論文要旨(Abstract)一覧

パッケージ適用における要件定義工程での進捗管理と品質評価の考察

田谷 基教


パッケージ導入プロジェクトにおける要件定義工程の進捗管理と品質評価について考察した.一般的なシステム構築では,設計工程は設計書のページ数,製造工程はコーディングするプログラム数等,完成数に対する作成割合で進捗を評価する.一方で,パッケージ導入における要件定義工程では,パッケージの機能要件や帳票に対してFit & Gapを実施するが,各要件の可否判断が保留されることが多いため,要件定義工程の進捗評価を打ち合わせ回数で行う場合がある.要件定義工程のみのプロジェクト管理を行う場合は,正しい進捗状況を把握するために打ち合わせ回数での評価では不十分と考える.要件定義工程のみのプロジェクト管理における進捗管理を提案した.また,品質評価の観点も同様で,テスト工程まで含まれたプロジェクトであればバグ密度の定量評価とバグ内容から定性評価を行うが,要件定義工程のみのプロジェクトにおける成果物に対する品質はドキュメントの体裁を中心に評価する.ドキュメントの体裁以外で後工程に対して十分な品質が担保できているか考察した.


COVID-19ワクチン接種プロジェクトの残した課題

吉田 憲正


パンデミックを引き起こした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,日本では2023年5月8日に感染症法5類感染症へ変更された.現在も感染は続いてはいるが,パンデミック自体は収まったと認識されている.この時期に途中経過であれ,今回のワクチン接種政策状況をプロジェクトマネジメント学の観点で議論することは,今後の政策にとって極めて重要である.本論では,プログラム-プロジェクトのフレームワークで実施政策を捉え直し,問題点と残された課題を明確にする.


エンタブライズシステムにおけるプラットフォームエンジニアリング〜プロダクトの成長とともに進化するクラウドネイティブ基盤〜

工藤 佑介


企業がクラウド利用を推進する際、組織共通のクラウド利用環境(クラウド共通基盤)を採用するアプローチが広く一般的に用いられている。クラウド共通基盤はガバナンスを効かせることや組織内のサイロ化を防ぐ効果が期待される一方で、サービス開発者にとってはその習熟に必要な認知負荷が増加し、またシステム規模の拡大に伴い運用負荷も増大することがシステム開発現場における大きな課題となっている。これらの課題を解決するために、エンタープライズ環境にPlatform Engineering(クラウド共通基盤の効果的な活用によって開発速度向上・ビジネス価値を向上させるアプローチ)を導入し、開発および運用負荷を低減するとともに、システム開発の高速化を実現できる手法であることを確認した。


プロジェクト成功の鍵:ASPとPMBOKパワースキルの融合による価値創出

林 玲奈


本発表では、ASP(Application Service Provider)を利用したECサイト構築支援プロジェクトにおいて、PMBOKガイドのタレントトライアングルが提唱するパワースキル(=ソフトスキル)の活用が成功に寄与した事例を考察する。ASPの採用により、短期間での開発やコスト削減が可能となる一方、標準機能の制約下で顧客満足度を最大化する必要があった。本プロジェクトでは、顧客との信頼関係構築、要件調整、チームリーダーシップの発揮など、特にパワースキル(エンパシーやコミュニケーション能力)が重要な役割を果たした。本発表では、これらスキルを実践的に活用した具体例を提示し、成功要因や課題を分析することで、現代のプロジェクトマネージャーが価値を創出する方法を示す。


プロジェクトマネジメントにおける人間学的視点の統合:人間中心のアプローチの成功要因

中田 孝一


プロジェクトマネジメントは、従来、タスクやスケジュール管理に重点が置かれてきました。しかし、近年では、プロジェクトの成功に、人間関係やコミュニケーションといった人間的な要素が大きく影響することが明らかになっています。本テーマでは、プロジェクトマネジメントに人間学的視点を取り入れることの重要性を強調します。特に、人間中心のアプローチがプロジェクトの成功にどのような貢献をするのかを深く掘り下げます。具体的には、以下の点について考察します。•多様なステークホルダーのニーズを理解し、統合する重要性•チームメンバーのモチベーションを高め、協働を促進する効果的な手法•リーダーシップの役割と、人間関係構築におけるその重要性。本テーマを通じて、プロジェクトマネジメントにおける人間中心のアプローチが、単なる付加価値ではなく、成功のための不可欠な要素であることを示します。


東南アジア(インドネシア)におけるプロジェクトマネジメントに関する考察

西村 信也


近年,東南アジア等の諸国では継続的に経済成長を遂げており、その中でも世界第4位の人口(約2.8億人)を有しているインドネシアにおいては、著しい経済成長を遂げている。しかしながら、インドネシアは日本と同様、災害大国であり、その被害に頭を悩ませている現状がある。その被害から国民を守るため、日本の情報通信インフラを導入し、災害復旧活動や減災、防災活動に活かすことが考えられてきた。本稿では、これらの現状を踏まえて発足したインドネシア防災情報伝達システム(DPIS: Disaster Prevention Information System) の構築を実施する中で得たプロジェクトマネジメントに関する考察を記すものである。


大学生のウェルビーイングにおける推し活の役割

貝増 匡俊,小嶋 菜々帆,玉津 小椿,山下 舞香


大学生活をプロジェクトと捉えることができるが、学生活ではスタディーライフバランスが重要になる。ほとんどの大学生はアルバイトをしていることから、「スタディ」プラス「ワーク」ライフバランスが重要になる。大学生のウェルビーイングを向上させることにつながる。現代の大学生はインターネットやスマートフォンを使って大量の情報から効率よく学ぶ必要がある。一方で、大量の情報がメンタルヘルスに影響を及ぼす場合がある。このため、ストレス解消などメンタルヘルスを整えるために、現代の大学生の多くが推し活を行っている。大学生を対象に推し活の影響とウェルビーイングの関係について調査した結果、推し活が大学生に与えるウェルビーングの影響が大きくことが明らかになった。一方で推し活を進めるにあたり、アルバイトに時間を取られるなど、推し過ぎる者もいる。


データ活用におけるデータガバナンスの重要性とPMの役割について

河合 則夫


データは21世紀の石油と言われるようになって久しい。しかしながらデータの活用により十分な成果を得ていると考えている日本の企業はほんの僅かに過ぎない。データ活用に関する企業文化や組織体制が十分に整備されていない、データ活用に対する組織の方針や活動内容が一般社員にまで浸透していない等が理由として挙げられており、その解決策としてはデータガバナンスプログラムの導入が不可欠である。一見敷居が高そうなデータガバナンスも「データの取り扱いルールを定め、それを組織全体で守っていく取り組み」として平易に捉えることで心理的ハードルを下げ、早期フェーズからプロジェクトマネージャーが主体的に関わっていくことが重要であると考える。本稿ではデータ定義・データ品質といったデータマネジメントの観点も交えながら、具体的な取り組みについての考察を記す。


異なる特色のプロジェクトにおけるマネジメントについて

清水 大輝


本論文では,2つの異なる特性を持つプロジェクトを比較し,それぞれのプロジェクトにおいてプロジェクトマネージャーに必要な役割とスキルを分析した.1つ目のプロジェクトは,品質よりも期間を優先し,スピード重視の社内システム開発プロジェクトである.このプロジェクトでは,経営層の判断からサービスインまで短期間での対応が求められ,アジャイルとプロトタイピングの中間モデルを用いて開発が行われている.2つ目のプロジェクトは,品質を最優先とする金融機関向けの外部システム構築プロジェクトであり,障害が許されない堅ろうなシステムが必要であった.このプロジェクトでは,ウォーターフォールモデルが採用されている.両プロジェクトに対して,スコープ,スケジュール,コスト,品質,コミュニケーションの観点から共通点と相違点を分析し,プロジェクトマネジメントに必要な要素を確認した.分析の結果,プロジェクトマネジメントにおいては,プロジェクトの特性を分析・管理し,各マネジメント観点における必要性と優先順位をステークホルダーと合意しながら計画を進めることが重要であるとの結論に至った.


ローコードツールを活用した要件確認工程の実施とその効果について

唐津 知子


公共案件の特色として,要件定義とシステム開発が別調達になることがあり,また仕様や納期の変更が難しいといった特徴がある.そのため要件定義が曖昧な場合,設計工程が遅延し開発工程が圧迫されるケースも多く,非効率やコスト増を引き起こすため,リスクを軽減する解決策が模索されてきた.本研究は,公共ITシステム開発プロジェクトにおける課題を解決するために,ローコードツールを用いた要件確認工程のPoC(実現可能性の検証)の有効性を検証することを目的としている.そのため基本設計工程の前に要件確認工程としてPoCを導入し,顧客との要件の齟齬を早期に解決することで製造工程での仕様変更を減らし,加えて設計段階から製造までアジャイル型開発を取り入れたハイブリッド開発手法を採用することで開発を効率化できるかを検証した.その結果,顧客との認識相違を早期に解決することで,設計工程の遅延を減らし,開発工程の圧迫を軽減できた.結論として,従来のウォーターフォール型開発にローコードツールとアジャイル型開発を取り入れることは,公共ITシステム開発プロジェクトの課題に対処する有望なアプローチの一つだと考える.


プログラムコードマイグレーションにおける生成AIを活用するためのプロセスに関する考察

松尾 匠,佐藤 大輝,萩原 淳


近年急速なAI技術の発展と普及に伴い,生成A技術を用いたシステム開発の効率化へ向けた応用が検討されている.NTTデータグループでも,生成AI技術を要件定義,設計,製造,テストなどの各工程で活用し,生産性向上や品質改善の取り組みを実施している.一方で、生成AIを用いる際にはプロンプトチューニング実施に伴う工数の増加や,生成AIによる出力結果は必ずしも正確ではなく,それらの特性を踏まえた手順で利用しなければ,十分な品質確保や生産性の向上が見込めないといった課題が存在する.本稿では生成AIを活用したプログラムコードのマイグレーションにおける適用プロセスと課題を報告する.さらに業務システムのマイグレーションにおける生成AI技術の適用事例を報告し,マイグレーションにおける生成AIの有効性,実施したプロセス,今後の課題について考察する.


IT人材の転職における他者からの支援に関する業務領域による比較

三好 きよみ


日本のデジタル競争力は低下しており,その要因は人材不足といわれている.特に,先端IT 人材は,2030年に約30〜50万人不足する見込みである.それには,従来の技術・領域に携わるIT人材の転換やリスキリングなどにより,人材の流動性を高めることが必要である.そこで,本研究は,不足しているといわれる先端IT人材に焦点をあて,転職と他者からの支援の状況について検討した.アンケート調査を行い,転職を考えたときの他者からの支援の状況について先端IT従事者,従来型IT従事者,非IT従事者の3群に分けて比較検討した.その結果,先端IT従事者の特徴として次のことが示された.先端IT従事者は,転職を考えたとき,従来型IT従事者,非IT従事者よりも,上司・先輩からの精神支援,友人・知人・家族からの業務支援と内省支援があったことが示された.また,先端IT従事者は,転職を考えたとき,転職経験者の方が転職経験なしの者よりも,上司・先輩からの業務支援があったことが示された.


