡俊
課題解決型学習では、地域や企業など学外との連携が一般的になっている。神戸女子大学家政学科ではMORESCO社と協働した連携授業を実施した。事前に学生は、教室内でデザイン思考やロジカルシンキングの手法などを学ぶことで、ユーザー目線からのアイデア創出方法について理解が進む。課題解決型学習の授業デザインとして、提供されるサービスをユーザー目線と提供される価値を合わせて考えられることができる学習設計を行えるように設計した。通年で実施されるこの授業での実践した内容は、前期では課題解決に向けた学習として現状把握、問題分析やフィールドワークなどを行なったのち、学生による提案が行なわれた。後期には、同じ手法を繰り返し使いつつ、提案内容をより運用を考慮した詳細化したものにした。本稿では、連携先の学外とのコミュニケーション、授業設計や授業実践について報告する。
小栗 達也
近年ではマイクロサービスアーキテクチャを利用しマルチベンダで開発したサービスをつなぎ合わせてアプリケーションを構築するのが主流となってきている.一方,コンシューマ向けのスマートフォンアプリケーションは各社独自性を訴求するために新規開発するものも少なくない.そのため,新規マイクロサービスをマルチベンダで構築しながら,そのサービスをつなぎ合わせてフロントアプリケーションを構築することになるため様々なプロジェクトリスクが発生する.本稿は,このようなマルチベンダによる新規マイクロサービスアーキテクチャでのコンシューマ向けスマホアプリ開発プロジェクトのプロジェクトマネジメントの実践を事例研究としてとりまとめる.
三好 きよみ,片岡 典子,斎藤 識樹,田中 敦也,鳥海 阿理紗
日本においては,少子高齢化による労働力の減少や従業員の高齢化が問題となっており,その対応策の1つとして生産性向上が挙げられる.本研究では,生産性を規定する要因として,ワークモチベーションを取り上げ,チームで働く人のモチベーション要因の把握状況とキャリア自律,職場環境等の関連について明らかにする.その結果から,チーム業務においてチーム全体のパフォーマンスを向上させるための知見を得ることが目的である.チームで働いたことのある者を対象としてアンケート調査を行い,自分自身や一緒に働く人のモチベーション要因の把握状況とキャリア自律,職場環境等の関連について,統計的に分析した.その結果,自分自身のモチベーション向上要因の把握状況は,キャリア自律,主観的幸福感,職場満足感との正の相関関係が確認された.一緒に働く人のモチベーション向上要因の把握状況は,キャリア自律との正の相関関係,組織風土との負の相関関係が確認された.
吉田 憲正
25年前横浜市都筑区港北ニュータウンにおいて,CATVで仮想空間を活用し,コミュニケーションやショッピング,バンキングを行う,1000世帯規模・2年間(1995年~97年)の極めて画期的な公開実証実験である「港北ニュータウンVirtual N-Town 実証実験」が行われた.筆者は,この実証実験プロジェクト責任者として企画・開発・運用に携わっていた.そして昨年2023年は,改めて仮想空間の活用が注目された年でもあった.本論文では,25年前のプロジェクトで得られていた多くの知見や教訓を再整理し,現在の仮想空間(メタバース)プロジェクトの企画・開発・運用について考察する.
三宅 由美子
変化が激しく,将来の予測が困難なデジタル時代において,アジャイル型の情報システム開発を行う機会が増加している.アジャイル開発では,小規模なチームがチーム間の情報を共有しながらプロジェクトを進める.そのため,プロジェクトには垂直方向のリーダーシップだけではなく,水平方向のリーダーシップの必要性が高まっている.水平方向のリーダーシップでは,リーダーの役割をもつ人だけでなく,リーダーの役割をもたないメンバーがリーダーシップの意識をもち行動するシェアド・リーダーシップ(以下,SL)の研究が増加している.しかしながら,ITプロジェクトのSLに関する研究はまだ少ない.そのため,本稿ではSLに関する先行研究を調査し,ITプロジェクトにおけるSLのあり方について考察する.
森 智明
顧客の要求に対し,システムの提供をもって応えるベンダーにとって,顧客の要求事項を正確かつ網羅的に把握・理解することは重要である.システム開発を行うプロジェクトにおいて,後続工程で認識の相違が発覚し以前の工程に戻った場合,プロジェクトの収益や納期が悪化し,プロジェクト運営が混乱する要因になる.顧客の要求事項は,明示される項目と明示されない項目がある前提をおくことで,網羅性を確保するためには,要求事項を引き出すことが必要になる.過去の事例やチェックリストは,網羅性を確保するために有効な手段として機能するが,顧客の要求事項を引き出す気付きを与えるものであり,各項目を確認する作業に活用するものではない.これらを活用して,現時点で判明している要求事項に従いシステム提供した場合に,どのようなシステムが出来上がるかを顧客に示しながら相違点を解消する議論を反復して行うことで,正確かつ網羅的な要求事項を纏めることができる.
石井 祐雄
現状のシステム開発プロジェクトでは,プロジェクトやシステムの取り巻く環境が,高度化・多様化している.また,発注側企業からの納期や価格の圧縮要求も強くなってきており,プロジェクトを成功裏に完了させることが,従来よりも難しくなってきている.このような環境下で,PMはより高度なスキルとコンピテンシーを求められている.本稿では,PMコンピテンシーに着目し,実際の組織に適用した事例の分析を通して,今後のPM育成方針へのヒントを探求する.
櫻澤 智志
ITプロジェクトに関わるメンバーを,リーダーやマネジャーへ育成することは,自身のCapability向上と,キャリア形成,チーム力強化と活性化,組織におけるローテーション促進といった多くのメリットがある.ここで注意したいのは,育成したいメンバーの経歴やスキルセット,マインドセットには個人差があるため,あらかじめ準備されている研修やOJT(On the Job Training)に加え,メンバーの特性を生かしたプログラムを組み立てる必要がある,という点である.本稿では,メンバーに応じたITプロジェクトリーダー育成プログラムの計画と実践に関する実例を挙げ,ポイントや注意すべき点,見えた課題に対するアクションプランを考察する.
市原 信博
「SAP 2027年問題」とは,SAP ECC 6.0の標準保守(メインストリームサポート)が2027年末に期限を迎えるという問題である.以前は2025年末が期限であったため「SAP 2025年問題」と呼ばれていたが,期限が2年延長されたことを受け「SAP 2027年問題」となった.当社ではSAP S/4HANAへの移行を決定し,移行方式としてブラウンフィールド(コンバージョン)を選択した.SAP ECC 6.0からSAP S/4HANA へのアップグレードは単なるバージョンアッププロジェクトではない.プロジェクトマネージャーにとって多くの課題をもたらす,非常に困難で複雑なプロジェクトとなる.本稿では,特にプロジェクトマネージャーが直面する会計領域における課題とそれらの解決策について考察する.また,今後新しいバージョンへのアップグレードを確実に成功させるための戦略についても報告する.
赤塚 宏之,水谷 文香,荻野 貴之,宮崎 正博
デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて,基幹システム刷新やデータ活用の需要が高まっており,複雑化した既存システムの刷新のような高難易度のプロジェクト(PJ) を遂行できる高度IT人材(プロジェクトマネージャ)が求められている.弊社では,プロジェクトマネージャ(PM) の人材像を定義し,育成や認定を実施するPM 育成制度を策定している.昨今の事業変化の速度に追随していくためには,事業目標の達成に必要なプロジェクトマネージャ(PM)の育成が必要であるが,適切なスキルレベルを保有したPMを適時育成することが課題であった.この課題に対し需要と供給の両面からアプローチを図った.需要の側面からは,これまで培ってきた標準化したSI方法論とPMの人材像を組み合わせて事業計画が求めるPMの必要所要をスキルレベル別に明確化した.また,供給の側面からは従来は内部育成を前提としていたが,社内リスキルやパートナ連携といった外部調達も含めた育成のフレームワークを改定した.本稿では,事業計画と連動した育成活動の実践結果,今後の展望について述べる.
北 昌浩
プロジェクトの成功には,ユーザ含めたプロジェクト関連部署との共通理解に基づく遂行が不可欠である. プロジェクト規模の増大に伴い,各担当部署間のコミュニケーションロスや各々の思い込みによる想定外事象が発生する可能性は増大する. 加えて,システム老朽化等に対する更改を目的としたプロジェクトでは,現行からの変更が好まれず踏襲することが多いが,結果的に失敗するケースも多く存在する. 本論文では,過去2度の更改においてトラブルが多発していたプロジェクトに筆者が新規参画し,ユーザ含む関連部署間との連携強化や既存プロセスへの改善について提案と実践を推進したことでトラブル発生無くプロジェクトを完遂させた事例について紹介する.
大森 伸吾
昨今のコロナ禍において,感染予防対策の観点から在宅勤務への対応要求が高まり,その後,生産性向上施策という観点も加わり,在宅勤務ニーズは高いレベルで継続している.また,システム構築プロジェクトにおける顧客要望の高度化や複雑化に伴い,プロジェクトチーム組成時の有識者確保が困難になってきており,この観点から,複数の遠隔地拠点からのリモート参画を前提としたプロジェクト体制を構築するケースが見受けられる.一方で,電話やメールといった従前のコミュニケーション手段に加えて,在宅勤務や遠隔地からのプロジェクト参加を可能とするさまざまなコミュニケーションツールが急速に世の中に浸透し,利用できる環境が整ってきている.こうした背景を踏まえ,在宅勤務および遠隔地からのリモート勤務を含めたテレワークを前提としたプロジェクト運営にあたっての,効果的なコミュニケーション手法,テレワークを行う上でのコミュニケーションにおける課題と対応策,およびその効果について考察する.
福本 剛,三角 英治,佐藤 慎一
NTTデータでは,システムの開発品質を評価する指標として,システムの開発規模(コード行数等)に基づいた「サービス開始後6ヶ月バグ密度(以降,「S後バグ密度」という)」を測定,モニタリングしている.しかし,昨今,ローコード/ノーコードやSaaSを利用した「作らない開発」が増えており,規模をベースとした指標では妥当な評価ができなくなっている.規模に基づかない品質管理手法としては,開発工程間のすり抜けバグに着目した手法が提案されており,その考え方を応用して開発全体の品質を評価する指標として「サービス開始後6ヶ月すり抜けバグ摘出率(以降「S後すり抜け率」という)」を提案した.当社で試行的に測定・分析した結果,従来の指標であった「S後バグ密度」と同様の傾向を示し,「作らない開発」も含めたシステム開発全体の品質傾向を分析する指標として妥当であることを確認できた.
竹本 敦子,海老原 聰,戸成 真紀恵
IT人材不足が深刻化している昨今では、質・量ともに充分なエンジニア調達が難しくスキルに応じたエンジニアの配置が必ずしも最適に行えないことがある。「高スキル者が少なく潤沢に配置できない」、「要員数は充足したがスキルが浅いメンバも多く混在する」というケースは少なからずあり、このような体制は、高スキル者が本来スキルを発揮すべきタスクに時間がさけず、結果的に品質低下や納期遅延をまねく要因となりやすい。一例として製造工程においてはソースコードレビューがこのような状態に陥りやすく、特に大規模プロジェクトでは要員数もレビューすべきソースコードの量も多くリスクが高まる。本論文では、当社が製造工程を担当した大規模システムにてソースコードレビューの効率化を狙いとして導入した静的解析ツールの事例紹介およびその効果を考察する。
伊藤 晋
2020年,コロナ禍の到来によってビジネス環境が大きな変化を遂げるなか,あらゆる企業において新規事業創出への機運が高まっていた.同時に,このミッションを担う人財育成のニーズが高まっていた.当社では2020年度から「体制」「事業創出プロセス」「人財育成」の強化を,部門ごとの推進から全社推進へと発展させ,サービス・新事業創出に向けた取り組みを行ってきた.この中で「人財育成」においては,プロジェクト全体を見通して顧客をリードする「顧客対応フロント力」と事業ポートフォリオ変革による新たな成長事業を創造するための「新価値創造フロント力」という「2つのフロント力」の強化を掲げ,全社展開・実践を行い,社内浸透を推進してきた.これを受け,現場各部門では,サービス化・新事業創出の動きはあるもののアイディア出しレベルで停滞している現状があった.そこで当部門では,「2つのフロント力」に関するアンケートを実施し,浸透度の現状を把握することにした.結果,必要性は高いものの,理解は低く,業務に直結しないという意識から現場へ浸透していないことがわかった.アンケート結果から,当部門では,「新事業アイディア創出WG」を立ち上げ,「2つのフロント力」の浸透,強化を図り,既存事業に対して,顧客視点で付加価値を創出できる組織への変革をめざすことにした.「新事業アイディア創出WG」では,伝道師の育成,実践力の向上,新たな事業構想の立案を目的として,各プロジェクトのリーダー層を選抜し,事業アイディアの整理までのプロセスを実践形式で学んだ.これにより,1つの事業アイディアがフェーズゲートを通過し(事業構想検討中),参加メンバーの「2つのフロント力」に対する意識が向上した.また,事業アイディアの整理に向けて,調査,議論を重ねることで,現場目線での新事業創出に向けたノウハウを蓄積することができた.
川原 拓馬
近年,スマートシティ実現の重要性が高まっている.当社は日立とともにスマートシティの実現に向けたソリューションに取り組んでおり,概念実証への参画やサービス開発を進めている.まだ実績が少ない分野のため明確な要件が決まっていない場合が多い.例えば,UI/UXの変更や機能の追加など,頻繁な要件変更やアーキテクチャの見直しが発生する.このような状況では頻繁な変更に対する適応力が要求される.このようなプロジェクトを進めるため,DevOpsを採用し,Westrum博士の組織文化の研究を参考にPoCを進めた.しかし,本番システムの開発になると新たな課題が浮上した.特に,各チーム間のサイロ化やプロジェクトメンバーの適性やスキルのミスマッチなどが課題となった.これらの課題に対処するため,DevOpsのCALMSフレームワークに着目し,対策を行った.この結果,各チームが同じ目標を共有できる体制を確立し,プロジェクトメンバーが互いに学び,助け合う文化を形成することができた.また,失敗に直面しても協力して解決する自律的なチームを築くことができた.このチームをさらに成長させるため継続的に受注し,一段上の目標であるSREにチャレンジすることをめざしていく.
古川 茉幸,貝増 匡俊
我が国では少子高齢化の影響を受け労働人口が減る中で、多くの外国人が長期滞在するようになった。プロジェクトにおいて多国籍のチームが珍しくなくなる中で、外国人の受け入れに関する政府の方針や施策は重要である。政府は、多文化共生社会の実現を掲げ、関連する法律を制定した。かかる法の下、各自治体では条例を制定し、日本語学習教室や文化交流など具体的なプログラムを実施している。本研究では、神戸市、大阪市、京都市における多文化共生社会の事例を比較するともに質的調査を実施した。それぞれの都市のもつ社会経済的な背景の違いにより、実施された具体的なプログラムは異なる。神戸市では、日本語教室の開講や行政の相談窓口を設け、多文化共生社会推進に取り組んでいる。一方で実現した状況が具体的に数値化するなどの課題があることがわかった。
白浜 真一
数十Mstepを超えるシステムの更改案件において,見積時に全ての影響範囲を抑えたスコープの明確化は非常に困難であり,特に関係するシステムが多数ある場合,その複雑性は更に増す.リスクバッファを加味した算出では回答する側,受け取る側の双方にとって納得感のない数値になってしまい,リスクを取らなければ案件自体が成立しなくなるため,責任範囲,具体化する時期を区切り,後続工程において都度,追加見積とすることをステークホルダー間で事前合意してプロジェクト着手する手段が効果的と考える.本論文では金融システムにおける勘定系システムの大規模更改案件を題材に,関連システムに起因するスコープマネジメントで取り組んだ内容について論ずる.
高井 雄司,猪股 隆之
近年のデジタル化やイノベーションの進展/推進によるデータ量の増大,AI能力の向上などを背景に,企業のデータドリブン経営を支えるためのDMP(Data Management Platform)の導入や活用が必要不可欠になってきている.DMP上におけるデータセット開発においても,企業全体として標準化され利用しやすい高品質なデータだけでなく,マーケティング施策において有効かつ効率的な様々なデータの蓄積と迅速な提供が求められている.加えて,データ提供後においても,ソースとなるデータ自体が変化する頻度が高い特性を持つため,その変化を継続的に取り込む事を目的とした開発と運用の一体化の仕組み作りも必要とされる.これらのデータセット開発を通じて得た従来の開発手法との違いに関する知見と,そこから見えてきた課題及び対応策について言及する.
苑本 進
コロナ渦でのプロジェクトマネジメントにおいて,国内の緊急事態宣言や海外の外出禁止令が発令されたため,プロジェクトのいくつかのタスクが円滑に進めることができない問題が発生し,プロジェクトに影響があった.また,メンバーとのコミュニケーションでは,リモートワークに慣れていない等の理由により,作業が効率的に進まないことや生産性が低下する課題があった.このような状況下で,プロジェクトを円滑に進めるため,リモートワーク環境でのビジネスチャットツールやWeb会議アプリケーションといったITツールの有効活用やコミュニケーション計画を詳細に策定し,プロジェクトを進めることで期待できる効果について考察する.
岸下 孝志
プロジェクトマネジメントの方法論として,業界内でもProject Management Body of Knowledge(以下、PMBOK) やフェーズゲートによるリスク対策などが浸透し,8割以上のプロジェクトが成功プロジェクトとなっている.成功する大規模プロジェクトにおいては,顧客業務,アプリケーション開発,非機能要件,プロジェクトマネジメントなど幅広い知識を有しているゼネラリストが存在する.プロジェクト期間中に徐々に担当範囲を越えて活躍し,プロジェクトのバランスを調整する能力を有している.彼らは,自身の経験やプロジェクトの背景,目的,ステークホルダーの意思などの暗黙知を正しく理解し,プロジェクトチーム全体で共有して形式知化を図っている.プロジェクトにおけるナレッジマネジメントに着目し,SECIモデルを適用する有効性を検証する.
竹嶋 就一,寺田 由樹
本稿では筆者の製造業でのITプロジェクト経験を踏まえ,PM業務の効率化について述べる.デジタルトランスフォーメーションの推進が進む中で,製造業においても従来のウォーターフォール開発に加えて,アジャイル開発を適用するケースも増えてきている.ITプロジェクトの要件も多様化し,お客様の期待値も更に高くなっている.特に製造業においては,海外との競争力強化のために,ITプロジェクトの要件が複雑になり,難易度が高い開発を求められる状況もある.このような環境下で,プロジェクトマネジメントスキルはPMだけではなく,あらゆるIT人材に求められている.IT人材の不足は引き続き,大きな課題ではあるものの,限られた要員にて,プロジェクトを実施するために,PM業務の効率化が極めて重要である.本稿ではPM業務の効率化に関し,検討すべき課題を考察し、具体的な取り組み事例を紹介する.
東芦谷 祥子,井上 裕太,宮脇 佑弥,前田 健太朗,菅沼 秀敏
ITビジネスでは,クラウドやAIを活用したDX商談が主流となっているが,即座に提案できる人材が少ないため,体系的な育成が求められている.しかし,現行の教育は基礎知識が多すぎて時間がかかり,また,社内には実践的な知識が点在している.そこで富士通は,学習時間の短縮と効果的な教育提供を目指し,オンデマンド形式の学習提供システムを配備した.これにより,社内の実践知を動画で提供し,受講者は効率よく学習できる.また,システムは自動化されており,運営コストも削減できる.このシステムの導入により,学習コストを8500万円,教育運営コストを1800万円削減した.この学習提供システムが必要とするものは,自動化に用いるMicrosoft社のM365のSaaSサービスと実践知の蓄積のみである.本稿では,このシステムによる人材育成の仕組みと効果,発展性について紹介する.
伊藤 礼人
プロジェクトの難易度が年々上がる中,プロジェクトを求められる水準に到達させるためには,リスクをコントロールすることが必要となる.リスクの中でもとりわけ,QCD(Quality, Cost, Delivery)をコントロールすることが重要である.本論文では,実際の事例である,多拠点間を繋ぐ広域ネットワークの構築・展開をもとに,QCDコントロールの効果的な取り組みについて考察する.
中野 真那,有竹 康浩
少子高齢化により,将来,人材不足が懸念されることは以前より指摘されていたが,プロジェクトの状況によっては,世代交代のためのスキル移転に十分な時間を割けていないことがある.長期保守活動などで顧客と深い関係をもつビジネス組織では,それを成してきたシニア世代の要員が離職することで,顧客との人間関係以外にも文書化されていないスキルや知見が失われてしまい,以後の業務に影響が出る可能性がある.このリスクをできるだけ減らし,残された要員でビジネスを継続するために,普段のプロジェクトにおいても世代交代の準備をしておく必要がある.本稿では,筆者の属する組織でのこれまでの経験をもとに,引継ぎの方法や結果を考察し,プロジェクトが日々行うべき項目を提言する.
平岡 卓哉
筆者はプロジェクトマネジャーのスキルをプロジェクトの体験から習得できると考えている.また,過去を振り返ることで当時は見えなかった出来事の本質を捉えようとしている.そこで,筆者が体験したプロジェクトのプロジェクト計画と実績をプロジェクト資源(人,物,資金,情報,時間)にて振り返り,どの資源に対して課題が発生しているのかを分析した.結果,人に関係した課題が多かったため当時のチームにてバーチャルプロジェクトを立ち上げ,スチュワードシップを意識しながらコミュニケーション計画,チーム育成計画を見直して考察することで課題の本質を見つけ今後に役立つ気づきをまとめる.
久田 大地,岩島 菊生,石田 敏寛,熊谷 健,中島 秀一,岡本 圭介,野口 裕介,稲葉 新
近年,ChatGPT(GPT-3.5,GPT-4)をはじめとする大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)活用が活発化しており,単純な文書生成だけでなく,ソースコード生成や,テストコード作成などSW開発の分野においても活用検討が進んでいる.そこで本稿では,品質管理における活用例の1つとして大規模言語モデルを活用した障害分析を提案する.本手法は障害情報と命令文(プロンプト)をLLMに入力することにより,なぜなぜ分析を含んだ障害分析結果を出力することが可能である.さらに本稿では,過去発生した障害事例に対する本手法の定性評価を実施し,今後の現場適用に向けた課題についても考察する.
加藤 迪子,中島 雄作
当社はSIerの中でも,NTTデータのグループ会社における基盤プラットフォーム分野を主に担当する位置づけにある会社である.筆者マネジメントする部署は,ある事業部の物販,保守契約や請負,準委任契約などの契約事務を一手に引き受けている.組織長から,契約事務の効率化,言い換えると,業務見直しと属人性の排除をするよう指示があった.そこで,ボトムアップによる課題形成,仮説構築,系統マトリクス図による対策立案,契約事務改革のリスク洗出しフレームワーク,非定型業務の細分化,無駄をなくすフレームワーク,タスクフローの見える化等,様々な施策により,プロセス改善活動を推進した.結果として,5年前に比べ,28%の工数削減を達成した.本稿では,契約事務におけるプロセス改善活動の一事例について述べる.
川村 昌司
当事業体では,リスク管理帳票「PJリスク管理シート」の活用と組織的な確認でプロジェクト開始前に抽出したリスクへは正しいアプローチができているが,開始後に発生したリスク(未抽出リスク)がプロジェクトに多大な影響を与えてるため,未抽出リスクの傾向と原因を分析した.分析は,対象プロジェクトの決定とPJリスク管理シートを収集するフェーズ,プロジェクト開始と終了のPJリスク管理シートを突合し未抽出リスクを特定するフェーズ,未抽出リスクの傾向と原因を分析するフェーズの3フェーズで実施した.分析した結果,件数は少ないが3割に近いプロジェクトで未抽出リスクが発生,プロジェクト管理のプロセスに問題はないがプロジェクトリーダが経験に頼ったリスク判断をしているの原因であることが判明した.そのため,未抽出リスクの内容,原因,改善策およびを経験でなく事実に誠実にリスクを抽出すること展開する活動が必要であると考える.
鹿島 史貴
AWSクラウドへのモダナイゼーション事例を通して,モダナイズの主な検討項目について論じる.検討すべきポイントは以下の3つである.まず第1に,クラウド移行戦略についてである.クラウドへの移行手法とそれぞれの特徴,導入後の影響について言及し,本事例で発生した課題とその解決策について述べる.また,移行戦略を策定する際に移行手法の特徴と導入後の影響を理解することの重要性を強調する.次に,クラウドサービスの活用方針についてである.サービスの利用可否を判断するためには,コスト評価が必要であることを指摘し,アーキテクト体制確保と評価期間確保の重要性について論じる.最後に,現行ソフトウェア,主にソースプログラムの移行方針についてである.現行の仕様書や仕様管理キーマンが不足している状況下でのソースプログラムの移行プロセスについて述べ,その進行方法について本事例を通じて示す.
黒田 克徳
レガシーシステムからのマイグレーションや法律改正などの対応で大型の開発案件が完了し,エンドユーザーがシステムを利用し始めると細かい機能変更や,新しい機能の追加など,新たなニーズが発生し,追加の開発を依頼される.しかし依頼はある機能に限定したものではなく,さまざまな機能かつ大小細かな部分への改修となるため,自ずと細かく性質の異なる案件を並行して対応することとなる.結果的に作業が輻輳し,機能間の仕様に関する連携の検討だけでなく,その作業管理手法においても個々の案件の難易度以上の複雑さとなる.本論文では,このような輻輳開発において過去の実体験や事例からプロジェクトマネジメントにおける問題点を探り,今後のプロジェクトマネジメント対応において見積りおよびプロジェクト計画など上流工程段階でどのようなことを考えておく必要があるか考察する.
八巻 義正,福田 秀紀,木村 和宏,中島 雄作
プロジェクトを成功に導くためには,プロジェクト特性を考慮して全フェーズを見通した品質保証方法を策定し,それを実現する開発・管理プロセスを定義し実行管理することが重要である.NTTデータでは,プロジェクトを円滑に遂行する規範となる開発・管理プロセスを適切に定義,実行するために,品質保証ストーリーの考え方を導入している.しかし,当社は先進的な基盤技術に強みを持つ集団であるが,品質保証ストーリーの考え方はまだ十分に普及していない.そこで,筆者らは,あるセキュリティソリューションの開発において,品質保証ストーリーを採用して品質管理を行った.それにあたって,想定リスクが存在したり,実際にいくつかの問題が生じたが,これらに適宜適切に対応することにより,QCDを遵守して開発プロジェクトを成功に導くことができた.本稿では,品質保証ストーリーを適用したシステム開発の一事例について述べる.
岡野 孝典
公共分野の大規模システムの中には,長年に亘って顧客独自の仕様で開発・運用されているシステムが数多く存在する.デジタル庁の発足もあり,これらの大規模システムについて,システム更新時に独自の仕様を一部見直し,業界で標準的となっている仕様を採り入れることで,業務効率を向上させるといったケースが増えてきている.しかし,一方では既存システムで実現している独自機能の中には,顧客の特性上,無くしてはならないものも多く存在している.そのため,要件定義においては,標準的な仕様をベースとしながらも,既存システムで長年培ってきた顧客独自の業務要件や,業務運用上のノウハウを吟味し,必要な要件を漏らすことなく要件定義書に組み入れる必要がある.本稿では,要件定義において発生する,スコープギャップを極小化するためのコミュニケーション手法を検討,実践し,その結果について考察する.
谷元 久実子
プロジェクトは有機的な活動のため,開始したのち、必ず終結を迎える.プロジェクト終結時,将来のプロジェクトにむけて教訓を残すことは,社会の変化や不確実性への対応などプロジェクト管理手法が変更を求められるなか,プロジェクト終結フェーズでの重要タスクでることは変わりない.本稿は,一定間隔でシステム更改を繰り返す大規模更改プロジェクトでのプロジェクト終結時における2段階での「プロジェクト振り返り」の実践を事例研究としてとりまとめる.
高山 快
大型のソフトウェア開発プロジェクトはサービス・インを迎えた後,往々にして高品質のシステム保守と体制の削減を同時に顧客から要請される.本稿は,実際の大型プロジェクトの事例をもとに,通常両立が困難なこの要請に対する一つの対応例を示すものである.サービス・イン直後から,プロジェクトの保守は3段階のフェーズ(品質向上フェーズ,収益構造最適化フェーズ,運営永続化フェーズ)を意識的に,かつ順番に経ることで,品質面・財政面において成熟した状態に移行可能であることを説明する.また,それぞれの局面で生じる課題に対し有用な施策についても併せて紹介する.
田島 千冬
運用改善を実施する場合,そのテーマを検討し対応計画を作成する段階までは,参加者の協力と共に高いエネルギーでスタートできる.一方で,計画が進む中で日常業務に忙殺されることにより,改善活動の優先順位が下がり,それと並行して改善へのエネルギーも低下し,次第に計画に対する進捗管理のみが定型化され,終了時には当初想定していた価値が見出せない結果になる経験があった.今回,スクラムの考え方やイベントを取り入れた運用改善サイクルを実施することで,メリハリのある活動サイクルによる活動の活性化と価値に焦点を当てる意識への変化に繋った.そして,運用改善のテーマとして掲げた3つの価値を具体的な形にすることができた.この活動は,今後に向けて改善する余地はあるものの,忙しい中でも全員が参加し,持続的にエネルギーを持って取り組むことができる活動となった.当投稿では,その経験を事例としてまとめる.
義経 真一
少子高齢化による労働力人口の減少の影響によりIT人材の不足が深刻化している.特に先端技術やプロジェクトマネジメントなどの高度なスキルを持つ人材不足が深刻化している状況である.また,顧客が当社へ期待する内容についても従前の期待から変化が生じており,様々な技術のプロジェクトを立ち上げねばならない状況が発生する.本論文では著者の経験と直面した課題を元に,プロジェクトマネジメント上の施策についての事例を示す.
川村 圭祐,高森 康之,伊藤 桂,小畑 啓悟,猪瀬 朋克,中島 雄作
従前から世の中の多くのプロジェクト運営上の課題として属人化が存在する.筆者らのプロジェクトにおいても,DB移行作業において属人化を解消しなければならない状況にあった.筆頭筆者は2年目新卒社員であるが,QCストーリーに従って,属人化を解消するPDCA改善活動のリーダとして推進した.ナレッジ,PM,品質の領域から合計7つの真因を抽出し,最終的には,メンバへの共有体制見直しという対策を実施することで,属人化の解消に成功した.本稿では,DB移行作業における属人化の解消活動について述べる.
内田 裕子
既存事業を活かして事業拡大を図ろうとしたとき,限られたリソースで同じサービスを繰り返していても飛躍的な成長は望めない.日立製作所のERPパッケージ事業は,製造・流通分野の顧客に対し,SAP社のERPパッケージなどを活用して基幹業務を刷新するソリューションを25年以上に渡り提供してきた.ERPパッケージ市場は再び活性化しているが,近年どのERPパッケージ製品も成熟して機能差は減少し,実績のあるERPベンダーの数も増加しているため,当社独自の強みを活かした新しいソリューションを開拓していかないとパッケージビジネスは拡大しづらい環境にある.また,SaaS型ERPの需要が高まり,従来のビジネスモデルそのものが通用しなくなってきている.長らくERP導入という歴史あるビジネスを繰り返してきた社内のエンジニアをどのように配置し,従来と異なるプロジェクトを並行推進していくか,最適解をめざし検証する.
石原 寛紀
プロジェクトの上流局面である要件定義は,外的リスクや不確実,未確定な事項が多く,計画通りに進まないことが常に発生する.要件や仕様が確定せずに進むプロジェクトにおいては,WF(ウォーターフォール)とアジャイル手法を組み合わせたハイブリッドアプローチが効果的であり,その適用により,変化に対する柔軟性や迅速性の期待に応えながらプロジェクトを推進することができる.ただし,一般的に,WFとアジャイル手法を用いたハイブリッドアプローチは,開発局面に適用されることが多く,その効果が現れてくるのが下流の工程からとなってしまう.本稿で提案するWFとアジャイル手法を用いたハイブリッドアプローチは,開発局面よりも早い設計局面での適用を実践し,迅速かつ柔軟に変化への取り込みを行い,品質や進捗に与える影響を最小限に抑えながら成果を上げることができた.その適用方法と効果を紹介し,考察を述べる.
高田 淳司,常木 翔太,松井 千代子,平山 景介
生成AIの登場により,人工知能(AI)はより身近になり,さまざまな業務でAIの活用が進んでいる.PMO活動においてもAIは活用されており,機械学習を用いてリスク予兆を検知し,失敗プロジェクトを予測する取り組みが報告されている.しかし,属人的な要素が高いプロジェクトの成否は,最適化指標の設定が難しく,その判定の自動化が困難であり,判定ができたとしても,AIが予測した結果について根拠を読み取ることができないという問題がある.本稿では,熟練者の行動から行動基準となる意図を学習し,意思決定を模倣するAI技術を用いることで,複雑で属人的なリスクプロジェクトの判定を自動化する取り組みについて紹介する.また,AIモデルの作成時に大規模言語モデルを活用した工夫と実際の業務に適用した結果の有効性を過去の機械学習モデルとの比較により考察する.
清水 友恵,百々 久司,山本 篤,塚原 康司,中島 雄作
筆者らは基盤プラットフォーム領域の保守をしている.頻繁にトラブルが発生しているわけではないが,第一筆者はヒヤリハットを体験することが頻繁にあった.新人・初心者だからというわけでもなさそうだった.クラウドサーバのメンテナンス対応作業内で起きた作業ミスに関してメンバ内に聞き取りを行ったところ,ヒヤリハットが月に1回程度起きていることがわかった.そこで,4Eをキーワードに挙げ,ヒヤリハットの要因を洗い出した.さらに,SEARCHフレームワークを活用して要因を洗い出した.対策立案においても,4M5E分析とSEARCHフレームワークの両方を使って,数多くのヒヤリハットの対策案を挙げた.結果として,3カ月間,ヒヤリハットが発生しなくなるまで改善した.本稿では,保守運用作業におけるヒヤリハットの防止活動について述べる.
田中 梨夏歩,望月 怜衣,柳瀬 勝也,山本 祐也,中島 雄作
筆者らは,ネットワーク製品等の基盤プラットフォーム領域のお客様サポートに従事している.筆者はお客様からのクレームにつながる問い合わせ対応の悪い点をいくつか見つけた.そこで,4C分析を活用して既存のクレームを整理した.取り組みやすさ等から,Convenience(顧客利便性)に着目して掘り下げることにした.なぜなぜ分析を行い,7つの要因にたどりついた.そして,クレームの見える化,お客様ボイスの適切なフィードバック,個人スキルギャップの把握と平準化の3つの対策を実施した.その結果,課題を解消することができた.本稿では,ネットワーク製品保守における問い合わせ対応の顧客満足度向上活動ついて述べる.
天羽 宏嘉
セキュリティオペレーションセンター(SOC)は情報システムのセキュリティ警告を監視し、セキュリティインシデントへの対応を行うための人員、プロセス、技術等によって構成される。一般にSOCプロジェクトは単にセキュリティ製品を導入しただけでは不十分である。様々な要因を考慮して慎重に計画することが重要であり、非常に複雑なものである。しかし、SOCを効果的に計画するための方法は広く知られておらず、また、公開されいる具体的な事例も少ない。そこで本稿では、公開されているガイドラインを活用して仮想の簡単なシステムモデルにおいてSOCを構築する例を考え、過去の経験を踏まえて、SOCプロジェクトを成功させるための管理方法を考察する。
大沢 和弘
我々は技術研究開発部門として,新たな技術獲得に向けた技術研究開発のテーマ選定,検証,展開活動を行っている.この活動では,組織において有益となる技術所産を効率的に蓄積し,その研究成果を組織内に広めることを目標に,短周期のプロジェクトとして研究を行っている.本稿では,活動における工夫点と何故その工夫に至ったかの理由,現時点での気付きや課題を共有する.
羽根木 宏拓
ソフトウェアの品質「プロダクト品質」を決定づける品質要素の1つである「プロセス品質」は、成果物を作り込んでいく過程、つまりプロセスにおいて誤りが入り込む余地をなくすような環境や仕組みを整えるといった組織的な品質であるため、プロダクト品質に与える影響が大きい。本論文では、レビュー記録票や障害票などの品質記録の集計・分析に依存せず、設計書やソースプログラム等の成果物から取得できる情報から見えてくる「プロセス品質」に着目し、その綻びから発生するリスクをリアルタイムに検知可能にする新たな手法を確立した。この手法を適用することにより、SIプロジェクトのソフトウェア品質の向上および、対策遅延による手戻りコストの最小化に貢献できると考える。
松崎 祥子
長年運用されているシステムにおいては,システムの老朽化・肥大化・複雑化により,システムがブラックボックス化することが懸念される.当社がスクラッチ開発したシステムは,顧客の特殊業務を支えるシステムであり,数十年顧客の運用に合わせてシステム改修を重ねてきた.本稿で取り上げるプロジェクトでは,本システムの老朽化に伴いアーキテクチャを刷新した.開発期間中にはシステムのブラックボックス化を危惧する場面があり,施策を打ってきた.本稿では,開発・保守を請負うベンダー企業の立場で実施した,システムのブラックボックス化に対する施策について紹介する.
三宅 啓太,亀井 清正
本稿は、米国における特許ライセンス企業(パテント・トロール)による高額な訴訟に直面する企業のために、訴訟総コストを最小化する方法論を開発することを目的とする。この方法論は、弁護士費用がパテント・トロールの要求額を超える可能性がある損益分岐点を事前に予測し、その点に到達する前に和解準備を迅速に進める必要があるという課題を解決する。リスク・コスト評価式に基づく優先順位付けに従って最小限の調査アプローチを実施し、損益分岐点予測を用いて訴訟取り下げや和解準備を期限内に完了させる戦略を提案する。つまり、弁護士費用と技術者の調査コストを低減し、訴訟総コストと知財紛争リスクを最小化する。当社の過去の訴訟事例を中心にした分析を通じて、この方法論の有効性を検証し、必要なノウハウと戦略的なアプローチを提供する。
山本 雄一郎,佐藤 勝
基幹システムの老朽化対策として,ERPパッケージが採用されている.ERPパッケージの採用は,業務プロセスを標準化し,情報統制を図るという,デジタルトランスフォーメーションの基盤作りの戦略である.ERPパッケージによる基盤作りのためには,自社の業務プロセスを,ERPパッケージの標準業務プロセスに合わせる必要があるが,ERPパッケージの適用検討を進めていくと,ERPパッケージの標準業務プロセスでは,自社の業務プロセスの優位性を損なってしまうというケースがある.その際,ERPパッケージを改修して,ERPパッケージの標準業務プロセスを,自社の業務プロセスに合わせるという選択肢がある.※今後,このERPパッケージを改修するという選択肢をアドオン要求とよぶ.注意しなければならないのが,このアドオン要求をプロジェクトのスコープに含めすぎると,高品質なシステムを,短納期,かつ,低価格で導入するという,ERPパッケージ採用のメリットが損なわれる.また,逆にアドオン要求を全て排除すると,お客様業務プロセスの優位性を損なってしまうという二律背反が生じる.プロジェクトマネージャとして,お客様の価値を創出し,ERPパッケージの導入を完遂するために,一番難しいのが,このアドオン要求のスコープコントロールとなる.実戦経験を踏まえ,アドオン要求をどのようにコントロールするのが最適か考察する.
山崎 真湖人,本美 勝史,林 貴彦,武田 修一,大関 かおり,室井 哲也,白坂 成功
組織のアジリティとはビジネス環境における内外の課題や不確実性に積極的に対応する組織の能力であり、変化するビジネス環境において組織の競争力を維持するうえで重要である。製品・サービス開発におけるアジャイル開発のアプローチは知られているが、それを開発以外の組織にも展開し企業全体のアジリティ向上を期す方法は確立されていない。本研究では、製造業企業の組織アジリティ向上を目指す組織的な取り組みの事例を報告する。特に、各チームが自らのアジリティを評価し向上のポイントを設定する活動を支援する評価手法の開発を紹介する。
中原 あい,関 哲朗
アスリートの養成は,多様なステークホルダが関与する長期的かつ複雑なプロジェクトである.実際には,それぞれに目的と目標を持った複数のプロジェクトとオペレーションからなるプログラムとしての性格を持つ.アスリートを養成するプログラムにおいて最大化すべきベネフィットは競技会で優秀な成績を上げることであり,その最高峰と言われるものが世界大会やオリンピックである.一方で,時系列的に変化するステークホルダの期待,すなわち,時系列に従った変化をともなうポートフォリオをマネジメントしながら,同じ個人に対するプログラムの目的と目標を達成するといったマネジメントを求められる特異性を持ち合わせている.本研究では,競泳を題材に,著者の経験を踏まえながら,アスリートの養成プロセスを整理し,そのProject, Program and Portfolio Management(PPPM)の視点からの整理を行い, PPPMにもとづくアスリートの養成に関するモデルを提示することで,合理的なアスリートの養成への組織的関与の在り方を提示した.
坪田 祐二
システム開発プロジェクトの推進において,品質マネジメントがプロジェクト成功の重要な要素であることは言うまでもない.プロジェクトを成功に導くためには,成果物の品質を測定しながら適切な分析を行い,品質を定量的に評価し,適宜対策を図っていく必要がある.ただし,品質を正しく分析し評価するためには,元となる品質データの精度が高いことが前提となる.つまり,品質分析を行う上で重要なのは,システム開発工程において品質マネジメントのプロセスが正しく機能し,高い精度で品質データを取得できているかを検証する事である.特にプロジェクトの上流工程において,品質マネジメントのプロセスの検証方法を確立し,プロセスに不備があった場合は是正することが,品質を高める上で有効と考える.本稿では,上流工程における「品質マネジメントプロセスの検証」方法を紹介し,プロセス検証結果が下流工程へ及ぼす影響を検証する.
山中 淳市,古屋 優希,遠藤 圭太,仁尾 圭祐
近年,開発スピードの高速化を意図するアジャイル開発を採用する企業が増加している.アジャイル開発でのメジャーな開発プロセスは「スクラム」と呼ばれているが,スクラムに対するルール,理論,イベント,ロールを定義した「スクラムガイド」の中では具体的な開発進捗管理方法について言及されていない.そこで,本論文では金融機関の中長期アジャイル実案件における事例2 件をスクラムガイドに基づき進捗管理の観点で比較・検証しながら,成功/失敗要因を分析する.また,分析結果に基づき,プロダクトゴールを達成するための最適な進捗管理にはスクラムガイドの解釈内のどの観点が重要なのか,各ロールはどう関与すべきか,そしてマクロな視点での在るべきPBI 管理方法について考察を加える.
大野 晃太郎,劉 功義,石井 信明,横山 真一郎
プロジェクトの類似情報はリスクの特定,プロセスの最適化,コストと時間の見積もりの改善などに利用されている.そのため,過去のプロジェクトから得られた類似情報の活用方法やデータ分析に関する研究がなされている.近年の研究では,AI技術の活用により,経験不足を補い,プロジェクトの成功率を高めることを目的としており,それらの成果は,新しいプロジェクトの参考となる.しかし,取得された類似プロジェクトの情報を正しく活用するためには,その背景や関連性などを理解しておく必要がある.そのため,本研究はプロジェクトの類似情報がどのように活用されているのかを分析の目的として分類整理することを試みた.さらに分類に基づいて,類似情報の活用の実行可能性について言及した.
坂本 調
要件定義作業においては,その精度が低いと後工程で仕様変更要求の多発につながり結果顧客不満足となる可能性が高い.作成した要件定義書を要件確定度表で評価することにより見える化する.また顧客とも共有することで認識相違を無くし,後工程でのトラブル発生を抑止する.ソフトウェア開発プロジェクトにおけるRFP(提案依頼書)は発注側で全て作成するケースは少なく,ベンダの支援を受けるケースが多い.RFPの基となる要件定義工程はシステム開発の最上位の工程であり,ここでの誤りは後工程に影響し,仕様変更や手戻りによる作業量増加,納期遅延につながる.そこで顧客,ベンダ双方が要件定義の成熟度が見える化できるよう要件確定度表を用いて要件定義を評価する手法を適用する.
山下 統
本稿では,ハードウェア技術職として携帯電話の装置開発に従事してきた筆者が,システム開発のプロジェクトマネジメント業務にジョブチェンジし,成果物や品質管理の違いに苦戦しながらも,アナロジー思考を用いて対処した実践例を報告する.アナロジー思考とは,違う事柄の中から双方の類似点を見つけて,解決策を見いだす思考法である.当該思考を適用することで,装置開発で実践してきた不具合解決のアプローチが,システム開発でも効果的なアプローチとなることが確認できた.本稿では,ジョブチェンジだけでなく自分にとって未知の領域・案件・技術にチャレンジする際に,アナロジー思考で仕事の共通点に目を向けることで,培ったノウハウを応用することが可能であることを示す.