スタッフ部門参画による受注前リスクの対応手法

栗原 義人


現在のITシステムはサービスが多様化しており,それにより技術も高度化している.プロジェクトを開始してからでは対応しきれないリスクなどに備えて,受注前の段階からリスク対応計画を行うことは,プロジェクトを成功に導くためには不可欠である.受注前段階での工数などの見積精度不足,必要作業項目の見落としによる見積漏れなどはトラブルに直結する問題である.問題の要因は,顧客品質要求水準などの重要性や未経験技術利用,体制不十分のリスクを十分に議論しきれないためなどが考えられる.特に高難易度や大規模プロジェクトにおいて,経験やノウハウが十分ではない場合には受注前段階から見積精度向上やリスク対策に取り組むことが重要な課題である.この課題解決のため,想定されるリスクをできるだけ計画段階から織り込める施策を実施した.提案時に重要性のあるものを認識してマネジメントレベルを判断する仕組みや事業部門と第三者の組織としてスタッフ部門がプロジェクト情報を共有し,リスクを早期に把握することにより,受注前の審議実施前に事業部門とリスク項目の共有を可能とした.これにより受注前段階でのリスク対応強化を可能とした.


アジャイル型プロジェクト推進のリスキリングに関して
- 日本の現状把握からアジャイル型プロジェクト推進の為のリスキリングの必要性 -

中村 健治


ここ数年で,日本でも公官庁を含め,多くの公共の場でもアジャイルという言葉を耳にする機会が多くなっている.また,今までは,アジャイルと言えば,システム開発やIT関連が中心領域として利用されていることが多かったが,近年,特にシステムやIT関連分野を超え,アジャイルという言葉が多種多様な場面で利用されるケースが多くなり,世間的にも一般用語として認知されはじめている.しかし,言葉だけが認知され,実際のアジャイルに関する内容が,人々によって認識が違っている傾向が目立つようになってきた.本論文では,アジャイルとは何か?何故アジャイルなのか?プロジェクトとアジャイルの関係性を理解し,日本の現状と問題・課題点を整理・把握し,会社におけるシステムの組織やシステム開発の変遷を踏まえて,更にアジャイル型プロジェクトを推進するにあたり,リスキリングの必要性に関してまとめた研究結果を報告する.


分散拠点プロジェクトのコミュニケーションマネジメントの課題と対応

佐藤 大一郎


お客様・開発ベンダともに,コロナ禍を経験した現在,システム開発におけるプロジェクトメンバや,お客様をはじめとしたステークホルダーとのコミュニケーションの在り方が,プロジェクトを成功させるための重要な要素となっている.分散した拠点での開発は多くのプロジェクトで推進されており,従来のコミュニケーション手段では,計画した目標に到達することを困難にしている.これらの課題を抽出し,新たなプロジェクト環境下の最適なコミュニケーション手段の仮説を立て,検証した経緯とその結果を踏まえて,プロジェクト適用した際に得られた効果を整理した.分散拠点での開発においては,コミュニケーションの質と量がプロジェクトの成否を左右するため,ツールの活用と心理的安全性の確保が重要である.実際のプロジェクトでの適用事例を通じてその有効性を検証した.本論文では,プロジェクト適用した際に得られた効果を纏める.


IT製品保守における問い合わせシステム統合を通した契約フローの改善活動

佐藤 渚,中島 雄作


本資料では、ネットワーク製品保守における契約登録遅延という課題を解決するための取り組みが述べられています。筆者らは、顧客からの問い合わせ時に有効な契約情報がシステムに登録されていないことが多く、不要な確認工程や受付開始の遅延が発生していることに問題意識を持っています。この課題解決のために、サポートシステムの統合プロジェクトを通じて業務フローの可視化、ECRSの原則を用いた改善案の整理、方針決定を行い、「コールシート」と「保守申込書」の廃止を提案しました。その結果、コスト削減とデリバリー時間の短縮が見込まれる新しい運用フローを2月より実施予定であり、今後もさらなる改善検討を進める方針です。


ストーリーポイントと実績時間の関係分析による見積もりの妥当性検証

香坂 茉莉花,浅田 隼人,後藤 卓司


アジャイル開発では,機能ごとの規模や複雑さを見積もるためにストーリーポイントを使用し,キャパシティからスプリントごとの開発計画を立てる.しかし,ストーリーポイントは相対的な値であり,開発側が見積もり時に示すストーリーポイントや計画の妥当性を発注側が評価する手段はなかった.そこであるアジャイル開発プロジェクトを対象に,開発初期9か月のストーリーポイントと実績時間の関係を分析した.担当者や職位ごとなど様々な軸で相関の有無を分析し,ストーリーポイントと実績時間に相関関係のある軸を明らかにし,回帰式を求めた.この回帰式を利用することで,発注側が所要時間を概算することが可能となった.またこのプロジェクトは4年間継続しており,開発者の習熟度も経験によって向上ため回帰式を算出するタイミングの検証も行った.これにより,安定した開発を継続的に実施することが可能となった.本手法により,発注側がストーリーポイントの妥当性を判断でき,安定したアジャイル開発のマネジメントが期待される.


セキュアな開発環境構築に向けた作業統制手法と生成AI活用の検討

岩崎 一隼


プロジェクト参画人数が多いシステム開発の現場では,開発者のスキルの多様さを考慮したセキュリティ上の統制・ガバナンスと,開発者の利便性を向上させる開発環境を整備することが,プロジェクトを安全かつ効率的に推進する上で重要である.組織として守るべきセキュリティ基準を満足しつつ,新たな脅威に対応する為に継続的に機能を最新化し,開発者のセキュリティ意識が不足したとしてもセキュリティ事故を発生させないことが求められるが,次に示す問題がある.(1)開発者への機能提供・展開の手法によってはセキュリティ上の問題が発生し得る.(2)クラウドサービスの最新化に追従した提供機能の最新化の遅れや最新化要否の誤判断によりセキュリティ上の問題が発生し得る.本稿では,これらの問題解決に向けて検討した,(1)開発者による導入作業のミスを防止するガバナンス統制を備えた機能展開手法,(2)提供機能最新化要否判断の品質のばらつき抑制に向けた生成AIの活用について報告する.


プロジェクト横断型の業務スペシャリストチーム設置に関する考察

平田 久也


顧客のニーズを理解し,要件定義,業務システムの設計,開発,運用,保守を行うためには,業務知識を持つ人財が必要である.環境の変化と共に,顧客のニーズが多様化し,対応のスピードアップが求められる中,これらの人財の重要性は,より高まっている.しかし,これらのスキルは属人化する傾向にあり,人財の育成には時間がかかるため,業務有識者は不足している.そのため,複数のプロジェクトが並走する状況下では,従来のようにプロジェクト毎に業務有識者を配置する方法では,対応が困難となる.対応策として,プロジェクト毎に業務有識者を配置するのではなく,プロジェクト横断型の業務スペシャリストチームを設置した.受注案件が増加した一方で,業務スペシャリストチームの役割が企画工程のみへ変更となり,開発工程では品質低下や工程遅延が生じた.複数のプロジェクトが並走する状況下で,全体を俯瞰した上での作業量と体制のバランスの調整や,案件と作業の優先順位付けが不十分であったことが要因であった.本施策の実現には,プログラムマネジメントの知識体系を活用し,複数プロジェクトを統括するマネジメントオフィスの設置が不可欠であると認識できた.


顧客組織に対するコミュニケーションを活用したステークホルダーマネジメントの対策事例

荒井 智行


システム開発は,発注者と受注者(ベンダー)の協働作業であり,双方が担うべき役割を全うすることこそが,プロジェクト成功の近道である.特に,大規模システム開発プロジェクトでは課題や問題が複数発生するものであり,これらの検知や解消の遅れはプロジェクトの成否を大きく左右する.この原因を深堀りすると,コミュニケーションの問題にたどり着くことが多い.本稿では,大規模プロジェクトにおいて,共有すべき内容を,共有すべきレイヤーで同じ理解が図れていないことで課題や問題の解消がうまく進まず,プロジェクト進捗の遅延が発生した事例とその対策について紹介する.発生したコミュニケーションの問題に対して,ステークホルダー分析を行い,共有・合意したい事項に対して会議体を設定した.ステークホルダー分析としては,役職・役割・技術力・ヒューマンスキル等を軸に整理した.さらに,解決策においてさまざまな立場の人をすべて満足させることは現実的に難しく,落とし所や妥協点を見つけるために,発注者と受注者双方の上位職含めた会議体を設けることとした.結果,効果的なコミュニケーションにより,プロジェクトを推進することができた.


ERPパッケージ導入プロジェクトにおける習熟度定着施策

東田 龍二


ERPパッケージ導入プロジェクトにおいて,プロジェクト後半にキーユーザー教育を実施し,キーユーザーからエンドユーザー教育への展開,ユーザーテストを実施した上で,現場の習熟度を上げて業務本番を迎える.しかし,新システムに対する習熟度が想定レベルに達しないケースや,通常業務を運用できるレベルまでは上がらず本番稼働日を延期するケースや,習熟度が甘いままの本番稼働により,現場が混乱し当社のサポート工数が増大するケース,業務が滞ってしまうケースが散見される.本報告では習熟度を計画的に高めてスムーズに新システムでの業務運用を開始することを目標に施策を実施した結果,約4,000人規模のERPパッケージ導入プロジェクトでシステム稼働当日から,通常業務レベルの運用が開始できた施策の効果と課題について報告する.


業務アプリケーション開発における早期リスク分析とその対応について

徳永 恭之


業務アプリケーション開発においては顧客要求指標やプログラムの改修範囲を見積もり段階で全て確定させることは難しく,残存するリスクをどのように管理し,それを顕在化させずプロジェクトを遂行していくことがプロジェクトの成功につながっていくものと考える.またリスク管理についてはプロジェクトを進めていくうちに予想もしなかった問題が発生することも多く,プロジェクトの制約条件・特徴を踏まえ,事前にそのリスクに対処していくことが重要であるものになる.今回,遂行中のプロジェクトに対し,プロジェクトに潜むリスクを顕在化させないための取り組みとして,見積もり作業では類推見積もりを用いての作業量の確認,作業期間についてはConstructive Cost Model(COCOMO)を用いて妥当性を確認した.開発体制については現行システムの有識者が確保できないリスクを踏まえ,1人1本の先行レビューや中間での品質評価を実施し,早期での問題点・品質確保を目指す計画とした.その結果,見積もり内容,品質に問題がないことを確認することができた.ここでは他ベンダーが担当するサブシステムも請け負う業務アプリケーション開発を実施したものになるが,この取り組み内容,成果,今後の課題について以下に記述する.


日本国における法制度化に伴うビジネス検討

森尾 智治


日本国における法制度化は,各々の所管する省庁において行われ,各省庁は所管行政の遂行上決定された施行目標を実現するため,新たな法律の制定を決定し,国会審議まで1年以上かかる.一方,成立後は,法制度化に対応したシステム化対応に進み実証実験,本番稼働に向けた開発等が伴うため企業においては,制度に至る前段からのビジネス検討,短期での開発が必要となることから,ビジネス検討を早期に行う必要がある.本論文の目的は,日本国における法制度化に伴うビジネス検討におけるプロセスを定義して,プロセスに従い実際に日本国において推進する制度をもとに適用した結果を考察することを目標とする.本論文では,実在する日本国が制度化する実例に対して,各種フレームワークを活用して,分析技法をもとに企業におけるビジネスのスタートアップから実行までのスケジュール,投資等の計画をした上での実証結果を分析する.結論としては,法制度化に向けた政府動向の影響で,プロジェクトのスケジュールや投資計画が大きく見直されることが多く,実証したプロセスはスタートアップ事業には効果的だが,成果の視覚化が困難で,上位層をふくむ関係者間の密な連携が必要と分析した.成果が見えにくいビジネスの場合,企業としての継続可否の判断が難しい状況となるため,プロジェクトメンバの管理工数および担当者のモチベーション管理が重要となってくることが判明した.


生成AIを活用したレビューチェックリスト作成の効率性と有効性の検証

西本 真由


昨今,さまざまな分野で生成AIサービスが登場しており,ビジネス利活用が叫ばれるようになった.ソフトウェア開発においても,生成AIを活用するためのユースケースが検討されている.本論文では,アジャイル開発における品質向上を目的とした,生成AIを活用したレビューチェックリスト作成について有効性を報告する.アジャイル開発では短期間でのリリースを繰り返すという開発特性上,スピードが重視されるため,レビューチェックリストのメンテナンスにかかる時間が課題となり最新状態を維持することが難しい.また,レビューチェックリストの作成は作成者のスキルに依存するというレビューチェックリスト自体の品質の問題もある.これらの課題を解決するために,形態素解析を用いて過去のバグ一覧(バグ報告書)を要約および,抽象化し,その結果をもとにレビューチェックリストを生成する既存手法を生成AIにより自動化を試みた.実験データとして,過去の開発プロジェクトでのバグ一覧を使用した.実験手法は先行研究の手法をもとに3つのステップに分けてプロンプトを作成した.本手法の適用効果を確認し,有効性の検証ができた.


プロジェクトメンバへのメンタルヘルスマネージメント

矢川 淳


COVID-19パンデミックによりニューノーマルな働き方であるリモートワークが,各プロジェクトでも定着してきた.このリモートワークの影響もあり,「コロナ鬱」と称されるように,プロジェクトメンバの精神疾患による休職および退職リスクは増加傾向にある.精神疾患発症者のプロジェクト内のポジションや精神疾患発症時のプロジェクト工程によっては,プロジェクトマネージメント上の重大なリスクとなりうる.こうしたリスクを回避することを目的に,複数のシステムエンジニアが過去精神疾患に至った要因をヒアリングした結果,プロジェクト特性や個人特性および勤務形態に特定の共通事項が存在し,総じて心理的安全性が損なわれやすい状態でプロジェクトに従事していたことが共通要因であると推察した.その共通要因に対して具体的な施策を立案した上で,体調不良を訴えていた精神疾患予備軍のプロジェクトメンバに対してその効果検証を行った結果,体調不良症状の一部改善を確認した.本稿では,リモートワークを併用したプロジェクトにてプロジェクトメンバが陥りやすい,精神疾患発症リスクに対するメンタルヘルスマネージメント施策について述べる.


ITエンジニアのキャリア開発における経験学習の必要性と方向性について

田中 信行


労働人口が減少し、ITの現場でも人材不足が発生しており、長い時間をかけてじっくりと育成する時間がなく、現場では即戦力の人材を経験者採用で雇用しているケースも増えてきている。同様に、人材不足の中では、1つのプロジェクトで経験値が高まった人材を簡単に手放したくないという原理も働いており、IT人材をどう育成していくかが現場での課題となっている。IT技術者の育成には、ITスキルについて座学等での学習による育成と、現場経験による育成の2種類をうまく組み合わせて実施する必要があり、どちらか一方だけでは現場で活躍できるエンジニアの育成は難しい。本稿では、最近当社で取り組んできたITエンジニアの育成の事例について紹介し、高度人材を育成するための方法について考察する。


人間の行動プロセスに着目したインシデント真因分析の手法とその手法を応用した研修の成果

角 正樹,梶浦 正規


産業界ではロボットやAI等による自動化が進んでいるが,システム開発やシステム運用においてはいまだに人間が介在しなければならない領域が多数存在する.ゆえに,人間が引き起こすヒューマンエラーが多くのインシデントの引き金になっている.ヒューマンエラーは人間の行動に起因するものだが,ミスの無い完璧な行動を人間に求めるのは難しい.そこで,ヒューマンエラーの削減策,あるいは回避策として,(1)人間の作業品質の向上,(2)人間がミスを起こしにくい仕組み,(3)人間のミスを補完する仕組みが求められる.筆者らはヒューマンエラーが発生する構造について,人間の行動プロセスに着目して研究を続けてきた.前述(1)(2)(3)いずれの対策も,「人間はなぜそのような行動をするのか」,「人間はなぜそのような行動をしたのか」という真因を究明する必要がある.本稿では人間の行動を「認識」,「判断」,「処理」,「確認」のプロセスに分けて真因を究明する手法と,その手法を研修教材に仕立てる過程で得られた知見や研修成果を紹介する.


ネットワーク型プロジェクトにおける運営上の課題解決に向けた対策検証

大竹 竜慈,三浦 太


昨今のIT人材不足,アフターコロナや働き方改革による作業場所や時間に拘らない働き方などから,従前のプロジェクト体制の構築や運営が当たり前ではなくなってきており,組織としても限られた人的リソースを最適配置することが経営課題となっている.今回事例として紹介するプロジェクトでは,部内の複数の課から必要なスキルを持つメンバを集めてチーミングを行い,その個々人は他のプロジェクト員も兼務するという,ネットワーク型の体制を構築した.その結果,メンバの出社形態や作業場所,作業時間の制約などに起因したコミュニケーションの課題や,プロジェクト特性であるスコープの曖昧さによる課題が発生した.これらの課題に対して,コミュニケーションのタイミングの改善や非言語コミュニケーションによる相互理解の促進,ツールの活用などを推進することにより,一定の改善成果を得ることが出来た.また,スコープの曖昧さについても,ゴールから逸脱しない工夫を図るべく運営の改善を行った.これらの課題はネットワーク型組織でチーミングしたことにより,より顕著に表れた課題と認識しており,今後もプロジェクト終了に向けて継続,改善しながら推進していく.


AIを活用したプロジェクトマネージャー(PM)育成支援の提案

半田 雅一


近年,デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展によりITプロジェクトが急増し,プロジェクトマネジャー(PM)の需要が高まっている.一方で,少子高齢化による労働人口減少でPM人材の確保が困難となり,早期育成が喫緊の課題である.PMはプロジェクトの成否を左右する重要な役割を担っているが,経験豊富なPMは多忙な為メンタリングの不足や,企業内ナレッジの活用不足により新人PMへの十分な支援が出来ていない現状がある.本稿では,AIを活用したPM育成支援を提案している.AIアシスタントは,自然言語対応による企業内ナレッジ活用を通じて新任PMの早期戦力化を支援し,PM育成におけるプロジェクトマネジメント分野の課題解決に寄与することを目指している.


組織・チームの変革のためのアジャイル指標とそれに基づく改善活動の検証

水野 浩三,津曲 奈央,家田 晴子,杉本 俊明


VUCAの時代においては, 変化に俊敏な対応ができる能力(ビジネスアジリティ)が組織・チームに求められている.しかしビジネスアジリティという言葉だけでは抽象的であるため, その達成状況を把握するのは困難であった.そこで組織, チームのビジネスアジリティの状態を見える化し, 組織・チームを変革するための指標『アジャイル変革指標』を整備した.アジャイル変革指標を使用してチームをアセスメントすることで, ビジネスアジリティ達成に向けた課題を特定し, 組織・チームの変革を効率的に達成することができると考えたためである.本発表では, これらの仕組みと試行結果にもとづく組織・チーム変革の手段としての有効性について紹介する.


伴走型PMOの実践と考察

在間 康隆


近年,企業活動においては,様々の要求に対して対応していくためのプロジェクトが複数立ち上がり,充分なプロジェクトマネジメント経験があるメンバーの擁立が難しくなっている.加えて,働き方の多様化によるワークライフバランス等もあり,プロジェクト運営においてプロジェクトマネージャーだけでは解決できない課題が増加している.これらの課題に対応する手段として,PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)がマネジメントサポートの枠を超え,プロジェクトマネージャーに伴走することで対応していくケースが増加している.本稿は,プロジェクトマネージャーの能力に応じた伴走方法,および伴走時に特に重要なポイントとなるプロジェクトマネジメントの原理原則,実際のプロジェクトで伴走した結果について考察する.


行動経済学を用いたプロジェクトマネジメントの実践

佐藤 昌博


プロジェクトに関わるステークホルダーは,必ずしも合理的な判断をするとは限らない.例えば,顧客は自社の政治的背景で簡単に要求を変えることもあるし,開発者は理想を追うことを止め,実装しやすい処理方式を選ぶ場合もある.プロジェクトを動かしているのは人間であり,人間が性格や価値観,情緒,その瞬間の感情によって,非合理的な選択をすることは行動経済学の研究の中で明らかにされている.プロジェクトのステークホルダーが常に合理的な選択をするのであれば,意見が分裂することは少なく,プロジェクトが失敗することは無いだろう.この非合理性そのものがプロジェクトのリスクであり,非合理性を適切にコントロールすることでプロジェクトの成功確率を高められるのではないかと考えた.この仮説に基づき,行動経済学の中でも主要な認知バイアスをプロジェクトマネジメントに実践した結果,プロジェクトの成否だけでなく,顧客満足度の向上に大きく寄与することが分かった.


要件定義工程の曖昧さが後続プロジェクトに与える影響とその対策

菊田 和良


要件定義工程で発生する問題は,プロジェクトの成否に直結する重要な課題とされており,これまでにも要件定義工程の進め方に関するガイドの作成など,さまざまな対策が講じられてきた.しかし,現在においても,要件定義工程と基本設計工程以降の工程が分割して調達される場合などに,要件定義工程での成果物に曖昧さが残ったまま,基本設計工程以降の後続プロジェクトが進行することがある.このような後続プロジェクトでは,スコープクリープや変更要求が多発し,プロジェクトの推進が困難になる可能性が高い.本稿では,要件定義工程の成果物に対する検証工程を設けることで,責任分担が切り替わる後続プロジェクトを安全に推進する方法について提案する.


システム障害の未然防止に向けたプロセス指向の原因分析

金 祉潤,渡邉 優子


ITシステムの複雑化により, システム障害とそのリスクも多様化しており, システム障害の原因を正確に分析した再発防止策が求められている.システム障害の原因を分析する手法として従来のなぜなぜ分析が果たす役割は重要だが, その効果に限界があり, 解析の一貫性に課題を抱えている.本研究では, システムの開発プロセスに着目した原因分析手法を提案し, システム障害の背後に潜む構造的な問題を明らかにすることを目指している.これにより, 再発防止策の強化と, トラブルを未然に防ぐ具体的な道筋を示す.本論文を通じて, システム障害の防止の最前線で何が起きているのか, そしてそれをどのように克服できるのかを知ることができ、新たなインサイトを得ることができる.


大学生を対象としたオペレーション実務の理解効果に関する検討
- LEGO®を使用したシミュレーションの効果 -

吉村 喜予子


本研究の目的は,実務経験のない大学生に対してオペレーション業務の理解を体験的に促進することである.本研究は,各ワークステーションが特定の業務を遂行する製造業務のプロセスフローを模倣したシミュレーションを,LEGO®を用いて実施した.学生は業務遂行を通じてプロセスやボトルネックの理解を深めるとともに,課題をチーム内で検討することでチームワークやリーダーシップを学び,業務改善のプロセス理解を深化させた.また,学生の課題解決を通じた自己効力感およびコミュニケーションの重要性の認識が確認できた.結果として,本手法の適用効果を確認し,有効性の検証ができた.