篠宮 佑太
本論文の筆者が担当したプロジェクトにおける成功事例・失敗事例を紹介する.担当プロジェクトは,現行システムから次期システムへ移行する大型プロジェクトであり,筆者はプロジェクトリーダーの役割を担当した.当該プロジェクトにおいては,要件定義フェーズでのステークホルダーとの整合不足あり,基本設計フェーズ工程の遅れから製造以降の後続開発工程への影響が生じた失敗事例等を紹介する.合わせて,現行システムでは開発言語の影響からテスト自動化を実現できていなかったが,次期システムでは開発言語の最新化に依りテスト自動化を実現し,安定したノンデグレードテストを実現した成功事例等を紹介する.
藤原 育実
一般的にパッケージソフトウェアでは,導入した企業の業務内容に合わせてパラメータの変更やアドオン開発などのカスタマイズが行われることが多い.特に,改修を繰り返しながら長期間運用される場合には,カスタマイズの範囲が広がり,ビルドやリリース,テストなどの作業が頻繁に行われるようになり,その結果,工数が増加する傾向がある.ビルド,リリースにおいては,パッケージソフトウェア独自の作法や環境の違いなどPJ固有要件によって,作業が俗人化して熟練者しか実施できなくなっているという問題があった.また,パッケージソフトウェアのカスタマイズに関する知識やスキルについて,経験豊富な熟練者と初心者では,テストの品質や工数に大きな差が生じることがしばしばある.そのため,開発者の熟練度に関係なくビルドやリリース,テストを容易に実行できる環境が整っていれば,開発工数の削減と品質向上が実現できると考えられる.このような背景から,ビルド,リリース,テストの自動化に取り組んだ.本稿では,パッケージソフトウェア導入時のビルド,リリース,テスト工程の自動化を実践することで得られた知見について述べる.
田崎 宏大,大木 聖太,矢田 捷真,吉野 貴大,湯浅 晃,菅原 康友
近年,様々な業界においてDXが進められており,その中でもデータやAIを活用した業務高度化・効率化が益々期待されている.NTTデータでは,プロジェクト管理の高度化に向けた取り組みの一環として,「品質管理におけるバグの定性分析の一部自動化」をテーマに,AI導入に向けた研究を行っている.その中でも,起票されるバグ報告の質を高めることにフォーカスを当て,記載内容の有識者チェックをAIで代替可能かについて検討してきた.これまでの研究から,開発したバグ報告チェックAIが,有識者によるバグ報告チェックの内,最も重要なチェック観点において,最大約 80% が代替可能であることが明らかとなっている.ビジネス効果を高めるためには,更なる精度向上が必要であり,バグ報告チェックAIを導入するプロジェクトの特性に沿った学習データを増大させることで学習モデル性能を向上させるという一般的なアプローチをとりたいが,実際の現場のバグデータは少なく,学習には不十分である点が問題である.そこで本研究では,近年広く研究されている大規模言語モデル(Large Language Models : LLM)を活用し,プロンプトエンジニアリングによってバグデータを拡張生成することで,学習データの不足を解消し,精度向上を図った.その結果,バグデータの品質に関わる重要な記載項目において,チェックAIの精度が最大13.5%向上した.
町田 欣史,坪井 豊,榊原 直之,上原 光徳
これまで、ソフトウェアやシステムの開発における品質管理の技術や手法が体系化され、高品質なプロダクトの開発を実現してきた。しかし、昨今ではシステムだけを提供するのではなく、それを活用したサービスを高い品質で提供することが求められるようになっている。したがって、サービスの品質を管理、保証することが重要であり、DXが推進される中ではビジネス視点での価値が向上していることも保証しなければならない。サービス品質については過去にも様々な検討、研究、規格化などが行われているが、それらが実際の開発現場で活用されているとは言い難いのが現状である。本稿では、サービス品質管理に関する過去の取り組みを振り返った上で、それらを現場で活用するための課題や改善案を整理するとともに、サービス品質やビジネス価値の定量化や評価のための考察を行う。
長久 幸雄
プロジェクトでは、運用・保守フェーズで問題が発生しないようにするために、設計フェーズにおいて、運用設計等から運用・保守フェーズを見越したドキュメントの作成が必要になる。また、運用・保守フェーズでは、Service Level Agreement(SLA)順守が求められると共に、大規模システム等においては、システムが複雑になり、トラブル発生時に適切な対応が取れる施策が必要になる。本稿では、プロジェクト運用・保守フェーズの改善活動として、全プロジェクト横断型のサービスマネージャを配置することでお客様が実施しているITシステム運用をInformation Technology Infrastructure Library(ITIL)に準拠した形で整理し、運用・保守チームとの橋渡しをすることで、運用・保守フェーズでトラブルが発生した際に適切な対応を実施することが可能になるような施策について考察する。
秋田 朋寛,安田 裕二,掛地 隆博
近年,生成AIの業務応用が進み,業務の効率向上が期待されている.各組織・チームが持つ業務を効率化することにより残業時間の低減や,モチベーション向上,生産性向上は比較的分かりやすく効果が得られる.一方,業務効率化により体制を適正化し,戦略的な領域へ人員を配置する事には十分に結びつかない課題が浮かび上がっている.本稿では,数多くのシステムを保守・開発する大規模プロジェクトにおいて,業務効率化を実施し,その成果により体制を適正化,戦略領域へ投資するプロセスを具体的な事例とともに紹介する.さらに,体制を適正化し,戦略的な領域へ人員を配置した結果,サービス量やサービス品質といったサービスレベルが低下していないかを確認,評価する具体的なプロセスについても紹介する.
野尻 一紀
ウェルビーイングは SDGs の目標 3 に掲げられ,非常な注目を集めている.本稿では,社会のウェルビーイング向上を目的として進行中のプロジェクトにボランティアで参加した経験と,自身のプロジェクトの改善策としてのウェルビーイング取り組み事例を示す.さらに今の時代に必要なプロジェクト遂行上の考慮点について言及する.プロジェクトのリーダーとメンバー全員が主観的ウェルビーイングとレジリエンスを高め,人間関係のつながりを強めていくことが,プロジェクトの創造性,業績と自己肯定感・自己思いやり感を追求していくために重要である.
山口 由貴,上村 興輝,島田 佑磨,小坂 由依,田中 基己,中島 雄作
NTTデータグループは多くのミッションクリティカルシステムを手掛けている.当社は,NTTデータの傘下でこれらミッションクリティカルシステムにおける基盤プラトフォーム領域を担当することが多い.筆者らも,とある勘定系のミッションクリティカルシステムの開発・運用のプロジェクトメンバの一員である.結合試験の定量評価では,全て管理限界内であり,品質は高いレベルを維持しているようにみえた.ところが第一著者は疑問を感じ,過去3年間の品質データを入手し,T型マトリクスですり抜けバグの分析をしてみたら,バグ24件のうち,設計工程での混入バグが18件,そのうち設計工程をすり抜けたバグが14件あることが判明した.さらに層別してみると,案件参画年数が1年,2年の設計者が,一番多くバグを混入させていることがわかった.品質管理の4MにおけるMachineをEnvironmentに置き替えて,特性要因図を用いて分析したところ,4つの真因が導かれ,まとめると「新規参画者に必要な情報が提供されていない状況が生まれているため」であると判明した.さらに深堀したところ,「設計書のレビュー観点が抽象的」と「作業前ミーティングがない」の2点の対策をすればいいことにたどりついた.そして,まだ新規参画者(2年目)の1名ではあるが,すり抜けバグを0件に削減することに成功した.本稿では,ミッションクリティカル案件における品質改善活動について述べる.
松本 萌里,平尾 悠輔,大熊 三徳,関 良博,中島 雄作
筆者らは,セキュリティソリューションを対象として,コンサルティングや提案等の超上流工程から,設計,製造,開発,保守運用までの工程を幅広くカバーしている組織である.第一著者が担当するセキュリティ製品開発環境を対象に,運用全体の工数の3%(375時間)を削減するというテーマを掲げた.セキュリティ製品開発環境のタスクの全量と工数を洗い出し,90%を占める上位6タスク(セキュリティ対策状況確認,管理サーバメンテナンス,問い合わせ対応,アカウント申請対応,アカウント棚卸,ドキュメント管理)を対象とすることにした.各タスクについて,「業務フロー把握」「要因解析」「対策立案」の3段階の手順で,改善活動を推進した.「対策立案」では,定量的な削減工数の効果だけでなく,副次的効果も含めて評価をした.対策案の1つとして,RPAアプリでシステム化することを実行し,情報取得元が複数サービス(SNS,Form,List,RPAアプリに跨るため,それらの独自仕様を調査し,システム実装することに苦労した.様々な改善活動の結果,当初目標375時間削減のところ,626時間削減と目標を大きく上回る成果を上げることができた.本稿では,セキュリティ製品の開発環境を対象とした運用工数375時間の削減について述べる.
遠藤 洋之
本稿では, 知識移転を知識共有の一部として位置づけ, 先ず国際IT サービス企業内組織間の知識創造及び共有に関する研究の経緯について説明する.続いて知識創造・共有プロセスを表すモデルを提案する.知識の送り手・受け手組織間で共有される知識には,プロジェクト要件知識とプロジェクト管理(PM)知識があるが,本稿では後者のPM 知識移転プロジェクト,及びその集合体としての知識共有プログラムに関する研究について述べる.筆者は, 国際IT サービス企業の知識移転プロジェクトに関し本社および海外拠点所属のプロジェクトマネージャ(PMgr)やプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)要員へのインタビューを行った.調査データを定性分析しプログラム視点で整理した結果,受け手組織における知識創造活動や創造された知識を組織間で共有するプロセスを明らかにした.これらは知識移転研究(Szulanski 1996)やリバースイノベーション研究(Govindarajan 2010, 2015)では把握困難だったプロセスである.また知識移転段階モデルでは表現し難かった,知識創造・共有プロセスを表す知識共有ループモデルを提案する.
小島 洋一
近年,緊急性のあるシステム対応が増加しており,短期間での本番リリースが求められている.例として,サイバー攻撃の標的となった場合,被害を最小化するために早急なシステム対応が必要となる.一方,現在日本で主流のウォーターフォール開発はシステムの早急対応には不向きである.私が担当しているウォーターフォール開発のシステムにおいて,フィッシング詐欺に対する対策として短期間でのシステム開発を余儀なくされた.私の担当システムではウォーターフォール開発に対し,アジャイル開発の考え方を取り入れた開発手法を導入することで開発期間 の短縮を達成した.導入した開発手法は,「設計工程の進め方の見直し」,「工程の並走化」,「対応要件の段階リリース」の3点である.開発手法を円滑に導入するための施策として,「鳥瞰図の作成」,「テスト仕様書,テストデータの雛形作成」などを実施した.これらの開発手法,施策の導入により,短期間での本番リリースを障害なく完遂する事ができた.この事例より,ウォーターフォール開発においても開発手法の見直しやツールを有効活用より品質を確保しつつ短期間での開発が可能であるということが証明できた.他システムで同様の事象が発生した 際は,今回の開発手法や導入施策を是非参考にしてもらいたい.
武山 祐
単一のプロジェクトを管理するのではなく,複数のプロジェクトを統括するプログラムマネジメント.その理念は,近年,日本のIT 業界で注目を浴び,PM 学会でも扱われる機会が増えてきた.一方,サービスマネジメントのガイダンスとして世界的に最も広く採用されているITIL(Information Technology Infrastructure Library)の最新版,ITIL4 では,”IT を活用してビジネスをいかに創造するか”という高度な視点が採られている.本稿では,開発フェーズに焦点を当てた実務で評価されているプログラムマネジメントと,運用フェーズに焦点を当てた実務で評価されているサービスマネジメントを比較分析する.その結果,両者の類似点と相違点を明らかにし,両者が補完し合い,進化してゆく可能性について提言する.
齋藤 翔馬,下田 篤
ディスカッションを成功させるためには様々なスキルが求められるため活動を正しく評価して改善することが求められる.従来 プロジェクト活動の評価方法として 自己評価と他者評価を比較して 評価に客観性を持たせる取り組みが報告されている.しかし 活動のレベルの高低については考慮されておらず 改善の余地があった.そこで 本研究は ディスカッションを対象として 従来の自己評価と他者評価に加え 新たに 活動レベルの高さを加味する評価方法を提案する.評価結果を 自己評価と他者評価の高低と 活動レベルの高低によって分類することにより 改善の優先順位づけに利用する.提案方式を 大学生 4名が実施するグループディスカッションを 27項目で評価する活 動に適用した.その結果 従来は区別困難であった 「レベルが低いにもかかわらず自己評価が高い 項目 」と「レベルが高いにもかかわらず自己評価が低い 項目 」 を区別して 優先付けできるようになった.
岡 デニス 健五,三宅 浩司
自動車業界では、より複雑なユースケースをサポートするために、より多くのソフトウェアとコネクティビティが使用されるようになり、サイバーセキュリティは 車載 システムの開発に不可欠なものとなっている。 ISO/SAE 21434のような 規格 に従って、自動車業界はプロジェクト・マネジメントにプロジェクト・ライフサイクル中のサイバーセキュリティ活動の管理を含めることを要求している。最も重要な活動の 1つは、サイバーセキュリティ計画の作成であり、この計画は他のサイバーセキュリティ活動の管理と追跡に使用される。これらの活動には、 TARA(脅威分析とリスクアセスメントの実施、サイバーセキュリティの目標と要件の定義、 セキュア な開発の実施、検証と妥当性確認の実施、さらにはサイバーセキュリティの監視、脆弱性管理、インシデント対応、 セキュア なソフトウェア ・アッ プデート といった継続的な活動の管理が含まれる。このように、自動車業界はサイバーセキュリティを管理するための適切なプロセスを早急に確立している。そのため、プロジェクト ・マネジメント は、サイバーセキュリティ活動の計画、活動の責任管理、プロジェクトの成功的な納品に向けた活動の追跡と予定通りの実行の確保において不可欠である。
齋藤 憲一
プロジェクトの推進にあたっては多様なリスクが潜み,数々の課題が存在するため,プロジェクトを成功に導くのは容易なことではない.実際,これまでに行われた調査結果でもそれが示されており,筆者の周りでも,プロジェクトの頓挫,スケジュールの延伸,予算のオーバー,障害の多発など,問題プロジェクトの話を度々耳にする.筆者が担当する基盤系のプロジェクトでも同様であり,特に基盤系プロジェクトはその基盤が関連している多くのシステム,アプリケーションに影響を及ぼすことが多く,多数のステークホルダーを巻き込みながらの推進が必要とな り,難易度の高いプロジェクトとなることが多い.このようなプロジェクトを成功に導くためには様々な領域,様々な局面において,戦略的に対策を仕込み,講じていく必要がある.筆者がプロジェクトマネージャーとして推進した 端末刷新プロジェクトで実践した取り組みの内容 やその 効果等について紹介する .
八木 翔太郎,吉田 悠夏
あらかじめ十全に計画 すること が できず 、かつソフトウェア開発のようなかっちりとしたアジャイル手法も適用できないような現場において、どのようにプロジェクトの 状態の 良し悪しを評価するべきだろうか。本稿では、プロジェクトチームの自律性が変化の激しいプロジェクトの成功に不可欠 であることを踏まえて 、どのような 実践 がチームの自律性に関わるのかを確認するため、 23プロジェクト( n=96)に対して、3種類の実践指標(①プログレス:ゴールやマイルストーンの言語化 と 見直し、②チーミング:互いの期待や違和感の言語化と見直し、 ③ プロセス: ミーティングを中心とした環境整備と 見直し)と自律性に関わるチーム指標( シェアド・リーダーシップ 、 心理的安全性、 エンゲージメント)を計測して、重回帰分析を行った。その結果、プロセスとチーミングがそれぞれ異なるチーム指標と 有意 に 正の影響 を持つことを確認した 。 これはチームメンバーの実践 が各々の経路で プロジェクトチームの状態を変化させ ること を示している。タスク進捗が 即 成否につなが ると限らないような VUCAな プロジェクト 環境 において、こうした実践指 標は 簡便かつ リアルタイムに プロジェクト を評価・改善するために有効である 可能性が確認された 。
佐藤 明
IT業界では顧客から受託する開発プロジェクトにおいて,開発規模とは関係なく,赤字プロジェクトが発生している.赤字プロジェクトの撲滅は顧客からプロジェクトを受託する企業にとって重要な経営課題の一つである.当社も同様に,赤字プロジェクト撲滅対策を継続的に実施している.近年では中小規模案件での赤字プロジェクトの発生が喫緊の課題となっており,中小規模案件では若年層や経験の浅いプロジェクトマネージャーが担当する案件において,見積スキル不足に起因する赤字プロジェクトの発生が散見される状況である.本論文では,筆者が全社の見積取りまとめ部門に所属しており,プロジェクト横断的な対応を要請されているため,全社の若年層や経験の浅いプロジェクトマネージャーに向けた見積スキルアップ対策として実施した,見積力強化研修や見積内容チェックリストの導入施策とその導入効果について紹介する.
掛川 悠,大貫 正也,米原 大輔
ビジネス環境の変化に伴い,従来ウォーターフォール(以降,WF)型の開発が主流であった大規模ミッションクリティカルシステムにおいてもアジャイル開発へのシフトが進んでいる.ミッションクリティカルシステムにおけるアジャイル開発では,柔軟性,アジリティといったアジャイルのメリットを享受しつつも,WFと同等の品質を求められる,いわゆる品質重視のアジャイル開発になることが多い.筆者の所属プロジェクトにおいては,ミッションクリティカルシステムならではの高品質を維持しつつ,柔軟性,アジリティ,そして生産性を高次元で両立させる開発としてテスト駆動開発(以降,TDD)をベースとしたアジャイル開発を行っており(以降,TDD高品質アジャイル),その品質管理プロセスを構築する必要があった.一方,アジャイルの品質管理手法は未だ確立されていない.そこで,ミッションクリティカルシステム,アジャイル,TDDそれぞれに求められる品質管理要件や先行事例を整理した上で,それらを矛盾なく統合し,TDD高品質アジャイルに最適化した実践的な品質管理プロセスを構築した.そして,実案件への適用を通じてその有効性を確認することができた.本稿では,該当品質管理プロセスの設計思想,具体的な分析観点・タイミングを実際の帳票を交えて説明するとともに,実案件を通じた検証結果を示す.
井川 大介
我々システムエンジニアがシステム開発を行う現場では,昨今,プロジェクトマネージャー(PM)人材の不足,それによる事業拡大機会の損失という話をしばしば耳にする.我々の職場でも同様であり,今後,競争を勝ち抜いていくためには,PM育成によるPM不足の解消が重要である.しかし,PM育成には時間がかかるとともに,育成方法についても確立された手段があるわけではない.また,PMに求められる知識領域,対応スピードは年々増している一方で,育成する側で,プレイングマネージャーとして働く管理職にとってPM人材育成が後回しになっている実態もある.そうした状況のもと,今回実践した後方支援によるサポートは,PM人材育成,PM不足解消に対する有効な手段の一つになり得る.また,PM育成を通じて,やりがいあるPMの魅力を若手に伝えていくこと,その仕組み作りを進めていくことが我々には期待されている.
佐藤 茂弘
近年,ITシステムはシステムのオープン化やクラウドの利用拡大で市場が拡大している.一方,少子高齢化やIT技術の急速な進歩により,最新のIT技術を扱う人財が常に不足している状況にある.基幹システムなどのミッションクリティカルなシステム開発では,実現すべき要件は,より高度で複雑となり多くの関係者が携わることから,高いマネジメントスキルが要求される.多くのプロジェクトマネージャーがプロジェクトマネジメントの知識体系であるPMBOKを学習し,基本的な知識を得ている中,品質・納期・コスト(QDC)を満たせないプロジェクトは発生している.また,単にプロジェクトを管理するだけではなく,いかに付加価値を提供できるかがますます重要になってきている.そこで,プロジェクトを成功に導く為に,SE作業の基本的な進め方と高品質な作業を行うためのノウハウをSEガイドラインとしてドキュメントに纏め,このSEガイドラインを使ってプロジェクトメンバーに定期的な教育や動機付けを行った.その結果,作業品質を確保し,プロジェクトを成功させることができた.プロジェクトメンバーはその効果を実感し,この取り組みの有効性を確認できた.本稿では,高い作業品質を確保するプロジェクトマネジメントの仕組みについて述べる.
高橋 玲児
本研究では,インフラ系システム構築プロジェクトの契約形態における一括契約から多段階契約への移行を促すアプローチについて考察する.インフラ系のOT(Operational Technology:制御技術)システムでは,物品購入の発注形態に準じて一括契約が長く適用されてきた.プロジェクトのリスク回避や効率化の観点から,多段階契約が望ましいとされているが,一括契約に慣れ親しんだ発注者側が移行に消極的な場合もある.本研究では,要件定義プロセスを中心に,発注者と受注者が円滑にプロジェクトを進行させるための実践的なアプローチを考察する.具体的には,発注者側が一括契約に慣れ親しむ理由の分析や,発注者に対する多段階契約のメリットの説明などを検討する.本研究の成果は,発注者と受注者の間での円滑なコミュニケーションを促進し,一括契約から多段階契約への移行の成功に寄与することが期待される.
溝渕 隆,三宅 敏之,仁尾 圭祐
プロジェクトに遅延が発生した際の代表的なリカバリ手法としてよく知られているものに「クラッシング」と「ファストトラキング」の2つがある.日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)によると,システム開発プロジェクトにおける最適な工期は「投入人月の立方根の2.7倍」といわれており,クラッシングによる投入人月の増加は工期の延長につながる場合もある.そのため,システム開発プロジェクトの遅延のリカバリ手段としてファストトラッキングが用いられることが多い.ファストトラッキングでは直列にスケジュールされたタスクを並列化することで期間短縮を行うが,タスク間の関係性を見誤り業務的な依存関係のあるタスクを並列化してしまったことで期待した効果を発揮できず,手戻りや品質問題を引き起こしてしまうプロジェクトは後を絶たない.そこで本論では,プロセスマイニング技術を活用することで,タスク間の業務的な依存関係を明確にし,並列化可能なタスクを適切に選定することで,システム開発におけるファストトラッキング時のリスク低減手法を提案するものである.
植野 晃成,廣滝 祐二,須藤 智子,正木 聡和
製品パッケージ適用システム開発の場合,顧客要件に対応し,機能ごとに製品パッケージへのアドオン/カスタマイズを行う為,ウォーターフォールモデル開発を前提としているものの,開発工程(詳細設計工程~単体テスト工程)において,機能ごとに詳細設計工程~単体テスト工程を推進する開発モデル(五月雨開発と定義)となるケースが多い.五月雨開発の品質確保では,各開発担当者力量と成果物品質の評価を,早期かつ適切な品質評価対象選定を行い,実行することが重要である.本稿では,五月雨開発における早期品質確保を目的とした,各開発担当者力量評価,早期かつ適切な品質評価対象選定施策の推進によって,早期品質確保を達成した事例を考察する.
石田 裕之,宮崎 肇之,若林 裕二
昨今,変化の激しいビジネス環境に対応するため,アジャイル開発への注目が高まっている.アジャイル開発は短期間でのリリースが特徴の開発モデルであり,開発ベロシティを高めることでプロダクト価値の向上が期待できる.定期的に安定したリリースを行うためには,適切なストーリーポイントの見積もりとチームベロシティの向上が必要である.ストーリーポイントは作業全体の大きさを表す指標であるが,ストーリーの規模を測る明確な定義はなく,チームメンバそれぞれの経験をもとにプランニングポーカーなどの手法を使用して各ストーリーの大きさを決定する.プランニングポーカーでストーリーの大きさを適切に見極めることができないと,その後のリリース計画およびベロシティの計測に影響する.そこで本稿では,データサイエンスの視点から実際のアジャイルプロジェクトにおけるストーリーポイントの見積もりの妥当性を振り返るための手法を提案する.提案内容としては,回帰モデルを用いてストーリーポイントと実績工数からアジャイルチームの基準工数を決定し,乖離した箇所を特定して振り返りを行う方法である.また,社内のプロジェクトを事例に本手法を用いた振り返りの事例を紹介する.本手法の振り返り結果を元に,プランニングポーカーでのストーリーポイント見積もりの精度向上と安定したリリースに向けたチーム力の向上を目指す.
山中 信一
ビジネス手法がプロダウトアウトからマーケットを意識したものが主流となる中,顧客との接点が重要となっている.プロジェクトマネジメントにおいても,顧客とのコミュニケーションの向上が,プロジェクトを成功に導くために重要な事項となっている.ステークホルダーマネジメントの方法論など様々に論じられているが,顧客の事務所所在地に着目すると,それぞれの地域の文化・特性があり,各地域の特徴を踏まえた顧客マネジメント,コミュニケーションが不可欠である.本稿では,各地域の特徴・特性を考察し,実プロジェクトで実践したコミュケーション活動により,スケジュール遅延を効果的に防いだことを示す.
川俣 智
ITプロジェクトにおいてQCD等,プロジェクトの目標を達成するためには,利用部門と連携した適切な要件定義,設計者による上流工程における品質の作り込みや,運用部門における受け入れ検証等様々な利害関係者との合意が必要となる.このような利害関係者と合意を得るために,プロジェクト・ステークホルダー・マネジメントのプロセスの中で,様々なツールをもとにステークホルダー管理を実現するが,プロジェクトマネージャの経験や勘に委ねられるところが多く,経験が浅かったり,組織の在籍期間が短いプロジェクトマネージャを配置したプロジェクトでは,ステークホルダー管理に失敗するリスクが高い.そのため,計画フェーズで作成するステークホルダー・エンゲージメント計画書に従いステークホルダー管理を行い,PM,PMOなどによって問題発生の予兆を監視する.従来のプロジェクトにおいては,ステークホルダーのコミュニケーションの齟齬を予防する観点からも,コロケーションが推奨されていたり,対面での合意形成が重要視されていた.しかし,近年の感染症の拡大を受けて,感染症予防の観点からもテレワークが促進されており,従来のコロケーション環境下であれば,比較的見出しやすかったステークホルダー管理不良の予兆を見逃す可能性が高くなっている.このため,ステークホルダー管理の状況を可視化することが重要である.今回,ステークホルダー・エンゲージメント計画書に,テレワーク主体の環境で重要となる,コミュニケーションのプロトコルを明確化し,進行中のITプロジェクトに適用し,その効果を検証した.その結果,本プロジェクトにおいては,意思決定に必要となるコミュニケーションは対面のコミュニケーションが望ましいことが分かった.
賀地 睦
日本の心理学者である三隅二不二によって提唱された『PM理論』とは目標設定や計画立案,メンバーなどによる目標を達成する能力とされる『P機能(Performance Function:目標達成機能)』とメンバー間の人間関係を良好に保ちながら,集団のまとまりを維持する能力とされる『M機能(Maintenance Function)』に分類され、各々の能力の大小によって4種類のリーダーシップタイプに分類される.これらのタイプの違いがプロジェクトの醸成方法や,業務の生産性,トラブルの減少など,組織に対する影響に関連することが実証されている.また組織としては最終的にP機能とM機能が一番強いとされる『PMタイプ』に個々のプロジェクトマネジャーを変化させることが課題となるはずである.弊社においても類似した問題を抱えており,そもそものプロジェクトマネジャーの数が不足している、プロジェクトマネジャーの育成に苦慮しているといった背景がある.以上のことから弊社内におけるプロジェクトマネジャーのプロジェクト推進状況を確認し、どのタイプのプロジェクトマネジャーたちにどのようなトレーニングを行うことが『PMタイプ』の変化に繋がるのかを考察し,最終的にその実行に対する課題,効果および有用性ついて考察を行った.結果として『PMタイプ』と必要なスキルセットの関連付けは確認できなかったが、どのプロジェクトマネジャーからも『交渉』について時間を要していることが確認できた.
川原田 一篤
システムの安定稼働を実現するためには,設計・構築フェーズで適切な運用設計を行い,運用フェーズで適切な工数内で運用設計どおりに運用を行うことが重要である.しかし,ITインフラシステムの設計・構築フェーズ完了後,運用フェーズでシステム運用作業を実施した際に,定期/障害運用フローや定期/障害復旧手順書の不整備などにより,想定よりも作業に時間を要することがある.想定される要因として①運用設計時の運用項目の検討不足.②運用フェーズでの運用管理文書の更新漏れ.③運用要員のスキル/経験不足.の3点が原因になることが少なくない.本稿では,設計・構築フェーズ時に運用設計で検討すべき事項および,運用フェーズ時にシステムの安定稼働に必要な定型業務や障害対応を適切に対応するための改善施策と,改善の結果,チーム内の稼働時間の変化について述べる.
福田 淳一
本論文は筆者が2023年PM学会秋期研究発表大会で発表した「プロジェクト満足度評価スコアモデル開発の試み」の続編に当たるモデルチューニング編である.昨年の論文で発表したモデルの精度はAR(Accuracy Ratio)値が0.32であり実用には供せられない試行レベルのものであった.今回,モデルのチューニングを実施した結果,AR値は0.64と倍に向上している.精度を低下させる原因は主にデータにあったので,データの偏りの除去や統計的な手法によるデータ増幅等のチューニングを実施した.データの離散化およびロジスティック回帰分析によるモデル作成の過程は変えていない.出来上がったモデルによると,コスト,工期,品質の交互作用が最も満足度に寄与する変数となった.また,品質のみによる満足度の評価は難しく,満足度はかなり低めに調整される傾向にあることも示唆している.前回のモデルとは異なる結果となっているが,これは分析に使える実データが不足していることが主な原因と考える.本論文ではデータチューニングの過程とモデルの解釈,課題と今後の展望について述べる.
吉田 弘毅
顧客とPoCを通じて新規のパッケージ製品を開発していく場合,開発前からパッケージ製品の販売価格をあらかじめ定めることは難しい.PoCの初期段階では期待成果を得られるか不確実であること,PoCの途中成果により顧客期待値も変動することなどが相まって,開発コストを想定することが困難なためである.一方で,実システムとして導入するには,顧客価値よりも低い価格でシステム提供できることを示せなければならない.本稿では,パッケージ製品の販売価格を決定するために、顧客価値を算定し、顧客価値とパッケージ製品の需要価値との比較により、顧客価値に合致させるためのパッケージ製品の価格設定を実践したので報告する.
小宮 啓暢
プロジェクトが危機にさらされる理由は多岐に渡るが,計画不備に起因するケースが多いのはよく知られている.ゆえに,我々は計画段階を重要視し,実現性を最大化しようと努力する.ただ,それでも不確実性は排除できない.加えてプロジェクトの複雑化・肥大化,価値観の多様化,コロナ禍によるニューノーマル等,プロジェクトを取り巻く環境が前にも増して慌ただしい.プロジェクトは常に何が起こるかわからない状態にあり,窮地に立たされる可能性は絶対に拭えない.一方,プロジェクトにおいて最も大きな不確実性とは人間(ステークホルダー)である.彼らはプロジェクトを停滞させるリスクを持つが,より推進させる力・避けられない大波から守ってくれるための盾ともなり得る.つまりプラス・マイナスの両面持った不確実性であると言える.これをうまくコントロールすることが,プロジェクトにおける不確実性を管理することに繋がる.それゆえ,プロジェクトマネジャーはステークホルダーの不確実性をよりシビアに・悲観的に評価し,その上で影響力を行使できる状態にしなければならない.本稿では,プロジェクトの成功確率を少しでも上げるため,ステークホルダーマネジメントを悲観的に捉えた上でのアクションを通じてプロジェクト内外への影響力を高めていく、というアプローチを検討する。また、本論の実案件への適用結果,有効性を論じていく.
角 正樹
問題プロジェクトの撲滅はシステム開発業界の重要課題ではあるが撲滅は難しく、「これを実行すれば必ず成功する」という王道は存在しない.問題の程度に大小の差はあれども、問題発生を抑止できていない状況にある。プロジェクトの立ち上げに際して「皆でプロジェクトを成功させよう」と訓示しても,プロジェクトメンバにはさほど響かない.むしろ,「当たり前のことを訓示してどうする」と反発されかねない.しかし,筆者が過去に担当したプロジェクトで「このプロジェクトを大炎上させ,過去最悪の損失を出そう!」と冗談半分で訓示したところ,大爆笑で盛り上がった.「大炎上,過去最悪の損失」を真に受ける者は誰もいないが,この訓示を逆説として,「大炎上,過去最悪の損失とは逆のプロセスを遂行すれば良い」と考えたはずだ.「事業に失敗するコツ 12 か条」を社訓として掲げている会社がある.この社訓は「ここに掲げてあることはやってはいけないが,それ以外のことは自由にやってよし」の意味であり,社員達が委縮せず自由闊達に振舞えるよう意図したものである.本稿では,過去に発生した問題プロジェクトの真因を分析し,そこから逆説的にプロジェクトを成功させる秘訣とその教育方法を探ってみた.
杉本 一樹
昨今,ますますITプロジェクトにおいて技術や要件の変動性・複雑性が増しており,プロジェクトチームはより高いパフォーマンスを発揮することが求められている.このような背景のもと,アジャイルのプラクティスを取り入れ,チームビルディングに取り組んだ事例を取り上げる.プロジェクトマネジメントにおいてスコープ,納期,コストと同様に,チームビルディングも重要な要素の一つである.チームが結成され機能的な状態となるには,共同作業を通して信頼を築いていく必要があり,積極的な働きかけが重要だと考える.事例のプロジェクトは筆者の所属するコミュニティにおいて,コミュニケーション強化に関する取り組みを課題に挙げ「心理的安全性,自主性,透明性」に重点を置いたチームビルディングを行った.チームメンバーは直接の面識はなく,遠隔での作業を中心に活動を行った.チームメンバーの意見をもとに考察を行う.
山本 久一
金融業界において,デジタルトランスフォーメーション(DX)は市場競争力を維持・強化するための必須要素となっており,地方銀行もその波を大きく受けている.地方銀行は自己改革を推進し,顧客への支援を通じてDXに取り組む一方で,自行保有技術の最新化・要員育成・経費効率といった課題に直面している.これらの課題克服の実例として,小規模な範囲からシステム構築に取り組み,段階的に規模を拡大していくことが多い.その結果,DXだけにとどまらず,自作の小規模システムが林立し一部のスキル保有要員による運用が行われている.しかしながら,これらの自行運営システムが,基幹系システムおよび周辺システムに影響を及ぼすことがあり,基幹系システムの本番運用や更改プロジェクトにおいて考慮すべき課題が少なからず存在する.本論文では,地方銀行の基幹系更改プロジェクトを複数遂行してきた実例をふまえ,課題の整理と影響軽減施策について考察を行った.
佐藤 一章,大橋 敏明,相澤 剛,奥田 兼次,嶋村 和良
当社では,システム開発における不採算プロジェクトが問題となっていた.主な原因は,上流工程でのリスク検知および対策の遅れであった.また,トップマネジメント層,SE,営業部門の組織連携が非効率であったことも一因であった.そこで,早期リスク検知と組織連携の強化が課題と考えた.具体的には,プロジェクトに関するデータをリスクに換算して「リスクの見える化」を図り,リスクを早期に検知する仕組みを導入した.また,トップマネジメント層,SE,営業部門がスムーズにリスクを共有し,対策を実行できる体制とプロセスを構築した.その結果,近年では不採算プロジェクトの減少とともに会社全体の利益率が向上してきている.本稿では,どのようにして早期リスクの見える化および検知する仕組みを構築したのか,さらには効果的な組織連携を実現したのかについて考察する.今後の展望として,さらなる効果的なリスク検知・対策の強化についても述べる.
真置 敏昭
プロジェクトを開始する際には,スケジュールマネジメント,コストマネジメント等,マネジメント計画をたてると思われるが,予定していたプロジェクトが受注できなかったり,いざプロジェクトが始まっても,スコープ変更が行われることは,たびたび発生する.その際の人的リソース変更については,調達マネジメントの実施や,他プロジェクトからリソースを移動することで対応していると思われる.しかしながら,機能型組織においては,組織間の垣根の高さや目先の場当たり的な対応により,必ずしも効率的な人的リソース配置が行えないケースもある.さらに,機能型組織においては,専門的な知識は身に着くものの,組織が硬直化し,広い視野で物事を見る機会が失われているケースもある.本稿では,機能型組織における人的リソースの効率的な配置と,配置した人的リソースをどのように組織成長につなげていくことができるかを示す.
三好 きよみ
東京都立産業技術大学院大学では,社会人のための専門職大学院として実践的な人材の育成に取り組んでいる.プロジェクトマネジメント科目として,プロジェクトマネジメントの基本・応用,シミュレーターを用いたプロジェクト・マネジャー疑似体験,大規模アジャイルのマネジメントといった科目を開講している.プロジェクトマネジメント科目では、人間関係スキルの1つであるコンフリクトマネジメントに関して、シナリオを用いたグループ演習を行っている.本稿では,シナリオを用いたコンフリクトマネジメント教育の取り組みについて報告する.シナリオとして利用するのは,本学の特色であるPBL(Project Based Learning)において開発した,コンフリクトマネジメント手法のためのガイドブックである.演習後のレポートからは,受講生のコンフリクト対処の重要性などに関する気づきや内省などが確認された.
野口 美帆,下田 潔,荒添 雅俊,三原 克史,大貫 敏之,河﨑 宜史
プロジェクトマネージャは,プロジェクトで起こり得る事象に対して,迅速かつ的確に意思決定を行うための感性(実践知)を磨く事が求められている.この感性を磨くことを目的に,対面形式のボードゲームを開発し研修を実践してきた.しかし,社会状況の変化によりリモート形式の研修が求められたので,オンライン形式の研修方法を新たに検討した.従来のボードゲームは対面形式で実施し,非言語コミュニケーションで意思伝達ができる環境であった.しかし,オンライン形式は非言語コミュニケーションによる意思伝達は難しく,意思伝達は言語での論理的な説明及び説得で行われなければならないので,今までの実績から重要な事象を限定し,対策案を論理的に説明,説得させることに重点を置いた.さらにはプロジェクトの変化への対応力に加えて,プロジェクトマネジメントの知識体系の中で形式知が認識できる構成とした.これにより,対面形式と同等な実践知獲得が認められたので,手法の詳細と実適用に基づく有効性について述べる.
西山 美恵子
本調査ではアジャイル開発の品質管理手法としてのテスト駆動開発について探究し,現状と課題を整理するものである.アジャイル開発は迅速なリリースとフィードバックにより,継続的な改善を促進する点で優れているが,品質の確保が課題となりやすい.具体的には,アジャイル開発によるプロダクトの内部品質,中でも保守性の高いコードをアジャイル開発の中でどう維持していくのかに焦点を当て,その手法としてTDD(テスト駆動開発)に着目して考察する.本調査では,アジャイル開発に保守性の高いコードについてどのように維持・管理していくのかついて分析し,今後実践するうえでの考慮する点について考察していく.
大関 一輝,長田 大河,森本 千佳子
本研究は,SI企業における部員間の積極的な発言や発表を促進し,信頼関係の構築を目指した部会コンテンツの改善に関する取り組みである.先行研究では,帰属意識を醸成するための「知る」活動を実施してきた.その結果,部会の満足度は向上したが,部員の積極的な発言や発表は見られなかった.そこで本研究では,先行研究の「知る」活動に加え,新たに「小さなアウトプット」活動を導入し,「お互いを知る」と「小さなアウトプット」をテーマに部会を実施した.それにより,部員の発言や発表への心理的障壁を取り除き,積極的なアウトプットの促進を目指した.アンケート調査を通じて活動の効果を評価し,結果として部員間の信頼関係の構築やアウトプットの活性化が確認された.本研究の取り組みは,様々な就労形態を有する企業における組織の活発化に寄与するものであり,仮説に基づく実践とその成果を報告するものである.
矢賀 寛久
プロジェクト個々の観点から,プロジェクトに参画する要員は固定してチームビルディングを行ったほうが安定的なパフォーマンスが発揮され,プロジェクトの確実な成功が期待できる.しかし,限られたリソースの中でより多くのプロジェクトを受注し,より大きな成功に導くためには,プロジェクト間におけるリソース流動化やコミュニケション活性化などが期待できるプログラムマネジメント手法を用いる必要がある.本稿では,筆者が直面した複数団体で同時期に発生したシステム更新プロジェクトにおいて,従来のプロジェクトマネジメント手法をプログラムマネジメント手法へ拡大,実践した経緯及びプロジェクト遂行中に発生した課題及びその対応について記述する.
石川 龍
「ある問題に対して,過去のプロジェクトではどのように対処したか」といった情報には,プロジェクト実行における問題の解決策もしくは解決策を導くヒントが含まれている事がある.よってプロジェクトは実行するだけでなく組織のプロセス資産としての教訓や振り返りをきちんと残すことが極めて重要である.しかしながら多くのプロジェクトでは完了フェーズにおいて工程・プロジェクトをまとめて振り返る事が多く,思い出せないものや個別のオペレーションに特化した教訓事項等が収集し辛い課題がある.本稿で紹介するプロジェクトでは初期フェーズから教訓登録簿を用意しリアルタイムな振り返りをおこなった.プロジェクト期間の教訓登録簿の運用方法と得られた教訓と分析結果,次回以降のプロジェクトに向けての反省点等を紹介する.
星 魁人,清藤 駿成,継田 尚哉
ソフトウェア開発などを行うIT業界では,社外のパートナ人財との協力がプロジェクト成功の重要な要素となる.あるプロジェクトが完了したときに,高い技術力を持つパートナ人財には社内の他プロジェクトに参画して契約を継続してもらうことで優秀なパートナの確保が可能となる.しかし,銀行向け,自治体向け,製造業向け,などプロジェクトが対象とするインダストリセクターごとに評価観点が異なるため,優秀なパートナであるにも関わらず他のプロジェクトでは適切に評価されず契約更新できないケースがある.そこで,パートナ人財のこれまでのプロジェクト参画実績から各インダストリに共通した評価観点をもとに他プロジェクトへの適性判断を行う人財マッチングAIを構築した.人財マッチングAIを活用した他プロジェクトへの推薦方法を考案し,過去のパートナ人財データを用いて実業務で活用できるか評価を行った.評価の結果,インダストリ固有の評価観点やパートナ人財のスキル感といった情報を追加することでより訴求力が上がることが分かった.
佐々木 建
これまで20年以上に亘り当部の事業を支えてきた銀行営業店ソリューション(アプリケーション)が存在する.昨今,金融機関を取り巻く環境は大きく変化しており,従来業務からの変革が求められている状況となっており,営業店ソリューションの在り方についても再考するとともに,次の事業の柱となる新たなソリューションを創出することが自部門の喫緊の課題である.これまで,顧客ニーズに合わせたソリューションの検討と製品リリースは行ってきているが,今後の事業の柱となるソリューションを創出するためには,組織的な取り組みが必要である.こうした状況を踏まえ,新たなソリューションを生み出し,事業をけん引するために,各種マネジメント体系の考えを取り入れたチームの組成や必要人財の確保を行い,成果を上げることが求められており,組織としての意志を示して改編に取り組んだ際に発揮したリーダーシップについて述べる.
迫 佳志
近年,価値観の多様化に伴い,心理的幸福感(ウェルビーイング)の考え方に注目が集まっている.また,心理的幸福感は,働き方とも密接に関わってくるため,働きやすさの新たな基準となりつつあり,多くの企業で重要視されている.プロジェクトマネジメントの観点においても,心理的幸福感を高めることで様々な成果が出ることが知られており,プロジェクトの成功には欠かせないものである.しかし,取り巻く環境の変化が激しい現代では,プロジェクトメンバーの心理的幸福感を高く保つためには様々な工夫が必要になってくる.本稿では,筆者が日々のプロジェクトマネジメント活動の中で取り組みを行っている具体例を交えながら,心理的幸福感を高めるために効果的な手法について考察を行う.
渡辺 由美子,北條 武,中島 雄作
NTTデータグループでは20年前からPM育成のためにメンタリングを実施しており,筆者らが運営している.メンタリングの効果的な運営方法やメンタの育成方法については本学会で報告している.経験豊富な上級PMがメンタとなり,成長過程にある若手PM(メンティ)に対する実践的な助言,指導を通じて,ヒューマン・スキル,ビジネス・スキル,効果的なPM技法の活用等,PMスキルの継承を行っている.メンタからメンタリングや現場のプロジェクトを通じ,現在のPMに対する課題感を論じてもらった.その課題感は,全体を俯瞰してみる力,マクロ的なコミュニケーション力であった.そこで,メンタリング終了時に,半年間の振り返りと今後に向けた活動宣言を,参加者全員が相互に発表するという取り組みを行った.当該発表の様式については,PMのコミュニケーションに必要な要素を盛り込み,かつ参加者に対して事前に意識付けを行うという工夫を施した.さらに,近い将来,生成AIの適用に伴うプロンプト等の的確に言葉を伝えていく重要性にも意識を高めるようにメンティに伝えた.そして,事務局も生成AIを活用し,終了時アンケートの傾向と対策について分析を行った.本稿では,メンティがPMメンタリング参加後,常に現在のマネジメント手法の問題に対して思考を重ね,時代や案件特性,顧客に合わせて,マネジメント手法を進化させることができる「プロアクティブなPM」を目標としていることが,前記活動宣言からわかったので,その事例を報告する.