プロジェクトマネジメント力強化のための実践的な教育プログラム事例

井上 恵太,由崎 令子,松井 靖典,重野 俊浩


日本のIT業界では、DXをはじめとするIT需要の拡大に伴い、十分なスキルを持ったプロジェクトマネジメント人材が不足している状況にある。当社も同様の状況にあり、様々な特性を持つプロジェクトを成功に導き、顧客の期待に応えるためには、プロジェクトマネジメント人材の育成が急務である。当社では、2016年よりプロジェクトマネジメントの体系的な教育を立ち上げ、展開している。この教育プログラムでは、実践的なプロジェクトマネジメント力が身につくよう、当社内のプロジェクトマネジメントのプロフェッショナルが講師を担当し、実際のトラブル事例をもとにケーススタディを行うなど、様々な工夫を凝らした講座を展開している。本稿では、当社で実施しているプロジェクトマネジメント教育の特徴や工夫点、及びその効果について紹介する。


プロジェクト活動の品質・生産性向上に向けた生成AI用入力テンプレート整備の取り組みについて

堀越 舞,福島 寛貴,江上 侑希


近年,生成AIの注目が高まり,様々な分野での活用が期待されている.そこで,長年プロジェクトの品質・生産性向上に向けて取り組みを行ってきた当社としても,生成AIの活用により品質生産性の更なる向上が期待できると考え,当社のプロジェクトの業務に特化した生成AI用テンプレートの整備に取り組んだ.まず,テンプレート整備に向け,検証・製作する内容を決めるため,検証候補を一覧にし,導入効果と実現性を踏まえて優先度付けを行った.その後,優先度が高い「プロジェクト計画段階のリスク提案」と「プロジェクト資料の文章レビュー」の2つのアイテムについて,改善と検証を繰り返しながらテンプレートを製作した.本稿では,テンプレート整備の進め方と製作したテンプレートについて報告する.


多様な働き方社会における組織力向上に向けた取り組み事例

大関 一輝,長田 大河,森本 千佳子


多様な働き方が広がる現代において,組織力の強化は多くの企業が直面する課題である.特に,システムインテグレータ企業では,プロジェクト単位で業務が進行するため,部署内の一体感や情報共有が不足しやすい.この結果,社員間の仲間意識が希薄化し,組織全体の活性化が阻害されることがある.本研究では,こうした課題に対処するために,「小さなアウトプット」という概念を導入した.これは,些細な内容でもアウトプットを促すことで心理的障壁を下げ,社員の発言や行動を活発化させる取り組みである.この取り組みにより,社員間の情報共有や仲間意識の醸成が期待される.具体的には,システムインテグレータ企業の1部門を対象に,「小さなアウトプット」を取り入れたグループディスカッションやワークショップを1年間にわたって実施した.本研究では,その活動内容と成果を分析し,これらがどのように組織力向上に寄与したのかを紹介する.


マイクロサービスで構成されたシステムのアジャイル開発における生産性向上・品質確保に向けた取り組み

牧野 晃大,戸子田 健祐


近年,技術の進歩や法改正などに伴い,市場ニーズは急速に変化している.企業が競争力を維持し,市場での優位性を確保するためには,短期間かつ高頻度のシステム開発が求められる.短期間かつ高頻度のシステム開発には,開発手法としてアジャイル開発,システムアーキテクチャとしてマイクロサービスアーキテクチャが適している.しかし,マイクロサービスのアジャイル開発では,頻繁な更新により生産性と品質の確保に問題が生じる.具体的には,ソースコードの保守性の低下,テスト自動化にかかる工数増加,共同開発時における環境利用の衝突が挙げられる.これらの問題に対し,筆者が担当する開発プロジェクトでは,「安全なリファクタリング手法の確立による保守性向上」,「テスト自動化の効率化」,「コンテナを活用したローカル実行基盤の構築」の3つの施策を講じた.その結果,1リリースにかかる実装工数を33%削減,テスト自動化にかかる工数を49%削減,テスト環境1つ当たりの追加コストを年間約1,000万円削減することができた.これらの施策は,今後のマイクロサービスのアジャイル開発において,生産性および品質の向上が期待できる.


アジャイル開発未経験者における学習有効性の検証
- 社内コミュニティ『ひよこ会』の活動評価 -

木村 尚貴,小畑 留香,村松 若菜


本稿では、社内でのアジャイル開発を普及させるために発足した「ひよこ会」の活動を評価し、アジャイル未経験者にとって有効な学習方法を明確にすることを目的とする。アジャイル開発は、柔軟性や迅速な対応が求められる現代のソフトウェア開発において、重要な開発手法として位置づけられている。しかし、手法を十分に理解せずに実施した場合、プロジェクトの破綻につながるリスクを孕んでいる。このため、新人や未経験者への基礎知識および実践経験の提供が重要視される。2023年4月、社内のアジャイルコミュニティ分科会として「ひよこ会」を発足させた。本会は新人やアジャイル未経験者が主体的に参加できる環境を整えることを目標としている。活動の中で、参加者に知識や経験を提供しつつ、能動的な関与を促進することを試みている。本研究では、ひよこ会の活動を定量的に評価し、その成果を分析する。


問題発見・問題解決型データ分析PBLの設計とプロジェクトマネジメントの実践評価

加藤 翔一郎,赤松 章


名古屋産業大学現代ビジネス学部経営専門職学科は、日本初の「経営専門職」を名乗る学科であり、実践重視のカリキュラムを提供し、早期に経営学修士レベルの人材を育成することを目指している。本学科では新入生の時から、事業データの理解・活用能力を修得させるため、地元企業と提携して実データを活用し事業課題を発見し解決する『データ分析による問題発見/問題解決型学習(データ分析PBL)』を行っている。開講一年目では、データ分析の理論習得に集中できない学生が散見され、二年目にはデータ分析の理論学習に先行して、企業見学や社員との交流を行うことで改善を図ったが、課題設定や進行管理に課題が残った。そこで三年目では(1)プロジェクトマネジメント理論を導入し、(2)学生の自律性とモチベーションを高めるための事前調査、(3)自己効力感を醸成するケースメソッドを取り入れた学習体系を構築し、より効果的なPBLの実施したのでその評価を報告する。


マルチベンダー体制におけるプロジェクトマネジメントの課題および課題解決に向けたアプローチ

西田 佳奈


システム開発プロジェクトにおいて、マルチベンダー体制は頻繁に取られる手法である。マルチベンダー体制は要員やコストの最適化が図れるというメリットがある一方、プロジェクト管理が煩雑になることや責任の所在が曖昧になるというデメリットもある。既存システムのリプレイスメントプロジェクトを実例に取り、プロジェクト期間中にどのようなマルチベンダー体制を起因とした課題が発生したか、それらの課題にどのようにアプローチすべきであったか、プランニング、コミュニケーション、体制の観点から論じる。また今後、マルチベンダー体制のプロジェクトに参画する場合、クライアント、ベンダー、それぞれのプロジェクトマネジャーがどのような心構えで臨むべきかを論じ、今後のマルチベンダー体制のプロジェクトのリスク軽減に努める。


社会システム顧客の常駐保守業務における課題解決と挑戦

高瀬 渉


昨今、社会システム顧客については業務影響があるトラブルが発生すると大きく報道され、エンドユーザーの賠償請求まで拡大することになりかねない。幸い、昨年発生した重大トラブルは他社のソフト起因であったが、ハード保守作業において問題が発生した場合のインパクトは弊社にとっても大きいものとなってしまう。筆者が常駐している社会システム顧客において高品質な保守対応をしていく上で、環境の変化等によりメンバーへの情報共有不足やスキル継承問題、トラブル減少による経験機会損失といった課題がより顕在化していた。これらの課題について、「メンバーの成長」「スキル標準化」「体験型のスキル継承」の3つの施策によって標準化を図っている。加えて、有識者の知見の継承として生成AI活用を検討したが、学習させる多くの知見データが必要であった。とりわけ、トラブル減少による機会損失は弊社カスタマーエンジニア全体、広くは保守ベンダー業界全体の課題と捕らえ、生成AIを活用していくため取り組むべき内容と考えている。


大規模言語モデルを活用したテスト項目分析の提案

小野 寛明,堀江 眞太,久田 大地,下村 哲司,伊藤 拓也


近年,ソフトウェア開発において大規模言語モデル(Large Language Model: LLM)の活用が進んでいる.本稿では,ソフトウェア開発におけるテスト項目の網羅性分析にLLMを活用する手法を提案した.従来のテスト十分性評価は,テスト項目密度などの間接的な指標が用いられており,数値上は基準を達成していたとしても,実際のテスト項目が仕様をどの程度網羅しているかを正確に把握することは困難であった.本手法では,ソフトウェア開発におけるドキュメントを基にした,テスト項目に対する直接的な網羅性分析を実現した.具体的には,LLMへ開発計画書,設計仕様書,テスト仕様書と命令文(プロンプト)を入力し,テスト項目の分析および定量的な評価を行った.その結果,仕様に対して十分なテストが実施されているかを直接確認でき,従来の間接的な指標に依存する課題を解消することができた.実際のプロジェクトにおける開発成果物に対して,分析の実施および結果票(スコアレポート)の出力が可能であることを確認した.


大規模システムにおけるチームビルディングの考察

毛呂 太一


ITシステム開発は多くの関連システム,メンバーで対応を行うため,チームビルディングが品質確保の一つの要因となり,プロジェクトの成功につながる.米国の心理学者ブルース・W・タックマンによるとチームは「タックマン・モデルの5段階」に則り成長していく.ITシステム開発では工程ごとに目的が異なりチーム体制を変更することから,「タックマン・モデルの5段階」を各工程で適用し,チームを早期に成長させるためにチームビルディング方針を以下3点で検討した.1点目はチームの即戦力化である.複数プロジェクト管理のメリットを生かしたチーム構成を考慮し工程別にチームを成長させる計画と実行を行った.2点目はコミュニケーションルールの定着化である.チーム内で役割を明確化,可視化し,PMと各メンバーで同じ認識を持って対応した.3点目は柔軟なチーム編成である.工程ごとに要求される体制やスキルに対応するための要員変更や担当業務変更を可能にするため,ルール作りを行った.プロジェクト途中に主要メンバーの想定外の離脱が発生したため,キーマンがいなくなった場合についてもあらかじめ想定する対策を行った.上記対応方針による成果として,予定通り工程を完了し,システム品質を確保できた.


クラウドモダナイゼーションにおけるプロジェクトマネジメントの考察

栗原 理


ITを取り巻く環境はシステムの肥大化や複雑化,利用技術の老朽化の維持に必要な人材や維持費が増え刷新できずに長期間稼働しているシステムが増加している.この状況はデジタルトランスフォーメーション(DX)を阻害する要因ともなり市場競争力低下の懸念がある.DXへの有効な手段であるモダナイゼーションは国内市場の中ではサーバーに対して最優先に実施する傾向が特に多い.これは蓄積された技術的負債を削減する為にモダナイゼーションへの取り組みは今後も継続的に行われる見込みである.本稿では筆者が関連する既存システムをクラウドへモダナイゼーションを行う事を目的とし達成に必要なロードマップ,実行プロセスの段階的詳細化,事例や実績によるモダナイゼーションモデルの構築と適用を実践した.またチームメンバー,ステークホルダーへモダナイゼーションモデルを浸透させた.その結果同時期に複数システムのモダナイゼーションを行う事に成功した.大規模,マルチベンダ化,システムの複雑性と進化が速いクラウド技術やサービスの活用を整合するモダナイゼーションではプロジェクト立上げフェーズのマネジメントが成功要因となる.このような特性の中でプロジェクトマネージャが実践するポイントを考察しプロジェクト推進の教訓とした.