大井 俊彦
総工数10000人月,4年,最大ヘッドカウント450名の大規模プロジェクトを東京・札幌・上海のリモートを含む3拠点で運営して成功裡にサービスインを迎えることができた.一般的なプロジェクトの運営には山谷があり,それらを乗り越えるには,ステークホルダーやチームの協力が大きく寄与することは言うまでも無い.一方で本稿では,チーム依存で無くプロジェクトマネージメントの視点で当初から計画可能なプロジェクト運営上の成功要因となった工夫をまとめる.工夫ポイントは,工程事前準備,体制,品質管理の3点に集約された.また,対象プロジェクトの振り返りを通して,今回は事前に計画できなかったが,類似プロジェクトを実施する際に最初から考慮できると良いと考えられるポイントも整理する.
柳沢 満,吉村 直人
当社ではソフトウェアの開発生産性,品質向上を目的として,上流工程の成果物に含まれる曖昧表現,誤表記を機械的,網羅的に検出するドキュメント検証サービスの社内展開を推進している.自治体向けパッケージソフトウェア開発部門とドキュメント検証サービス開発部門で連携して導入支援活動を継続的に行っており,これまでの取組みから,ドキュメント検証サービスの検出結果を削減することで確認工数を大幅に削減できる見込みが立った.本稿ではドキュメント検証サービスの導入支援活動の効果を測定するため,別の自治体向けパッケージにおいても同等の結果が出ることを想定し,検証に使用する辞書のカスタマイズを行い,そのカスタマイズした辞書による分析(検証)した結果を評価する.その分析(検証)結果と,検査員によるドキュメントのレビュー結果を比較検証して評価する.さらにドキュメント検証サービス利用時の開発プロセスの改善についても報告する.
石井 和弥
若手プロジェクトマネージャーにおいて,プロジェクトを成功に導くまでに,様々な課題があると考える.その課題の根本的な要因には,プロジェクトマネージャーとして必要なプロジェクトの経験や技術的な知識が乏しいことが挙げられる.しかし,若手プロジェクトマネージャーの経験値不足,知識不足は一朝一夕で埋めることはできない.そのために,周りの環境や人材の活用方法および, 若手プロジェクトマネージャーが抱える課題を解決するために有用的な環境が非常に重要であると考える.したがって,筆者自身の経験則と自社の若手プロジェクトマネージャーからのヒアリングを基にプロジェクトの成否に大きく影響すると考えられる要因とその対応について述べる.
田中 匠,吉永 孝文,西 由貴,岡田 靖士
病院情報システムは,電子カルテシステムを中心に医事会計システム,放射線部門システム,検査部門システム等,様々な部門ごとの専用システムが存在し,各現場の業務に連動して,それらのシステムが双方向にデータ連携することで成り立っている.病院情報システム更新プロジェクトでは,病院内のクライアント端末及びサーバ等の機器更新を行い,更新後の機器に対して各部門システムベンダーがソフトウェアの再構築及びデータ移行等を実施する.400床を超える中核病院や大学病院では部門システムの数は50を超え,プロジェクトを計画的に進めるためには,これらの部門システムを取り扱うベンダーの管理(進捗/課題/品質等)は重要なファクターの1つである.今回,限られたマネジメントリソースの中で効率的に管理する方法を具体的なプロジェクト事例を通して説明する.
瀬川 直矢,山口 千晴,竹村 和浩
システムの拡張性や可用性などを向上する設計手法のひとつとして,マイクロサービスアーキテクチャが注目されている.このようなマイクロサービス型システム開発では,機能単位で順次開発,リリースが可能なアジャイル開発手法に代表されるインクリメンタル開発が採用されている.本開発は,国内で主流のウォーターフォール開発とは開発プロセスが大きく異なるため,旧来にとらわれない品質管理手法の確立が急務となっている.筆者はインクリメンタル開発プロジェクトに参画しており,高品質の維持を目的として,①品質とスピードを重視した品質評価ポイントの設定,②インクリメンタル開発の特徴に応じた定性的品質評価による品質の積み上げを実施した.本稿では,2つの施策による設計・テスト工程の品質マネジメント効果を考察する.
中村 健治
ここ数年で,日本でも政府関連・東京都を含め,多くの公共の場でもアジャイルやDXといった言葉を聴く機会が多くなっている.また,今までは,アジャイルやDXと言えば,システム開発やIT関連を中心とした領域で利用されることが多かったが,最近は,システムやIT関連分野を超え,多種多様な場面で使用されるケースが多く拝見され,世間的にもかなり広がってきている.しかし,利用機会が増加したことで,本来の意味から離れた言葉のとらえ方や解釈の仕方が散見され,多様化し,IT関連のプロジェクトの推進にも影響を与え始めている.本論文では,システムの組織や開発の変遷から,アジャイル型プロジェクトを考察し,アジャイル型プロジェクトを推進するポイントに関しての研究結果を報告する.
松田 麻衣子
システム開発プロジェクトにおける投資予算金額は,発注元で費用対効果が得られる価格をターゲットに設定され,そののちに受注先に見積り依頼が提示される.一方でシステム要件は予算額や開発期間を考慮せずに,ユーザーから提示される.特に,ハードウェア保守期限に起因するシステム更改案件は,顧客業務改善へ寄与する効果が限定的であることから,この予算枠と要件のかい離傾向が大きい.また,「現行踏襲」という曖昧な要件提示により,詳細な条件が不明確な状況下での見積りを余儀なくされ,結果として投資予算と開発期間が折り合わないケースが発生する.本レポートでは,大規模・短期開発・低コストを要求されるケースを例において,実施した施策とその有効性について検証する.
小林 亮太
プロジェクト遂行において様々なリスク・課題が発生する.リスクマネジメントとしてリスクの洗い出し,分析,評価,戦略,予防策/対応策の立案などを行うが,ステークホルダーとのコミュニケーションなくしてリスクマネジメントは不可能と考える.今回,DX化実現に向けたアーキテクチャの全面刷新における技術面でのリスク.プロジェクト推進面では他ベンダ領域の現行システムリプレイスによる開発のためのインプット不足.向き合いのお客様PMとは初めてのプロジェクト.システムの特性上,外部結合以降の品質担保が必要など様々なリスクを抱えスタートしたプロジェクトにおいて,お客様とのコミュニケーションに重点を置いたリスクマネジメントの実践内容を報告する.
武内 和弥
プロジェクトマネジメントの知識エリアは,全体的にバランスを取って管理する必要があるが,プロジェクトの特性に応じて,特定の知識エリアに重点を置くことが求められる場合がある.近年,経験した複数ベンダーによるシステム開発プロジェクトでは,多くの関係者それぞれの背景や,それを管理するお客様PMの懸念に直面した.特に,ステークホルダーマネジメントおよびコミュニケーションマネジメントに重点を置いて進めてきた.本論文では,関係者の背景や懸念事項を分析し,どのようにしてステークホルダーマネジメントとコミュニケーションマネジメントを推進したかを含め,これらの知識エリアの重要性について検証・考察する.
岡崎 達朗,小林 義和,高田 晋太郎,末藤 守,近藤 正勝,秋庭 圭子
プロジェクトを成功に導くためには,過去の失敗プロジェクトと同じ過ちを繰り返さないことが重要である.そのため,過去の失敗事例から,プロジェクト状況が悪化していく際の典型的なモデルを作成し,進行中のプロジェクトがモデルに合致しているかを判定することで,悪化予兆を捉える取り組みを行ってきた.しかし,このモデルに基づいて人が悪化予兆を判定するには手間や個人差の問題がある.そこで,人による判定結果をAIに機械学習させることで,自動かつ早期に悪化予兆を検知する取り組みを行っている.本稿では,この取り組みについて報告する.
小境 彩子
マネジメント領域における女性が果たす役割はますます重要になっている.多様性を取り入れることで,組織の柔軟性と創造性が向上し,新しい視点やアイデアが生まれる.さらに女性のリーダーシップスタイルは共感や協力を重視する傾向にあり,チームの士気を高める効果や,職場環境の公平性の向上などを期待することができる.このように,女性とマネジメントの組み合わせは,組織の成功に不可欠な要素である.さらにこれらを支援することを目的として,「女性活躍推進法」の施行などをはじめとして,国や各企業においても女性活躍に対する積極的なサポートが行われてきている.一方で,残念ながら世界における日本のジェンダーギャップ指数はまだ低く,世界経済フォーラム「Global Gender Gap 2024」で報告されているジェンダーギャップ指数では,日本の順位は118位(全146か国中)という結果となっている.トップダウンアプローチによる女性活躍推進が行われているにもかかわらず,このような結果となっている理由について,実際に女性がマネジメント領域で活躍するために必要なことは何か,様々な業種や役職を任されている女性とのコミュニケーションを踏まえ,考察を行った.その中で多く聞かれたのが「女性ロールモデルの不在」というキーワードであった.この課題を解決することは容易ではなく,今後も中長期での多方面からのアプローチが必要である.これに対して,最も短期的で強力な効果を発揮する方法の一つとして,女性一人一人が「自分自身がロールモデルになる」という意識付けを行い,これに向けたマインドチェンジを行うという方法がある.本稿では,本ボトムアップアプローチの重要性について述べる.
住谷 多香絵,中島 雄作
大規模システム開発プロジェクトにおいては,長期間にわたって大人数のIT人材を確保し続けなければならない.我々の会社及び協力会社は,親会社の大規模システム開発プロジェクトのクラウドやデータベースの構築などシステムプラットフォーム領域を専担し,高度なIT基盤技術者を多く抱える.プロジェクトにおける管理工数は,プロジェクト全体の10~20%の比率であるという文献が存在し,我々の経験もそのとおりである.我々のプロジェクトでも,問題・課題管理,進捗管理,リスク管理,品質管理,生産性向上,コスト管理,内部統制など,プロジェクトにおける管理工数を熟練の管理職が一手に担っていたが,捌ききれないことにより,配下のチームリーダも前述のタスクを負担していた.負担が増えたことにより,チームリーダにPM管理業務が集中し過ぎて,オーバーフローしていた.しかし,高度なIT基盤技術志向が強い筆者らのメンバは,PM管理業務には全く興味が湧かず,むしろ避ける傾向にあった.そこで我々は,プログラマ,SEからPMへ昇格するための意義や目標を掲げるアプローチではなく,「こうはなりたくない」,「失敗したくない」,「負けたくない」という技術志向の人の欲求からいざなうアプローチのほうが良いと考え,高度なIT基盤技術者にも自主的にPM管理業務を遂行してもらう活動をした.結果として,当該プロジェクトは成功した.そして,当該プロジェクト完了後に,IT基盤技術者が好むICBのコンピテンス要素とは何かという視点で考察した.本稿では,大規模プロジェクトにおけるプロジェクト管理業務をIT基盤技術者に遂行させる心理的アプローチの一事例について述べる.
小形 絵里子,中島 雄作,大槻 義則
当社はITのプラットフォーム領域のシステム構築を主な主戦場としているが,筆者らの一部の部門だけはデータセンタの建築,空調,電気設備,配線工事などを担当するファシリティ部門である.当社における失敗プロジェクトはここ数年全く発生していない状況ではあるが,もし失敗プロジェクトが発生するとしたら,見積もり時,受注・契約締結前の事前検討不足であろうことが推察された.そこで,大型プロジェクトすべてについて見積提示前または受注契約前に,受注前リスクチェックを実施する仕組みを作ることにした.情報システムの開発における受注前リスクチェックシートは親会社のものを流用すると容易であったが,建設業の受注前リスクチェックシートは観点が異なるので,筆者ら建築業に従事するメンバが作成することにした.その作成においては,自らの経験・知見,普段使っている様式のほか,生成AIから示唆された観点も参考にした.結果として,当社の建設業務の見積もり時に適合した受注前リスクチェックシートを作成することができた.本稿では,建設業における受注前リスクチェックシートの作成に関する一事例について述べる.
清水 正一
IT業界に限らず,「人は必ずミスをする」という前提に立った場合,人的ミスやシステムの誤作動などのエラーを低減する(一定の確率範囲内にコントロールする)ことは,重要な課題である.エラーの発生確率を低減するための一般的な解決方法の一つとして,クロスチェックを採用することが効果的とされ,採用されることが多い.しかし,クロスチェックは,その効果や具体的な手順の落とし込みまで十分に検討されないまま,安易に採用されやすい手法でもある.クロスチェックを効果的に採用する際に十分な検討がされない場合,クロスチェックの採用に期待されていた効果が出ない可能性が懸念される.本稿では,クロスチェックの一般的概念をモデル化して整理するとともに,効果的なクロスチェックを採用する際のポイントについて考察するものである.
中島 雄作,石水 恵実,田本 樹里杏,﨑田 亜希子,内川 明美,齋藤 佳奈,高島 奈美子,煤田 弘法
我々は,過去,本学会で自社の新入社員研修について報告してきた.コロナ禍の状況を見つつ,集合研修とオンライン研修を織り交ぜて新入社員研修を実施し,雑談の促進,心理的安全性への配慮等,様々なノウハウを獲得したことを紹介した.自社の新入社員研修では,IT基盤技術の基礎知識を習得してもらう研修がほとんどを占める.情報システムの開発手順を教えることやプロジェクトマネジメントや品質管理に関することを教える研修は新入社員の期間は存在しない.本稿では,それら過去の活動について,IPMAのICBに沿って振り返って考察することにした.ICBの「視座」「人材」「実践」に関するコンピテンス領域から考察してみると,セルフマネジメントのコンピテンス要素が浮かび上がってきた.そして,新入社員という状況下では,明にプロジェクトマネジメント研修を行うよりも,それら優先度の高いコンピテンス要素を実戦形式で体感してもらうことが重要と考える.
山口 由貴,中島 雄作
本学会の2023年度秋季研究発表大会及びProMAC 2023において,生成AIを活用したインターンシップの企画と運営のプロジェクトマネジメントの一事例を発表した.当時新卒1年目の新入社員であった私が,次年度の新卒採用の候補となる学生向けのインターンシップを企画と運営しようとしたが,PMとして主宰することが初めてであったので,生成AIを活用しながらヒントを得て,プロジェクトマネジメントをすすめていった.我が社のWell-being経営方針を踏まえつつ,目的と目標の設定,タスクとスケジュールの管理,リソースの管理,リスク管理を採り上げて報告した.それらは米国発祥のプロジェクトマネジメント標準に沿ったものであった.本稿では,1年前に行ったインターンシップの企画と運営のプロジェクトマネジメントに関して,IPMAのICBに沿って振り返ることにした.但し,「実践」に関するコンピテンス領域は,米国発祥のプロジェクトマネジメント標準と類似するコンピテンス要素があるため,今回は除外し,「視座」と「人材」に関するコンピテンス領域に絞り込み,各コンピテンス要素に関して,PM初心者がどういう注意をすれば,円滑にプロジェクトマネジメントが推進できるかを考察した.本稿では,インターンシップの運営のマネジメントに関するICBによる一考察について述べる.
端山 毅
環境問題,少子高齢化,格差の拡大など社会的な問題が深刻化する状況下において,AIなど急速に発展する技術の活用と,事業環境の変化に対する迅速な対応が求められるなど,プロジェクトマネジャーは複雑な事情の中で多様な利害関係者と協力せざるを得ない状況に追い込まれている.リーダーシップやコミュニケーションなど対人関係能力(パワースキル/ソフトスキル)に磨きを掛けなければ,プロジェクトマネジメントそのものに関する知識やスキル(ハードスキル)の効能を発揮することが難しくなっている.本稿では,パワースキルの重要性が増している昨今の状況を概観し,その能力を向上させる方法について論じる.
大隈 泰將
近年,業務のデジタル化を目的とし,基幹システムを更改し,Cloudなどの新技術を有するシステムへシフトしている.システムの更改において並行稼働(現新比較)を行うことは,品質担保する上で,有効である.しかし,並行稼働(現新比較)作業の実施難易度の高さ,準備・実施に要するコストのデメリットが大きいことから,採用を見送るプロジェクトもある.本稿では筆者が体験した大型システム更改プロジェクトにおける並行稼働(現新比較)を踏まえ,現新比較の準備において実践した効率化を目的とした施策,新旧システムの並行稼働において現新比較を行うことによるリリース後の保守体制まで含めたトータルコストの低減効果について考察する.
原田 剛史
「2025年の崖」が差し迫る中,ITシステム刷新を急務とする企業が多く,各ベンダにてあらゆる手法でモダナイゼーションプロジェクトを推進している.適切な手法の選定は,プロジェクトの制約により異なる.特に現行仕様を生かし,新ニーズを多く取り込むシステム開発では,業務仕様面,技術面の実現性検証を行うこと重要である.過去のプロジェクトにおいて,上記の計画が不十分であり,設計からテスト工程においてコスト超過の問題が発生していた.これらの失敗・成功要因を分析した結果,業務仕様面の検証粒度,有識者のプロジェクト専任率が大きく起因していると判明した.この改善策として,検証粒度を高める取り組み,有識者のプロジェクト専任率を高める取り組みを行い,現在進行中のプロジェクトへ適用した結果,問題低減の改善効果が得られている.これらの改善策については今後のプロジェクトにも適用していくとともに新たな課題改善にも取り組んでいく.
高橋 新一
プロジェクトにはいろいろな課題や問題が発生するが,長期保守開発を行い,複数プロジェクトが行われている状況でのプロジェクト実施においては,さらに固有のリスクが発生する.特に,ミッションクリティカルな業務への対応や複数の組織にまたがったプロジェクト体制や,ステークホルダーが多岐にわたり複雑な要素が加わる場合も想定される.そこで,本論文では,コンプレックスプロジェクトの定義とそのリスク要因について検討を行う.また,具体的な事例をもとに,その対応方法を考察する.プログラムマネジメントにおけるコンプレックスプロジェクトのリスク考察を行うことで,対策準備に寄与することを目的とする.
三木 朗
日本社会のIT化が進む中,古くなった基幹システムを新しいシステムに移行するプロジェクト,つまりモダナイゼーションプロジェクトが増加しています.本論文では私達がそれぞれ特徴の異なる3つのモダナイゼーションプロジェクトを実施する過程で使用したツール,得られた知見を整理して紹介します.モダナイゼーションプロジェクトでは古い基幹システムの解析だけに目が向けられがちですが,業務の流れとシステム運用の考慮がプロジェクトの成否の重要なポイントとなります.私達は3つのモダナイゼーションプロジェクトを通じて,プログラム解析の自動化および生成AIの活用による見える化を実施しました.また業務の流れやシステム運用の見える化にも取り組みました.その結果,システムとプログラムの解析は一定の条件を満たすことで自動化が可能であることが分かりました.本論文が今後のITモダナイゼーションプロジェクトにおける実務的なガイドラインとなれば幸いです.
石原 雅也
PoCは新規事業やビジネスアイデアに対して試作と検証実験を行い、持続的な有益性があるかを検討するものであり、アイデアだけで終わらせず、新規事業や新たなプロダクトが会社の利益と発展につながるかを検証する重要な実証実験である。このような PoC プロジェクトを成功させるため、一般的には技術可能性,市場競争力・優位性などの観点より開発実現性や収益性を評価することが多い。本論文ではプロジェクトマネージャがパッケージ開発におけるPocを進めていく際に意識すべき観点について、ゲートチェックのプロセスを設けて開発の実行性、ニーズ合致度、価格競争力それぞれの観点を踏まえて検証結果の確認をしたことから、ゲートチェックの手法の再現性と効果について述べる。
浅野 実,山本 智基,大谷 悠太郎
昨今のプロジェクトマネジメントでは,プロジェクト判断の補助のため,BIツールの利用が増えてきている.BIツールを用いた分析手法一つとして,プロセスマイニング分析がある.プロセスマイニングは,作業ログの情報を可視化することで,プロセスの実態の評価を行い,プロセスを改善することを目的としている.本論文では,プロセスマイニング分析を実プロジェクトに適用し,プロセスの評価と改善検討に着手した事例を紹介する.実プロジェクトへの適用にあたり,同一プロジェクトの適用以前の過去データで事前検証を行い,特に重要と考えられる分析観点を特定し,分析の運用フローを定義した.その後適用対象のプロジェクトについて,ボトルネックの特定と定義したプロセスと実作業の乖離度合い(適合性)の評価を行った.評価の結果,当該プロジェクトにおけるボトルネック箇所と実作業とプロセスが乖離していることを特定し,改善に向けた課題を明らかにした.
大迫 礼佳
プロジェクトマネジメントにおいてリスクを効果的に管理することは,スケジュールの遅延や予算の超過を防ぎ,成果物の品質を維持するために極めて重要である.また,リスクを適切に管理するためには,プロジェクトチームが管理可能な範囲内でリスク項目の数を適切に制御する必要がある.しかしながら,いくつかのシステム開発プロジェクトでは,作業の平準化が不十分であるため,プロジェクト作業のピーク時にリスクへの対応が不十分となり,その結果,チームが管理可能なリスク項目の数を超えることがある.これにより,プロジェクト全体に重大な影響を及ぼす場合がある.特に,病院情報システムの構築プロジェクトでは,その重要性と複雑さからリスク管理が一層重要となる.病院情報システムが停止すると,患者の治療に直接的な影響を及ぼす可能性があり,安全性が損なわれることにもなりかねない.そのような状況を回避する目的で,段階的にシステム開発を行うプロジェクトが計画されており,自身もそのようなプロジェクトに複数従事した経験がある.本稿では,自身が従事した病院情報システム構築プロジェクトにおける段階的導入の事例を紹介し,比較による考察を行う.
佐々木 美緒
チームマネジメントを行うとき,チーム・プロジェクト全体の目的を踏まえた上で,チームの状況やメンバーのスキルに応じたマネジメント方法を検討することが重要である.筆者は,参画している基幹システム追加改善プロジェクトにて,若手メンバーが多いチームのチームリーダーを入社2年目で任命され,現在まで約3年間続けている.既にサービスインから数年経過し,安定稼働している基幹システムへの変更を行うため,障害が発生した場合はお客様業務への影響が大きくなってしまう状況,更に,自身を含め,経験の浅いメンバーが中心となってシステム開発を行うという状況で,システム品質を担保するために作成物のチーム内部レビュー体制を改めて構築した.本稿では,この経験をもとに若手中心のチームにおける効果的なマネジメント手法について考察する.