製品・サービスのUX向上のためのデザインプロンプト開発
- テキスト生成AIによるUX/UIデザインプロセス実践力向上 -

青島 寛太,泉 健一,木村 竜也,長尾 英児


近年,多くの企業でデザイン思考の導入が進められているものの,サービス開発において,デザイン思考の考え方を取り入れたUX/UIデザインプロセスの実践には課題が存在する.特に,開発者のUX/UIデザインスキル不足は,ユーザー中心のサービス設計を阻害する大きな要因となっている.本稿では,この課題を解決するため,テキスト生成AIを活用した「デザインプロンプト(UX/UIデザインの知識とノウハウを組み込んだプロンプト)」を開発し,その有効性について検証する.デザインプロンプトは,UX/UIデザインプロセスの各段階において,開発者をガイドし,ユーザー視点に立ったアウトプット作成を支援する.検証の結果,デザインプロンプトによってUX/UIデザインの質向上,アウトプット作成や検討の作業時間短縮,開発者のUX/UIデザインスキル補完といった効果が認められた.今後は,デザインプロンプトの拡充,ツール開発,実務導入,グローバル展開を推進し,更なる活用と発展を目指す.サービス開発において,UX/UIデザインプロセスをより多くの開発者に浸透させ,ユーザーニーズを捉えた質の高いサービス創出を加速させることへの貢献が期待される.


基幹業務保守プロジェクト運営に関する事例紹介および課題・展望の考察

笠井 明久


通常,一つのプロジェクトに対しプロジェクトマネージャーは一名であるが,筆者が所属する基幹業務保守プロジェクトにおいては,共同センターを利用する複数のお客様がおり,そのそれぞれに対しプロジェクトマネージャーを擁立している.プロジェクト全体としては保守業務を提供すると同時に,お客様毎の独自ニーズを満たしたデリバリーに責任を負う.本稿では,これを一つのプロジェクト内にて疑似的な同時並行型プロジェクトを遂行しているものと捉え,複数のプロジェクトマネージャーが存在するプロジェクト運営として事例紹介を行う.それに併せ,当該保守プロジェクトにおける計画・遂行の考慮点および現状の課題,今後の展望について述べる.


大規模基幹システムにおける構成管理ツール移行事例の研究

森本 憲悟,本澤 和樹,齊藤 陽介


近年、ソフトウェア開発においてDevOpsやCI/CDなどのモダナイゼーションが加速しており、その基盤となる分散管理型SCMへの移行が注目されている。しかし、大規模基幹システムでは、既存プロセスやレガシーな集中管理型SCMとの高い結合度、長期保守でのリスク許容度の低さなどが移行の障壁となる。本稿では2,000万行超の大規模基幹系ソフトウェアを対象に、旧SCMからGitベースの構成管理ツールへ移行した実践事例を紹介し、移行計画、ブランチ戦略、要員育成やツール連携上の課題とその対策、移行後の効果を報告する。本研究の成果は、大規模エンタープライズ向けシステムにおける構成管理ツール移行の計画・実施において、技術的・組織的課題を解決するための指針を提供するものである。


Retrieval-Augmented Generationを用いたガイドライン回答システムの提案

久田 大地,岩島 菊生,石田 敏寛,岡本 圭介,野口 裕介,吉村 博昭,古谷 匠,稲葉 新


本論文では,企業内のガイドラインやルールに関する問い合わせに効率的に対応するため,Retrieval-Augmented Generation (RAG)を用いた問合せ回答システムを提案した.提案システムは,百件程度のガイドライン文書を基に,ユーザからの質問に対して適切な回答を生成する.システム評価では,ユーザによる試用と定性評価を実施し,回答の正確性と有用性を検証した.結果として,提案システムは概ね正確な回答を生成し,ユーザの満足度も高いことが確認された.一方で,文書のプロパティ情報の不正による不適切な回答も見られ,データ品質管理の重要性が示唆された.


プロジェクトメンバーのモチベーションを低下させない教育施策

長久 幸雄


システム開発プロジェクトの多くは,開発フェーズから運用・保守フェーズへ移行し,運用・保守フェーズと追加開発フェーズを繰り返しながら,システムの利用が長期間継続する.そのような長期間利用されるシステムのシステム開発プロジェクトでは,定期的なメンバー交代が発生する.そのため,新規参画メンバーと既存メンバーの間に経験・スキルやプロジェクト理解度に差異が発生する.その差異を埋めるために適切なチーム育成が必要になる.一方で,プロジェクトメンバーのスキル向上が見込めない場合に,稀にプロジェクトメンバーのモチベーション低下が発生する.そのため,プロジェクトメンバーのモチベーションを低下させないよう,プロジェクトメンバーの教育が課題になる.本稿では,プロジェクトメンバーの経験・スキルの向上を図るために行った教育施策について考察する.


OJT期間にフォーカスしたコミュニケーション・マネジメントと教育の効果について

王 緑杉


OJT(On-the-Job Training)の目的は実際の職場業務を通じて,仕事の様々な面における実践的なスキルを獲得することにあるが,その過程で効果的なコミュニケーションを維持することが成長を加速させる鍵となっており,学習者だけでなく指導者の行動も重要な要素となる.本論文では,学習者および指導者の視点からOJT期間におけるコミュニケーション・マネジメントの手法を複数の側面から分析を行う.まず,学習者のパフォーマンスに対する指導者の期待値と学習者が認識している期待値に差がある場合,どのように教育の結果や学習者の成長に影響を与えるのかを分析する.次にその差を短縮するためにどのようなコミュニケーション・マネジメント手法が効果的かを分析する.更には学習者の自己学習,学習者と指導者との間のフィードバック等におけるコミュニケーション・マネジメントが,個人の成長にどのような影響を与えるのか分析し,それぞれについて現状の課題と改善策を考察し,学習者の成長を助けるための提言を行う.


システムベンダによる地域金融機関向けクラウドサービスにおける保守運用の成功要因

古田 尚子


地域金融機関においては,付加価値の高いサービスを提供しながら収益基盤を強化し,地域経済の成長を支えることが求められる一方で,提案型営業力の底上げとIT人材要員の不足およびシステム運用負荷の増加が課題となっている.そこで,情報の利活用促進やプロセスの可視化,アウトソーシングによる運用の実現を目的とし,渉外支援と営業活動の推進機能を一体化したクラウドサービスを立ち上げた.その結果,利用者は柔軟性あるサービス機能の導入から活用まで一貫したサポートを受けることができ,業務の効率化が可能となった.また,提供者はオンプレミスの業務システムをクラウド化することで,各地域に分散していたノウハウを集約・蓄積し,効率的かつスピーディーに導入先を増やすことが可能となった.一方,サービス開発ではプロダクトライフサイクル全体を提供者が管理し,利用者のニーズに応じた継続的なアップデートを求められる点が受託開発と異なる.また,複数の利用者に対して同時にサービス提供する必要があるため,スムーズな保守業務遂行においては役割分掌とプロセスの確立が不可欠となる.本稿では,営業支援クラウドサービスにおける取り組みを例に,受託開発との差異に着目し,提供者側の視点からサービス化における保守プロセス構築の留意点について説明する.


横断的組織と現場が一体となり品質及び生産性の改善事例

山根 宏昭


弊社モビリティ事業を担う組織では,車両部品メーカー向けの車載ソフトウェア開発を行っている.開発当初は,顧客のオフィスに常駐し,顧客環境で開発を行っていた.その後,事業拡大に伴い,顧客ネットワークを用いた自社オフィスでの開発へと移行したが,依然として顧客環境を使った開発であった.自社の開発環境から隔離された作業環境によって横連携や情報共有が不十分,顧客環境での開発によって品質状況が監視できないといった状況を抱えたまま成長していった.その結果,組織としてのガバナンスが効きづらくなり,組織マネジメントの弱さから,生産性の悪化,品質低下という課題に直面していた.そこで,組織内に横断的な改善チームを設置し,開発現場と一体となって継続的な活動を行った結果,各課題への取り組みを通じて,組織全体の品質向上と生産性向上を達成し,顧客評価,売上,利益率の向上へとつながった.本稿では,これらの改善事例について述べる.


生成AI時代におけるPM育成
- PMコミュニティの役割とその効果 -

金子 英一


近年、プロジェクトマネージャー(PM)を取り巻く環境は急速に変化しており、高度なコンピテンシーと多様なスキル、経験、知識を備えたPMの育成が急務となっている。しかし、個々のPMが個人の時間だけで習得できるスキルや知識には限界がある。そのため、PM同士が知見を共有し、互いに学び合うことによって得られるメリットは極めて大きい。当学会内外の企業や団体では、PMコミュニティの運営が、PMを支援する施策の一環として定着してきた。これらのコミュニティは、組織の枠を超えて様々なレベルのPMが集い、相互に刺激を受けながら知識を共有し、助け合い、リスペクトし合う場として機能している。その結果、PMの成長を促進する効果が報告されている。本研究では、新たにPMコミュニティを企画・立ち上げ・運営した経験をもとに、PM育成におけるコミュニティの役割とその期待される効果について生成AIとも絡めて考察する。


価値創造型プロジェクトにおけるプロジェクト推進について

井上 正


システム開発における新たな価値創造型プロジェクトにおいては,顧客要求事項が重要であり,ゴールが抽象化されていることに着目し,アジャイル開発の有効性と課題について考察する.考察する方法としては,自グループでのプロジェクト事例をもとに,アジャイル開発における有効性と課題を考察し,アジャイル思考マネジメントを適用することで,プロジェクト推進を実施.その結果,アジャイル思考マネジメントの適用を行うことにより,KPIや顧客運用の評価が実施され,柔軟な対応が可能となったが,顧客業務への受け入れを意識する際には段階的な評価が必要であると認識された.プロジェクト推進においてアジャイルとウォーターフォール型の組み合わせが有効であり,スコープの拡大やクリープの防止,業務運用への段階的な適応が重要であると結論した.


システムズエンジニアリング教育による要求分析の円滑化について

草川 靖大


プロジェクト成功には,要求分析工程において客先からの要件を漏れなく獲得することが必要である.要求分析を円滑に行う方法として,システムズエンジニアリングが世界的に有用だと認められている.しかし,日本にはシステムズエンジニアリングの体系的な知識を有する者は少く、システムズエンジニアリングを有効に活用できていプロジェクトは少ない.著者が多く経験してきた、プロジェクト後半で多くの時間をかけ,すり合わせなから要求を満たしていく方法は,多くのプロジェクトを成功に導いたが、働き方改革,労働者不足の現状では実施困難となっている.そこで、要求分析を進めているある大規模プロジェクトに対して、座学と演習を交えたシステムズエンジニアリング教育を実施し、要求分析工程の円滑化を図った。教育の結果、顧客が真に求めることを発見し、それを実現するためにシステムはどのように振舞う必要があるかを、体系的・論理的に分析できるようになった。教育の実施により、要求分析の円滑化に成功した。しかし、得た知識を自分が担当する領域でどのように適用するべきか迷っている動きもみられ、改善を行う必要がある。


自動車産業におけるソフトウェアサプライチェーンリスクマネジメント

三宅 浩司


日本のみならず世界の自動車産業は, OEMとよばれる自動車メーカーを頂点として, 巨大で複雑なピラミッド構造のサプライチェーン上に成り立っている.近年自動車がソフトウェアデファインドビークル(SDV)と呼ばれるようになり, 自動車の機能におけるソフトウェアが果たす役割は急増している.それに応じて, 自動車の開発におけるソフトウェア開発の比重も急激に高まっており, またオープンソースソフトウェア(OSS)を使用するケースも増加し, 産業のサプライチェーンを通して, 人命に係わりかねないソフトウェアの品質, サイバーセキュリティ, 機能安全を担保することが非常に難しくなってきている.それらを担保するためのプロセスマネジメントを求める法令や業界標準も増えており, ソフトウェア開発現場の負担は増える一方である.本稿では, そのような状況から生まれるリスクを例示し, どのようにそれらを回避していくか考察した.