臼井 俊吾,高井 雄司,杉村 英二,佐藤 尚友
近年、急速に進む市場変化に合わせた柔軟なシステム開発が求められている。例えば、工程の終了を経て次工程に移るウォーターフォール開発から要求の変更に柔軟に対応するアジャイル開発への移行を行う企業が多く見られるようになった。しかし、旧来求められていた人材と、現在求められている人材にギャップがあり、急速に進む市場変化に合わせた柔軟なシステム開発への移行が難しい状況となっている。そこで、本稿では旧来と現在で求められる人材の違いについて考察すると共に、実際のシステム開発で試行錯誤した開発スタイルの変更に伴う人材リソースの考慮ポイントを整理した。これにより、今後のシステム開発における一助となれば幸いと考える。
足立 順,田中 邦彦,大和田 穣
近年の機械学習に代表されるデータ分析の高度化や、企業全体のデータドリブン経営を支える基盤としてDMP(Data Management Platform) への注目度は高まっている。DMP 上におけるデータセット開発においても、高速でのデータ提供が求められる一方、企業全体として標準化され利用しやすい高品質なデータの提供も求められている。高速なデータの提供を目的として、従来のウォーターフォール型開発手法にアジャイル開発要素を取り込んだプロジェクトの開発経験を通じて得た『大規模データセット開発において用いるべきマネジメント手法』に関する知見と、そこから見えてきた課題について言及する。
森 久
筆者は,PM学会メンタルヘルス研究会に所属して,プロジェクトマネージャーやメンバーが「心身共に健康」を確保しながら,プロジェクトを推進し,社会に貢献出来る方法を研究している.その活動の中で,プロジェクトマネージャーやメンバーが「様々な環境の変化」などで発生する強いストレスに対して,どのように軽減し回復する方法があるかについて,私たちは議論をした.厚生労働省の「仕事に関する強いストレス有無」に関する調査結果では,労働者の82%は,強い不安,悩み,ストレスを感じているという結果が出ている.本稿では,「レジリエンス」というキーワードを元に,困難な状況,危機的な状況に遭遇しても,ストレスを軽減し,立ち直ることが出来る人の特徴を分析し,その中でも特に重要な特性である「人とのつながり」を持つ能力について,ハーバード大学成人発達研究所の研究事例を元にPMの経験から推奨する.
横田 早紀,小林 万織,稲田 孝,宮島 雄一,加藤 潤,鈴森 康弘
エンタープライズ向けシステム開発においては,持続的な競争優位性を獲得するために、短期間でプロダクト価値の高いサービスを継続的に安定提供できるニーズが高まっている.既存のプロジェクトでは度重なる開発の結果、前述のニーズを満たせなくなってきており、この状況を脱却するためソフトウェアのリニューアルを行う必要があった.当プロジェクトにおいては、(1)要求仕様が不明瞭かつ設計書がない状況下で、(2)ローンチまでの期間が短く、(3)現行相当のユーザ価値を維持することが求められた.さらに海外のベンダと協業したオフショアの体制で案件を完遂する必要があった.本稿では,この高い要求に応えるために行ったマネジメント上の工夫・対策と成果に関して言及する.
蓮見 和也
プロジェクトマネジメントにおける様々なノウハウは,多くの成功/失敗をもとに蓄積されたその組織の有用な資産である.そのノウハウを形式知とし,伝承することでプロジェクト成功の再現性を大きく飛躍させることができる.ところが現在,多くの組織やプロジェクト環境で以下のような問題が発生している.プロジェクトマネジメントのノウハウがベテランに集中しており,その伝承がうまく進まない.膨大な労力と期間をかけて構築された様々なプロジェクト標準や開発基準などが形骸化している.これらの課題を認識し,危機感を抱いているものの時間がなく解決の目途が立っていない,などである.我々はCCPMをベースとしたプロジェクトマネジメント改革を進める中で,「段階的フルキット」「ネットワーク図作成」と有識者の形式知を組み合わせることで前述の課題に効果的にアプローチすることができた.本アプローチの詳細,具体的な事例,および得られた成果を本講演にて報告する.
橋本 美枝
VUCAの時代においては,企業が単独でイノベーションを生み出すことが困難になり,異業種間の連携や協力が不可欠である.日立グループが取り組んでいるLumadaによる顧客協創はこのような社会に対応するための戦略の一つである.Lumadaは顧客との協創を通じて新しい価値を創出するためのプラットフォームであり,当社でもデジタル技術を活用して社会課題の解決をめざしている.その中で当社内の新規アイデア提案活動において,農業分野のアイデアに日立の画像AI技術を活用する新事業を立案したところ,事業化検討に入ることとなった.しかし,農業分野は当社では知見がないため,事業化にチャレンジするには市場調査や業務分析の事前実施と相互補完できるパートナー企業が必要となった.そこで農業における栽培,収穫,加工,販売などの一連の知識を深めながら市場調査と分析,企業リサーチを行ったところ,農業関係企業との対話をスムーズに進められた.農業分野で事業展開している日立グループ会社,営農している企業,農機を開発している企業へ戦略的にアプローチした結果,Win-Winとなる相互補完関係を築けるパートナー2社それぞれとPoCを実施することができた.これによりLumada協創の考え方を各社と共有してビジネスパートナーとしての信頼関係を構築していった.本PoCが起点となり ,現在は別の新たな事業としてそのパートナー企業と相互補完の関係性への発展をめざして連携推進中である.新しい価値を生み出す戦略の一つとして ,事業化検討から今回のような企業間の関係性発展をめざした連携の継続が重要である.
藤咲 陽大,新谷 幸弘
アジャイル開発は、迅速な価値提供とチームの効率化を目指すプロジェクト管理手法であり、スクラムやカンバンなどのフレームワークを通じて短いサイクルで進行する。一方、ゲーミフィケーションは、ゲーム要素を非ゲーム環境に導入し、ユーザーのモチベーションやエンゲージメントを向上させる手法である。本研究では、アジャイルの特徴をゲーミフィケーションの観点から再考察し、両者の補完的関係を明らかにする。これにより、アジャイル開発プロセスに新たな視点を提供する。
矢野 雄輝,齊藤 拓也,池田 真也,松本 圭右,松島 明美
生成AIの活用が活発化するなか,ソフトウェア開発の品質判断にもAIを積極的に活用する必要があると考える.2023年,当社の情報通信業領域データを学習データとし,プロジェクト計画値およびコーディング工程(CD)完了時点の実績値を基に機能テスト工程(FT)バグ数を予測するAIモデルを構築した.また,そのAIモデルに説明可能なAI(以降,XAI)を適用してAI予測値の主要因を特定し,品質分析に活用する施策を構築した.そして,その施策に対するプロジェクト検証結果を本学会で発表した.今回,学習データの領域を情報通信業から当社の製造業,金融業など様々な業種を含んだSI系全体に拡げることで,情報通信業以外の業種にも対応可能なAIモデルを構築できた.また,完了した設計工程の品質を実績値の説明変数で分析したいため,訓練データの設計工程説明変数は実績値のみとし,計画値を除去した.この結果,XAIが予測値主要因としてあげる設計工程説明変数はすべて実績値となったため,プロジェクトは実績値に応じた品質改善のアクションを行えるようになった.また,XAI主要因分析結果を基にした品質分析文章の可読性を向上させるため,「XAI結果を基に品質分析した結果」と,「品質会計の上工程品質判定表を基に追加分析した結果」の二段階構成にした.これらの改善の結果,ユーザビリティを向上することができたため,プロジェクトは自らの品質分析に加え,第三者視点として本施策の品質分析を活用しやすくなった.
森 克彦
アプライアンス製品やパッケージ製品を利用したITインフラ構築では,製品の機能差やパラメータでの動作などブラックボックスとなっている機能の設計となることが多いため,ユーザアプリケーション開発とはことなる品質評価のアプローチが必要となる.特に基本設計など上流工程の設計ドキュメントは,アプライアンス製品やパッケージ製品など利用する製品の特性に合わせた様式となるため,品質を定量的に評価することが困難なケースも多く,定性的な評価のみ行なうことも多い.本稿では,著者が経験したプロジェクトにおいて,ITインフラ構築における上流工程の設計ドキュメントの品質を,不良密度という指標によって定量的に評価した事例を紹介する.今後のITインフラ構築における品質評価の1つの考え方,実践的な方法として参考にして頂ければ幸いである.
三浦 正彰
近年の日本の製造業,サービス業においての品質の低下は著しいと感じている.自動車産業においては,“空飛ぶタイヤ”や完成検査記録の改ざん,食品関連でも衛生問題となった牛乳製造など,すべての業種,業務には,品質管理が必要と考えるし,日常の生活の中でもプロセス品質と考えれば,いろいろなところに“品質”は存在している.現代の日本人は“品質”を受ける側の場合には,品質をすごく気にしているが,“品質”の提供側になると“品質”を唱えているだけで,“品質の本質”を考えていないことが問題と捉える.システム・インテグレータ業界でもプロジェクト内のトラブル,本番障害、検証漏れなどの問題が多い,システム開発の“品質とは”の本質を研究する為に社内研究会を立ち上げ,まずは,障害報告書や設計書の“品質”を高めるために「日本語」の使い方の問題と解決策を研究テーマに地方拠点の品質強化研修や新人向け品質管理研修で実践し,今後の課題と研究の方向性を考えた.
清本 隆司
「VUCA」と言われるように,現代ではさまざまな物事が目まぐるしく変化している.例えばAIのような最新技術が日々技術進化を遂げており,ことDX推進においては,ますますビジネスのアジリティが求められる状況となっている.このような状況下では,ややもすると品質管理プロセスはビジネスのアジリティを低下させるものと受け止められかねず,厳しく品質管理プロセスを浸透・徹底させようとすればするほどに,事業部門と品質管理部署との間で対立構造が深まることも珍しくない.本論文では,イソップ寓話『北風と太陽』の太陽に倣い,親しみやすく存在感のある品質管理部署としての社内ブランディングをはじめとする,品質管理プロセスを浸透・徹底させるための当社の多角的な取組みについて述べる.
郷田 光宏
プロジェクトにおいてプロジェクト終盤で品質悪化や進捗遅延を回復するには多くの工数・費用が必要となる.そのため,失敗プロジェクトの予兆を検知し早期に手当することがプロジェクトだけでなく経営にも重要となる.当事業体では非常に多くのプロジェクトを遂行しており,その中から,失敗プロジェクトの予兆を検知し回避する必要がある.そこで,プロジェクトの管理帳票を規定しシステムを活用して定期的に収集・分析を行った.閾値から外れるプロジェクトは状況を確認し,予兆があるものは幹部層へ報告を行った.対象となったPJ件数は年間約200PJであり,予兆検知と必要に応じた組織的なフォローを継続的に行った.その結果,この5年間で赤字プロジェクト0件を継続している.また,各PJの帳票の作成率の向上およびその記載内容の精度の向上が見られた.この活動の結果として組織全体の開発力の向上につながっていると考えられる.
金 祉潤
当社では,当社が求めている人物像および育成戦略により適合した研修を実施するため,外部研修機関に委託していた新入社員研修を内製化した.社内における品質管理プロセス遵守が重要視されており,その課題意識を持つ社員が新入社員研修の一部である品質管理研修を企画した.本研修は,品質管理の概念,品質を保証するためのテスト,品質の高いドキュメントの作成の三つの主要なテーマに基づいて構成されている.研修の実施後には,理解度確認テストと研修全般に関するアンケートを行った.本研究では,新入社員向け品質管理研修の目的,研修内容の工夫点,実施手法および今後の課題について述べる.これにより,本研究のアプローチは,若手社員向けの品質管理教育に課題を持っている組織にとって有用である.
北畑 紀和
組織を「アジャイルな組織」にしていくという課題に対して、どのように取り組むべきか、何が課題となりどのように解決していくかの検討を開始した。開発手法をウォーターフォールからアジャイルに変更するように考えることでうまくいくのか、開発手法と違い組織をアジャイル化するとはどういうことなのかを考察する。
川上 蒼太,大木 聖太,矢田 捷真,安藤 有希,瀧 比呂志
近年,大規模言語モデル(Large Language Models : LLM)の発展に伴い,様々な業界で業務の効率化が進められている.NTTデータでは,追加開発等のシーンにおいて設計書のメンテナンス漏れ等の要因により正しく設計内容を把握できない,もしくはそのリスクへの対処がプロジェクト進行の妨げとなりうる可能性があることに着目した.この課題に対し,LLMを活用することで,ソースコードの解析,設計書の復元を効率化し,ブラックボックスの解除を目指している.これまでの研究により,ソースコードから機能の処理フローなどをPlantUMLのダイアグラムとして生成し,設計書の情報を約80%復元できることが明らかになった.しかしながら,精度良く設計書情報を復元するためには,LLMに入力するソースコードの選定が重要であり,この選定作業に多くの作業時間がかかることが問題となっている.そこで,本研究では,ソースコードの選別にRAG(Retrieval-Augmented Generation)を適用し,自動的にLLMの入力として適切なソースコードを選定することで,設計書の復元のさらなる効率化と精度向上を図った.本稿では,生成AIを活用した設計書復元の実現性と,RAGの使用による生産性と精度の寄与について述べる.
南雲 慶憲,粟屋 崇,那須 裕,入山 卓斗,上村 洸太
当社は,日本初の人工衛星である「おおすみ」を始めとして「はやぶさ」等の多くの人工衛星を開発してきた.人工衛星は,宇宙へ打ち上げた後の修理が不可能であり,地上での開発・製造における品質確保が重要である.また,人工衛星は一品生産型であり,自動車等の量産型の工業製品と比較すると,工程自動化や量産を通したばらつきの抑制による工程品質の安定化が難しい.そのため,人工衛星の製造・試験工程では,品質保証担当者による製造・試験現場での作業や品質記録の確認,不具合対応等の三現主義を基本とした品質保証活動が重要である.品質保証担当者は,自社工場のみならず遠隔地の顧客設備の製造・試験現場でもこれらの活動を限られたリソースの中で行う必要があり,従来課題となっていた.この課題に対し, ITを利用したリモート環境を導入することにより,遠隔からでも現場作業の確認等をリアルタイムで可能にした.これにより,限られたリソースの中で三現主義に則した品質保証活動を実現した.
西川 浩太
継続的にシステム開発を行うにあたり,案件特性を考慮してプロジェクトを遂行していくことが重要である.筆者が参画しているプロジェクトでは,要件が決まらない,要件変更が多く発生するといった問題や通常開発とは別枠で迅速な対応が突発的に発生するなどの問題が発生していた.それらの問題について対応するために,実際のシステム開発の中で行った,体制,運用面を含むいくつかの改善施策の事例について紹介する.
武山 祐
サービスマネジメントの最適な形はプロジェクトの規模やビジネスの形態,採用されている技術要素などの特性により異なる.目指すべき姿が分からないまま現状を変えることを強いられ,何をどのように変えるのか悩む多くのプロジェクトを筆者は目にしてきた.本稿ではサービスマネジメントのガイダンスとして世界的に最も広く採用されているITILをベースにした,プロジェクトにおけるサービスマネジメントの代表的な段階をマッピングした"サービスマネジメント全体像"を提唱する.
宮内 裕正
商品開発プロジェクトにおける商品企画・マーケティング部門のコンセプトワーク(目標設定/リサーチ/アイディア創出/コンセプトの開発/フィードバック収集/プレゼンテーション/承認)のアウトプットは企業の収益目標の達成に大きく影響する.現代の急速な環境変化,特にAIの進化や多様な商品のネットワーク連携により,従来のプロセスやプロジェクトマネジメント手法では時間がかかりすぎて競争力を失う可能性が高くなっている.従来のプロセスでは,まず商品企画・マーケティング部門がコンセプトワークを行い,その後,開発部門がそのコンセプトの実現性を検証し,最終的に商品開発に移行する.この段階的なアプローチでは迅速な対応が難しくなっている.本講演では,短期間で幅広いインプットを収集し,最大のアウトプットを創出する新しいコンセプトワークの仕組みとプロジェクトマネジメントの手法を,実例を交えながら紹介します.
小林 康二郎
近年,デジタル化の急激な進行に伴い,ITプロジェクトに求められるIT技術やシステム開発手法が変化し,ITプロジェクトの難易度が高まっている.プロジェクトを推進する役割を担う,プロジェクトマネージャの重要度は,顧客はもちろん,企業においても高く,特に大規模プロジェクトの成否が企業に与える影響は大きい.しかし,プロジェクトマネージャの役割は幅広く,マネジメントに必要な知識を有し,プロジェクトに合った行動を適切に行うことが求められるため,知識の習得と数多くのOJT経験が必要であると考えている.プロジェクトマネージャの育成における課題を定義し,安定したマネージャ人材の育成に繋げる解決方法について検討する.
坂本 雅寛
本研究では,IT人材不足を見越してグローバル競争力を強化するためのオフショア開発の活性化に向けた実践的なアプローチを提案.その取り組みを通じて人財育成計画と一体となったオフショア開発の活性化を実現した事例を示す.まずオフショア開発の導入背景とその課題を詳細に理解し,資源の最適化,コスト削減,時差の利用といったメリットを活かしつつ,言語・文化の壁,品質管理,コミュニケーションの問題といった課題を克服するための具体的な手法に取り組んだ.その一環として,下流工程を中心とした作業の切り出し活用というオフショア開発モデルから,上流工程の要件分析~システム評価までの工程をオフショア先で可能とさせるモデルへの段階的な発展の方法を示す.またこの過程で求められるブリッジSEの能力と役割の遷移を理解し,作業環境と文化的背景も考慮に入れたジョブ定義の体系化を行なった.さらに,グローバル人財の育成に重きを置き,スキル・キャリアパスの具体化とカリキュラムを構築してきた.これらの取り組み全体が,オフショア開発の活性化とグローバル対応力の強化につながる一連の実践プロセスとなることが示された.
小林 貴幸
近年,システム開発においては新技術の基幹系領域への適用や納期短縮など,従来よりも大きなリスクを伴うプロジェクトが増加している.このような多様化したプロジェクトを成功に導くためには,プロジェクトマネージャーの育成が重要である.一方,システム開発の現場では,同時に進行する複数のプロジェクトのマネジメントと次世代のプロジェクトマネージャーの育成を両立させることが求められている.本稿では,異なる特性を持つ複数のプロジェクトに対して,限られた要員と体制の中で円滑なプロジェクト推進とプロジェクトマネージャーの育成を両立させるために,プロジェクト特性に応じて重点管理すべき項目や権限委譲の範囲について仮説を立案し,実際のプロジェクトを通じて得られた気づきについて述べる.
松澤 良多
人材不足の昨今において,経験者を採用し組織の活性化やコア人材の確保を行っている.中途採用者は即戦力を期待され,参画したプロジェクトで早急に成果を上げる必要がある.特にプロジェクトマネージャー(以降,PMと略す)は担当するお客様とのリレーションを構築し,活動中のプロジェクトチームをマネジメントし,チームメンバーの信頼を得る必要がある.そのため,お客様の考え方,プロジェクトの特性を理解し,メンバーとのコミュニケーションを密に実施する必要がある.また課題や問題に対する理解度と適切な判断の元,指示を行い,結果を出すことが求められる.これらはプロジェクトの異動または管理する組織が変わることでも同様に求められると考える.本稿では中途採用者のPMである筆者が,実行中プロジェクトへ参画した際に直面した課題とその解決策を元に,コミュニケーション・マネジメントを中心に,プロジェクトや組織を異動した際の心構えや異動後に取るべき行動について考察する.
石井 愛弓
PostgreSQLは世界で最も広く使用されているオープンソースのRDBMSの1つである.PostgreSQLの開発を行っているThe PostgreSQL Global Development Groupは世界中の多数の企業・開発者が参加し,活発に活動している.多数の企業が開発に関わっていることは,利用者にとってプロダクトの安定性の上で大きなメリットであるが,一方で,コミュニティとしては,いかにスピード感をもって効率よく,品質高くプロダクトを開発するか,といったマネジメントが課題となってくる.本稿では,PostgreSQLの開発プロセスやコミュニティの在り方に注目し,品質の高いプロダクトを継続的に開発するためのノウハウを提案する.まず第一に,コミュニティの文化として,コンセンサスを重視して開発を進めている点に注目し,コミュニティ全体にとって利益となる開発を実現していることを示した.次に,開発プロセスに注目し,新しい機能開発を積極的に実施しながら,高い品質を保っていることを示した.最後に,コミュニティが新規開発者を獲得・維持する重要性を認識し,開発者のモチベーションに繋がる取り組みを実施することにより,これまでPostgreSQLコミュニティが発展してきたことを示した.このようにPostgreSQLコミュニティは多様性を活かしたチームで高い生産性を実現しており,そのノウハウは,現代の様々なプロジェクトに有用であると考えられる.
高橋 英章
PMBOKガイド7版は,従来の5つのプロセスから12の原理・原則へと内容を大きく変更した.これは,時代の要求に応じた大きな変更といえる.一方,コロナによる働き方の変容,労働観の異なる若手職員の指導方法,今まで蓄積した課題解決に関わる方法論,手順や教訓では太刀打ちできない適用課題の解決方法,多様な価値観をもつ社外メンバーとの協業など,職場やプロジェクト遂行上の様々な課題が顕在化している.PMBOKガイド7版と同様,時代の要求に合致した見直しが必要と考えられる.本稿では人材育成とリーダーシップを取り上げ,筆者の経験も交えながら,職場学習のプロセスやプロジェクトマネージャの育成手法として確立したケーススタディを考察し,若手職員に受け入れられる今日的な職場やプロジェクトチームに適合する職場を中心とした人材育成方法への転換を提案する.合わせて適用課題を解決できる協業的な職場やプロジェクトチームで期待されるリーダーシップとして,シェアード・リーダーシップを提案する.
白片 知恵子,石原 司
テクノロジーの進化、社会情勢の変化、消費者行動のパターンシフトなど、市場環境は常に変動し続けている。またグローバル化、デジタル化、多様化する顧客ニーズなど、市場構造が複雑化し、因果関係を把握しきれない。この予測困難な環境下において、品質マネージメントを起因とした問題は後を絶たない。品質問題は納期遅延やコスト超過を招き、プロジェクト単独の問題ではなく、顧客満足度の低下さらには社会的な問題へと発展し、ビジネスへの影響は測り知れないものとなる。我々はこれまでも、この問題と向き合い、多くの対策を講じてきたが、市場変化に追従するためには新たな手法を取り入れる必要がある。これまで強化してきた「点」での分析つまり開発工程断面での評価に加え、「線」での分析つまり時間の流れの中での遷移分析を加えることにより、品質の変化をいち早くとらえる仕組みを試みた。この時間軸における遷移分析においては、「現在」を中心に、開発の時間経過に沿った品質追跡(トレースフォワード)と時系列に遡って記録を辿る(トレースバック)によって、開発の流れを読み解く。読み解いた結果については、誰しもが認識できる仕組みが不可欠であり、色の濃淡で表現する「ヒートマップ」手法を取り入れ、可視化を試みた。本稿では、適用した大規模プロジェクトの事例を交えながら、課題に対する具体的な改善とその効果を明らかにしている。
當間 毅
デジタル技術を活用した新しいシステムやサービスが華々しく業界をにぎわせている中で,レガシー資産である「基幹システム」は複雑化,老朽化・ブラックボックス化と評されている「既存システム」として現在も依然として稼働している.しかし,「既存システム」の継続利用には,「2025年の崖」[1]に象徴されるように様々な課題を抱えている.長期にわたり運用しているシステムについては,システム自体の仕様・運用の全体像がつかみきれず,ブラックボックス化し,システム改修の難易度が高く,保守性を疑問視されている.また,技術の進化が進む一方で,旧態然の技術を利用していることに対して,コスト高の元凶のように扱われ,ユーザ満足度の低下を招いている.ベンダ目線では,システム構築~運用保守に対して包括契約を行い,計画的な長期サポートを実現するため努力を重ねているものの,ユーザから予算の制約を理由に強いコスト圧縮要請を受けている.技術者の高齢化,IT労働コストの上昇により,従来のような要員確保や体制維持が難しくなるなかで,システム運用・保守ビジネスに対するモチベーションも下がる一方である.このような背景から,割の合わない運用保守からベンダ側が撤退するケースも珍しい話ではないが,ユーザがシステムを利用し続ける意思があるかぎり,ベンダ側都合で一方的に撤退することも難しい.長期の運用保守ビジネスを,如何に「持続可能なビジネスに変革させていくか」について論ずる.