プロジェクトマネジメントを認知する動機づけの考察 バージョン2

櫻澤 智志


本稿は,2022年度プロジェクトマネジメント学会秋季研究発表大会にて筆者が発表した研究の更新版である.前回は,プロジェクトマネジメントを学問,知識として「意識的に認知する」ための「きっかけ」をどう掴むか,どう与えるか,をテーマに,効果的な「動機付け」の在り方を考察した.その後,今日に至るまでの約2年半の間に実践した活動を通して得られた成果を振り返り、当時の論旨の妥当性を検証した.教育現場,企業双方の場面で提唱した内容に一定の効果が見られた点に加え,新たな成功事例を紹介する.一方,「動機づけ」のアプローチに関して,環境,時代変化,世代といったパラメータを無視できないばかりか,逆効果となるリスクまで見据える必要がある.より多くの人が効果的なきっかけを得るために,我々プロジェクトマネジャーにできることは何だろうか.


初めてのクラウド開発を成功させるためのプロセス事前検討について

金子 陽介


政府主導のクラウドバイデフォルトの方針と社会変化の加速を背景として,クラウド活用によるシステムの柔軟性が重視されてきている.このような状況の中で,多くの顧客が初めてのクラウドへのシフト開発に直面しており,著者自身も初のパブリッククラウド(AWS)開発を担当となった.さらに,顧客からはマルチベンダ開発への移行要望があり,プロジェクト成功の鍵を握る品質,コスト,納期を適切に管理するための開発ステップをプロジェクトの開発が始まる前に顧客と共に確立する必要あった.本論文では,著者が経験した初めてのクラウドシフト開発において,プロジェクトマネジメント上の施策として顧客と共にプロジェクト開始前に行った具体的な実践内容と品質確保に向けたプロセスについて検討した事例を示す.


ソリューション開発における英語圏拡大に向けた取組み
- 開発業務における海外拠点へのスキル移管モデル -

宮城 唯矢


現在、グローバル化が急速に進んでいる一方、特定国のみとの関係構築にはリスクがある。加えて、国内の現状において、IT人材の不足は喫緊の課題である。そのため、海外オフショア開発への依存度を高めており、コスト削減のメリットに加え、人材確保の必要性も高まり、国際的な人材獲得競争が激化している。今回、制約のある型化されたパッケージ製品開発を通して、6ヵ月間でマレーシアおよびフィリピン人で構成された126人の英語圏メンバに対してスキル移管を実施した。しかし、短期間、大人数での英語圏メンバへのスキル移管は前例がなく、中国人メンバに依存してきた経緯もあり苦戦した。対策として、①「4か国合同でのオンサイト教育と教育の効率化」、②「PJの工程分割・スキル移管度合いの評価」、③「補強教育・SQLログの活用」を実施した。この3 点を実施することで、短期間で大規模の英語圏メンバへスキル移管を実現できる。


2年以上の遅延を乗り越えた基幹システム刷新プロジェクトの事例

浅野 晃


PMが機能していないプロジェクトは失敗する.当初スケジュールから2年以上遅延したプロジェクトにおいても同様のことが起きており,プロジェクトを進めるために必要なマネジメントが出来ていなかった.他のベンダーが全面的に開発しているプロジェクトであったため当初顧客から重要な役割を期待されていなかったが,徐々に顧客の信頼を獲得しながら,最終的に筆者がプロジェクト全体の管理を担うことで混迷を極めたプロジェクトに終止符を打つことが出来た.プロジェクトの大幅なスケジュール遅延が発生した背景・原因とプロジェクトをリリースに導いたポイントについて紹介する.


初物リスク対策を重視した品質管理が導く大規模プロジェクトの成功

吉田 憲一


過去に知見のない業務領域への理解が進まず、実務に沿わない設計資料の確認により顧客の不満が蓄積され、基本設計の中盤において初物リスクが顕在化し、それに伴い現在の工程の品質問題や後続工程の品質リスクが高まっていた。そのため、プロジェクト工程を一時中断し、業務理解を深めるために一連の業務フローを再確認し、疑問点や矛盾点を照合することで過剰な要求拡大を防ぎながらスコープ統制を図った。その結果、業務プロセスや用語の詳細を理解し、ヒアリング内容を再定義できるまで業務理解が進んだことから課題が解消されたと判断し、プロジェクトを再開した。そして、後続の工程においても品質の定点チェックと適切なタイミングでの改善、スコープクリープの抑制に取り組むことによって、予定通りプロジェクトを完遂した。この結果は、大規模プロジェクト特有の複雑で広範囲な要求を扱いながら品質を確保することが成功の鍵であることを示しており、同時に初物リスクがプロジェクトに与える影響とその対策について、本稿で考察する。


アプリケーション保守運用プロジェクトにおけるAIを活用したチケット管理業務の効率化事例

跡見 泰広


アプリケーション保守運用プロジェクトでは,業務の効率化と生産性向上を目指し,プロセス改善や作業の自動化などを継続的に実施してきた.具体的には,過去の作業履歴を集積し,AIを活用して類似事例を自動提示する仕組みを構築した.この仕組みにより,対応工数の削減,業務品質の向上,経験知の有効活用が実現可能となった.本研究では,この仕組みと運用事例を紹介するとともに,AIを活用したチケット管理業務の効率化による具体的な効果を示し,保守運用分野におけるAIの実務的な活用可能性を考察する.


システムマイグレーション対応における要件定義の際の考慮点と実践

真壁 文彦,二村 武


企業におけるこれまで開発され使い慣れた基幹システムが老朽化している中,業務継続に必要なIT資産はそのまま流用しつつ,短納期で対応することが課題となっている.顧客側での対応期間も差し迫っている状況で老朽化したシステムのマイグレーションという要望に対応するため,上流工程で開発を効率良く実施するための施策やユーザテストを円滑に進めるための企画提案をステークホルダーと役割分担を定義しながら対応した.結果として,開発工程で改善を施すケースは多少発生したが,重大課題や想定リスクの顕在化はせずマイグレーション開発を遂行することができた.本稿では,短期間での対応はもとより,マイグレーション開発を効率的に進めつつ高品質を維持するために上流工程で取り組んだ施策について記述する.


デザイン思考とアジャイル開発を用いたサービスブランディング戦略による社内サービスの創出
- aerukamoをユーザ3.7万人になるまでに成長させた方法 -

岡安 明香,齋藤 崇雅


近年,新しい価値を提供し競争優位性を確立するために,DXへの取り組みが注目を浴びている.DXを実現するためには,市場環境の変化に迅速かつ柔軟に対応することが重要である.当社でもDX推進のための専門組織であるフジトラが設立され,アジャイル型の活動を展開しており,DX活動に必要なサービス開発においても内製化が増えている.サービス立ち上げは,業務上必要であり経営層から指示されるトップダウン型と,社員や現場の課題を解決するボトムアップ型のアプローチに大別されるが,後者ではユーザの獲得と利用継続が難しく,価値を発揮できずに社内で消失することがある.つまり,ボトムアップ型の開発においては,ユーザフィードバックの獲得に基づいた開発プロセスを確立することが重要である.本論文では,アジャイル開発とサービスブランディングを基盤としたサービス開発アプローチを提案する.このアプローチにより,ユーザ数は3万人に増加し,5,000人以上がサービスを活用することで新たなコミュニケーションが生まれ,ユーザの体験価値が向上した.これらの成果は,新規サービス立ち上げを目指す他企業にも有益であり,社内サービスの育成をコンサルティングとしてビジネス化する可能性も示唆される.


グローバルチームでのAgile開発推進
- 海外発オファリングへの参画時の開発マネジメント -

山内 宏真


グローバルオファリングを展開していくため,国内発オファリングの海外展開だけでなく,他の国・地域発のオファリングをグローバルオファリングとして展開するケースが増えてきている.本プロジェクトでは海外メンバーで構成されていたプロジェクトに,新機能の開発を加速させるために日本チームを発足し参画する形となった.海外メンバーである,プロダクトオーナー,技術チームから要求仕様,システムに関する知見をそれぞれヒアリングしつつ,開発をリードすることが新チームには求められた.しかし,新規メンバー・パートナー会社からのメンバーで構成されたチーム特有の課題が発生し,仕様策定の手戻り,作業停滞が発生した.これらの課題に対して,各海外チームとの連携体制の見直しや,責任範囲・完了条件や進捗の見える化など業務の進め方に関する各種ルールの定義・適用を進めることで課題解決を図り,開発遅延の解消,新機能のリリースを実現した.


ローコード開発におけるプロジェクトマネジメントの工夫

横田 純一


デジタルトランフォーメーション(DX)やサステナビリティトランスフォーメーション(SX)などの言葉が一般的なものになって久しい。当社では顧客の求めるDX、SXを短期間で実現するため、ローコードプラットフォーム(LCP)を活用したシステム導入が行われるようになった。これまでの経験から、従来のシステム開発とLCPを活用したシステム開発の進め方に大きな違いは見られない。一方で、顧客合意の観点については異なる点が多い。LCPの活用により、DX、SXの実現提案をするが、顧客事業の制度設計が並行に行われることから、機能要件、要求仕様が曖昧なままシステム開発が始まることとなる。顧客の事業目的を達成するために、事業目的達成の基準と方法を明確に合意することが重要である。また、提案するサービスやプラットフォームの標準機能に業務を合わせることで品質、コストのメリットを最大限享受することができるが、顧客全体に方針のガバナンスを効かせるための設計工程の工夫が有効であった。本稿では、行政機関におけるLCP活用プロジェクトを事例に、採用プラットフォームの特徴や実現できること、実現方針をロードマップや開発憲章として明文化することでガバナンスの浸透に成功したプロジェクトマネジメントナレッジについて述べる。本ナレッジを適用したDX、SXを実現する短期システム構築プロジェクトでは、ウォーターフォール開発をベースに、設計工程からユーザインタフェースやユーザエクスペリエンス観点での早期合意を目的にアジャイル開発要素を含む、ハイブリット開発手法を採用した。システム利用者に実際のシステムイメージを設計工程から伝えることで、ガバナンスの浸透と要求の変更に対応する能力を高めることで、顧客業務のDX、SXを実現するシステム開発に成功した。


精度の高い予測の思考パターン

平尾 英司,矢野 有美,福岡 俊一


PJを成功させるには,的確な現状認識,先読みといった予測力が必須である.しかし,予測力は個人差が大きく,体系的な方法論やスキルアップの枠組みが重要である.現状,予測力の要素を経験量やセンスの差などに帰着させてしまいがちで体系的な方法論などが十分に整備されていない.予測の方法としては所謂,PJ管理の枠組みにおける「リスク特定」などが該当するが,有識者とのブレインストーミングや過去のパターンに基づくチェックリストの活用が推奨される程度で,経験に依存する側面が強い.筆者らは,先に開発した思考観察法に基づき,実PJを分析する中で,現状認識・予測に関する精度の高い思考プロセスの特徴を抽出し,経験が多くなくても高度な先読みを可能にする思考プロセスを見出した.さらにこれを用いて思考活動のガイドとなる「予測のテンプレート」を作成したので報告する.