柄澤 良和
現代のソフトウェア開発において, オープンソースソフトウェア(OSS)の利用が急速に拡大している.OSSはコスト削減, 迅速な開発, イノベーションの促進など多くの利点を提供する.その一方で, 脆弱性やライセンスの問題を適切に管理しないと重大なリスクを抱えることになる.近年, ソフトウェアの部品表であるSBOMを使って, こうしたリスクを管理しつつ効率的にソフトウェア開発を進める手法が注目を集めている.本論文ではSBOMを使ったリスク管理について紹介する.
佐藤 仁己
近年,ITプロジェクトの大型化,複雑化の傾向とともにトラブルプロジェクトの発生を抑制する為のPMスキルの重要性が増してきているが,筆者はトラブルプロジェクトが発生する真因を大きく二つに分類することができると考えている.一つはプロジェクト体制上の問題(プロジェクトマネジメントスキルを有した真のPMの不足,上流工程体制が不十分等)であり,もう一つは要件定義に関する問題(システム要件が明確化されないまま設計開発局面に進んでしまうケース等)である.本稿ではトラブルプロジェクトの真因となり得るケース分析を行ない,何故トラブルの種を生じさせてしまうのか,どうすればトラブルプロジェクトの発生率を低減することができるのかについて考察する.
三上 拓也,伊藤 拓也,高橋 亮介
当部門(品質部門)では近年のアジャイル開発採用プロジェクトの増加に伴い,アジャイル開発プロセスの改善を行い,開発/品質保証の効率化を図った.最初にアジャイル開発のプロセスの問題点について開発部門および品質部門へヒアリングを行った.その結果として開発部門からは不具合修正等の規模の小さい開発に対してプロセスが重い,ウォータフォール開発に比べてバグを摘出しきれていないか品質面での不安があるといった要望が上がった.品質部門からは開発途中における品質確認がしづらいといった要望が上がった.開発部門要望に対してはいずれもウォーターフォール開発プロセスで実施していたプロセスを流用し,簡易的な開発管理プロセスやバグ分析帳票をアジャイル開発プロセスにおいても使用できるように帳票やプロセスの整備を行った.品質部門要望に対してはスプリントレビュー資料のテンプレートを作成し,スプリントレビューで確認すべき事項を明確にすることで,開発途中における品質確保を図った.これらの改善施策によりどの程度の効果があるかついては今後の開発部門からのフィードバックを受けて判断することとする.
長久 幸雄
システム開発プロジェクトにおいて,開発環境が整備されてきたこと,働く環境に左右されずにシステム開発をすることができるため,ニアショアを利用したシステム開発も進んでいる.しかしながら,プロジェクトメンバー間でコミュニケーションが取れていない場合に,プロジェクトの進捗に影響を及ぼす場合もある.システム開発プロジェクトの進捗及び品質に影響を及ぼさないようにするために適切な施策が必要になる.そのため,システム開発プロジェクトの場合,プロジェクトメンバー全体のコミュニケーションが重要になってくる.コミュニケーションを円滑にするための環境の整備,メンバーの意識改善及びメンバーの教育が必要になる.本稿では,ニアショアを利用したシステム開発プロジェクトにおいて,コミュニケーション環境の整備を行うと共に,コミュニケーション計画を修正しながら,同時にチーム体制改善を行い,システム開発プロジェクトにおける品質管理の取り組みについて考察する.
豊島 直樹
当社のシステムにおいて数多くのシステムがハードウェアやソフトウェアの老朽化を迎え, 様々なシステムのバージョンアップやハードウェア更改を余儀なくされている.筆者においてはインフラ領域の所属であるため,このような刷新プロジェクトに関わることが多い.今まで数多くのプロジェクトを経験させていただいたこともあり,23年度から発足しているとある刷新プロジェクトのPMを担うことになった.PMを担当するシステムにおいては他社でも採用実績高い,メインフレーム領域の刷新であり,オープン系のインフラ技術を主に扱ってきた自身としては完全にシステム知識がない領域のPMとなる.当社においては,無論他社においてもシステムコストの削減は経営課題の大命題であると考えるが,最低限のコストでこのようなプロジェクトを推進するよう,初期学習コストなどを抑えるため,基本的にはシステム知識がある程度備わっている社員がPMになることが多い.自身においてのキャリアプラン上プロジェクトマネジメント経験を積むために,あえて無知識な領域を担当し,そのプロジェクトの成功基準を満たした達成責任を負うことで,自身のスキルアップに対して鼓舞することと,社内へのメッセージ発信を趣旨に奮闘した経験を考察する.
田中 彩恵
近年,従業員のエンゲージメント向上に取り組んでいる企業は多いが, 私の所属する部門でもコロナ禍でのリモートワーク増加,部門の統廃合に伴う縦割り文化を要因とするコミュニケーション停滞からエンゲージメント低下を課題として抱えていた.コミュニケーション活性化,事業部員の自発性と組織の心理的安全性に働きかける試みとして,社内サークルの設置及びサンクスツールの導入を実施し,運営プロジェクトを発足した.社内サークルは部門を超えた交流で相互理解が促進され自由な発想でチャレンジする場となった.また,サンクスツールで気軽に感謝や称賛の気持ちを伝える文化が広がっていった.さらに,2つの活動に繋がりを持たせることで相乗効果を発揮した.半年後に行ったアンケート結果から,本プロジェクトがエンゲージメント向上に効果があると67%の人が回答し,一定の成果が得られた.本稿では,活動に至る背景から,得られた成果,課題,今後の展望について考察する.
二宮 拓朗
本稿は,プログラムマネジメントオフィス(PgMO)のサービス品質を評価するための適切なモデルを選定し,その適用を検討するものである.PgMOは,プロジェクトの成功に重要な役割を果たしているが,複数のプロジェクトを統合・調整し管理するため,個々のプロジェクトのQCD(品質,コスト,納期)指標だけでは評価しきれない.また,PgMOの重要な役割にはプロジェクトの戦略的目標を達成することが含まれ,これは全体としての一貫性,包括的な柔軟性,各プロジェクトからの信頼獲得などに重きを置く必要がある.したがって,PgMOではQCDのみならず,サービス品質の評価が重要となる.本稿では,PgMOのサービス品質評価にSERVQUALモデルが適していると判断し,信頼性,応答性,安心感,共感性,具体性の5つの次元に基づく評価基準を設定した.アンケート調査やインタビューを通じて各次元の評価結果を分析し,PgMOのサービス内容の強みと改善点を明らかにする方法を提案する.さらに,実践的な改善策の提案と今後の課題についても言及する.
角 慎太郎
文書画像統合ソリューションという分野で私たちは市場参入が遅れ,シェアが延ばせない状況が続いていた.その原因は様々であるが,そこには「プロモーション力」,「提案力」,「お客さま接点」の3点が大きく関連していたと考えられる.課題解消に向けてWGを発足し,全国のシステムエンジニア(SE)にアンケートを実施するなど,改善活動を推し進めた.改善案の一つとして,これまでの提案方法を刷新し,文書システムや画像システムごとのソリューション単位の提案方法から,複数ソリューションを1つのソリューション(文書画像統合ソリューション)としてお客さまに提案することに切り替えていった.これにより自社の文書画像統合ソリューションという分野をお客さまに認知してもらい,かつ自社の強みをアピールすることが出来た.これらの活動により広告塔となるユーザを他社からリプレースすることも出来た.本論では,実際の取り組みなどを紹介し,複数ソリューションの一括提案による価値の創出までの経緯や今後の提案に向けての病院内のシステム構成をモダナイゼーションしていく有用性を述べている.これらは私たちが目指すコンサルティング力の強化につながるテーマであると期待している.
樋口 光希
本稿では,CM業界からIT業界に転職し上流工程に参画した若手である筆者の視点から,満足度の高いシステムの実現にむけたプロジェクトの進め方を考察した.近年システム構築のプロジェクトにおいては,出来上がったシステムが必ずしも満足度が高くはないとの見方がある.一方CM業界では,完成したCMに対して多くのケースで広告主の満足度が高く,“チームで作り上げるモノづくり”という観点では参画プロジェクトの進め方と類似していることがわかった.単に機能面の充実を図ることが目的ではなく,出来上がったシステムに対してどのような効果が得られるかという「ゆるぎない構想」を事前に打ち立ててモノづくりを行っているという類似点から,「ゆるぎない構想」を大切にし,事前に明確な構想を立て具体的機能要件に照らし合わせながらプロジェクトを進めることが有用であると結論付けた.
高良 一弘
IoTのように技術の進歩が速く,また明確な業務要件が定義されないITプロジェクトが増えてきており,その有効な対策としてアジャイルやスパイラル,あるいはプロトタイプと言われる新しい開発手法が存在する.これらも開発手法では曖昧なユーザニーズを具体化していく過程において大きく強みを発揮する一方,プラットフォーム開発などの案件ではハードウェアやソフトウェアなどの調達を伴うことから,適用困難であった.本稿では従来適用困難であった受託開発のプラットフォーム案件へ,クラウドサービスを活用することにより実現するアジャイル開発アプローチの適用について,課題と対策案を述べる.
大野 弘祐,下村 哲司,高橋 亮介,伊藤 拓也
弊社は異なるプロセスが部門毎に適用されているケースが多かった.差異として,各部門が扱う商材特性の他,部門ごとにPDCAを回す過程で追加された個別のルールがあり,似て非なるプロセスが乱立する状況にあった.一方で,企業の成長を加速させ,社会貢献,お客様へ価値提供を高めるために,弊社は,近年大幅な組織改革を行い,組織のフラット化,部門の統廃合を進めてきた.こうした背景から,多数のプロセスが存在する状況は以前からメンテナンス工数の増大要因となっており,そこに組織再編の影響が加わることで,新旧組織の適用プロセス差異により開発者が混乱するという問題が発生した.これらの問題を解決するために,今回,汎用製品/サービス商材を主管する組織の開発プロセスの統合・整備を行った.具体的には,多様化する商材に素早く対応できるように開発者が開発プロセス選定に困らない仕組みを整備した.結果として,社内の組織再編時の影響も低減することができた.
津熊 崇湖
昨今IT市場は事業機会の拡大と反してプロジェクト推進(PM・PL)人材不足をよく耳にする.その背景から我々の職場でもJob型雇用・人材配置の適正化・流動化を加速させており,システムエンジニアの目線ではより一層文化やドメインナレッジを知らずともPM・PLの役割を果たす事が重要である.そうした配置転換の中でも,PLとして迅速なチームビルディング,顧客から信頼獲得,システム構成の把握,プロジェクト推進する術を考察し体系化の上で述べる.なお本稿では筆者が初のプロジェクトリーダーアサイン,地元大阪から東京への転勤,部署異動,社内社外ともに初対面のステークホルダーを相手に推進したウォーターフォール開発プロジェクトにおける事例をもとに考察する.
片岡 麻衣
大規模BCP対策システム開発においては,実運用を想定した要件確定や,全関係者を巻き込んだEnd To Endでのテスト実施が難しい背景がある.このような高リスク案件において,上流工程でリスクを洗い出し,マネジメントする手法について仮説を立案し検証を行った.仮説としてQCDそれぞれのリスク対策をプロジェクト開始時に立案し,施策を実行する.施策実行中においてはその状況をモニタリングする.結果としてリスク顕在化を抑制することができた.が可能であることが分かった.本稿ではこのような高リスク案件においてQCDを適正化しマネジメントを行った取り組みについて紹介する.
田島 千冬
プロジェクトを円滑に進めるために必要なものとは何だろうか.プロジェクト計画,マネージメント能力,日々のセレモニーなど,さまざまな手法を用いて目的達成のための成果物につなげている.しかし,その中で最も重要なものは,目的達成のために日々働くメンバーであり,各々が自分ごととしてプロジェクトに参加することが,より高いパフォーマンスを発揮できるチームになるのではないだろうか.メンバーのニーズと育成について理解し対処することに重点を置いたサーバント・リーダーシップの影響について考える.
永田 真一
プロジェクトマネジメントにおいて,スケジュールマネジメント(進捗管理)が占める割合は大きい.大規模プロジェクトでは,顧客,プロジェクト管理層,開発グループで管理したいレベルも異なる.様々な進捗管理手法がある中で,プロジェクト状況を客観的に把握しやすいことから,最近はEVMの活用が推奨されている.また私がシステムエンジニアとして携わっている業種においても,EVMによる進捗管理と月次での報告が調達仕様書にて義務付けられている.私が所属する部門では,バグ追跡ツール(Trac)のチケットを利用した進捗管理の基盤を整備し,管理手法として標準化することで,進捗管理の質の確保と省力化を図ってきた.さらに私がプロジェクトリーダを担当した大規模プロジェクトでは,この進捗管理手法を活用し,顧客,プロジェクト管理層,開発グループの三者の管理レベルの違いを吸収する取り組みを行い,顧客向け進捗報告の省力化を実現した.今回考えた手法とその実践結果をもとに,有用性について考察する.
青山 道夫
本稿では,筆者が経験したオフショア型プロジェクトの開発工程ニアショア化についての考察を述べる.このプロジェクトは開発工程において既にオフショア化された体制が整っていた.しかし,COVID-19を契機にオフショア拠点でのロックダウンが起こり,開発に多大なる影響が発生し,ニアショア化の必要性が検討されることとなった.結果としてオフショアからニアショアへ移管する結論に達し実施したが,そこで発生した様々なメリット,デメリットを取り上げる.今後同様のケースが考えられることから,ニアショア化に対する計画,準備,要員調達,教育,引継ぎ,実行までを経験事例を交えて紹介し,また,計画通りに実行するための要員とのコミュニケーションやモチベーション維持などの考慮点をPMの観点から考察する.
野尻 一紀
これからのプロジェクトにおいては,職務環境の変化に前向きに対応可能な風土の醸成とアジャイルの考え方の適用が急務である.IT基盤システム運用プロジェクトにおいても,DevOpsの浸透やAIの発達に伴いオペレーションや監視の自動化が進んでいる.IT基盤システム運用管理業務に関わるメンバーには,ウェルビーイングな状態での自由な発想が必要で,AIの高度な制御やデータに基づくタイムリーな価値を生む提案が求められる.本稿では,個人のウェルビーイングの大切さとともに,レジリエンスを高める組織風土改善やアジャイルの考え方の重要性について述べる.
光國 光七郎,齊藤 哲
本稿は,経営情報システムの開発プロジェクト活動で活用する「情報連携組織の論理的設計」について考察する.経営情報システム開発時の要求定義方法はREBOK,BABOKなどで規定されている.また,情報システムが実装される事業構造の在り方は,経営者から提示されることが前提である.しかし,経営者からの提示が曖昧な場合に,開発した情報システムの稼働段階において,経営者の期待と開発した機能の不一致が表面化するという問題が散見される.この解決の考え方は,機能に対する要求を設計する前に,事業構造を「論理的な情報連携組織」として設計し,経営に提示して評価を受けることである.そこで本稿は、事業構造と情報連携組織の関係に着目する.まず,先行研究において,「事業構造」は「情報連携組織」として表現可能であり,逆に,その「情報連携組織」は事業構造を決定づけていることを明らかにする.次に,この情報連携組織を使って,情報処理技術を経営システムに実装する考え方を紹介する.そして,事業構造を「情報連携組織」として表記するには要素定義が重要であることを示す.最後に,これらを要約して情報連携組織の論理的設計手順を示す.
樋熊 博之
システム開発においては,その特性に応じてアジャイル型,ウォーターフォール型の住み分けが行われているが,プロジェクト管理の観点では一つのプロジェクトでは同一の方式で進めることが望ましい.一般に大規模なシステム開発ではウォーターフォール型が有利とされている一方で,個別のアプリケーション開発では要件変更に機敏に対応するためアジャイル型を取り入れることも多い.このように適材適所でシステム開発を進めると,プロジェクト全体の進捗が見えにくい,所定の品質のプロダクトがいつになったらできるかわからない,というプロジェクト管理上の問題が顕在化する.筆者らがプロジェクト管理アドバイザーとして参画した,あるミッション・クリティカル・システム開発プロジェクトではアジャイル型とウォーターフォール型がまるで悪酔いしそうなカクテルのように混在しており,プロジェクト・ガバナンスが困難になっていた.本稿ではこの状況からプロジェクトを可視化し,進捗管理を正常化するまでの事例を紹介し,その手法について具体的に論じる.そしてウォーターフォール型で管理すべき作業とアジャイル型で管理すべき作業が混在しているプロジェクトに直面した場合に,どのように管理するかについてのヒントを共有することを目的とする.
三宅 由美子
情報技術を学ぶ大学生が取得することを目指す資格の1つにIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の基本情報技術者がある.本試験の出題範囲には,PM(プロジェクトマネジメント)とSM(サービスマネジメント)が含まれている.本学の講義「ITマネージメント論」は,基本情報技術者の資格取得を目指す学生のために基本情報技術者試験の出題範囲に準拠したシラバスにしている.さらに本講義内のPMとSMについては業界標準の最新版を考慮している.そのため,シラバスには,PMについてはPMBOK®第7版のパフォーマンス領域,SMについてはITIL®4のプラクティスを含んでいる.本論文では,「ITマネージメント論」の概要と特徴について報告する.
木村 友紀
リスクマネジメントはプロジェクトマネジメントにおいて不可欠な概念であり、特にプロジェクトの不確実性が高まる現代において、最も重要な管理事項の一つである。これを進めるに当たり一般的なアプローチやツールが存在する一方で、プロジェクトやその環境に特有の要因に応じた分析や計画が不可欠である。また、認知バイアスによってリスクの重要性を過小評価する可能性もある。このような特性を持つ管理プロセスを実践的かつ効果的なものとするためには、関連するプロジェクトの専門家の経験、知識、そして能力に依存するところが大きく、そうした体制の確立や人材育成が課題となりうる。本稿では、これらのリスクマネジメントに関する課題を解決するために、生成AIの活用可能性について議論する。
永津 孝志
iPhoneが2007年に米国で発売されて以降,スマートフォンやタブレット型端末は急速に普及している.総務省のモバイル端末の保有状況によるとモバイル端末の普及率は86%に到達している.製造現場においても据置型のPCで使用していたシステムをスマートフォンやタブレット型端末で稼働するように変換するニーズが多くある.一方で据置型のPCで使用していた既存Webシステムはスマートフォンやタブレット型端末の様なモバイル端末で稼働するようシステム構築されていない為,モバイル端末への変換が求められている.本論文では,今後ニーズが高まると考えられる既存Webシステムのモバイル端末対応について,当社の取り組みとその評価について述べる.
廣本 浩大
本稿では,プロジェクトの目標設定を縦と横の観点でとらえプロジェクトの解像度を上げる方法を提案する.まず”縦”の観点では,TOC(制約理論)やMBO(目標による管理)に基づいて発展したODSC(Objectives, Deliverables, Success Criteriaの頭文字の略)のフレームワークを用いて目標の具体化と明確化を図る.また”横”の観点では,時間軸に基づくマイルストーン(中間ゴール)の設定を通じて,最終的な目標だけでなく,マイルストーンごとに達成すべき目的や必要な成果物,その状態を定義する.このように縦と横の観点で目標を具現化し,さらに最終的な目標だけでなくマイルストーンごとに達成すべき目標を明確にすることで,プロセスや必要なタスクの解像度も高くなる.さらに,これらの目標をステークホルダーやプロジェクトメンバーと早期に共通認識を持つことで,先手のリスク検知や必要なリソース配置にもつながり,プロジェクトの成功の可能性が向上する.本稿では,詳細なアプローチ方法,具体的な事例,および得られた成果を報告するものである.
松田 興治
新規委託先を選定する場合,取引実績の多い委託先に比べ,プロジェクトに適しているかを判断することが難しく,そのため,プロジェクト開始後に生産性や品質に問題が発生するリスクが高い.また,大規模プロジェクトでは,プロジェクトマネージャ自身が常に細部まで網羅的に把握することは難易度が高く,委託先内部の管理や責任者の報告に問題がある場合は,リスクが顕在化していることを検知するまでに時間を要してしまい,影響が拡大してしまう可能性がある.本稿では,筆者が新規委託先を選定した体制での官公庁向けの大規模インフラ更改プロジェクトにおいて,進捗遅延や品質問題を早期に検出して解決するために,プロジェクト計画時および遂行時に実施した施策とその効果について論じる.
三竹 吉伸
プロジェクト推進においては,多くの変化(要件,プロジェクト特性,技術,等)に,いかに対応していくか,変化に打ち勝つプロジェクトマネージメントが必要と考えており,プロジェクトマネージャー育成においても重要なキーワードとなる.実プロジェクトを推進していく中でも,スコープ,リスク,リソース等の「変化」をいち早く捉えて,それぞれ対応していくことが重要であり,その対応力向上がプロジェクトマネージャー育成のポイントになると考える.今回,自身が上位マネージャーとして,実案件推進下でプロジェクトマネージャーを育成していく立場において,「変化への対応」に注目し,以下の様なプロジェクトにおけるさまざま な変化への対応を改めて整理し,どの様なスキル・ノウハウが必要であるかを把握し,今後のプロジェクトマネージャー育成の高度化に寄与することを目的に取り組んだ.変化に対応するための準備、対応、結果検証のプロセスを導入して,実際のプロジェクト推進中に発生した変化への対応・対策を実施した.それにより,プロジェクトマネージャーの経験や知識に加えて,「変化への対応」に対する意識と経験をもつことの重要性を確認することができた.