予測のテンプレートの実プロジェクトへの適用

矢野 有美,平尾 英司,福岡 俊一


精度高く将来を予測して対処案を見出す思考を支援するツールとして,「予測のテンプレート」を開発した.このテンプレートは,現状からPJのキーマンの置かれている状況や考え,判断原理を推測し,それに基づいて将来を予測して対処案を導き出す思考をガイドする.このツールの実用上の有用性を検証するために,実際のSI-PJに本テンプレートを適用した.その結果,PJの状況認識を深化できる,PJメンバー間の認識を整合できる,直感的に見出した対処案よりも多くの対処案を導きだせるとの効果がみられた.また,PJを推進した被験者から,現状を構造的に分析することで予測・対処を考えやすくなる,PJキーマンの特性を考慮した行動ができて実効力が上がる,社内外の議論を効率化できる,仮説検証に役立つとのフィードバックを得た.


多店舗チェーンにおけるIT投資効果を最大化するシステム導入についての考察

北村 悠


多店舗チェーンについては,昨今の原価(資材や人件費など)の高騰,労働力の確保,本部と店舗のコミュニケーション不足といった課題を抱えている.課題解決のためには積極的なIT投資を行い,最大限の投資対効果を出していく必要がある.そのような状況において顧客システム担当者はシステム構想,ロードマップ策定に苦労をしている.本稿では,開発ベンダとしてどのような支援をしていくことが効果的であるかを考察する.作業の効率化,顧客業務に沿った設計,使いやすいシステムUI,本部-店舗間のコミュニケーション向上などIT投資効果を最大化するシステムの導入を目指すにあたり早期のモックを利用したパイロットテストの実施,何度も現場のフィードバックを得ながら開発していく手法をとることで,導入後の利用率も高く,問い合わせも少なく,誰でも利用できるシステム作りに貢献すると考える.本稿では外食業の顧客を例に具体的な手法・進め方について述べる.


スケジュール遅延の真因と立て直し

岡野 了


どのようなプロジェクトにおいても,要件定義や設計の上流工程での仕様決定では,プロジェクトマネージャーやお客様との良好な関係性,コミュニケーションが非常に重要となる.しかし,プロジェクトマネージャーの人員不足や,コロナ禍以降のフルリモート勤務が継続している.そのため,対面でのミーティングや,オンサイト時にはあった世間話をする機会がコロナ禍前と比較して格段に少なくなった.筆者が参画していた案件についてもコロナ禍に立ち上がった.本稿ではコロナ禍でのリモートワークによるコミュニケーション不足がスケジュール遅延に影響しているとみている.それらの真因とその是正策を分析し,今後どのようにすればスケジュール遅延の発生率を低減する方策を考察する.


生成AIを活用したデジタルヒューマンサービスのステークホルダーマネジメント実践

渡辺 尚弘


生成AI技術の進化により、生活はより便利になっているが、日常的な利用には技術的ハードルの克服が必要である。本論文では、デジタルヒューマンを活用したイベント案内やグッズ紹介、ファンクラブガイダンスの概念実証(PoC)を通じた実践例を紹介する。会話型AIエージェントを用い、自然に生成AIを利用するための支援枠組みを構築した。プロジェクトマネジメントの観点から、ハルシネーションリスクへの対応策、ユーザとのコミュニケーションに関する課題、およびステークホルダーマネジメントに焦点を当てた手法を用い、顧客との齟齬を解消し、デジタルヒューマンサービスの導入運用に成功した。これにより、顧客体験の向上およびサービスの効果向上の可能性が示された。


先例がないサービス開発における要件整合の重要性と実証実験を活用した開発手法の考察

黒瀬 晴加


本論文は,提案型実証実験を活用したB to B to C型新規サービス開発プロジェクトを実例に,柔軟な要件整合とステークホルダーとの共創を重視した開発プロセスの有効性を考察する.本プロジェクトは,顧客の課題とニーズに適したサービスを実現するための実証実験を提案し,サービス活用におけるイメージを共有しながら製品化に向けた協力体制をステークホルダーと築いた点に特徴がある.プロジェクト開始当初は要件が明確でなかったが,ステークホルダーとの協議を通じ柔軟に調整し製品化に向けたユーザー利便性と顧客運用性の向上を目指した.本論文では,提案型実証実験がもたらした新規サービス設計プロセスへの効果と,複数のステークホルダーと協力する開発プロセスを説明する.


トップダウンとボトムアップを両立する現場革新活動による組織マネジメント力の向上

藤井 壮宇,丸岡 智治,前 晋治,門倉 淳一


現在,多くの企業でボトムアップの小集団活動が実施され,一定の成果を上げている.しかしながら,ボトムアップ活動では個別の意見や改善策に終始し,活動のムダ・ムラや,経営方針との乖離が生じる傾向がある.そこで,改善活動のムダ・ムラの解消の為,チームの抱える課題やそれに対する施策を資料として取りまとめ,チーム間での情報交換と共有・協力の場としての発表会の設定を施策として行った.また,活動内容と経営方針との距離感の解消の為,経営計画に紐づけた活動テーマの設定と,チームに対し経営層をアサインし実働メンバとの協働を進める体制の構築を施策として行った.結果,チームを超えた共有や協力が進み,活動の重複は解消され,成果物やプロセスが横展開されてきている.また,経営計画を軸としたテーマの下,経営層と実働メンバ間で議論が行われ,実働メンバが経営計画を自分事として改善活動に取り組むことが出来るようになってきている.


大規模プロジェクトにおけるQC七つ道具を用いた不具合収束に向けた施策事例

長谷川 大輔


大規模プロジェクトにおいて不具合が多発した場合,緊急対応による作業発生が重なることで,どのような優先順位で対処すべきかが課題となる.筆者の所属するプロジェクトにおいて,運用開始から不具合が多発し,緊急対応が必要な事象も頻繁に発生した.その対応のためコストが悪化.更に,見通しが立たない状況から顧客満足度が低下していた.本稿では,不具合対応を加速させるためにQC七つ道具の活用した手法を紹介する.現状の不具合対応の見える化と,対応が停滞する要因の分析を実施.その結果に基づき,施策を検討し実行した.半年間の期間において,顧客と合意した不具合対応解決に関する目標293件のうち262件について達成した.残りの31件についても対応の見通しをつけることができた.


あいまいな進捗報告「Extended&Pretended」を防ぐためのプロジェクトマネジメント方法の考察

川端 望美


プロジェクト管理において,進捗管理は基本的で重要な要素であるが,「曖昧な進捗報告や言い回しにより,実態の進捗状況が適切に伝わらない事象」,いわゆる「Extended&Pretended」が発生することがある.Extended&Pretendedにより,正確な進捗管理ができないだけでなく,ひいてはステークホルダーからの信頼を失うことや,問題の先送りによるコストの増大などにつながってしまう可能性も考えられる.そのため,進捗管理において,可能な限りExtended&Pretendを防ぐことが重要である.そこで,本研究では,まず,筆者の工程管理事業者に向けた進捗報告をしなければならない立場での経験を踏まえて,Extended&Pretendが発生する要因とそれに対して策定したアクションプランを整理する.次に,それらのアクションプランを,プロジェクト内でのチームリーダという進捗管理の立場として実践し,Extended&Pretendを防止した結果について考察する.


多様な非階層型統制の潮流:アジャイルと先進モデルの類似点と差異に迫る

新谷 幸弘


現代の組織は、急激な環境変化とグローバル競争の中で、従来のヒエラルキー型統制を再検討し、より柔軟で分権化されたガバナンス体制への転換が望まれている。こうした背景のもと、進化型組織は、迅速な意思決定や自己組織化を実現するための新たなアプローチとして注目される。本研究では、進化型組織論の視点から、アジャイルを含む非階層型統制モデルを俯瞰し、アジャイルとその他の先進的統制モデル(例えば、ホラクラシーやティール組織など)の共通点や相違点を比較検証する。これにより、今後の組織改革に向けた実践的示唆と理論的考察の両面から、次世代ガバナンスの実現に寄与する知見を提供することを目指す。


『七つの習慣』を活用したプロジェクトマネージャーの成長支援

篠原 正洋


AIを始めとするIT技術の急激な進展や事業変革スピードが速まる中,プロジェクトの成否を左右するプロジェクトマネージャーの役割は,ますます重要になっている.当社においても,2030年までの中期経営計画を達成する上で,プロジェクト数の増加,大型化に対応するためにはプロジェクトマネージャーの人的基盤の強化が急務となっている.当社では主要なプロジェクトマネージャーは複数の案件を並行して管理しているが,プロジェクトを成功に導くにはテクニカル面のみならず,メンバーやステークホルダーとの連携がとても重要となる.この点に注目し,プロジェクトマネージャー自身のスキルアップと組織内での次世代の人財育成の取組みとして「七つの習慣」の研修を実施した.「七つの習慣」で提唱されている自己管理や人間関係のスキルを活用し,プロジェクトを効率的かつ効果的に進めるために必要なリーダーシップや判断力を発揮することは,プロジェクトマネージャーに求められる役割に通じると考えられる.


「プロジェクト赤字化の予兆検知」AIを用いたPoCから得られた知見と今後の展望

清本 隆司


本研究では,プロジェクトの赤字化予兆を検知するためのAIを用いたPoC(Proof of Concept)の結果と今後の展望を探求する.近年,プロジェクトの難易度が上昇している背景には,ビジネス状況の変化,短納期化,そしてクラウドなどの新技術の普及に伴う技術の多様化がある.また,AI技術は飛躍的に進化しており,特に2024年に入ってからの生成AIの台頭により,さまざまな分野での実用性が高まっている.システム開発を主業とするSIerや情報システム子会社においては,プロジェクトの成功率が経営に与える影響が大きいため,開発技術とAIの融合による生産性向上だけでなく,プロジェクトマネジメントおよびプロジェクト監視の領域においても実用性が検討されている.PoCの実施に際しては,品質管理部門の非エンジニアによる実装の実現可能性,AIを用いた赤字予兆検知のシナリオの有効性,さらに詳細な設計のための要素技術やプロセスに関する知識の獲得を目的とした.期間は2024年10月の1カ月間,非エンジニア3名によってオンラインで実施され,感度分析を通じて必要なインプットと得られるアウトプットを検証した.その結果,非エンジニアのみではプロジェクトを進めることが難しく,当初描いていたシナリオの実現可能性も低いことが明らかとなった.しかし,要素技術やプロセスに関する知識の獲得には成功し,AIを用いない通常の分析にさらなる余地があることも示されている.特に,人間が行うことが難しいタスクをAIに委ねることは挑戦的であるが,既存の要注意プロジェクトを抽出するプロセスに生成AIを活用することで,効率化を図る可能性が示唆されている.また,これらの分析およびAI活用を推進するためには,デジタリゼーションが不可欠であることも明らかになった.今後の研究では,これらの知見を基にプロセスの改善およびプロジェクトの赤字化予兆検知などを最終目的としたデジタリゼーションの推進を目指す.


プロジェクトマネジメントの歴史的変遷とプログラムマネジメントの重要性

佐藤 達男


プロジェクトマネジメントの歴史的変遷とプログラムマネジメントの今日的な重要性についてについて考察する。


情報システム開発における顧客満足度と関係が深い項目の調査

園野 将大,下田 篤


SIerによる情報システム開発プロジェクトでは,システムの提供だけでなく,顧客満足の実現が求められている.しかし,顧客満足の実現方法については,未だ検討の余地がある.先行研究では,顧客満足は成果物品質とプロセス品質の両方を向上することにより実現できるとされている.ここで,成果物品質は,QCDSの目標達成の度合いに基づいて判断されることが多い.一方,プロセス品質は,顧客の期待水準に対する知覚水準の不一致を低減することで実現できるとされている.しかし,不一致を低減するための,具体的な方法は明らかになっていない.そこで,本研究は,顧客と接点を有するプロジェクトの活動をサービスとして捉え,サービス品質の尺度であるSERVQUALの導入を試みた.SI発注経験者へのアンケートデータの分析により,顧客満足度と関係が深い尺度項目を明らかにすることができた.