河下 勇太
プロジェクトを進めていく上で,要件定義や設計などの上流工程での仕様決定や,本番で運用するシステムで問題が発生した場合など,お客様との綿密なコミュニケーションを必要とする機会はとても多い.その際のコミュニケーションは,対面で話をした方が精度も高く,意思決定も早い.しかし,コロナ禍以降,リモートでの働き方が広く普及し,対面で会話する機会はコロナ禍以前に比べて少なくなった.筆者が参画するプロジェクトでは,コロナ禍にプロジェクトが立ち上がり,現在に至っている.本稿では,プロジェクトマネジメントの観点でリモートワーク中心だった立ち上げ当初から,現在のリモートワーク,オンサイトのハイブリッド型の運用に至るまでの課題と最適なプロジェクト運用について考察する.
市川 友基,中川 健太郎,水谷 文香,荻野 貴之,赤塚 宏之,宮崎 正博
デジタルトランスフォーメーションの実現に向け,基幹システムの刷新やデータ活用への需要が高まっている.複雑化した既存システムの刷新など,高難易度プロジェクト(PJ)は優れたプロジェクトマネージャー(PM)が求められている.弊社ではPMの人材像を定義し,PM育成を社内メンバに対して実施してきた.需要拡大対応のため,昨年度,育成対象を外部調達(パートナー)まで展開して育成活動を推進した.この取り組みによりPM認定者の増加と今後の認定候補者選定の母数を拡大する成果が得られた.一方,さらなる改善として,急速な事業拡大に合わせた育成期間の短縮等の課題が明確になってきた.この課題への改善アプローチとして,PJの需要を加味した育成計画,認定候補者の経歴・スキルごとの個人別育成カリキュラムを取り入れ改訂した育成フレームワークの内容と今後の展望について紹介する.
星 翔太
長期間にわたる情報システム保守運用による運用体制の弱体化や品質低下により,運用インシデントの発生を招き,顧客満足度を低下させてしまう事例がある.事象の発生原因として,管理スキーム低下や作業の属人化,チームのサイロ化によるチーム間タスクの漏れであり,根本には目的である「何のために」作業をしているのかに焦点が当たらないまま,日々の運用されていたことにあった.「プロジェクトの目的」を明確化し,プロジェクトの再生を行うことで,属人化からの脱却,チーム間コミュニケーションの活性化,広く他領域知識を持ったT字型人材育成や自己組織化されたチームの構築が図れた.さらに目的にフォーカスしたことで,今まで気づけなかった課題を明らかにし,解決することでさらなる運用品質を向上させた.長年の運用保守により,PJ当初の志やあるべき姿の観点を失いがちである.プロジェクト憲章の再整備と目的のメンバへの再浸透により再生を果した事例について紹介する.
山内 貴弘
本考察では,生成AIプロジェクトにおけるリスク管理手法を提案する.金融機関で用いられるリスクアペタイトフレームワーク(RAF)を, 個人情報の第三者提供を含む生成AIプロジェクトに適用する方法とその効果を考察するものである.生成AIの急速な発展に伴い, チャレンジングなプロジェクトが増えるとともに, 法的前例のない状況下でのリスク受容が課題となっている.たとえば個人情報の利活用可能性が向上する一方, プライバシー保護と情報セキュリティの観点から慎重な取り扱いが求められている.本考察では, 実際の事例を通じてRAFの援用方法とその有効性を検証し, 生成AIプロジェクトのリスク管理に関する新たな知見を提供するものである.
前原 敏和
某社様にて製造プロセスにおける工程管理の高度化を図るべく,システム開発プロジェクトを開始した.プロジェクトは約1年間の開発期間で推進をしたが,度重なる仕様変更やプロジェクトメンバーの離脱などにより各開発工程のスケジュール調整が頻繁に発生.その状況の中,なんとか納期は間に合ったかに思えたが,仕様齟齬や仕様漏れ発覚により本番稼働後,即システムを停止.製造工程の一部遅延が発生しお客様の業務が止まる中,短期間かつ高品質なシステムの再リリースの為に取ったアプローチを紹介する.
重森 雄哉,川崎 大史
サイバーセキュリティ脆弱性対策として古いOSの最新化が急務となり,Windows系500システムのオンプレミス環境の最新化プロジェクトが発足した.我々は仮想サーバ2500台を各業務システム担当者に提供する役割を担ったが,案件ごとに環境やカスタマイズの要件をヒアリングし,構築,移行まで一気通貫で作業する従来の方法ではリソース不足で対応できなくなった.そのため,作業や体制の変更として構成検討専門チームの設置,構築ヒアリングシートの導入,サーバ構築パターンの整理およびパターンごとのチーム編成などを行い,作業効率を大幅に改善.スケジュール調整やコミュニケーション環境の改善,また各種人材育成施策の強化によりモデリング,標準化,継続的改善,自動化などの施策を通じて顧客IT基盤の環境提供の効率化を実現し,結果として,顧客の期待値を達成することができた事例について紹介する.
讓田 賢治
情報システムの抱える課題のひとつは,長年運用してきたレガシーシステムといわれるシステムの老朽化である.ハードウェアのサポートサービス終了が目前に迫り,最新技術を適用し,性能やセキュリティの課題を解決することを目的に再構築を検討する.しかしながら,長年の運用から有識者の離任やブラックボックス化により業務仕様を変更するにはハードルが高く,業務を変更はしないことも多い.このような再構築は現行踏襲と言われ,要件の明確化に課題を抱えるため,最終工程である現新比較で問題が発生し,稼働遅延となることが多い.本稿では,現行踏襲の再構築における,有識者不在,ブラックボックス化,現新比較における工夫について,具体的な計画および結果と評価についての事例を紹介する.
美濃和 徳幸
新しい技術を活用したサービス実現に際しては、技術面の事前調査に加え、明確な方向性の決定と有識者を巻き込んだ体制作りが成功のカギとなる。本稿では、オンプレミス環境で稼働しているソフトウェア開発者向けのクライアントOS提供サービスをクラウドシフト(Azure)するプロジェクトについて述べる。このプロジェクトでは、オンプレミスサービスのインフラ運用チームリーダーである筆者がプロジェクトマネジメントを担当した。リスク分析と対策を技術的課題だけでなく、体制作りやコミュニケーションにも重きを置くことで、クラウドシフトを成功裏に遂行することができた。本稿では、このプロジェクトの進め方や工夫した点を紹介する.
角谷 祐輝,尾島 優太,割田 祥
大規模言語モデル(LLM)は, 自然言語処理分野の多様なタスクで顕著な性能向上を実現しており, ビジネス用途での活用に向けた期待が高まっている.しかし,従来のLLMの評価指標とビジネス観点での評価基準 の間には大きなギャップが存在している.従来のLLM開発者はベンチマークに基づいて評価を行っているが, ベンチマークではビジネス用途での有用性が評価できない.したがって, ビジネス用途でLLMを活用する際には, ユースケースごとに評価基準を設定する必要 がある.一方,ユースケースに合わせた適切な評価には,評価者のスキルに左右されてしまう問題と,指標選定のコストと時間を要する課題があった.本研究は, ビジネスでのユースケースに応じて LLM の適切な評価指標やデータセットを選択するためのフレームワークを提案する.また, フレームワークで定めた指標に基づいてLLMの比較検証を行うことで, 有効性を確認した.本研究で提案したフレームワークにより, ビジネスと技術開発の間のギャップを埋め, LLMの導入と応用をスムーズかつ効果的に進めることが可能となる.
吉澤 由比,飯塚 裕一,貞本 修一
ソフトウェア開発における方法論, 手法, ツールが多様化していることに応じ, 品質評価の方法も変化に対応していく必要がある.特に, ソフトウェア開発のプロジェクトの特性を考慮しつつ, いかにして定量的に品質をとらえ, 評価する方法を選択するかが1つの課題である.長年経験的に定量的な品質管理の指標値として使われているテスト密度・バグ密度による評価方法が適しているプロジェクトもあるが, ソフトウェア規模が測定しづらい, あるいは過去の統計データが利用できない等の特性を持つプロジェクトでは, テストのプロセスに着目した別の定量的な評価方法が適している場合もある.本論文では, 公共・社会基盤分野のいくつかのプロジェクトを事例として取り上げ, それぞれのプロジェクト特性に応じて採用した品質の定量評価方法とその採用理由を説明する.これらの事例から得られた知見をもとに, 品質の定量評価の方法をプロジェクト計画段階で決定する際の評価軸を考察し, 提案する.
豊田 政嗣
企業や官公庁関連等のDX化が進み,基幹システムなどのインフラ基盤をクラウドに移行するケースが増加している.しかし,基幹システムのクラウド移行においては,多くの課題やリスクが潜在しており,構築や運用保守にて大きな品質問題が発生するケースも少なくはない.大規模なインフラ基盤ともなれば,運用開始後に品質問題が発生した場合,旧環境への切り戻しも不可能となり,業務への影響は甚大となる.本論文では,大規模なインフラ基盤をクラウドに移行した実例をもとに,運用開始後に発生した品質問題を取り上げ,システム品質と運用品質の確保という両面から実際に実施した対策について述べる.また本結果から得た教訓や構築時に講じておくべき対策について,考察を述べる.
青野 良一
プロジェクトマネジメント手法は確立されているが,プロジェクトを推進するのは人であり,プロジェクトメンバ全員のモチベーションが重要と考える.各開発工程の納期が厳しい大規模システム開発において,プロジェクトメンバに無理を強いることにより,メンバの不満が高まりメンバの離脱が多かった.メンバの入れ替わりによる想定外工数も発生し,周りのメンバのモチベーションにも影響したため,この問題を重要視し対策を実施した.組織的に体制強化を実施し,それに加え特に重要視したのはメンバのモチベーション向上である.一例として,メンバ個人との対面でのコミュニケーションの強化,メンバの特性を踏まえたチーム構成の見直しを行った結果,対策実施以降はメンバの離脱は発生しなくなった.本稿では,私が実際に経験したプロジェクトで発生した問題と,具体的な対策と効果を考察する.今後の展望として,新たに取り組む事項を述べる.
中村 英恵,豊嶋 淳史
ITベンダにとって,継続的に品質の高い製品やサービスを提供し,お客様の満足度を高めるためには品質保証活動は欠かせない取り組みである.近年のグローバル化やデジタル化により,お客様が求める品質は欠陥のないシステムにとどまらず,品質保証対象が変化している.また,グローバル企業として海外各社を統制するにあたり,日本のITシステム開発や運用で培ってきた品質保証の考え方は海外では受け入れらないという課題がある.本稿ではグローバル企業における新しい品質保証(Global Deliver Assurance)の考え方とその実現方法を提案する.新しい品質保証の考え方では,お客様が求める品質はITシステムにより提供される価値であると捉え,Risk reduction, Integration, Connectionの3つの観点でお客様満足をもたらす活動と再定義する.この品質保証のグローバルでの実現方法は,分散協調型による統治(Divide & Conquer)と継続的な改善活動(Continuous Improvement)を核とする共通のポリシーを策定し,これに基づいてグローバルスタンダードのプロセスやルールを整備する.当社ではこの考え方を実践し,品質保証の価値を定義しその能力と共にお客様に示し,共通のポリシーとしてグローバルガバナンスポリシーを策定した.当社ではこの考え方基づき,グローバルデリバリガバナンスポリシーを策定した.また,ポリシーの実践を通じて提供する品質保証の価値を,その能力と共にお客様に示した.これらはお客様調査の結果,高評価を得た.
秋山 義博
Standish GroupやJUASなどが長年に亘り、ITプロジェクトの成功率が20%に満たないと報告している。プロジェクトの開始時に設定(コミット)した目標を計画通りに到達できなかった理由(原因や症状)を数多く示している。今回は、この原因について検討し、解決のための新たな戦略があるかどうかを考える。特に、ベストプラクテスや組織プロセスに内在する特性、3つのソフトウエアプロセス(エンジニアリング、開発、プロジェクトマネジメント)を新しく統合する必要性を検討し、“現場”に導入するための新しいソフトウエア教育の戦略的なリーダーシップが重要であることを考える。
久住 徹也,小嶋 洋二,岡村 龍也,建部 忠史,加藤 潤,鈴森 康弘
System of Engagement(SoE)は,市場の変化や顧客との関係性の変化に素早く対応することが重要であり,アジャイル開発を採用するのが望ましい.またエンタープライズ向け開発において,新規サービスリリースやDX推進に向けたレガシーシステムの刷新といった大規模案件は,早期リリースが求められ,経営戦略上,納期までにリリースする「着地コントロール」が重要となる.このような大規模案件では,System of Record(SoR)でもAPI開発が必要となる場合が多く,また品質重視のSoRはウォーターフォール開発を採用する場合が多い.本稿では,SoRのウォーターフォール開発と並行してSoEのエンタープライズ向けアジャイル開発を行う際の着地コントロールの知見について言及する.
加藤 裕哉
日本の IT プロジェクトにおける品質管理では,開発工程で製造されたソフトウェアを含む IT システムを顧客の要望した仕様を満足しているかを主に考えており,プロジェクトマネージャーもこの観点でマネジメント業務として品質管理を行っている.この品質は成果物の品質,結果品質となる.しかしながら,品質にはもう一つ過程品質が存在する.前述の観点では結果品質のみが対象となっており全体としてのサービス品質を対象とすることは少ない.プロダクトの満足ではなくプロジェクトの満足度を向上させるためにはこのサービス品質が重要であると考え他業界での事例を調査し IT プロジェクトにおけるサービス品質の重要性を考察する.
田中 孝嘉
近年,デジタル技術の進歩に伴い我々の生活は豊かになっている.一方,セキュリティ攻撃は高度化・巧妙化の一途を辿り企業は攻撃され情報流出が危ぶまれている.弊社の提供サービスが外部から不正侵入を受けた.同サービスを利用して通信していたお客様の通信情報が外部に流出した可能性がある.真因は組織のセキュリティガバナンスの欠如であったことは否めない.企業では情報セキュリティ最高責任者(CISO)を設置し,強いリーダシップを発揮のうえ経営問題としてセキュリティ対策に取り組むことが増えている.弊サービス部門では,セキュリティ専任チームをつくりセキュリティガバナンスの向上に取り組んだ.どのようにして組織メンバーのセキュリティ意識を高め,強いセキュリティ組織に導くのか.本論文では,実際に発生したセキュリティインシデントへの対策を基に,作成したセキュリティ対策基準書や第三者監査機関によるセキュリティ評価を交え,組織のセキュリティ向上におけるプロジェクトマネジメントについて考察する.
西條 幸治
日本的経営システム(IBMの創業者トーマス・ワトソンJrも実は家族的経営を標榜したとはされるが)からの脱却や個の時代への対応が語られて久しい.プロジェクトマネジメント学会メンタルヘルス研究会にて,今年2月に2023年度研究報告セミナーを行い,レジリエンスをテーマに講演頂いた話の中で,個の時代で必要なこと~メンタルヘルスへの取組みとして,コーチングやアンガーマネジメントとともにマインドフルネスを紹介された.講演資料には,日本では宗教と捉える固定観念を振り払うことの必要性が書かれつつ,禅などを元にした取組みに対して日本の取組みの少なさへの苦言もあった.これと前後して種々,考察や発表,会話をする中で,家に宗派はあるが個人の信仰は覚束無い日本人にとって“個”を確立出来るのか、と考える状況にある.自治体等の共同体の存続も危ぶまれる中,会社が大家族としてこれらを補う,または,代替することが出来るかを考える.その要素としての冠婚葬祭,とりわけ物故者追悼・慰霊を扱って考察することを考えているが,これはあまり公にされない様子が伺える.某SIerに属し,浄土真宗本願寺派の中央仏教学院通信教育2年次(9月からは最終の3年次の予定)の者として,そこに至る考察と,研究,或いは,実践として取り組みたいことを記す.
小玉 寛
この1-2年で生成AIの利用は急速に一般化し、ビジネスの現場でも注目されている。プロジェクトマネジメント分野においてもその活用は進み、PMIの調査によると、プロジェクトマネージャーの5人に1人が最近のプロジェクトの50%以上で生成AIを活用している。本論文では、生成AIの機能を生成、要約、変換の3つに分類し、それぞれがプロジェクト計画策定にどのように役立つか、またどのような課題があるかを検討する。さらに、生成AIを使ったプロジェクト計画書作成の実例を紹介し、その意義についてまとめる。
七田 和典
ミッションクリティカルなシステムの大規模更改においては複数プロジェクトの並走,マルチベンダーでの開発,プロジェクト途中での要件変更の発生等の様々な事情によりプロジェクトが複雑化することで進捗や品質に影響を及ぼすリスクが高まる.本稿では大手金融機関のミッションクリティカルなシステムの大規模更改の事例を交え,複数プロジェクトの並走,マルチベンダーでの開発,プロジェクト途中での要件変更の多発等によりプロジェクトが複雑化し,リスクが高まった状況において,プログラムマネジメントの考え方をベースとした取り組みにより並走する複数プロジェクトのガバナンスを強化しリスクを軽減することで,プロジェクトの進捗・品質に影響を及ぼすことなく成功裡にプロジェクトを推進した事例から提案手法の有効性を考察した.
音川 英一
本論文は運用保守事業向けに型決めした「プロセス振り返りによる根本原因分析手法」の開発に関する主要な考え方と,筆者が担当した重大システムトラブルのヒアリング業務への適用実績から得られた手法の有効性評価結果を報告する.当社の運用保守事業はプロジェクト計画,実施要領,マニュアル,作業計画,手順と言った文書にてプロセスを予め定義して業務を遂行することで品質を担保しようとしている.この事業特性を踏まえると,プロセスの定義が不十分であるかプロセスを適切に遂行しなかったことがトラブルの根本原因である可能性が高いと考えることができる.この考え方に基づいて「プロセス指向」で分析対象と分析観点を型決めした根本原因分析手法を考案し,2022年に全社品質部門より社内向けに公開した.筆者が担当した8件のヒアリング業務にこの手法を適用し,分析精度と生産性の効果が一定程度認められた.
關 咲良,小笠原 秀人
本論文では,ドローン映像を基に震災時の避難および救助ルートを効果的に選定するシステム設計に焦点を当てる.ドローン映像から複数の避難/救助ルートの候補を挙げることはできる.しかし,それだけの情報では,最適なルートを特定することが難しい.救助する際には,被災者/関係者との連携,位置情報の共有,被害情報,リスクの確認など,さまざまな情報が必要となる.これらの情報をより効果的・効率的に活用するためにPMBOKの知識エリアが活用できると考えた.本論文では,PMBOKの知識エリアを活用したドローン映像に基づく震災時の避難/救助ルートを提示するための方法を提案する.
平岩 空音,木村 夢希,福田 楽心,小笠原 秀人
ソフトウェア開発のPBL(Project Based Learning)の特徴とは,実際のプロジェクトを通じて学習者が実践的なスキルや知識を習得することにある.だが,今回行っていく中でチームをまとめることの不慣れや,ソフトウェア開発についての知識不足,メンバの能力の把握不足のため様々な観点で問題が発生してしまった.今回,2024年4月から7月の13週間にわたりPBLを実践した.このPBLでは,4名のメンバでチームを構成し,「千葉工業大学新習志野キャンパスのスポーツ施設予約サイト」というシステムを開発した.本稿では,その実践内容を具体的に紹介し,その中で発生した課題とその解決案を提案する
加藤 翔一郎,赤松 章
名古屋産業大学現代ビジネス学部経営専門職学科は、日本初の「経営専門職」を名乗る学科であり、実践重視のカリキュラムを提供し、早期に経営学修士レベルの人材を育成することを目指している。本学科では新入生の時から、事業データの理解・活用能力を修得させるため、地元企業と提携して実データを活用し事業課題を発見し解決する『データ分析による問題発見/問題解決型学習(データ分析PBL)』を行っている。開講一年目では、データ分析の理論習得に集中できない学生が散見され、二年目にはデータ分析の理論学習に先行して、企業見学や社員との交流を行うことで改善を図ったが、課題設定や進行管理に課題が残った。そこで三年目では(1)プロジェクトマネジメント理論を導入し、(2)学生の自律性とモチベーションを高めるための事前調査、(3)自己効力感を醸成するケースメソッドを取り入れた学習体系を構築し、より効果的なPBLの実施を目指しているので紹介する。
黒木 弘司,木野 泰伸
要件定義はシステム開発の出発点であり,プロジェクトの成否を左右する非常に重要な工程である.しかしながら,ユーザーの要件を正確に把握することは経験を積んだエンジニアにとっても難しく,ましてや経験の浅い若いエンジニアにとっては非常に困難となっている.そこで,経験の浅い若いエンジニアでもユーザーが文章や口頭で伝えた要件を,より正確に把握するための方法としてテキストマイニングなど,テキストデータをある程度機械的に分析する手法の活用も考えられる.しかしながら,現状では,テキストデータの分析結果として示される共起ネットワーク図などの解釈においては,やはりある程度の熟練が必要となる.本稿では,共起ネットワーク図の解釈において,熟練した分析者の解釈結果と生成AIによる解釈結果との比較を行い,生成AIの要件定義への活用可能性についての検討を行った.
坂本 健一,福本 剛,三角 英治,佐藤 慎一
NTTデータでは,ローコード等による「作らない開発」が増えてきている背景を踏まえ,サービス開始前後のすり抜けバグに着目して開発全体の品質を評価する指標「サービス開始後6ケ月すり抜けバグ摘出率」を提案・検証し,会社全体の品質評価指標として運用している.次の検討課題として,「作らない開発」の開発時の品質評価方法を検討した.開発時の品質評価では,プロジェクト毎にお客様要望や開発方法等に応じて品質評価方法が多様なため,標準指標の提示ではなく,プロジェクトの品質評価事例を複数収集し,事例集として社内に展開することとした.しかし,その際,単に事例だけを展開するのではなく,プロジェクトの特性別に指標・評価方法等の情報を整理した概説を加えたガイドラインの形で提供した.こうすることで,利用者は,自身のプロジェクトの特性を踏まえ,適した指標や品質評価方法を定義でき,かつ,それに合致した事例を参照することができる.現在,このガイドラインを社内展開し,プロジェクトで活用されている.
吉田 憲正
パンデミックを引き起こした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,日本では2023年5月8日に感染症法5類感染症へ変更された.現在も感染は続いてはいるが,パンデミック自体は収まったと認識されている.この時期に途中経過であれ,今回のワクチン接種政策状況をプロジェクトマネジメント学の観点で議論することは,今後の政策にとって極めて重要である.本論では,プログラム-プロジェクトのフレームワークで実施政策を捉え直し,問題点と残された課題を明確にする.