新興技術の早期の社会実装を促す生成AI の活用可能性
- 構想検討段階における発想支援ツールとしての利用について -

藤田 元信


生成AI(Generative AI)は、 AIの利活用の可能性をさらに広げ、人間の言語活動や知的創作活動の一部を補完する技術として期待されており、政府機関が率先してその有効な活用性を追求することが期待されている。本研究では、国の重要な役割である科学技術・イノベーションの推進において、新興技術の早期の社会実装を進める観点から、特に、最終成果物の機能・性能及びコストに大きな影響を与える構想検討段階における検討への生成AIの適用を念頭に、発想支援ツールとしての活用可能性について定性的な検討を行った。


LLMを活用したプロジェクト工数および生産性改善効果の概算手法に関する研究

野々口 大幹,近藤 陽介,河村 貴文,荒井 駿介,龍 真子


大規模言語モデル(LLM)を利用し、生産性改善コンテストの出場ユースケースを評価する方法を検討した。まず、プロジェクト全体のタスク比率を概算し、次に各タスクでのユースケースの効果をLLMにより推定する段階的アプローチを採用した。その後、有識者がレビューした結果、LLMによる評価は概ね妥当であると確認された。本研究は、LLMを活用した工数見積と生産性向上効果の算定を可能にし、従来の属人的な経験則への依存を軽減するだけでなく、迅速かつ客観的な指標を提示できる可能性を示唆する。特にソフトウエア開発やR&D領域への応用が期待され、プロジェクトマネジメント分野における新たな価値創出に寄与する。今後は、より多様なプロジェクト規模や業界での活用事例を収集し、LLMが示す評価精度の検証や活用領域の拡大を図ることで、プロジェクトマネジメント全般における工数削減やリスク評価の高度化に貢献できると考えられる。


DX時代におけるプロジェクトマネージャーの役割再定義と新たな価値創出モデルの提案

佐藤 雅子


デジタルトランスフォーメーション(DX)の時代において,プロジェクトマネージャー(PM)の役割は従来のマネジメントの枠を超え,技術革新と組織変革を推進するリーダーとしての進化を求められている.本稿では,DX環境下でのPMの役割を再定義し,PMが新たに担うべきリーダーシップと責任を明確にし,価値創出モデルを提案する.本稿は,DX時代におけるPMの役割変化に関する文献と各種レポートの分析を通じて,新たに求められるスキルや能力を整理する.さらに,PMが新しい環境に適応し,組織におけるビジネス価値を最大化するための実践的なモデルを提示する.このモデルを実現するために必要となるPMの行動やアクション,ならびにモデル適用における課題と限界についても考察し,PMがいかにして新しい価値を創出し,組織全体の競争力を強化するのかを論じる.


システム開発・サービス提供における原理原則の標準化

冨樫 慧乃辰,楠森 賢佑,三角 英治,佐藤 慎一


昨今発生した重大システム故障と不採算案件の原因において,過去の事例における原因と類似したケースが散見される.これまでも,重大システム故障等の発生時には都度再発防止策が講じられてきたが,類似した問題が別組織で発生しているため,過去事例に対する再発防止策を全社として徹底させることが課題であった.そこで,過去に発生した重大システム故障と不採算案件における複数の再発防止策,教訓から共通性の高い要素を抽出,分類し,案件固有の性質に依らず,再発防止・予防に資する汎用的な内容を各フェーズにおける「原理原則」として明らかにした.原理原則の内容に関しては,品質マネジメントシステムの運営に関わる各事業本部の代表者をはじめとした利害関係者に対する意見照会を実施した.意見照会を通じた第三者による妥当性評価を受け,システム開発・サービス提供案件の各フェーズ及びそのプロセスにおいて徹底すべき事項として,原理原則を社内規定に追加することとなった.


バングラデシュにおける日系シニア中小企業経営者の企業成長プロセスの分析

種村 秀和,木野 泰伸


バングラデシュで事業を行う日系ベテラン中小企業経営者の企業成長プロセスを分析したもの


スタートアップの現場マネージメント~自律型組織の育成から多様性の受容へ~

中川 弘一


筆者の所属する組織は2023年11月に設立され、社内スタートアップ型の組織としてゼロからのスタートを切った.それ故に現在、マネージャーの不足等から、部門のマネージメントとプロジェクトマネジメントを両立させるということに挑む必要がある.これに対して、筆者は従来の監督型組織から脱却し、アジャイルな自律型チームの構築を進めることでエンパワーメントを図っている.本稿では、当組織におけるアジャイルマインドを育成するための具体的な取り組みについて考察する.また、アジャイルマインドに加え、多様性の受容が組織の成長に不可欠であることにも気づかされた.初期段階ではあるが、多様性を重視した取り組みも開始しており、VUCA時代に適応したビジネスのロールモデルとなることを検証していく.


大規模プロジェクトにおけるリモートワーク・コロケーションの効果的活用について

大竹 航平


新型コロナウイルスによるパンデミックにより,多くの企業ではリモートワークを中心とした新しい働き方に移行した.一方でリモートワークは,相手の状況をリアルタイムに把握できない中でコミュニケーションを行う必要があるため,生産性を低下させるリスクを孕んでいる.そのような背景から,近年では完全なリモートワークではなく,コロケーションを取り入れたハイブリッドのプロジェクト運営を採用するケースが多く存在している.リモートワーク・コロケーションを効果的に使い分けることにより,コミュニケーション課題を解消することは,プロジェクトの成否の重要な要素となると捉え,筆者の参画した大規模プロジェクトにおいては,戦略的にハイブリッドの使い分けを計画した.特に開発工程ごとのチームの成熟度のライフサイクルに着眼し,効率的な課題解決を求められる局面においては,コロケーションの割合を高める方針としている.本稿では,プロジェクト活動の実績を基に評価した結果から得られた考察を示す.


教員養成課程における産学連携プロジェクトマネジメント教育の試験的実践

室伏 春樹,川島 建


学校教育におけるプロジェクトマネジメントの導入に向けて,教員養成課程におけるプロジェクトマネジメントのワークショップを産学連携で実施した。学校教育ではSTEAM教育や働き方改革といったプロジェクト的な方策の必要性が指摘されている。教員養成課程の学生がプロジェクトマネジメントを知ることで,学校教育の中核となる人材育成につながることが期待される。ワークショップではプロジェクト憲章やステークホルダー分析,WBSの作成といった体験をしながらプロジェクトマネジメントに関する体系的な知識を学習した。ワークショップの事前・事後に実施したアンケート調査から,学生のプロジェクトマネジメントに対する印象は「便利である」の回答割合が増加し,「社会で利用されている」や「社会に必要されている」の回答割合も増加傾向にあった。これらの結果と考察を踏まえ,教員を対象とするプロジェクトマネジメント教育では実施済みの特別活動に対する「管理」プロセス群から実施して必要感を醸成することを提案した。


PMや有識者の人材不足と過負荷状態の解消に着目したプロジェクト管理手法

福島 剛,朝稲 啓太


近年,IT人材の不足,特にプロジェクトマネジャー(PM)や有識者層の不足が顕在化し,市場の需要に応えられず,ビジネスの拡大や維持を阻害するリスクが危惧されている.そこで本研究では,2Tier CCPM(Critical Chain Project Management)の方法論を対象組織に適用し,属人化していたプロジェクト管理を標準化し,部門内の複数プロジェクトを一体管理を行った.従来は作業者(リソース)の稼働率向上を優先したため,PMや有識者が過負荷となっていたが,本取組ではPMや有識者の活動効率を優先したプロジェクト管理に変更した.また,リソースの稼働状況を可視化することで,必要な時に必要なリソースを複数プロジェクト間で効率的に活用する仕組み(リソースプール体制)の必要性が明らかとなった.本取組により,対象部門の生産性の向上を図ることができた.対象部門での試行事例を通じ,部門内でプロジェクト管理手法やコントロールメカニズムを共通化することの重要性を考察する.


公共システムのモダナイゼーションにおける開発プロセスの策定と実行

早田 登紀子


最新のテクノロジーを活用して従来の業務システムの最適化を目指すレガシーシステムのモダナイゼーションにおいては,従来の開発プロセスとは異なるアプローチが求められ,想定されるリスクや課題,それらに対する対策も異なってくる.加えて,国や自治体などの公共のシステムにおけるモダナイゼーションでは,現行システムで実現されていた公共サービスを最適化した上で確実に継続することが必達事項であり,現行システムの運用・保守に携わっていなかった場合,現行システムの理解がカギとなる.本稿においては,このようなニーズに応えるためのシステム刷新プロジェクトを遂行するにあたり,要件やプロジェクトの特徴を踏まえたうえで,様々な開発プロセスのパターンから適切なプロセスを選定し,さらに考慮を加えたプロジェクト計画に基づき,2つの異なるアプローチによるプロジェクト遂行の経験を通して得られた成果と課題を報告する.


内発的動機づけによる利用者の顧客ロイヤリティ向上の方法論
- SaaS型営業支援システム導入 -

康永 直樹


昨今のシステム導入プロジェクトは,SIer、ユーザともに,業務をSaaS型製品に合わせるFit To Standardを目指すことが増えている.SaaS型製品は,自動アップグレードがあり,アドオン開発によって,意図しない不具合が生じてしまうからである.しかし,アドオン開発をしないことで,作り込みシステムよりも煩雑なオペレーションとなり,利用者の顧客ロイヤルティが下がるという課題が生じる可能性がある.この課題を解決するために,本研究では,利用者の内発的動機付けとNPSを向上させる方法論を提示する.この方法論を用いることで,アドオン開発をしていないSaaS型営業支援システムを導入した後に,内発的動機付けとNPSが向上することを明らかにした.これを用いることで,アドオン開発をしなくても,利用者の顧客ロイヤルティが向上することを示した.


プロジェクト管理知識共有プロセスのプロジェクト、プログラム、ポートフォリオ視点に基づく考察

遠藤 洋之


本稿では、知識移転を知識共有の一部とみなし、国際的なITサービス組織間における知識の創造と共有に関する著者の研究の背景を説明する。そして、異文化組織間の知識共有のプロセスを表すモデルを提案する。知識移転元組織と知識移転先組織の間で共有される知識には、プロジェクト要件知識とプロジェクト管理(PM)知識が含まれる。本稿では、後者のPM知識移転プロジェクトとその集合体としての知識共有プログラムに関する研究について述べる。筆者は、国際的なITサービス企業の本社および海外拠点のプロジェクトマネジャー(PMgr)およびプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)の担当者に対して、知識移転プロジェクトに関するインタビューを実施した。インタビューから得られた質的データを修正グランドセオリーアプローチ(M-GTA)を適用して分析し、プログラムの視点から分類した結果、受入組織における知識創造活動や、創造された知識を組織間で共有するプロセスが明らかになった。これらのプロセスは、知識移転研究におけるアンケート調査の結果として提案された一方向ステージモデルや、リバース・イノベーション提示された逆方向ステージモデルでは明示的に示されていない。これら2つの知識移転段階モデルは、異なる文化的組織間の知識共有活動を記述することが困難である。これに対して著者は、知識共有活動が組織間の知識共有と知識創造のプロセスで行われる双方向ループモデルを提案した。このモデルには、組織内の異なる文化間の知識移転と知識創造活動を表すSECIモデルを含める。